31,シャルル修道院、2つの事件 第13幕
「何でいまさらレーヤを探してるんだよ。
教皇シャルが『最愛の人』を描いてる時、レーヤを探していったってか?」
「かもな」
「ありえないだろ。
教皇シャルが絵を描いてることを知っている位、パーティー離脱後もレーヤと教皇シャルは連絡を取り合ってたんだ。
それに・・・」
レーヤを探す魔族姿の教皇シャルは、人間らしさが全く無い。
完全に心まで魔族に成り下がったような、そんな顔をしていた。
ルチア達から聞いた話だけだけど。
俺の印象的にレーヤって奴は、共に助け合ってきた仲間がこんなになったままで、何もしないで放って置く様な薄情な奴には思えなかった。
ルチア達が話すレーヤなら、例え完全に身も心も魔族になっていても、教皇シャルを何が何でも元に戻そうとするはず。
体は元に戻せなくても、心だけは絶対助けるはずだ。
「だから、分かんねぇんだよ。
なんで、教皇シャルはあんな姿で、あんな顔で、今更さ迷いだしたのか。
なぁ、教皇シャル。レーヤはお前を救えなかったのか?」
「高橋、それは・・・」
何か言おうとした田中を遮って、俺はフラフラ歩く教皇シャルの後ろ姿に声を掛けた。
俺の姿や声が分からないのか、ゾンビか幽霊の様にブツブツ呟いて足を動かすだけの教皇シャル。
「レーヤ・・・レーヤ・・・・・・
どこだ・・・どこに、いる・・・」
「お前が、レーヤを探すのは、助けて欲しいからなのか?」
それでも俺は、そんな教皇シャルにもう1度声を掛けた。
根拠は無いけど、勇者のカンって奴なのかな?
実体化した魔族姿の教皇シャルの姿を見た瞬間。
どうしてか分からないけど、俺なら今の教皇シャルにも言葉が通じるような気がしたんだ。
「違うよな。お前はまだ、レーヤを恨んでるんだな。
何年、何十年たった今でも。
お前らを巻き込んだくせに、結局何も変えられないまま。
あの時と同じように、此処まできちまった、『レーヤ』を!
『俺』をっ!!恨んでんだろ!?」
「高橋!?お前、何言って・・・」
「まだその恨み、『俺』にぶつけたり無いって言うなら、来いよ。
お前の気が済むまで、幾らでも付き合ってやる。
だからッ!だから、ブツブツ言い続けるんじゃなくて。
ちゃんと『俺』を見て答えろよ!!」
俺の意思に反して俺の中に入り込んだナニカが、俺の口を使って叫ぶ。
俺の口を通って行く度に、俺の中から消えていく、ナニカ。
きっとこのナニカは、魔族姿の教皇シャルと一緒に『最愛の人』に閉じ込められていた、レーヤの思いって奴なのかもな。
「シャルッ!!!」
「・・・・・・レーヤ・・・?」
俺の中のレーヤの思いが、魔物姿の教皇シャルに向かって『シャル』って呼んだとたん。
今まで俺に気づかなかった教皇シャルが、勢い良く振り返って俺を見た。
その狂った目は間違いなく俺を写している。
そして虚ろだった表情が一変。
狂気はだけはそのままに、嬉しそうに輝きだした。
「見つけた・・・やっと、やっと見つけたぁ!!
そこに居たのかぁ!!!そこに居たんだな!!
レェエエエエエエ、ヤァアアアアアアッ!!!!」
「ッ!『ライズ』!!」
狂喜の雄叫びを上げ、その巨大な腕で殴りかかってくる教皇シャル。
教皇シャルは隣に居た田中には一切目もくれず、ただ、ただ、俺だけを狙う。
教皇シャルが出てくる前に作った剣を犠牲に『ライズ』を使ってその腕を避ければ、床にヒビが入るほどの勢いで近くにあったテーブルとイスが粉々に壊された。
「レーヤ、レーヤ、レーヤァアアア!!!」
「お、わぁっ!」
「ッ!高橋!!」
飛んできたテーブルの破片を『クリエイト』で剣に変え構える暇も与えず、直ぐに次の攻撃を仕掛けてくる教皇シャル。
何とか腕は剣で受け止められたけど、すぐさま足払いするみたいに俺の足を狙って蹴ってくる。
その攻撃も何とか避けられたけど、教皇シャルの攻撃をギリギリ避けるので精一杯。
巨大な腕を使っての我武者羅な猛攻撃は、あのフェノゼリーの攻撃に似てるけど、全くの別物だ!
傍から見たら、滅茶苦茶に殴ったり蹴ったりしてきてる様に見えるだろう。
でも教皇シャルの攻撃は狂った魔族に成り下がって何もかも可笑しくなっているのに、ちゃんと型があって俺の命を確実に仕留めようとする正確さと鋭さがあった。
当たれば良いって言う適当な感じじゃなくて、1撃1撃ちゃんと冷静に狙っている。
まるで、あのケット・シーと戦っている時のようだ。
いや、確実にあの時よりも強くなっている今でも、あの時以上に苦戦してるんだから、強さで言えばあのケット・シー以上。
「このッ!『フレ
「やめろ、田中!!
ルチアも、ネイも手を出す、なッ!!」
教皇シャルの攻撃で、テーブルやイスと一緒に軽く飛ばされ倒れていた田中。
何とか立ち上がり教皇シャルに魔法を放とうとした田中に向かって俺は、教皇シャルの攻撃をボロボロになった剣で受け止めながら止めた。
そのまま加勢してくれようとしたルチアとネイも、短い言葉だけで止める。
「何言ってるんだ、高橋!!1人で戦う気か!!?」
「あぁ、そうだ!!
俺が、1人でこいつに勝たないと意味が無い!!」
「どうして、どうしてですか!?勇者様!!」
「そうだよ!
1人なんって無茶だよ、おにーちゃん!!私も、」
「ダメだ!!」
教皇シャルに壊されたテーブルやイスの山。
そこに何とか教皇シャルを切り飛ばし、距離をとる。
今の攻撃で使っていた木の剣が完全に壊れた。
木よりはもう少し丈夫そうな、大きめ床の破片で剣を作り直し、いつ教皇シャルが起き上がってきてもいいように剣を構え警戒する。
そして視線は一切教皇シャルから離さず、俺は入ってきたレーヤの思いが教えてくれた、『最愛の人』を止める方法を、ルチア達に教えた。
「ダメなんだ。
『俺』が1人で教皇シャルに勝たないと。
『最愛の人』は元に戻らない」
「どう言う事ですか?それに、何時その事を・・・」
「教皇シャルが出てきた時、俺の中にレーヤの思いが入ってきた。その思いが教えてくれたんだ」
「レーヤの思い?
もしかして、お前がおかしな事言い出したアレか!」
「あぁ」
意識だけ不思議空間に連れてこられて、そこでレーヤに会って教えてもらった。
なんってマンガの様な展開は、全く起きていない。
けどレーヤの思いが抜けていく間、何故か強くそうしないといけないって思ったんだ。
「確か、レーヤの意思はお前を使って教皇シャルに、『お前の気が済むまで、幾らでも付き合ってやる』って行ってたよな」
「魔族姿の教皇シャルが満足するまで、勇者様が戦うこと。
それが『最愛の人』を元に戻す条件なのですか?」
「あぁ、そうだ。
『俺』が、教皇シャルの思いをちゃんと受け止める事。
それが、『最愛の人』を元に戻すのに必要な事だったんだ」
「・・・それは、『高橋 蓮也』がって事か?
それとも
「レェエエエエエエヤァアアアアアアア!!!!」
田中が話している最中、ガレキに埋もれたままブツブツ言い続けていた教皇シャルが、レーヤの名前を叫びながら起き上がってきた。
ガレキを吹き飛ばしながら起き上がって、真っ直ぐ俺に向かい走ってくる。
そんな教皇シャルに向かって俺も、田中が聞きたかった事に答えながら走りよった。
「レーヤの代理の勇者がッ、って事、だ!!」
同じ勇者の田中じゃ無く、俺がレーヤの代理に選ばれたのは、俺の方がレーヤに似ていたから。
名前が似ているって以外にも、得意な武器が剣って所も一緒だ。
それ以外にも俺とレーヤには、似てる所があったのかも知れない。
だから、他の勇者が召喚された時には何とも無かった『最愛の人』は、レーヤに似すぎた『俺』が召喚された今、動き出した。
レーヤと教皇シャルの間に一体何があったのか。
そして、どうして『最愛の人』の絵を画霊にしてまで、魔族姿の自分を残したのか。
俺に入ってきたレーヤの思いは、何も教えてくれなった。
でも1万年の時をかけ、レーヤの代理人になれる俺がようやく現れたんだ。
何が何だか、俺にも分からない事ばっかで頭が痛くなってくるし、レーヤの気持ちも教皇シャルの気持ちも今は全く分からないけど。
とりあえずこれだけは言える。
2人のすれ違ったままの思いは、俺が絶対に終わらせてみせる!!
 




