28,シャルル修道院、2つの事件 第10幕
「さて、俺達はこの本戻して、もう少し教皇シャルについて調べるか」
「そうですね。あ、勇者様。
先ほど向こうの部屋で、何を言いかけたんですか?」
「ん?あぁ、実は・・・」
ミルは魔法の勉強でもしようと思っていたのか。
床に落ちていたあの年頃の子供には難しいだろう、魔法学関連の本を棚に戻しながら、ルチアが田中に尋ねる。
「もしかしたら・・・・・・
教皇シャルは人間じゃなく、あの魔族だったのかもしれない」
「・・・青い勇者君。流石にその冗談は、笑えないよ?」
「冗談ですよね、勇者様?本気で言ってるのですか?」
確かにこれは、田中が言いたくないって言うのも分かる位、とんでもない爆弾発言だ。
ゲームやラノベだったら、何か理由があって魔王とかのラスボスを裏切って仲間になる魔族だって、いるにはにいる。
けど、この世界の魔族的にそれはありえるのか?
ルチア達の話やあのケット・シーを思い出すと、どう考えても無理な気がする。
「本気って程じゃない。
さっきも言ったけど、確証が無いんだ」
「それでも田中がそう思ったのは、魔族が描かれてる角度やポーズが関係あるんだよな?」
「あぁ。これは、あの絵を見て浮かんだ1つの可能性だ。
たぶん違うだろうけど、そのもしかしたら、がありえるかもしれない。
だから、今からする話は1つの可能性として聞いてくれ」
本を元に戻し終え、そう前置きしながら保管室に戻った田中。
田中の後を追うと、田中は教皇シャルが書いた絵の前に居た。
そして指差したのは、川の絵。
「この絵。
教皇シャルが川を覗き込みながら描いた絵なんだと思う。
この川は流れも穏やかで、この絵を描いた日は風も強くなかった。
だから水面が鏡見たいになってる」
「鏡・・・・・・
あ。そう言う事か・・・
鏡みたいな水面を覗き込みながら写真みたいに描いたなら、必ず書いた本人、教皇シャルが映るはず」
「あぁ。図書館の方も同じだ。
外が暗くて中が明るい。
だからガラスなのか、もしかしたら水晶かも知れないけど。
窓ガラスっぽい物も鏡になった」
図書館の窓に描かれた魔族は、窓の外から中を覗いてたんじゃない。
鏡の様になった窓ガラスに、教皇シャルが映ってたんだ。
窓から真っ直ぐ中を見ていた様に見えたのも、窓のある方を描こうと教皇シャルがそっちを見ている姿を描いたから。
それに2枚の絵の魔族の近くには、必ず1枚の板が描かれている。
あの板こそ、川や図書館の絵を描いたキャンバスだったんだ。
写真みたいに絵を描く事にこだわっていた教皇シャルなら、鏡に映りこんだ絵を描く自分の姿も書き込むはず。
信じたくないけど、田中の推理は合ってるのかも知れない。
「『最愛の人』の魔族が元々描かれていたって場所。
あそこに鏡が置いてあれば、ちょうど絵を描く教皇シャルの姿が映っていたはずだ」
「そんな・・・で、では本当に教皇シャル様は、あの、今シャルル修道院をさ迷っている、魔族・・・」
「いや、まだ魔族だったって決まった訳じゃない。
教皇シャルが魔族だったてのは可能性の1つだって言ったろ?」
絶望したように酷い顔色でアガサさんが呟く。
一緒に田中の推理を聞いたルチア達の顔も、かなり酷いものだ。
そんなルチア達を安心させる為か、そう自分で言った事と矛盾する事を言う田中。
田中の推理通りなら、あの魔族は教皇シャルに間違いない。
あんな姿でも田中は人間だって言うのかよ。
「何だ?
田中は魔法で教皇シャルが、あんな姿に変えられたって言いたいのか?
呪いでカエルにされた王子様とか、白鳥に変えられたお姫様とか。そう言う系の」
「あぁ、そう言う可能性もあるのか。
俺が思った可能性は、教皇シャルが見てる自分の姿と、現実の姿が違うって事」
「どういう事ですか?」
「高橋は聞いたことないか?
脳の怪我や病気が原因で、ちゃんと人の姿が認識できなくなるって話」
「あぁ!!それなら聞いたことあるぞ!」
人の顔が分からないとか、そもそも自分や他の人が皆化け物や動物に見えるとか。
事故の後遺症でそう言う事があるって、テレビでやってたな。
「じゃあ、田中は、教皇シャルが魔王や魔族との戦いで頭に怪我をして、自分が魔族に見えるようになったって思ってるのか?」
「最初はそう考えてたけど、たぶん違うな。
この考えだと、何で自分以外は普通の人に見えるのかって疑問が残る」
「あぁ、そうか。
怪我が原因で人の姿が正確に認識できないってなら、周りの奴全員魔族に見えるはずだもんな。
自分だけ魔族に見えるってのは確かに可笑しいよな」
「あぁ。
魔族が人間に見える様になったとかじゃないなら、『最愛の人』の女性も魔族に見えるはずだろ?
でも、そこの手紙とか読むと、人間と魔族の姿が反対に見えるって感じじゃないんだよな」
確かに絵と一緒に保管されている手紙には、孤児の子供達や怪我をした人達は普通に見えているみたいだ。
実は人間に見える魔族を助けていたってオチは、保管室に合ったレーヤや賢者ルチアの手紙から違うって分かる。
だから、怪我が原因で自分の姿だけが魔族に見えるってのは、かなりありえない話だ。
「精神的な事が原因じゃ無いなら、高橋の考えがあってるのかもな」
「俺のって事は、魔法や呪いが原因って事か?」
「あぁ。
本当に魔族の姿に変えられたのか、それとも自分の姿だけ魔族に見える呪いを掛けられたのか・・・」
「そもそも、そんな魔法が本当にあるのかい?
ボクは聞いたことないけど・・・・・・」
確かにキャラの言うとおり、そんな凄い魔法があるのか。
今までの戦いを思い出すと、儀式魔法が使えない魔族や魔物がそんな事出来るとは思えない。
だけど実際には見たことの無い、魔族の中でも特別な魔王や四天王なら出来るって事か?
「・・・・・・そう言えば、魔王は魔物や魔族を作れるんだったな。
魔王なら人間を変える技を使ってくるかもしれないぜ?」
「・・・勇者様の仰るとおり、ありえるかもしれません。
魔王や四天王は、現代の魔法学では解明できない『呪術』と呼ばれる技やスキルを持っています。
1度は世界を支配した最悪の魔王なら、教皇シャルを魔族にした可能性は0ではありません」
「やっぱり・・・・・・」
自分の姿が魔族に見えるようにして、教皇シャルがレーヤ達を裏切るように仕向けたのか、それとも魔族の姿に変えて仲間割れを起こそうとしたのか。
もしかしたら、今まで倒してきた魔族は元々人間だったて思わせて、精神的にレーヤ達を追い詰める為だったのかもしれない。
どんな目的が合ったにしろ、当時の魔王には予想外だったレーヤ達の登場に、こんなに最低な事をしたんだろうな。
「教皇シャル様があまり人前に出なかったのも、誰かに会う時は必ず顔を隠していたと言う話があるのも、そう言う理由だったのですね・・・」
「顔を隠していた、か。
魔族の姿の自分を描いてる時点で分かっていたけど。
やっぱり教皇シャルに掛けられたその魔法かスキルは、魔王を倒しても解けなかったんだな」
「魔王ってのは、本当酷い事する奴だぜ!!
こんな呪い残しやがってっ!!」
教皇シャルはどんな気持ちで、魔族の姿に変えられた自分を描いたんだろうな。
そんな醜くなった姿を描き込んでまで、写真の様な絵にこだわった理由って一体?
もしかして、そこに画霊を止められるヒントがあるかもしれない。
そう思った俺達は、保管室や隣の部屋の本を色々調べた。




