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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 1.5 章 勇者編
167/496

27,シャルル修道院、2つの事件 第9幕


「こちらです」

「うわぁ!スゲー!!」

「これは、確かに凄いな。まるで博物館か美術館だ」


ロックバードに開けさせた奥の部屋。

そこは想像していた倉庫みたいな感じじゃなくて、田中が言った通り博物館みたいな感じだった。

それぞれ時間結晶が使われた透明なガラスケースにキチンと収められ、どの品も大切に保管されているのが良く分かる。


「この辺りが教皇シャル様に関する物です」

「思ってたより、結構少ないな。

殆ど絵ばっかじゃん」


アガサさんに教皇シャルに関する物だと言われた一角には、7枚の絵と2枚の手紙があるだけ。

俺が思っている以上に教皇シャルに関する物は、シャルル修道院に残ってなかったみたいだ。

ここから『最愛の人』を画霊にした理由や、止め方を見つけるのは無理かもな。


「教皇シャルは、『最愛の人』以外風景画や静物画しか描かなかったのか?」

「いいえ。此処にはありませんが、何枚か人を描いた絵もあります」


外の風景や、誰も居ない部屋。

ここにある絵はどれも、そう言う人がメインじゃない絵ばっかだ。

足だけとか、奥の方に小さくとか。

そう言うのはあるけど、しっかり人が描かれた絵は1枚も無い。



低い橋の上から、大きく穏やかな川を覗き込んでいるのか。

川に反射する少し歪んだ青空と白い雲。

そして町や橋の一部と、木の板で顔を半分以上隠した青白い顔の魔族を描いた絵。



天の川と大きな青い満月が浮かんだ、幻想的な夜の草原の絵。



朝日が差し込む部屋と、さっきまで誰か寝ていたようなグチャグチャのベッドの絵。



見てるだけで腹が減ってくる、温かく美味そうなパンやスープが置かれたテーブルの絵。



開け放たれた窓から見える、草花が咲き誇る庭と、風にはためく洗濯物。

その洗濯物を干しているらしい、大きな布に隠れた誰かの足の絵。



召喚の部屋の様に淡いランプに照らされた夜の静かな図書館と、机の上に詰まれた読みかけの本。

その絵の中の異物と言って良い様な、窓に薄っすら映った板に体を向け図書館の中を覗こうとしてる、歪んだ青白い魔族の姿が描かれた絵。



テロか戦争でも起きたのか、ボロボロの町と遠くの方に小さく書かれたその町を直そうとする人達の絵。



しっかり色が着いた絵も何枚かあるけど、中にはスケッチブックからそのまま外して額縁に入れたような、白黒のデッサンみたいな絵もある。

だけど、飾られたどの絵も見たものをそっくりそのまま切り取ったような。

手書きの絵とは全く思えないほど、リアリティのあり過ぎる絵ばかりだ。


「・・・なんか、この絵ってさ。

絵って言うより、まるで写真みたいだな」

「流石です、勇者様!そうなんです。

勇者様が仰るとおり、自分のイメージを一切入れない、ありのままをありのままに。

教皇シャル様は自分が見たものを切り取るような、誰も気にしないような細部まで全てキャンバスに写す事に拘っていたと伝わっています」

「じゃあ、この絵は、手書きの写真、って事なのか?」


あの細部までこだわりまくった『最愛の人』を思い出す。

ここに飾られている絵以上に、写真のようだった教皇シャルが本当に残したかったあの絵。

今の時代でもこの世界にカメラはないみたいだし、1万年前は絶対無かっただろうな。

だから、教皇シャルは写真の様な絵を描いた。


「そこまで、写真見たいに描くことにこだわっていたのに。

なんで教皇シャルは、この国に居ない筈の魔族何って描いたんだよ。

この描かれてる魔族って、全部今シャルル修道院を歩き回ってる魔族なんだよな?」

「はい。

間違いなく、『最愛の人』に描かれていた、あのさ迷っている魔族と同じ魔族です」

「なら、教皇シャルはこだわりを捨ててまでこの魔族を描き続けたってことだよな。一体どんな理由が?」

「・・・・・・はぁ。ダメだ。

いくら考えても全然答えが見つからない。

・・・キビなら・・・

あいつならこういうの直ぐ分かるのに・・・・・・」


耳を澄まさないと分からない位の小声で、諦めたようにネガティブな事を言う田中。

だけど田中は直ぐに、目を強くつぶって自分の中のネガティブさを振り払うように小さく首を横に振った。


「ダメだ。諦めるな。考えろ。

キビなら何処を見る?キビならどう考える?

良く考えろ。あいつなら・・・」


田中は目をつぶったまま、息を吐き出す見たいなギリギリ聞こえる位の声で何度も佐藤の名前を呼んだ。

頭痛が起きた時のように左手で頭を押さえながら、何度も何度も佐藤の名前を呟いて考え込む。

そして何かに気づいたのか、しばらくしてハッと目を開くと教皇シャルの絵を見比べだした。


「魔族が描かれてる場所・・・・・・

場所は・・・・・・

ちょっと待て。

もしかして、これって・・・いや。

そんな、まさか・・・そんな事・・・・・・」

「何だよ、田中。

何か分かったのなら、ブツブツ言ってないで教えろよ!」


魔族が書かれた絵を見比べていた田中が、深く考え込むように何かブツブツ言い出す。

集中しすぎて教えろって言った俺の声が聞こえないのか、それとも無視してるのか。

田中だから無視してるってのも、ありえそうなんだよな。

そうだったら、自分は分かってますアピールか?


「たぁ、なぁ、かぁああ!!」

「・・・何だよ、高橋。煩いな。

そんな大声出さなくても聞こえてる」

「ヒドッ!俺さっきから、呼んでんじゃん!

やっぱり、無視してたのかよ!!!」

「あー、悪い。別に、無視したわけじゃない。

集中して、考え込んでただけだ」


本当に周りの音が聞こえなく位集中していたらしい田中は、俺が何度も呼んだって言うとかなり驚いた顔をした。

その顔から、本当に俺を無視していた訳じゃないのは分かったけど、一体何をそこまで考えていたんだ?


「それで、何が分かったんだ?」

「それは・・・・・・・・・」


田中はルチアやアガサさんの顔を見回して、口を閉じた。

田中がこんな態度をするって事は、ルチア達には言いにくいことなのか。


「・・・・・・まだ、確証がないから・・・

できれば、言いたくない・・・」

「田中さぁ。

今は『最愛の人』を止める為に、どんな事でも情報が必要なんだよ。

間違っていてもいいから、教えてくれよ。な?」

「そうです、勇者様!一体何が分かったのですか?」

「あー、その、な・・・

もしかしたら。もしかしたらだぞ?

魔族が描かれてる場所や角度、後はポーズか。

そう言うのを考えると、もしかしたら・・・」



ガタガタ、ガダンッ!!



「キャッ!!」

「ッ!誰だ!!」


言いたくないと言う田中を何とか説得して、続きを待つ。

視線をさ迷わせて、言いかけてはやめて、それの繰り返し。

それでも、ようやく言う覚悟が決まったらしく、田中が口を開いた瞬間。

隣の部屋から物凄い音がした。

慌てて、本棚だらけの部屋に戻ると、そこには尻餅を着いたミルの姿。

近くには倒れた椅子と、本棚の上の方から落ちてきたらしい何冊かの本が散らばっていた。


「おい、大丈夫か?」

「ミル!怪我して無いかい?何処か痛い所は!?」

「あ・・・」


助け起こそうと手を差し出すが、自力で立ち上がったミルはまた逃げてしまった。

何でそこまで俺達から逃げるんだよ。

そりゃあ、事故だったし本人がああ言ってても、俺だってやっぱ悪い事したとは思ってるさ。

だけど、あそこまで慌てて逃げる程か?

そう思うけど、ミルにとってはキャラの胸を見た事は、どんな理由が合っても絶対許せないことだったらしい。


「また、逃げられたな・・・」

「ミル・・・あの子、本当にどうしたんだ?」

「・・・おにーちゃん!!私あの子追いかけてくる!!」

「なら、俺も


「ダメッ!!!絶対ダメぇえええッ!!!!」


な、何でだよ・・・」


俺達の様子を見ていて何か思うところが合ったのか。

ミルを追いかけると言って走り出そうとしたネイ。

そんなネイに俺も一緒に行こうと言ったら、止まって振り返ったネイに全力で嫌がられた。


「女の子には女の子だけのヒミツのお話があるの!

あのね、女の子にはヒミツがいっぱいなんだよ!!

男の子にも大人にもヒミツな事がいっぱいあるのッ!

だから、男の子のおにーちゃん達も、大人のおねーちゃん達も着いてきちゃダメ!!

ダメったらダメなのッ!!!」

「分かった、分かった。ミルの事はネイに任せるな。

ただ何か、危ない事や困った事があったら直ぐ俺達を呼ぶんだぞ?」

「うん!」


どんな世界でも、あの位の年頃の女の子ってあんな感じなのか?

ユヅも良くそんな事言って、俺からしたら大した事ないことを秘密にしたがってたな。

その上隠してるのは大人には直ぐバレル様な秘密で、そこが微笑ましいって言えば微笑ましいんだけど。

あと、必死になってる所がまた可愛くて、悪い癖だと分かっててもつい甘やかしちまうんだよな。

とりあえずここは、同い年位のネイに任せてみるか。

俺達じゃまた逃げられそうだし。


「おにーちゃん達、わたしが呼ぶか戻ってくるまで絶対、ここで待っていてね!

どっか行っちゃヤダからね!!」

「分かってるって。ネイも気をつけるんだぞ。

それと、アメミットの所には絶対近づかない事。

いいな?」

「はーい!!」


元気良く返事をして部屋を出て行くネイ。

本当に1人で大丈夫か心配だけど、任せると決めたんだ。

信じて待つのも仲間だよな。


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