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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 1 章 体験版編
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15,鞄と小袋 前編


 爺さんも寝てしまい暫く。

大体2時間程で2種類のジュエルワームの布は出来た。

予想と違い、フンワリと柔らかいけど丈夫な、触り心地の良い布。

見た目と軽さから御伽噺に出てくる天女の羽衣みたいだと思った程だ。

そのジュエルワームの布のうち大きな方は無地で、小さい方の布には鼠色の糸で『クリエイト』の魔法陣が織り込まれていた。


「スゲェ・・・奇麗・・・・・・」

「気に入って貰えて良かったよ」


ホゥと布に釘漬けになったまま出た言葉に、少し眠そうな小母さんがクスリと笑う。

ダーネアの糸と伝説のビッグダーネアの糸の一部も布と幅の広い紐にして貰った。

残りは1本の糸に纏められ糸巻きに巻かれている。

それと、ジュエルワームの糸で出来た細い紐が1本。


「はい!ありがとうございます!!」

「じゃぁ、これと他の採ってきた素材で鞄を作るかい?」

「・・・あの、その事なんですが・・・・・・」


小母さん達はまだ仕事が終わっていない。

小母さんが俺の注文した布を作る為に抜けたせいで、他の人達が大変そうだ。

これ以上小母さんの手を煩わせる訳にはいかない。

だけど、鞄は出来るだけ早く手に入れたい。

そこで俺は、


「工房の一角をお借りして俺自身で作っていいですか?」


自分で作る事を思いついた。

まだ、借りた家には作業用の道具が無いから此処の場所を借りないといけないけど・・・


「元々住んでいた所で作った経験がありますし、自分で作るんだから失敗しても文句は言いません。

皆さんの邪魔は絶対しませんのでお願いします!!」


ダメ元で目を瞑り勢い良く深々と頼み込む。

小母さんが何か言うまでが凄く長い。

心臓の音もやけに大きく聞こえるし、嫌な汗が出てくる。


「・・・フッ・・・フハハハッ!!!」

「フェッ!?」


行き成り豪快に笑い出した小母さんに俺は驚いて、慌てて顔を上げた。

目の前には目に涙を浮かべ腹を抱える程笑う小母さんの姿。


「あ、あの・・・・・・」

「いやー、ごめんごめん。

今までそんな事言ってくる子は居なくてねぇ」

「すみません。迷惑でしたよね・・・・・・」

「いや、全然迷惑なんて思って無いさ!

アンタの気持ちはよーく解るよ。

頑張って素材を集めてきたんだ。

自分で形にしたいと思うのは当然だよ。

工房は好きに使うといい。

困ったら私等に声を掛けとくれ!」


そう言って小母さんは勘違いしたまま、他の女性が集まっている場所に行ってしまった。


「・・・・・・あ、ありがとうございますッ!!!」


その姿に少しの間ポカンとしていた俺は慌てて小母さんにお礼を言う。


「・・・・・・よしゃ!やるかっ!!」


気合を入れる様に声を出し机に向かう。

先ずは、『クリエイト』用の小袋から作るか。

そんな難しいのは出来ないから、布を直接折って紐を通す。

この方法なら型も必要なく、簡単に出来るだろう。

その前に、ジュエルワームの布はそのまま使い、人目に見せていると盗まれる可能性がある。

だから、ダーネアの布で隠す事にした。


ダーネアの布、魔法陣が織り困れたジュエルワームの布、空間結晶の板、ダーネアの布の順で重ねて縫う。

ただ、ジュエルワームの布を全部隠すのは流石に勿体無いからな、表側にするダーネアの布の一部を切り抜き、ジュエルワームの布が見える様にする。

出来は兎も角、四葉のクローバーに切り抜いた。


やり始めるとついつい面白く、思いのほか細かくなってしまった。

勢いあまって鞄用の表布の一部にも桜の花びらと蝶の形に切り抜く。

上手く作れればこの切抜きが右下等辺に来るはずだ。


次に、何枚も重ねたにしては薄い布の表を外側にして、長い方に半分に折る。

紐通し口として表側に折る時に、裏地が出ないよう入り口の端を6~7cmくらい内側に折る。

ここでアイロンを掛けれれば良かったんだけど、この世界にはまだアイロンが存在しないのか断念した。


後は、入り口から2~3cm位の所を残して目が粗くならない様に。

出来るだけ縫い目が均等になる様に、両脇から5mm位の所をダーネアの糸で縫っていく。

残しておいた入り口を表側に折り、筒状になる様に端から5mm位の所を縫う。

最後にジュエルワームの紐を通し、端を結べば完成だ。


「・・・・・・出来た」


出来上がった巾着袋の様な小袋の出来栄えはお世辞にも良くない。

この出来じゃあ、小母さん達に笑われそうだ。

でも、一応形になってるし、素材のお陰で丈夫。

俺にしては上手くいった方だと思う。

後は、ちゃんと『クリエイト』の魔法が使えるかどうかだ。


出来たばかりの布に手を入れ、取り出したい物を思い描く。

そうすると、何も入っていないはずなのに手に硬い物が当たった。

ソレを掴み袋から取り出すと、思い描いた通りのカバン用の金具が出てくる。

その後、大小様々な物を『クリエイト』で作ったけど問題なく取り出せた。

空間結晶のお陰で、袋の何倍も大きなものでもちゃんと取り出せる。


「よし、『クリエイト』用の小袋はこれで良しと。

次は鞄だ」


今回は型紙を作らないといけないから、少し手間がかかる。

今回は蓋付きのショルダーバックを作る。

と言うよりも、これしか作り方を知らないんだけどな。


先ずは本体と蓋の型を布の裏に書いて、1cmの縫い代を取って布を裁断する。


表と裏用のダーネアの布、無地のジュエルワームの布、時空結晶の板、其々これを繰り返し。


本体用は表用ダーネアの布、無地のジュエルワームの布、時空結晶の板、裏用のダーネアの布の順に。


蓋は切抜きした表用のダーネアの布、無地のジュエルワームの布、裏用のダーネアの布の順で重ねる。


本体の表地と裏地を内側に、布の表側が来る様に合わせ入り口を縫っていく。

ミシンで縫えれば楽だったけど、この世界にはミシンが無いと思う。

ミシンに似た机と一体化し、ハンドルとペダルが付いた機械、もしくは魔法道具が何台かあったけど、使い方が分からない。

それに、下手に使って壊したら弁償できないから、時間をかけて手で縫っていくしかないんだ。


縫い合わせた入り口を中央で合わせ、裏地の一部に10cm位の空きを取って脇を縫う。

空けて置いた脇の所から布を表に返し空きを閉じ、裏地を表の内側に入れる。

左右其々の底の線と脇の線を重ねる様に合わせ、三角形になる様にマチを作っていく。

次に蓋を本体と同じ様に表地と裏地を内側に、布の表側が来る様に合わせ一部を残して縫う。

縫わずに空けて置いた所から布を出して返す。


幅が広いダーネアの紐を少し長めに2本取り、余ったジュエルワームの布を挟む様に重ねる。

それと、金具と本体を繋げる様に小さめの紐も2本用意。

この2種類の紐を半分に折って折り目をつけ、その折り目に向かった両端を折ってもう一度中心で折って、4つ折にする。

紐をリボンの様な状態になる様に両端を縫って、短い紐に『クリエイト』で出した金具を通して、金具の下を縫う。

その金具付きの短い紐を入り口から少し出してバッグの本体の横側に仮縫いしておく。


短い紐とのバランスを見ながら蓋を本体に縫い、蓋の所は1回、紐の所は2回本返し縫い。

バランス良く紐と蓋の縫い代を隠す様に布を宛がい、刺繍する様に縫っていく。

最後に『クリエイト』で出した金属のベルトに通した長い紐を付け、蓋と本体に同じく『クリエイト』で出したスナップボタンを付ければ完成。

ついでに布が余って勿体無かったから、蓋の裏と鞄の横にポッケも付けてみた。


「おぉ、前作った時よりも上手くいったぞ!」


前は中学の家庭科の授業で作ったんだよな。

その時に比べ大分上手く作れた。

雑貨屋工房の商品と比べ物にならない程の駄作なのは変わらないけど。

ワンポイントの切り抜きも其れなりに映えてるし、形も確りしてる。

十分合格ラインだと思いたい。


「ん~」


ずっと集中して作業していたせいで体が凝り固まってしまった。

大きく体を伸ばし辺りを見回す。

いつの間にか、工房には俺以外誰も居ない。

だけど、隣の店の方からは人の声や動き回っている音がするから人は居るんだろ。


そう考えながら俺は、工房の入り口から店内を見回した。

開け放たれたドアと窓から明るい朝日が差込、外の大道りには沢山の人々が行き来している。

店内では小母さんや鍛冶師の爺さん達が掃除したり、商品を並べたりと開店準備に大忙し。

勿論、店内の1番目立つ所には俺が採ってきたジュエルワームの糸で出来た布が堂々と並べられている。


俺が作業を始めたのは真夜中を少し過ぎた位だった。

気づかない内に、店が開く様な時間になっていたんだな。

今まで学校の授業でも、嵌っていたゲームをやっていた時でも、こんな長時間時間を忘れる程集中した事は無かった。

少し自分でも驚きだ。


鞄と小袋も出来たし、小母さん達が落ち着いたら声を掛けて出よう。


その前に何時でも出られるよう、今までジャージの上着に包んでいた荷物を鞄に入れた。

勿論、余ったダーネアの糸は出来上がったばっかりの鞄に入れ、『クリエイト』用小袋は鞄の蓋の裏のポケットに入れる。

使う頻度の高いパチンコとナイフは鞄の横のポケットに。


もう少し素材が残っていればナイフとパチンコ用のホルダーも作れたんだけどなー。

まぁ、それはまた少しずつ素材を集めて、暇を見て作れば良いか。


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