表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 1.5 章 勇者編
154/498

14,フェノゼリー 前編


 走り出した勢いのまま木の剣を、1番最初に巣から出て来た中フェノゼリーに向かって突き刺す。

だけど俺の剣は、中フェノゼリーに刺さる前に庇うように前に出てきた、俺達が追いかけていた大フェノゼリーの爪に阻止され届かなかった。

大フェノゼリーは俺を切り裂こうとしているのか、俺の剣を止めた方とは反対の腕を大きく振り上げている。

その大振りな攻撃はただ俺に隙を与えるだけで、爪を打ち返した反動を使って体の軸をずらす様にスキップして後ろに下がった俺に、かすりもしなかった。


「ゲッ!」


次の攻撃に備え剣を構え直した俺は、つい潰れたような声を出して持っていた剣を投げ捨てた。

俺が手を離した事で夏場の肥料の様な臭いを出しながら、一瞬元の木の棒に戻って黒い煙の様に崩れて消えた木の剣。

さっきまで持っていた木の剣は、大フェノゼリーの爪が当たった部分から黒く変色して腐り出していた。


スゲーめんどくさい事に、フェノゼリーも毒を持った魔物らしい。

阻止されるだけじゃなく、武器をダメにしてくるなんって。

マジでめんどくさい。

でもまぁ、フェノゼリーは爪にしか毒がないみたいだし、霧状の毒を吐きだすコカトリスよりは楽な方か。


「田中、気をつけろ!!

こいつらの爪、毒があるぞ!!

木の剣が腐った!!!」

「あぁ、分かった!!『ウィンド』!」


その事をフェノゼリーから目を出来るだけ離さず、まだ何も気づいてない田中に伝える。

その直後、視界の端に田中が『ウィンド』を使って小フェノゼリー達の爪が届かない。

幹も枝も太い丈夫な木の、かなり高い位置に生えた枝に乗ったのが映った。

そのまま、真下の小フェノゼリーに魔法を放とうとする田中。

しかし小フェノゼリー達も田中の事をあきらめてないみたいで、小フェノゼリーの1匹が爪を田中が居る木の幹に引っ掛け、揺すりながら登り始めた。


「っ!こ、の!!『ウィンド』!!」


何とか揺れに耐えた田中。

手を伸ばせば田中を捕まえられそうなほど、直ぐ近くまで登ってきた小フェノゼリーから逃げる為。

田中は『ウィンド』を使って、ピョンピョンと木を飛び移って俺達から離れていく。

小フェノゼリー達もそのまま田中を追いかけて離れていった。


「高橋!『グランド』で石か鉄出すか!?」

「大丈夫!必要ない!『ストーン』!!」


大中フェノゼリーの攻撃を避けるだけで、中々剣を作らない俺を不審に思ったのだろう。

叫ばないとお互いの声が聞こえない位遠くに行った辺りで、田中が俺に向かってそう叫ぶ。

ただタイミングを計っていただけの俺は田中の提案を断って、木よりは腐りにくいだろうと『ストーン』で出した小石を剣に変えた。

ルチアの歌声が聞こえてきたタイミングで作ったその剣は、小石から出来たとは思えないほど丈夫で鋭く、切れ味抜群な片手剣。


「よしっ!これならいけるな!」


ルチアの魔法のサポートのお陰で、小さな石ころ1つからこんだけ立派な剣が出来上がった。


今ルチアが使ってる、ルチアの基礎魔法の1つ。

ルチアの1番得意な魔法でもある『クラング』は、歌う事で発動する魔法だ。

杖を使って空中に書いた魔方陣に向かって特定の歌うを歌うと望んだマナが集まり出して、歌ってる間色んな効果が現れる。

攻撃系の歌もあるけど、今ルチアに歌ってもらってるのは俺達の魔法を強化するサポート系の歌。


このサポート系の歌はかなり便利で、強い武器を作れる以外にも色々良い事があるんだ。

例えば、ルチアが1曲歌い終わる4分くらいの間、何か合って俺が剣を手放してもすぐに剣が消えずにすむとかだな。

なんにしろ、ルチアのこのサポートが始まったお陰で、断然戦いやすくなった。


「逃げるのは終いだ!『ライズ』!!」


『ライズ』はここ1ヶ月の間に、新しく『祝福された者』のスキルで作った魔法だ。

10秒間だけ攻撃力や防御力、スピードなんかの物理的なステータスを少しだけ上げる事ができる。

この魔法にルチアのサポートが加わると、3倍位に効果が上がるんだ。


強化されても、時間にしたらたったの30秒だけ。

されど30秒。

30秒って時間は以外と長いんだぞ。

短いテレビのCM2本分か、長いCM1本分も在るんだ。

そんだけの時間があれば、1秒1秒の行動が勝敗を決める戦いにおいては十分。


「遅い!!」


強化『ライズ』の効果で、スロー再生したみたいにすっごくゆっくり動く、降り下ろされた大フェノゼリーの腕。

それを余裕で避け、そのまま後ろに回りこみ大フェノゼリーの腕をスッパリ切り離した。

そこで『ライズ』の効果が切れ、ゆっくりだった風景が元に戻る。


赤黒い血を撒き散らし宙を舞う切り離した大フェノゼリーの腕。

あまりの速さに、大フェノゼリーは何が起きたのか理解できなかったんだろうな。

数秒間固まっていた大フェノゼリーが、地震が起きそうなほど大きく激しい鳴き声を上げ地面に崩れ落ちた。


「『ファイア』。『ライズ』」


戦っている最中に誤って爪にぶつかったら危ないからな。

俺は大フェノゼリーの鳴き声を気にせずに、地面に落ちて転がった切り離した大フェノゼリーの腕を強化された『ファイア』で燃やした。

強化されているから俺の弱い『ファイア』でも、田中の強力な火の魔法『フレイム』の様に、大フェノゼリーの腕を一瞬で真っ黒になるほどの威力で燃やせる。

けど、あの大きな爪や骨まで燃やし尽くすには、まだまだ時間が掛かるみたいだ。


その間にもう1度『ライズ』を自分に掛け、大フェノゼリーに近寄ろうとした中フェノゼリーの足を切り裂く。

本当は首でも切り落とせば1発なんだけどな。

フェノゼリーが大きすぎて、強化されていても突き刺す事はできても切り落とす事は出来そうにない。

だからまずは足を攻撃して立てないようにして、フェノゼリーを地面に倒して止めを刺し安くした。


「これで最後だ。

地獄で人に迷惑を掛けた事反省しな!!

『ライズ』!!!」

「グルルァアアアアア!!!」

「チッ!こ、の!邪魔すんな!!」


大中フェノゼリーの首に剣を振り下ろそうとした瞬間、田中と戦っていたはずの小フェノゼリーの1匹が邪魔してきた。

慌てて横から来た小フェノゼリーの爪を、無理矢理な体勢でガードする。

何とか少しの間小フェノゼリーの爪を止め続けたけど、死ぬ気で全体重を乗せた様な小フェノゼリーの攻撃に体が悲鳴を上げだした。

そのせいで体が変に動いて、上手く力の入らなかった俺の手から石の剣が弾かれる。


そのうえ間が悪いことに、ルチアの歌も終わってしまった。

俺の手から離れた石の剣は一瞬陽炎の様に揺らめいて、元の小石に戻って地面を転る。

そのまま他の石に混じってどれが俺が魔法で出した石か分からなくなった。


「クソッ!」


『ライズ』の効果も消え普通のスピードに戻った世界の中じゃ、吠えまくりながら我武者羅に振られる小フェノゼリーの腕を避けながら、フェノゼリー達から離れるのがやっと。

本当、タイミングが悪すぎる。


そもそも小フェノゼリーの相手をしていた田中はどうしたんだ?

そう思って田中の方を見ると、今にも死にそうなほどボロボロになったもう1匹の小フェノゼリーと死闘を繰り広げていた。

首や腕だけになって相打ちになっても、田中を殺そうとしているんじゃないかと思えるほど、死に物狂いで一切攻撃の手を休めず田中を襲う小フェノゼリー。

魔法特化のせいで体力や持久力がそんなにない田中は、息が上がりすぎて中々小フェノゼリーの攻撃を避けながら呪文を唱えることがでずにいるみたいだ。

何とか息を整えて放った魔法は威力が弱く、強化されてない事もあってそこまでフェノゼリーにダメージをあたえられずにいる。


「チッ!やっぱ死に掛けの魔物は厄介だな!!」


魔王に作られた心なんって無い魔物でも、やっぱ死にたくないって本能はあるんだな。

火事場の馬鹿力って言うのか、小さなダメージの攻撃で少しずつ追い詰めると魔物は高確率で強くなる。

だから魔物は出来るだけ首とか切り飛ばしたりして、1撃で倒すのがいいんだ。

長期戦に成る程俺達が不利になる。


「『ストーン』!」


俺が大中フェノゼリーから離れたからか。

俺と大中フェノゼリーの間で大フェノゼリーがやったように、両手を広げ仁王立ちしてグルグル唸るこっちに来た小フェノゼリー。

どうもあの仁王立ちのポーズはフェノゼリーの威嚇みたいで、今の所小フェノゼリーがさっきみたいに攻撃してくる様子はない。

小フェノゼリーも普段の自分よりも確実に強い俺達を警戒して、迂闊に攻撃できずにいるみたいだ。

そういう俺も強化されていない『ストーン』の小石じゃ脆いナイフしか作れないくて、フェノゼリーに攻撃できずにいるんだけどな。

このナイフじゃ『ライズ』を使ってもフェノゼリーに止めをさす事は出来ない。


大フェノゼリーの腕を切り落とした時分かったけど、フェノゼリーは見た目どおり毛や肉が分厚く、普通の剣や魔法の攻撃が通り難いみたいだ。

だからこのナイフで攻撃しても皮膚を軽く切るだけで、何度も同じ攻撃していたらその内田中が相手にしている小フェノゼリーの様になるのは目に見えている。

そうなったらこのナイフじゃまともにガードすら出来ない。


「ケホッ・・・ケホッ・・・」

「ルチア、大丈夫か!?」

「は、い・・・勇者、さま・・・」

「無理しなくていいから!

落ち着いたら、もう1度サポート頼む!!」


小石のナイフを構えフェノゼリー達から目を離さず、咳き込むルチアに声を掛ける。

普通の歌より『クラング』の歌は喉に負担がかかるみたいだ。

だから何時も『クラング』を使って歌った後のルチアは、カラオケで何曲も歌った後みたいにガラガラした声をしている。

魔法陣を書き直す時間やルチアの喉の事を考えても、直ぐにまたルチアに歌ってもらう事は出来ない。

今の俺達じゃ5分以内に魔物を倒せないと、こう言う不利な状況に追い込まれちまうんだよ。

まぁでも、それも直ぐにレベルアップして克服してやるけどな!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ