9,真っ赤な仲間 後編
「・・・この近くには脇道ぽいのはないな」
「みたいだなー」
ログハウスの周りを何度見回しても、俺達が通ってきた道以外の道は無かった。
周囲のバラバラに生えた木々の間に生い茂った背の高い草花は、どれも人や動物に踏まれること無く、思い思い空に向かって伸びている。
その事から、盗賊団がここら辺の木々をすり抜けて、他のアジトとログハウスを行き来していた可能性は低くて。
それが分かって隣の田中が、俺にジトーっとした視線を送ってくる。
「勇者様方!此方に道らしきものが!!」
「でかした、ルチア!!」
本道沿いに少し遠くまで見ていたルチアに呼ばれて行くと、確かに奥までずっと続いたけもの道があった。
踏み潰され枯れた草花の道は、最近も使われていることが分かるくらいハッキリしている。
ギリギリ大人1人が通れる位細い道だから、馬車で通った時は気づかなかったな。
何時出来たかは分からないけど、何かを引きずった跡みたいなのも残ってるし、これは間違いなく盗賊団が逃げ出した跡に間違いない!
そう思って田中の方を見ると、すねた様にプィと目をそらされた。
「この先に盗賊団が居るんだな。
俺が先頭行くから、田中は1番後ろ頼んだ!」
「分かった」
けもの道に入る前に、近くに落ちていた太目の木の枝を『クリエイト』で剣に変え、何時でも振れる様に確り握った。
木が邪魔で横一列に進めないから、RPGのパーティーらしく縦一列でけもの道を進む。
「嘘だろ・・・行き止まりかよ・・・」
盗賊団が俺達が追っていることに気づいて道を変えたのか、それとも最初から罠だったのか。
しばらくゆっくり警戒しながら進んでいると、道が途中で途切れた。
周りを注意深く見回しても道っぽいものとかなんにも無いし、盗賊団の手がかりになる様なものも全然ない。
仕方なく来た道を戻ろうとしていると、森の奥からガサガサ派手な音を発てて誰かが走ってくるのが分かった。
「ついに敵のお出ましか?・・・って子供!?」
「きゃあっ」
「うおっと!!」
まず見えたのは、ヤドカリネズミが背負ってる甲羅と同じ形の甲羅の、体だけでも大きな馬位ありそうな巨大カニだった。
タラバガニの様に1部が尖がった丸っぽい、トゲトゲした五角形の甲羅。
その甲羅は、ヤドカリネズミが背負うくすんだ色の甲羅と違って、磨き抜かれた銀食器みたいな色をしている。
オスのサワガニの様に、片方だけ大きな鋏は体と同じサイズ。
巨大カニはその鋏をジャッキンジャッキンと鳴らしながら、坂を滑るように走って来ていた。
そして次に見えたのは、その巨大カニに追いかけられているボロボロな姿の女の子。
もう少し成長したら、ルチアに負けない位の美少女になりそうな位、可愛いく整った顔をしてる。
けれど今は、巨大カニから逃げるのに必死すぎて、その顔が台無しになっていた。
見た目的に妹のユヅと同い年ぽいし、8歳位か?
後ろの巨大カニを気にしながら必死に走って来た女の子は、前に居た俺達に気づかず、盛大にぶつかってきた。
受け止めた女の子の体はやけに細く軽い。
それに何度も転んだのか、長い白髪にも、涼しいこの時期には似つかわしくない薄過ぎうる服にも、土や落ち葉が絡みついていた。
「ちょっと、後に隠れてろよ!」
「ッ!」
受け止めた女の子を後ろに隠し、女の子を追いかけてきた巨大カニを切り裂く。
甲羅や親爪は俺の剣でもビクともしない位硬かったけど、関節の部分はかなり柔らかかった。
鋏を避けながら関節の部分を切り落とし、茹でたカニを食べるように足をバラバラにしていく。
そうやってドンドン切っていくと、巨大カニはピクリとも動かなくなった。
「大丈夫か!?」
「あ、あの、あの・・・
ご、ごめんなさい・・・・・・えっと・・・
あの・・・・・・・・・ヒック・・・」
完全に巨大カニを倒した事をしっかり確認してから、女の子に声を掛ける。
俺が声を掛けると女の子はアワアワと何か言いかけ、ポロポロと泣き出してしまった。
ユヅに近い女の子だから、何かユヅに泣かれたみたいで落ち着かない。
俺、ユヅの泣き顔苦手なんだよ。
「ちょ!な、泣くなよ。俺達悪い奴じゃなからッ!な?」
「おい、高橋。子供だからって油断するなよ。
こんな所に1人で居る子供なんって怪しいだろう」
「そうですよ勇者様!相手は女ばかりの盗賊団。
この少女もメンバーの1人かも知れません!!」
「何言うんだよ!こんな小さな子が盗賊なわけないだろ!?」
反射的にそう言っても、やっぱこんな小さな女の子が1人で、盗賊団位しか居ない山に居るのは可笑しいよな。
もしかしたらラノベの展開みたいに、何か理由があって盗賊団に捕まっていて、逃げてきたのかもしれない。
巨大カニに襲われて怖い思いをしてきた子供をわざと怖がらせるなんって、勇者がやる事じゃないよな。
そう思った俺は、出来るだけ女の子に視線を合わせ声を掛けた。
「えーと、とりあえず名前!名前はなんって言うんだ?」
「・・・ぅヒック・・・・・・ネイ・・・」
「ネイ、か。良い名前だな」
よっぽど嬉しかったのか。
ネイは俺が名前を褒めると、濡れた顔をお日様の様にニッコリさせた。
とりあえず、怯えたり泣いたりする様子も無いし、ネイの警戒は解けたかな?
「それで、何でネイはこんな所に居たんだ?」
「・・・おとーさんと、おかーさんが・・・・・・」
「うん」
「おとーさんとおかーさんが、変になっちゃったの・・・・・・
同じことばっかり言ってって・・・
わたしのお話、聞いてくれないの・・・・・・
・・・みんな、みんな、変になっちゃた・・・
・・・・・・だから、お薬・・・」
そう言ってまた泣き出したネイの手には、絶対に離さないと言う強い意志が感じられる位、確り草の束が握られている。
そんな泣きじゃくるネイから何とか聞き出した話しだと、ネイはこの山脈にある村の子供なのだそうだ。
ある日突然、ネイの両親を含めた村人達が同じ言葉と行動を繰り返すようになったらしい。
その異常事態に両親から教わった、山に生える薬草を取りに1人で村を飛び出したネイは、薬草を摘んでる途中であの巨大カニに襲われたそうだ。
「とりあえず、そのネイの村に行ってみようぜ」
「おとーさんとおかーさん、助けてくれるの?」
「あぁ!!」
俺がネイの村に行くというと、ネイは不安そうに見上げてくる。
そんなネイに村を助ける事を言うと、ネイは心底嬉しそうに顔を輝かせた。
そんな俺の行動に、また田中が不機嫌そうに反対してくる。
「待てよ。まだ、依頼を終わらせてないだろ。
盗賊団の事はどうするんだ」
「そっちも俺がバッチリ解決するさ!
でも、人としては困ってる奴をほっとけ無いだろ」
「まぁ、それはそうだけど・・・」
それに先代勇者も言ってたけど、勇者は困ってる奴を助けないとな!
それは田中も分かっているみたいだけど、2つ同時に事件を解決できないって思っているみたいで、渋い顔をしている。
確かに今までは1日1つずつ解決してきた。
けど、もう依頼をクリアするのにもなれたんだ。
2つ位なら余裕だって!!
「あの、勇者様」
「なんだ?どうした、ルチア?」
「此処から子供の足で行ける範囲にある村は、今回の盗賊団の依頼を出してきたスタリナ村だけです。
村のもの達の様子にもよりますが、もしかしたら盗賊団のアジトの場所が聞けるかもしれません」
「本当か!!」
スタリナ村は場所が場所だけに、限界集落って感じの小さく寂しい村らしい。
殆どが昔からスタリナ村に住む老人ばっかで、皆がドンドン住みやすい他の街に移って行って。
子供や若い奴は、片手で数えれるくらいしか居ないそうだ。
だからこそ盗賊団の標的にされ何度も襲われて、村中からかき集めたなけなしの報酬でギルドに依頼してきた。
依頼書には盗賊団を捕まえる手伝いをしてくれって、書いてあったけど、いい歳した爺さん婆さんに手伝わせるわけにはいかないだろ。
だから盗賊団のアジトをパッパッと見つけて、パッパッと盗賊達を捕まえて。
村にはその後に解決した事を言いに行こう、って思ってたんだ。
でも盗賊団の手がかりを見失った今、スタリナ村で話を聞くしかないんだよな。
「そうと分かれば、急いでその村に行こうぜ!!
ネイ、ここ馬車の乗換え所の近くなんだけど、村までの道は分かるか?」
「うん!それならわかるよ!!
おにーちゃん達、こっち!!」
涙を拭いて元気に頷くネイ。
俺達はネイに案内され、スタリナ村を目指した。




