7,真っ赤な仲間 前編
俺達がこの世界に召喚さてから、2ヶ月近く経った。
俺達は今、街の教会に居る先代勇者の幽霊に言われ、魔王退治の修行を兼ねて冒険者をやっている。
ギルドに来た沢山の依頼を日々解決して、人間に悪さする魔物も数え切れないくらい倒して。
あのケット・シーを楽々瞬殺、とまではまだいけないけど、それなりに強くなってきた。
ファンタジー系のラノベやゲームじゃお決まり過ぎる、冒険者業。
主人公が冒険者になるって言う、何の新しさも面白味もないテンプレな展開だったけど、
先代勇者の言う通り冒険者になって良かったって、強くなった今なら素直に思える。
ルチア達が初めて、アーサーベルの街を案内してくれたあの日。
シアって言う同い年ながら、英勇教の神官をやってる女の子に出会った。
軽くシアと話した後、シアに案内された教会の奥。
そこにある何代か前の勇者をモデルにした像の前に来たとき、その像から声が聞こえてきた。
「あぁ、今日はなんって素晴らしい日なんだ!!
ずっと、ずっと、君を、君達を待っていた!
君が来る日を、狂いそうなほど長い間待っていったんだ!!!」
そう言ったその声は、声だけでもその声の主がどれだけ喜んでいるのか分かるくらい、手を叩いて大喜びしている人の姿が簡単に浮かぶ様な声だった。
その声の主が、1000年前に召喚された先代勇者。
魔王を倒しても変わらず人間に迷惑を掛ける魔族を、生きている間に完全に倒せなかった事が未練で、勇者像に憑いているらしい。
もう勇者像に憑く事しか出来ない自分の代わりに、今度こそ魔族を完全に倒してくれる新しい勇者をずっと待っていた。
と、言う先代勇者。
「あの日からもう、何度繰り返してきたんだろうね・・・・・・
何度失敗した事か!!
お願いだ。
歴代勇者が果たせなかった、悲願を、今度こそ。
今度こそ果たしてくれ!」
「任せておけ!
勿論こんな事俺達の代で終わらせてやるさ!」
俺がそう言うと、先代勇者は嬉ししそうに笑い声をもらした。
その後で先代勇者が、
「私もそうだったけど、ギルドに来る依頼を解決してくれないかい?
良い修行になるし、なにより困っている人を助けられる。
魔王と魔族を倒すのは当然だけど、どんなに小さな事でも困っている人を助けるのが勇者の役目だ」
と言ってきた。
確かに人助けしつつ修行も出来るなら一石二鳥だし、お約束過ぎる事を除けば反対する理由は特に無い。
それにギルドに登録して冒険者になって依頼を受けるって、ファンタジー物のお約束だろ?
こう言うお約束ってのは、どんなに面白味や新鮮味がなくてもやっぱり守るべきだって、あの時は思ったんだよ。
後、ルチア達がスッゴクやる気だったてのもあるけどな。
まぁそれに、他の冒険者が苦労する依頼も、簡単に解決しちゃうのが勇者だ。
逆に言えば勇者じゃないと解決できないものだって有るはず。
俺達の助けをずっと待っている奴が居るんだ。
正義の味方である勇者として、無視なんって出来ないだろ。
「おはよう、キティ。早速だけど、この依頼受けるから!」
「おはようございます、勇者様!この依頼ですね。
えーと・・・」
そんな訳で今日もギルドに来た俺達は、俺達の担当になったギルド職員のキティに声を掛けた。
キティは癒し系のおっとりしたお姉さんで、見た目どおりのおっとりした性格と新人って事からやる気は十二分にあるけど少し抜けているとこがある。
今も後は俺がキティの前で依頼書にサインするだけなのに、キティが何かまたミスでもしたのかアワアワしていて、サインできていない。
「えーと・・・えーとですね・・・・・・
どうしましょう・・・」
「なんだ?今日もペンを無くしたのか?」
「違いますよぉ。ここにちゃんとあります。
そうじゃなくて、あの勇者様?
本当にこの依頼を受けるんですか?」
この前ペンを落として探していたのを思い出しその事を言うと、キティは頬を膨らませて違うと言ってきた。
そして不安そうな顔で俺と依頼書を交互に見る。
「どうしたのですか?何か問題でも?」
「姫様・・・その・・・
この依頼、何人もの冒険者が失敗した依頼なんです。
それで今じゃ誰も受けてくれなくて・・・」
俺と田中と一緒に来たルチアがキティが尋ねると、キティは更に不安そうな顔をして依頼書を見せながらそう言ってきた。
偶然見つけた、掲示板に張られた沢山の依頼書に埋もれたこの依頼。
『女盗賊団の捕縛の協力』と書かれた依頼は今まで俺達がやって来た魔物を倒す依頼じゃなくて、背中に雪の結晶みたいな刺青をしたルピナ・カシスって奴がリーダの『ブラント』って言う、60年近く存在する盗賊団を生け捕りにするもの。
それに場所は今まで1度も行った事が無い、隣のチボリ国との国境のディスカバリー山脈だ。
「だから、この世界に来たばかりの勇者様達と姫様だけじゃ危険です!
それに最近の噂ではブラント盗賊団のリーダーが、ルピナ・カシスの孫娘に代わったと言う話も有ります。
孫娘に変わってから、ブラント盗賊団の情報が何も伝わってこないんです。
何が有るかわかりません!!」
今、シャルとダンは数人の兵士と一緒にちゃんと魔族が居なくなったか調べつつ、魔王の情報を集める為にローズ国中を飛び回っている。
だから修行の依頼も、俺と田中とルチアの3人でやってるんだ。
最新情報が入ってこない、何人もの冒険者が失敗した依頼。
それをたった3人の俺達にやらせるのは、俺達が問題なく解決できる実力を持ってる事を知っていても、ギルド職員として許可できないと言うキティ。
「でもなー、エヴィン草原の依頼は簡単すぎて修行にならないんだよ。
キティも知ってるだろ。
俺達がワンパンでコカトリス倒せるの」
「はい。
勇者様が驚異的なスピードで成長しているのは依頼書を見て知っています。
でも・・・」
今まではアーサーベル近くのエヴィン草原での依頼ばかりだった。
最初は倒すのがちょっと大変だった雑魚のスライムも、それなりに強くて大きなコカトリスも、今じゃワンパンで倒せる。
その位俺達のレベルが上がって、今のダンジョンじゃ敵が弱すぎて修行の意味が無いんだよ。
そろそろ新しいダンジョンに挑んでもいいだろう。
「それにずっと解決していない依頼なら、その間苦しんでいる人が居るんだ」
「そんなの勇者としてはほっとけないぜ!」
「大丈夫です。
勇者様方の実力なら間違いなく解決できます。
それにディスカバリー山脈も・・・
チボリ国に近づきすき無ければ、魔族に屈服したチボリ国民でも手出しはしないはずです」
「・・・分かりました。
そこまで仰るなら、勇者様。どうかお願いします」
「おう。任せておけ!!」
ルチアと田中も加わって自信たっぷりに説得したら、ようやくキティも頷いた。
書きなれてきた『クリエイト』の魔法陣を依頼書に書いて、ヒーローらしい真っ赤なリボンが巻かれた丸まった依頼書を受け取る。
「じゃあ、行って来るな!」
「はい。行ってらっしゃいませ、勇者様。
勇者様が無事帰ってこれるよう、ご武運をお祈りしてますね」
「おう!」




