2,最初から始める 後編
ルチア達と軽く自己紹介し合って、ようやく本来の目的だった俺と田中のスキルと魔法を調べる事に。
見た目以上に肌触りのいいリストバンドを左腕に着けて、水晶の位置を調節する。
「・・・・・・よし!
それで、この後どうすればスキルや魔法が分かるんだ?」
「そのまま右手で水晶に触れてください」
「こうか?」
「はい」
ルチアに言われたとおりに水晶に触れると、突然目の前の空中に半透明のウィンドウが現れた。
何って言うのか、こう、お決まりの展開ってやつ?
タイトルバーっぽいところにはカタカナで書かれた俺の名前。
それ以外にはスキルと魔法の文字のみのシンプルなウィンドは、まさにラノベでよくある展開そのもので、此処まで来ると感動すら覚えるぜ!!
「うぉおお!!スゲー!!!マジかよ!!
なぁ、なぁ!田中見てみろよ!!!
マジでラノベみたいだぜ!!」
「高橋、うるさい。それで、この後は?」
「ちょ、俺の扱い酷くない!?」
感動の余り田中に画面を見せながらそう言うと、田中は俺を無視してルチアに話を進めるよう言った。
「なんだよ!!!
感動するダチに対してその扱いは酷すぎるぞ!!
お前はこの状況にテンション上がんないのかよ!!!」
と言って、なんか普段以上にローテンションの田中をチラッと睨んでから、俺もルチアに先に進めてくれるよう言った。
「はい。
ではまず、スキルの方から見て行きましょう。
勇者様方、画面の中のスキルの文字の所に意識を集中してみてください」
「えーと・・・こう、か?
・・・あっ!なんかまた文字が出て来た」
ウィンドウ内のスキルの文字を見ていると、その下にさらに4つの文字が現れた。
「固有スキルに追加スキル、付属スキル、創造スキル、か。思った以上に種類があるんだな」
「はい。ご覧になられたとおり、この世界のスキルは4種類あります」
ルチアの話では、血筋やその種族が必ずもつ遺伝的なスキルが固有スキルで、勉強したり修行したりして後から手に入るスキルが追加スキル。
それで付属スキルが特別な装備をしている間一時的に付くスキルだそうだ。
「そしてこの世界の誰も持っていない、誰も出来ない、勇者様だけが持つ特別なスキル。
勇者様方が作り出したこの世界で唯一のオリジナルのスキル。
それが創造スキルです」
「俺達が、作り出した?」
「はい。勇者様はこの世界に無い全く新しい唯一無二のスキルや魔法を生み出す事が出来ると伝わっています」
そう言われ俺と田中は目の前のウィンドウを見た。
この世界に無い唯一無二のスキルや魔法を作り出す。
それが本当ならマジでチートじゃないか!
俺は思わずにやけそうになるのを押さえて、上から順にスキルを見て言った。
本当は直ぐにでも創造スキルを確認したかったけど、やっぱ1番の楽しみは最後にとっておかないとな!
まずは固有スキルから。
スキル創造・・・
異世界に召喚されるまでにファンタジーな異世界ならあるだろうと思っていたスキルを新たに作り出す。
空気読み・・・
場の空気を読み解く日本人にとてもとても大切なスキル
製作能力B・・・
鍛冶・大工・料理等物を作ったとき品質のいいものが出来る確立がほんの少し高い
集中力上昇A・・・
何かに熱中した時の集中力が格段に上がる。
祝福された者・・・
ピンチになるとその状況を解決できるスキルや魔法を自動で新しく作れる。
うーん・・・・・・
なんか思ってたよりも普通っぽい?
確認してみたら追加スキルも付属スキルも思ったよりも大した事無かったし、勇者として呼ばれたんだからもっと凄いのを期待してたんだけどな。
「田中、お前はどんな感じ?」
そう言って俺は、俺と同じ様に創造スキル以外の3つのスキルを確認していた田中の画面を覗き込んだ。
見比べて分かったけど、全体的に俺と田中のスキルは似た所が結構ある。
同じ日本人だから固有スキルが同じなのは予想していたけど、追加スキルも同じスキルが幾つかあった。
「追加スキルって今までの経験で付くスキルだったよな。
なんだ、俺達以外と似たもの同士なんだな!」
「変なこと言うな!鳥肌立っただろ!!」
「えー、そこまで嫌がる事ないだろー。
流石に傷つくぞ?
・・・それにしても田中の方が『製作能力』と『集中力上昇』のランクが高いんだな」
持ってるスキルは同じだけど、ルチアが説明してくれたランクは田中の方が俺より高い。
『製作能力』がAで『集中力上昇』がS。
「追加スキルに『料理B』ってあったし、田中って以外と料理得意だったんだ。知らなかったぜ」
「・・・・・・別に。それに俺よりっ」
何か言いかけて田中はまた片手で頭を押さえ、蹲り苦しそうに眉間にさらにしわを寄せた。
もしかして、何時もよりローテンションだったのは具合が悪いからなのか?
「田中、大丈夫か?頭、痛いのか?」
「そんな!
具合が悪い事に気づかずに申し訳ありません、勇者様!
直ぐにお部屋にご案内します!!」
「・・・・・・・・・いや、大丈夫。
もう治まったから。心配かけて悪かったな」
慌てて気遣わしげに田中の後頭部に手を添えながら尋ねるルチアに、田中は少しぶっきらぼうにそう言って立ち上がった。
「本当に大丈夫か?」
「あぁ。大した事は無い。
それに早く残りのスキルと魔法を確認しないとな。
ちゃんと確認していなくて、俺達が召喚された事を知って敵が襲ってきても、まともに戦えなかったなんって事になるのは嫌だからな」
「大丈夫ならいいけど。
あと、それフラグだからな、田中。
嫌なこと言うなよ!」
全く、嫌なフラグ建てやがって!
でも、確かに魔王がこの唯一手に入れてないローズ国に天敵の勇者が召喚されたって知ったら、俺達が弱い内に襲って来ようと考えるかも知れない。
だったら田中の言うとおり、そうなる前に俺に何が出来るか確認しないとな。
「えーと、創造スキルは・・・・・・」
ドロップ・・・
魔物や魔族を倒したとき剥ぎ取り以外に魔物のマナを元にアイテムをランダムに自動で作り出す。
状態保持SSS・・・
一切の病気と毒が効かない
環境適応SSS・・・
通常時と同じ様にマグマや深海、毒霧の中でも生きられ、行動できる。
又その世界で強者として生きられる能力がつく
言語通訳・翻訳・・・
異世界の言葉が必ず通訳され異世界の文字の読む事が必ず出来る
鑑定記録・・・
出会ってきた物・生き物・事件・思い出等を自動で記録しスマートフォンアプリ『図鑑』から常時観覧できる。
「スマホ・・・・・・・・・・・・
やっぱ異世界だから圏外か・・・」
『鑑定記録』の項目にスマートフォンアプリの文字を見つけ、鞄に仕舞っていたスマホを取り出す。
電源を入れればまず目に付くのは圏外の文字。
異世界に呼ばれたんだから同然だけど、よっぽどの事が無い限り普段絶対見ることの無いその文字は、隅の方に小さく表示されてるにもかかわらず嫌に存在感があった。
「それと、この『図鑑』ってアプリ以外使えないみたいだぞ」
「え!マジ!?
・・・・・・うわぁ・・・マジだ・・・」
圏外の文字を見てロックを解除せづにスマホを見ていた俺は、隣で同じ様に自分のスマホを確認していた田中の言葉を聞いて慌ててスマホのロックを解除した。
確かに田中の言うとおり、いつの間にか入っていた『図鑑』って書かれたアプリ以外何度押しても反応しない。
無線やネットを利用しないような、カメラや時計とかそういうアプリも使えなくなっている。
「『図鑑』のアプリ内には撮影して検索ってのもあるし、カメラ自体が壊れた訳じゃなさそうだな。
なら、異世界だから色々制限されているって事か」
「えー・・・・・・
スマホが使えないって・・・
思っていた以上にキツイかも・・・」
「あきらめろよ。
元の世界とは勝手が違うんだ。仕方ないさ」
そう言って田中はさっさとスマホをポケットに仕舞いウィンドウに向き直った。
さっきから田中の切り替えが早すぎる。
それでもお前は俺と同じ現代っ子か!!
そう内心思いつつも何時までも項垂れているわけにも行かないと、俺も魔法の項目の確認に移った。
ルチアの話ではこの世界の魔法の分類は5つに分類されるらしい。
俺と田中はその中で、この世界の誰もが必ず1つは持っている『基礎魔法』ってのと、創造スキルと同じく勇者だけが持つ特別な『創作魔法』ってのを覚えていた。
基礎魔法:
クリエイト・・・
異世界に来た時、新しく魔法を作れる。
又周りにある物を魔法を使った者だけが使える剣に作り変えれる。
作られた剣は作り変えたまま触れずに一定時間放置するか、1度握り少しでも手から離れると消えてしまう。
創作魔法:
ファイア・・・
野球ボールサイズの火の玉を作り出す
アクア・・・
野球ボールサイズの水の玉を作り出す
サンダ・・・
野球ボールサイズの雷の玉を作り出す
ストーン・・・
掌に乗る位の石を作り出す
俺の覚えている魔法はこんなもんだ。
思ったよりもショボイ。
田中の方を覗くと、田中の方の『創作魔法』の項目にはズラッと名前からして強力そうな魔法が俺の倍以上書かれていた。
「うおっ!?なにこの強そーな魔法!
数も俺より多いし。
いーいーなー。
お前だけこんなに強そうな魔法覚えていて!
ずりぃーぞ、田中!!」
「・・・・・・はぁ。落ち着けよ、高橋。
多分俺は魔法特化型なんだ。
お前はスキルの内容を考えると物理特化型なんじゃないのか?
『クリエイト』の内容もそんな感じだし」
呆れた様に溜息を吐きながらそう言う田中。
確かに俺の方の『クリエイト』の内容は『周りにある物を剣に作り変えれる』だけど、田中の『クリエイト』の効果は『常時創作魔法を新しく作れる』と書かれていた。
『異世界に来た時、新しく魔法を作れる』ってのは同じだけど、もう1つの効果は剣を作るか魔法を作るか。
剣道部の俺と違い帰宅部の田中は武器を持って戦うって事が出来ないから魔法が得意なステータスなんだろうな。
逆に運動部で体力も筋肉もある俺は魔法が弱いのか。
スキルが似てる分、此処で違いがでったって事だな!
「さてと。
『祝福された者』のスキルで創造スキルや創作魔法が自動で増えることが有るみたいだし、こまめにこれで確認するとして。
今はこの位でいいだろ」
「そーだな。
何回見ても直ぐに変わるようなもんじゃないだろうし。
あっ、そうだ。なぁ、ルチア。
確か創作魔法以外の魔法を使うには魔法陣が必要なんだよな?」
「はい、そうです、勇者様」
この世界の魔法は基本的に魔方陣を書く事で発動するらしい。
例外なのは『道具魔法』って言うマジックアイテムを使って発動する魔法と『創作魔法』。
昔の勇者もそうだったらしいけど、『創作魔法』は魔法の名前を言うだけで発動する。
試しに『ストーン』って言ったら本当にちっちゃな石が出て来た。
「『クリエイト』の魔方陣書く用に杖かなにかないか?」
「それなら此方に。
今はこの様な物しか有りませんが・・・・・・」
そう言ってルチアが持って来たのは簡単にポッキリと折れそうなほど細い枝見たいな木の杖。
魔王のせいで杖の素材も手に入りにくく、今は子供が魔法の練習に使う為のこの杖しか準備できなかったそうだ。
「申し訳ありません、勇者様方」
「いや、問題ない。杖があるだけで十分だ」
「そうそう!大体悪いのは魔王なんだからルチアが誤る必要なんって無いぜ!!」
「・・・ありがとうございます、勇者様方」
心底申し訳なさそうな顔をして落ち込むルチアに俺と田中はそう声を掛ける。
元はと言えば魔王が人間の国を襲って来たの原因なんだ。
だからルチアが気にする事なんってなにもない。
「代わりと言うわけではありませんが、勇者様方、此方もどうぞ」
そうルチアが言ったのを合図にシャルとダンが2種類のバッグを持って来た。
1つは赤黒い皮のかっこいいデザインのリュック。
もう1つは中のキラキラした布が見えるように蝶と桜の花っぽい切抜きがされた灰色のショルダーバッグだ。
どっちもどんな攻撃も無効にする糸を出すジュエルワームって虫の魔物の糸と、いくらでも物を入れられるようにできてその上中に入れた物の時間を止められる時空結晶ってマジックアイテムを使った鞄らしい。
それにどんなに物を入れても全く重くならないってオマケつき。
出ました!
ゲームやラノベでお馴染みの無限に物が仕舞えるアイテム!!
やっぱこう言うもんは序盤で手に入らないと不便だよな。
「伝承に残る勇者様はスキルで道具や素材を生み出すと言われていましたので、我が国で現在用意できる最高級の品を用意しました」
「ありがとうな、ルチア!なぁ、なぁ、田中はどっちが良い?」
「俺は・・・・・・・・・」
「じゃあ、田中はこっちな!!」
田中が答える前に俺は田中にショルダーバッグの方を渡した。
眉間のしわを更に増やしながらも素直に俺が渡したバッグを受け取る田中。
田中はずっとショルダーバッグの方を見ていたんだ。
何も言わなくても、田中がどっちが良いかなんって一目瞭然だろ。
そう言う俺もリュックサックの方を1目で気に入ってたんだけどな。
田中はあの地味なショルダーバッグの何処が気に入ったのか分からないけど、俺はあのリュックの力強い赤が勇者っぽさを出していてグッときたんだ。
同じバッグを気に入って取り合いになるなんて事にならなくてよかったぜ。
「よっと・・・・・・本当に重くないな!」
元の世界から持って来ていたボストンバッグをリュックに入れ背負う。
ギュウギュウに物が詰まったボストンバッグは結構重いのに、それが入ったリュックは背負ってる事を忘れそうな位軽かった。
それにリュックよりも大きなボストンバッグがスルリと入った事も地味に凄い。
「似合っていますよ、勇者様」
「そ、そうか?」
また少しテンションが上がってきてリュックを背負ったまま跳ねたり回っているとルチアにそう言われた。
可愛い子に似合っているって言われるとやっぱ嬉しいけど、ちょっと照れくさいな。




