1,最初から始める 前編
今回からサトウ君と入れ替わりで召喚された勇者視点で進む番外編、スタートです。
「うわっ!!・・・な、何だ、ここは!?」
鍵当番だったから誰よりも早く剣道場に入った瞬間、すっごく眩しいけど、どこか暖かい光に包まれた。
あまりに眩しくて、思わず目を瞑って、それでゆっくり目を開けたら知らない場所。
こんな石でできた部屋、学校には無いはずだけど・・・
それに足元にはゲームで出てくる様な魔法陣もあるし・・・
「ようこそ、勇者様。お持ちしておりました。
どうか。どうか、私達を悪しき魔王からお救い下さい!!」
「へッ?・・・・・・あ!君は、夢の・・・」
何となく聞き覚えのある声がして、声のした方を見ると祈るように膝を着いたローブを着た人達。
その1番手前には他のローブとは違う、真っ白なローブを着た同い年位の可愛い女の子が居た。
その女の子には見覚えがある。
此処最近見る夢に出てくる、会った事どころか見掛けたことすらない、何時も泣いてる女の子。
夢だからか細かい所とかあんまり覚えてないけど、でも夢の中で女の子がずっと助けてって言っていてた事。
そして辛くて苦しくて、でもどうにも出来なくて弱々しく泣く事しかできないって感じの声と、目元を真っ赤にして目が溶けてしまったかの様に大粒の涙を流す顔だけは鮮明に覚えている。
だから間違いなく目の前のローブを着たこの女の子が夢に出て来た女の子と同一人物だって断言できた。
「・・・あぁ、何だ。夢か。
そうだよな、こんな事夢じゃなきゃ起きないよな」
「あれ、田中?」
「はぁ。何で、高橋まで・・・
夢にまでお前が出てくるなんて。
本当最悪な夢だよ」
隣を見ると何故かクラスが違う友達の田中が居た。
何が気に食わないのか、片手で頭を抑えため息を吐きながら何時も通り田中はジロリと俺を睨んでくる。
何時もと違う所はちょこまかと付いて回っている子分の佐藤が一緒じゃない位か。
大体何時も一緒に居るから田中1人だと違和感がある。
「夢じゃありません!!
申し訳ありません、勇者様方。
突然の事で驚かれているでしょう。
ですが、勇者様方のお力が私達にはどうしても必要で、今回お呼びしたのです!!」
立ち上がった女の子が俺達の手を握り、潤んだ上目遣いで見てきた。
その表情から女の子の必死さがハッキリと伝わってくる。
それに手から感じる女の子の手の感触と温かさ、女の子から仄かに香る花の様な香水の香りは間違いなくリアルな物。
これが夢だ何って到底思えない!
「っ!」
「夢・・・じゃない?本当に?」
「はい・・・」
悲しそうに目を瞑り、目尻から1滴の涙を零す女の子。
そんな女の子の姿に、俺も田中もこれが夢じゃ無いとハッキリ分かった。
「ずっと、ずっと、待ってました。
どれだけ、勇者様方が来てださるこの時を待っていた事か・・・」
「勇者って・・・俺達のこと?」
「それに助けてって。魔王から救ってって。そう言ってたけど・・・」
「はい。今、私達の世界は悪しき魔族の王である魔王に支配されかけています」
この世界では1000年に1度、魔王が率いる魔族の軍団が人間の国に攻め入ってくるらしい。
もうすでに俺達が召喚されたこのローズ国以外の国は、魔王に支配されてしまったそうだ。
「私達の国にも魔王の魔の手が刻々と迫っているのです!
今も魔王に支配された他国に脅かされて・・・
このままでは私達人間は滅ぼされてしまう!
この危機を救える最後の希望はこの国に古くから伝わる救世主。
異世界からお呼びした伝説の勇者様だけなのです!!」
そう言って両手で顔を覆い、声を出して泣く女の子。
その手の隙間からは涙が溢れ出していた。
周りのローブ姿の人達も、皆悔しそうに唇を噛み締めている。
その姿からこの国の人達が魔王や魔王に支配された他の国の奴等に苦しめられているのが、嫌になるほどハッキリ分かった。
「その魔王って奴、許せねーな。
安心しろ!!
女の子を泣かせる何って男としてほっとけないからな。
俺達が何とかしてやる!!な、田中!!」
「まぁ、呼ばれたからには仕方ないか。
出来るだけ、やってやるよ」
「本当ですか!!
あぁ、ありがとうございます、勇者様方!!」
俺と田中の言葉を聞いて涙に濡れた顔を輝かせる女の子。
周りの人達の顔も明るくなった。
困ってる人達を助けるのは人として当然の事だけど、ここまで喜んでもらうと悪い気はしないぜ。
それに、魔王を倒す勇者として召喚されるなんって、何かゲームの主人公になった気分だ。
女の子達には悪いけど、この非現実感に少しワクワクしている。
「そうだ。まだ自己紹介していなかったな!
俺は蓮也。高橋 蓮也だ!」
「・・・田中 湊」
「レンヤ様とミナト様ですね。
改めまして、私はこのローズ国の王女、ルチアナ・ジャック・ローズと申します。
ルチアとお呼びください」
「あぁ!よろしくな、ルチア!!」
「はい!」
ふんわりと咲いた花の様に可愛らしく笑うルチア。
ルチアは笑うと更に可愛くなるな。
ルチアと直接会ったのはほんの少し前だけど、夢って言う曖昧になるなものじゃなくて。
こう、ハッキリ生でこの笑顔を見ると、ルチアにはずっと笑っていて欲しいと心の底から思えた。
この笑顔を守る為にも、更にやる気が出て来たぜ!
「そうでした!勇者様方、まずはスキルと魔法を確認しませんか?」
「スキルと魔法?」
スキルに魔法か。
更にゲームっぽくなってきたぜ。
今流行のラノベだとこういう時、主人公にはチートなスキルや魔法が神様ポジションの奴から貰えるんだよな!
それで強い敵をバッサバッサ倒したり、難事件をちょちょいっと簡単に解決したりと大活躍するんだ。
やっぱ勇者として召喚されたからには、俺達にも絶対超凄いチート級のスキルや魔法があるに決まってるよな!!
「はい。
この世界にはスキルと魔法と呼ばれるものがあります。
歴代の勇者様方は皆、強力なスキルや魔法を覚えていると伝わっているのです。
シャル、あれを」
「はい、ルチア様!」
ルチアに呼ばれ、隣のローブを着た奴が勢い良く返事をする。
顔は良く見えないけど、声からして多分俺らと同じ位の男だな。
そいつがどっかから持って来たのは、中が薄っすら青っぽい色をした丸い水晶が付いたリストバンドが2つ乗ったお盆。
そのまま男は俺と田中にお盆ごとリストバンドを差し出してきた。
「どうぞ勇者様、これを。腕に付けて頂くと、スキルと魔法が分かります」
「へー。こんな小さなもので分かるんだな。
ありがとうな!!
あ、えーと。お前の名前は?」
「彼はシャル。私の助手です。
シャル、勇者様方にご挨拶しなさい」
「はい、ルチア様!
ココモ・シャルトリューズです。
シャルとお呼びください。
ルチア様ほどでは有りませんが、頑張って勇者様方のお手伝いをさせていただきます!!」
リストバンドを受け取りながらお盆を差し出す男、シャルに名前を尋ねる。
そうするとシャルはフードを外し、ルチアに返事をした時みたいに元気良く自己紹介してきた。
シャルは見た目は優男って感じだけど、言葉の雰囲気って言うのか、そういうのから熱血っぽさが出ている。
見た目と違って熱い奴なんだろうな。
「・・・そうですね。ダン、此方へ」
「はい。
始めまして、勇者様。ミング・ヴェールダンスです。
よろしくお願いします」
この部屋の出入り口に居た、俺や田中よりも背の高い方の兵士がルチアに呼ばれて来た。
一礼して簡単に自己紹介を済ますと、そのまま一切喋らなくなったダンと呼ばれた兵士。
ダンはかなり無口みたいだな。
「後ほど紹介するつもりでしたが、私共3人で微力ながら勇者様方のサポートをさせて頂きます」
「そっか。じゃあ、改めてこれからよろしくな!!」
「・・・よろしく」
「はい、勇者様方!」
ニッコリ微笑むルチア達に俺と田中は改めてそう言った。
 




