137,体験版はここまで
「本当、最初会った時よりも生意気になりましたね、サトウ。
やはり、魔王と一緒にいたせいですかね?」
「ッ!
・・・ゲホッ・・・ヒュー・・・ヒュー・・・・・・
な”んでユマ”ざんのごとっ!!」
顔や喉を蹴られたからだろう。
何とか出せた俺の声はしわがれた様に潰れ、空気が通るだけでも酷く痛んだ。
普通に声を出したはずなのに、出て来た音は濁点だらけの聞きにくいもの。
それは完全に普段聞きなれた自分の声とは別物だった。
「彼女が聞いていたんですよ」
「昨日、君はセンパイに言ってたよね?
『明日、遅くても明後日には故郷に帰るので』って。
『召喚』の魔法はまだ使えないって君は思ってるはずなのに、何でそんな事言うのか気になってね。
態々調べたんだよ?
依頼書まで改悪して・・・・・・
本当、手間かけさせんじゃねーよ!!」
「ッ!」
怒りに任せ、また俺を何度も蹴ったり踏みつける新人職員。
ヤバッ。
蹴られ過ぎたせいで顔のどこからか血が出て来た。
それを見て新人職員が、スッキリしたと言いたげにケラケラ笑って漸く蹴るのを止める。
魔女達も愉快そうに見てるし。
本当、最悪だ。
その思いとさらに増した恐怖でいっぱいの俺の頭の片隅では、冷静なままの俺が昨日ボスと話していた時の状況を思いだそうとしていた。
・・・・・・・・・そう言えば、昨日ギルドでボスと話している時、近くで新人職員が作業していたな。
あの時か。
あの時の何気ないあれが今回の出来事の切欠だったのか!
まさか新人職員が魔女とグルだったなんって、今の今まで全く気づかなかった。
だから何も気にせず普通にボスに別れの挨拶して、そのせいでルグが襲われ、今もまだ馬車に乗っているかもしれないユマさん達にまで危険が迫っている。
俺のせいで今、ルグ達が酷い目にあってるんだ!!
もう直ぐ帰れるからって、1番油断しちゃいけない所で1番気が緩んでたのは俺だった。
鏡が無いから分からないけど、自分の迂闊さに気づいて表情が歪んだ気がする。
それを見て魔女達が嬉しそうな表情をした気がした。
「まさか魔王がこの国に入り込んでいるとは気づきませんでした。
その上、既にチボリ国に入ってしまっているとは・・・・・・
残念ながら今のままでは、迂闊に手出しは出来ません。
ですが、まぁいいでしょう。今回は見逃します。
魔王は勇者様に倒されてこそ意味がありますから」
「グゥ・・・ゲホッ・・・・・・
ユ、ユマさんは簡単に殺されないよ?
貴女達よりも、これから『召喚』される勇者よりも遥かに強
「口を慎め、サトウ!!」
グッ!」
「そうですね。
あの新しい魔王は生命力だけは無駄に高いですから。
ヒヅル国の研究所での暗殺も失敗しましたし」
やっぱり、ユマさんがこの国に来た事故は魔女達のせいだったんだな!!
魔女が得意げに話した内容で、あのワープ系の事故は研究所に潜入した数少ないヒヅル国人の英勇教信者が起こしたと言う事が分かった。
目的は2つ。
1つはそのまんまユマさんの暗殺。
2つ目はヒヅル国の王様が完成したワープ系の魔法道具をローズ国に輸出するの拒否した為、その研究所の職員の何人かを引き入れる事。
職員達を事故に見せかけローズ国に飛ばし、苦しみ抜いた末に優しく手を差し伸べる。
その恩義で自分達に都合のいいワープ系の魔法道具を作らせるのが目的だった。
その作戦は最悪な事に上手くいってしまった様だ。
癒しの木の森で会った研究員達はティツイアーノさんを女神の様に思っていた。
あの状態の研究員達にトコトン優しく介抱して、タイミングを見計らい魔法道具の研究を頼んだらどうなる?
あの人達は命を助けられた恩義で、自分達がローズ国に飛ばされた最初の最初から魔女達の作戦だとは知らずに間違いなく言う事を聞くだろう。
「それに、前魔王共を殺した毒も効きませんでしたし・・・・・・
本当、害虫並みにしぶといですね」
「何、を・・・ユマさんの両親は病気で・・・」
「確か、サトウの世界ではアレルギーって言うんでしたよね。
私達は遥か昔に『召喚』された勇者様方から伝え聞いてその存在を知っていました。
そして、とある研究の最中発見されたのです。
人為的にアレルギーを起こす方法を!!」
「ッ!!」
今日聞いた中で1番最悪な話だ。
アレルギーの存在が公になっていないこの世界じゃ、アレルギーは誰にも原因が分からない。
見つける事の出来ない、最強の毒に成ってしまう。
どうやったかは分からないけど、実際魔女達は誰にも気づかれずユマさんの両親を重度のアレルギーにして殺したんだ!
ユマさんの両親の暗殺が成功した、その時の事を思い出し気分が乗ってきたんだろう。
その方法を得意げにペラペラと話し出した魔女。
その手には助手から渡されたマツタケに似た形のシンプルな茶色いキノコが握られている。
「このキノコ。
これ単体で食べれば唯の美味しいキノコですが、一緒に食べた物を食べた人のアレルゲンに変える毒を出します。
魔王共はジャガイモとエダマメを良く食べますからね。
簡単に殺せました。
ただ、毒が効かない固体が居た事は迂闊でしたね」
「・・・・・・以外ですね。
ジャックター国にも、貴女達の仲間が居たんですか。
その人も無理矢理ゾンビにして、そのキノコを使わせたんですか!!」
「さぁ?
私達、英勇教の教えを守る仲間は世界中に居るとだけ言っておきましょう」
「そんなの・・・
そんなの、仲間でもなんでもない!!!」
「はぁ。
姫様の暇潰し代りに、馬鹿な猿でも理解できる様説明してやって、今までの非礼を詫びさせようと喋らせてやったけど。
姫様が不愉快な思いをする事になるなら、失敗だったわ」
そう言ってため息を吐きながら、片耳を下にした俺の頭をグリグリと石の床に押し付ける様に踏みつける新人職員。
全員体重を掛けてる様で、重いし痛い。
それにさっきよりも血が多く出て来てる気がする。
血を流し過ぎたのか、頭を踏みつけられてるからか。
気持ち悪い位グワングワンしてきた。
髪からポタポタ落ちる水と混ざったのかな?
うっすら目を開けた歪んだ視界の先には、俺が流した血で出来たらしい小さな赤い水溜まりが見える。
・・・・・・人間って、どの位血が外に出たら死ぬんだっけ?
確認出来ないけど、水溜まりが出来てるならもう何時死んでも可笑しくない位出ちゃたのかな?
「儀式魔法の準備が整ったの。
私達の言葉が理解できるって言うなら、いい加減にキャンキャン吠えるの止めてもらえる?
分かったら、そろそろ黙れよ」
「グッ・・・ガァ!!」
俺から生まれた血の水溜まりなんか気にせず、新人職員は今までで1番強く俺の喉と腹を1発ずつ蹴って来た。
蹴りが入った所が悪かったのか、それとも魔法か魔法道具を使われたのか。
何か言おうとしても、新人職員の言う通り俺の声は全く出なくなった。
「さて、話している間に準備が整いました。
最後位ちゃんと役立ってくださいよ、サトウ」
「・・・ゲホッ・・・ゲホッ・・・・・・」
何をする気だ!
と、言いたいのに咳き込む事しかできず、俺はただ魔女を涙が溜まった目で睨む様に見上げるだけだった。
「折角ですから最後に教えてあげましょう。
勇者様を呼ぶには生贄が必要。
光栄に思いなさい、サトウ。
貴方はこれから行なう勇者様の『召喚』の生贄になるんです!!」
「ッ!!」
生贄って。
生贄が必要な『召喚』で勇者なんか呼べるか!!
この世界の1種族としての悪魔じゃなく、正真正銘物語の中のヤバイ悪魔でも『召喚』する気かよ!
俺を生け捕りにしたのも、ぺラぺラ秘密を喋ったのも。
俺を生贄として殺すからだったんだな!!!
「本当は直ぐにでも『召喚』の魔法は使えたんです。
ですが、私達が望む魔法やスキルをこれから呼ぶ勇者様が考えてくださるよう、コンタクトを取るのにこんなに時間が掛かってしまいました。
ですが、もう直ぐ理想の勇者様が来てくださいます!!」
その為の3ヶ月か。
頬を赤らめ嬉々としてそう言う魔女。
その魔女の言葉に周りのローブ集団が盛大に盛り上がる。
それは勝利を確信した獣の雄叫びにも聞こえた。
冷めない興奮からか、ローブ集団が魔法を発動させる為に魔法陣を杖で叩く音が激しい。
そして最後に魔女が手に持った杖で地面を叩くと、俺の真下の地面が魔法陣の形に青白く光り出した。
本当に3ヶ月経たなくても『召喚』の魔法が使えたんだな。
「さようなら、サトウ。
最後の最後に役立ってくれた事、感謝しますよ」
気味の悪いニヤニヤとした笑顔を浮かべ魔女がそう言う。
クソッ!
本当にこれまでなのか?
俺は本当に此処で死ぬのか?
ルグとの約束も、ユマさんとの約束も果たしてないのにッ!!
だけど、魔方陣が光ってから嫌に重くなった体は蹴られ過ぎて弱った事もあって、もう指先1つ動かす事が出来ない。
このまま俺はこいつ等に生贄にされて死んでしまうんだ。
もう、何もできないんだと、俺は覚悟を決め目を瞑った。
瞼の裏に写るのは何ヶ月も前に見た、怒ったナトの顔。
・・・・・・あぁ、そうか。
そうだよな。
俺の1番近い、『同じ種族、同じ国籍、同じ性別、同じ年齢』の奴はお前だよな、ナト。
気づかなかった。
気づきたくなかった!!
ナト、お前には、魔女達に利用されて辛い思い何ってして欲しくない。
そう思っても、もう、無理だ。
もう、俺に出来る事何って何も無いんだ。
ごめん、ナト。
・・・・・・・・・いや、ダメだ。
まだ。
まだ、諦めちゃダメだ!!
脳裏に鮮明に写し出されたナトやルグやユマさんの姿に、俺は残った力を振り絞って体を動かした。
ダメなのも、無理なのも、分かってる!
それでも、最後の最後まで抵抗してやる!!
「・・・・・・グッ・・・・・あぁあああ!!!」
「大人しくしなさい!」
「あぁあああああっ!!!」
更に重くなった。
体がペッチャンコになりそうな程、痛い位の重さ。
何とか最後の力を振り絞って暴れて魔法陣からの脱出を試みたけど、それも、もう無理そうだ。
魔方陣の光が強くなって、体がバラバラになりながらどこかに吸い込まれる様な感覚がする。
本当の本当にここまでなんだな・・・・・・・・・
ごめん。
ごめんな、ナト。
ごめん、約束破って。
謝る事しか出来なくて、ごめん、ルグ、ユマさん。
2人は絶対に生きて。
生きて、魔女達には負けないで!!
*****
「うわっ!!・・・な、何だ、ここは!?」
「ようこそ、勇者様。お待ちしておりました。
どうか。
どうか、私達を悪しき魔王からお救い下さい!!」
サンプル・ヒーロー 第1章 完
この話でサンプル・ヒーロー 第1章は完結と言う事で、約3年かけ何とか一区切りつきました。
完全作者の趣味で書いている本作。
それでも、読んで下さる方が居るだけで感謝の気持ちでいっぱいです。
ここまでお付き合い下さった読者の皆様に心からお礼申し上げます。
本当に、ありがとうございます。
現在、このサンプル・ヒーローは3章構成の話で考えています。
この作品の大まかな設定だけは学生の頃からずっと考えていました。
その為、サンプル・ヒーローは作者にとってとても思い出深い作品。
だからこそ、どんなに時間をかけても最初に考えた終わりまで完成させるのが目標です。
全章完結までにはかなり時間は掛かりますが、もしよろしければ、最後までお付き合い願います。
2章はもう1度プロットの細かい所を考え直してから、何話か書き溜めてから投稿します。
1章を書いてプロットをもっと考えないと痛感しました。
そのため、投稿までには時間が掛かりますが、心機一転、来年からも少しずつ投稿していく予定です。
2章以降も、どうぞよろしくお願いします。
それでは、長々としたあとがきまでお付き合いくださり、本当にありがとうございました。




