134,お別れ 中編
「よし、出来た!
ルグ、つまみ食いしたんだから、運ぶの手伝えよ?」
「はーい」
メイン以外の完成して盛りつけた料理をチョコチョコつまみ食いしていたルグと一緒に居間に運んだ。
テーブルの真ん中にはメインの鉄板焼きをそのまま置いて、その周りに2皿に分けたから揚げ2種とサラダを置く。
個別に盛った炊き込みご飯、スープ、スパニッシュオムレツ、ゼリーは7人分。
取り皿とナイフ、フォーク、スプーンは6人分其々の席の前へ。
ジャックは体の柔らかい部分を伸ばして直接掴んで食べるから食器は要らないし、スズメ用には作った料理の食材から少しずつ食べれる物を深めの大きなお皿にチョコチョコ盛った。
スズメ用は生米と解した川魚の身、サラダに使った種と木の実、細かくしたスープのソーセージ、生のベリー類。
卵や鶏肉、野菜、キノコはあまり好きじゃないみたいだけど、何時もより量は多めにした。
我ながら中々いい出来だ。
「後はユマさん達呼んで、スズメ連れてきて・・・」
「ほう、中々美味しそうだな」
「ありがとうございます。
気に入って頂けるといいの・・・・・・
えーと・・・」
中庭の方からどこか聞き覚えのある声にそう言われ、振り返るとそこには見馴れない魔族が2人居た。
1人は、風呂上りらしい湿った髪と羽を今もタオルでポフポフと拭いている魔族の姿のルトさん。
もう1人は、額から2本の角を生やした、絶対見た事ない魔女並みの美少女だ。
魔族の姿に戻ったルトさんは顔以外、人間の時の姿と大分変わっている。
簡単に現すなら、人間の子供サイズの人面鳥。
上半身はスーッと長く上に伸び、人間っぽい形をしてなくもない。
けど、首から下はほぼ完全に青っぽさがある黄緑色の鳥で、想像していたより人間の部分が少ない。
擬人化された可愛い系のハーピーって感じじゃなくて、どちらかと言うと凶悪なモンスターっぽさがある。
そしてルトさんと一緒に居る俺に声を掛けて来た女の子。
背はユマさんより少し低い位。
勝気な紫色の瞳はゾンビ達の黒く濁った色じゃなく、アヤメやキキョウの様な鮮やかな色をしている。
白っぽい長い髪は細くふわっとしていて綿の様。
そして人間との最大の違いは、見える範囲全体を黒っぽい石の、大きいな鱗が覆っている事だろう。
顔にはあんまり無いけど、目の下から頬にかけて涙の後みたいな刺青の様に少しだけ鱗が生えていた。
少し離れて見たら蜥蜴人間や蛇人間って言われそうな姿だ。
消去法でこの女の子がコロナさんだと思うけど、あの鎧を着た姿とのギャップが激しい。
「・・・もしかして、ルトさんとコロナさん、ですか?」
「そうそう。
サトウは鎧を着てないコロナの姿と魔族本来の姿のルト姉ちゃん、始めて見るっけ?」
「うん、初めてだな。
コロナさんの声ならユマさんと初めて会った時に通信鏡越しに聞こえていたけど・・・女の子だたんだね。
正直言うとさっきまで男だと思ってた・・・・・・」
一緒に準備していたルグにそう言われ俺は頷いた。
今のコロナさんとあの黒い鎧は50cm位の差がある。
声に関しては鎧越しだったから低く聞こえたんだと思うけど、大の大人の男よりも大きいあの鎧をどうやったらこんな小さいコロナさんは動かしていたんだ。
循環型のオーガンを持っていて鎧を着ている間巨大化してるのか?
それとも、鎧がロボットみたいになっていて中で操縦しているとか?
どうやって動かしてるか気になるけど、とりあえずあんな大男がユマさんと同じ部屋って色々問題じゃないかと少し心配していたから、コロナさんが女の子で少しホッとした。
「アレは父の形見だ。
父は人前に出る時は何時もあの鎧を着ていたからな。
父がまだ生きていると人間共を誤魔化す為に、あの鎧を着てヒヅル国に行ったんだ。
足りない身長の分は魔法道具で動かしている」
「そう、なんですか・・・」
一時的にだけど、男だと勘違いしていた俺に特に怒った様子のないコロナさんがそう言う。
寧ろしてやったりと得意げだ。
それは亡くなったお父さんのフリが上手くいったからなんだろうな。
・・・あぁ、そっか。
ユマさんと同い年のコロナさんがホットカルーア国の女王をやっているって事は、コロナさんのお父さんも・・・・・・
鎧の事を今日会ったばかりの俺が聞いちゃいけないな。
そう思っていたら、コロナさんはさらっと父親の死因を言ってきた。
「ユマ様のお父上、ランド様がお亡くなりになった際、父は黄泉でもランド様のお供が出来るよう自ら命を絶った。
ホットカルーア国の正式な世継ぎは既に生まれていたからな。
国は問題ないと判断しての事だろう」
「え、えぇ・・・」
誇らしげに言うコロナさんに正直ドン引いた。
そんな理由で後追い自殺って・・・・・・
え、この世界って今でも殉死とかってあるの?
推奨してるの?
そこは自分そっくりな像をお墓に一緒に入れる位に留めよう?
そう思ってルグ達を見たらたら、俺と同じ様に少し引き気味なルグと、いつの間にか人の姿に変わったルトさんが目に入った。
どうやら、こんな事して自慢できるのはコロナさんの家だけの事らしい。
「オレ達もコロナの父親の訃報を聞いた時は驚いたな。
その理由がまた・・・・・・」
「コープスリヴァイブ家のジャックター国王家への忠義心は度を過ぎていますから・・・・・・
普通はあんな事しませんよ」
「何を言う!
お前達の忠義心が足りないだけだろう!?」
一緒に聞いていたルグとルトさんが苦虫を何千匹も噛み潰した様な顔で言う。
他の眷属国の王家の人がこんな顔するって、どんだけ重い忠義心なんだよ。
俺から見たらたら病んでるか依存レベルの忠義心をコロナさんから向けられて、ユマさんは大丈夫なんだろうか?
重すぎて潰れないか心配だ。
「・・・前も言ったけどさ。
もし私が死んで、コロナちゃんがお父さんと同じ様に後追って来たら、私、あの世でコロナちゃんの事大っ嫌いになるからね?」
「ユ、ユマ様ぁあああああああ!!」
「あ。ユマさん、ジャック、ハルさん」
いつの間にか2階に居たらしいユマさんと相変わらず人の姿のハルさんが玄関ホール側の入り口から来ていた。
何時から聞いていたんだろうか。
居間に入って早々ユマさんはコロナさんに心底怒った様にそう言った。
そのユマさんの様子にコロナさんが顔を真っ青にして悲痛な声でユマさんの名前を呼ぶ。
コロナさんはユマさんに嫌われる事をリアルに想像したんだろうか。
崩れ落ちて滝の様な涙を流している。
何か、ユマさんならコロナさんを何とか操作できそうだな。
でも、同い年の同性の幼馴染がこんなんじゃ、ユマさんも辛いんじゃないかな?
ユマさんからしたら眷属国の女王としてじゃなく、ルグみたいに対等に接してくれる友達としての関係がいいと思ってるはず。
じゃ無きゃ、あんな寂しそうか顔はしないと思う。
「・・・とりあえず、飯にしよう?
折角、サトウが温かい飯作ってくれたのに、冷めたら美味しくないだろ?」
「そうだね。
サトウ君のご飯は冷めても美味しいけど、やっぱり温かい物は温かい内に食べないと!」
「そう思って食べてくれるなら作ったかいがあるよ。
ありがとう。
じゃあ、俺、スズメ連れてくるな。
スズメー、ご飯だよー」
つまみ食いしていたのにグーグー音を発てる腹を押さえながらそう言うルグ。
それに機嫌が良くなったユマさんが同意し、俺は外の止まり木に居るスズメを連れてきた。
相変わらず触らせてくれないけど、腕に止まってくれるようにはなったスズメ。
この2ヶ月近くで少しは仲良くなれたよな?
「お前にもずっと世話になってたんだよな。
ありがとうな、スズメ」
この屋敷で平和に暮らせたのはスズメのお陰だ。
その事で礼を言うと、スズメは小さく鳴いた。
鳥の表情何って分からないから今スズメがどう思ってるから分からない。
でも、どこか誇らしげな雰囲気が出ている気がする。
「さて、全員揃ったし食べようか?」
「もう、頂いてるぞー」
「・・・相変わらず早いな、ルグ」
既に料理に手を伸ばしてるルグ。
こういう時って、まず何か1言あってからじゃないのか?
まぁ、いいけど。
何時も通り大目に作ったけど、この分だと全部ルグに食べられそうな勢いだ。
自分の分を取りながら俺はチラッとハルさん達を見た。
何時も食べてるルグとユマさんと違い、ハルさん、ルトさん、コロナさんは今日初めて俺が作った物を食べるんだ。
この世界の料理に近い味の物を作ったし、ルグに味見して貰って大丈夫だって言われても、やっぱり3人の反応が気になる。
口に合うと良いんだけど・・・・・・
3人共黙々食べてるから、美味しいって思ってくれているか、それとも不味いと思っているのか全く分からない。
「・・・美味しい」
「驚いたな!
まさかローズ国でリジェーラに近い料理が食べれる何って。
この国ではマリンマッシュは手に入らないだろう?
どのキノコを使ってこの味を出したんだい?」
「そもそも、この鉄板焼き以外キノコは使ってないわよね?
それなのにこんなに美味しい何って・・・
エトニック君が通信鏡で言ってた時は大袈裟だと思ってたけど、本当に異世界の調理技術は凄いわね」
「あ、ありがとうございます」
無言で炊き込みご飯を食べ終えたハルさんと、スープを食べ終えたルトさんが美味しいといってくれた。
良かった、口に合って。
不味いと思われてなくて本当に安心した。
コロナさんにも、
「悔しいけど、味は本当に良いな」
と、とりあえずいい評価は貰えたみたいだ。
「ただ、辛さが足りないな。
ユマ様に合わせたのなら仕方がないが・・・・・」
「あ、そうだった。
コロナさん、この3つ使ってください。
火炎苺を使った辛味調味料です。
右から順に火炎苺のみの一味。
他の薬味や香辛料と混ぜた七味。
ごま油を使って作ったラー油です。
お好みでかけてください」
「ほう。これだけでも中々美味しいな・・・・・・
うーん、少し少ないか。
・・・うん、これ位が丁度いい。
これで更に美味くなったな!」
大匙山盛り位の火炎苺一味を掛けたコロナさん。
普通の一味でもあんなにかける事って普通ないぞ。
それが普通の唐辛子よりも辛い火炎苺一味をあんなに・・・
コロナさんの舌や胃ってどうなってるの!?
「うわぁ・・・・・・
相変わらず、えげつない位の辛党だな・・・
よくそんな物食べれるよ」
「お前が甘党過ぎるんだ、グランマルニ。
私からしたらあんな甘い物を好むお前の気が知れん!」
そう言って軽い口喧嘩を始めるルグとコロナさん。
見た感じ仲が悪いって訳じゃないけど、ルグとコロナさんは色々正反対みたいだ。
甘党と超辛党。
ゆるっとしたフレンドリーな性格と真面目で忠義心が高い性格。
この幼馴染は間にクッションみたいにユマさんが入ってバランスを取ってるんじゃないかな?
「また始まった。
コロナちゃんとルグ君って良く喧嘩するんだよね」
「喧嘩する程仲がいいってやつだね」
「「そんなんじゃない!」」
「・・・やっぱり、仲いいよ」
異口同音に否定してきたルグとコロナさん。
バッチリ同じタイミングで同じ事言うんだ。
仲がいい証拠じゃないか。
普段喧嘩っ早くは無いルグがコロナさんに対しては良く食って掛かっている。
コロナさんとはちょっとした喧嘩でも出来る位に何でも言い合える仲。
それだけ信頼してる仲って事なんだろうな。
やっぱり喧嘩する程仲がいい関係なんだろう。
最後の最後にルグの普段見れない一面を知れたな。
「・・・・・・本当に、仲いいよ、2人は・・・」
「ユマさん?」
「何でもないよ、サトウ君。
さ、ルグ君が喧嘩に夢中になってる間に、食べちゃおう!
じゃないと全部ルグ君に全部食べられちゃうよ!!
ん~、やっぱこのオムレツ美味しいね。
トマトのソースが良く合う!」
「それもそうだね。
エトニック君ー。残りは貰うねー。
サトウ君、おかわり貰えるかな?」
「私もこのスープをお願いします」
「はい、直ぐ持ってきますね」
「ちょ!待って!!オレもまだ食べる!!
ジャックもそんなにから揚げ食べるなああああ!!」
一瞬、ユマさんがルグとコロナさんを見て寂しそうな顔をした気がした。
でも直ぐに笑顔でそう言ってスパニッシュオムレツを口に入れる。
あの表情はきっと俺の気のせいだな。




