131,最後の依頼 中編
ボスに渡された地図に書かれた1番遠回りな凸凹している割に余り振動を感じない山道を進み約2時間半。
一切休まず細い道でも新幹線より少し遅い位の猛スピードで進むヤドカリネズミが引く馬車でもそれだけ掛かった。
俺達が通ってきた道の半分以上速く着く1番時間が掛からない道は、今各国の王様が通ってるから一般人は通れないらしい。
「えっと、ここが乗り換え所ですね。
カシスさん、俺職員さんに声掛けてきます」
「お願いね、サトウ君」
デイスカバリー山脈の中腹付近にある1つの小さなログハウスと2つの大き目のログハウスが集まった場所が乗り換え所だ。
小さなログハウスは入国の審査や荷物検査、書類を書く為の施設で、大きなログハウスの1つはチボリ国から来た人や行く人が休む休憩所。
もう1つは輸出品の保管庫だ。
その審査所の近くに馬車を止めて貰い、馬車を降りた俺は事前にボスに指示された通り審査所に居た職員さんに声を掛けた。
「すみません。
ローズ国からの荷物を持ってきました」
「えっと、臨時の冒険者の子だよね?
荷物の確認するからもう少し近くに馬車を寄せて貰える?」
「はい」
馬車に戻りカシスさんに職員さんの指示を伝える。
俺達が持ってきた荷物の確認は直ぐに終わり、荷物は職員さんと一緒に俺が倉庫に運んだ。
その間休まず御者をしてくれたカシスさんには休んでいて貰う。
「じゃあ、持って行く荷物の確認をしますね。
ミルクラクダのミルク5箱、ミズサボテンの水1箱、塩2箱、砂漠鳥の卵3箱。
それと、この×印がしてある箱にはお菓子が入ってるみたいですね」
「へぇ、お菓子ね・・・・・・」
ボスと同じ様に声に出して荷物を確認していく。
職員さんが運んでくれたから間違いないと思うけど、もう1度荷馬車の窓から御者席に居るカシスさんに聞こえる様に確認したんだ。
確認していて俺がお菓子と言った瞬間、カシスさんが反応した。
「カシスさんはお菓子好きなんですか?」
「うん、大好きよ。
目の前に有ったら直ぐ食べちゃう位、アタシの家族もみーんな、大好きなの」
「そうなんですか」
嬉しそうに笑うカシスさん。
やっぱり女性って甘いものに目がないのかな?
「すまない。これはローズ国行きの馬車か?」
「あ、はい。そうです」
「なら、乗せて貰うけど、大丈夫か?」
「はい。荷物の確認は終わったので大丈夫です。
出発は10分後なので少々お待ちください」
ちゃんとある事をカシスさんと再確認して、確認の為に開けた木箱の蓋を戻していると俺の後ろ、荷馬車の入り口から声を掛けられた。
振り返ると、そこには大きめの杖を持った浅黒い肌の20代後半位の男性。
肌や髪の色や顔立ちがロアさんに似てるから、多分チボリ国の人だと思う。
そのチボリ国の男性に10分後に出発する事を伝え、俺は入れ違いに荷馬車から出た。
「ローズ国行きの馬車、後10分で出発します!
お乗りの方は此方までお願いします!!」
そのまま休憩所の入り口から中に居た人達に声を掛けた。
俺の声を聞いて何人かの人が動き出しす。
それをチラッと確認して俺は馬車に戻った。
他に馬車は着てないし、迷う事は無いよな?
「あと少しで時間だな。
もう直ぐ出発します!
お忘れ物が無いか確認してください!!」
休憩所近くの巨大花時計で確認し、荷馬車の窓から中のお客さんに声をかける。
チボリ国の男性の他に乗客は8人。
まずは多分ヒヅル国の人だと思う、着物を着た家族。
杖をついたお爺さんと長い刀を横に居置いた2、30代位の男性。
そして小学生位の男の子の3人。
次はマリブサーフ列島国人らしい親子。
日焼けした大柄でもっさりした髭を生やした父親と、ハイビスカスみたいな形のピンク色の花の髪飾りをした俺と同い年か少し上位の女の子。
その次は魔族の夫婦。
お揃いのデザインの変化石の指輪をした濃い青い髪の背の高い男性と、水色っぽさのある黄緑色の髪の女性。
男性の方は眼鏡を掛けた小学校の先生っぽさがある穏やかそうな人。
女性の方はゆったりした服からでも分かる位つい目が行ってしまう程の胸の大きな、おっとりした雰囲気の人だ。
もしかしてこの2人が『ハルさん』と『ルトさん』?
でも、2人だけだし、『コロナちゃん』って呼ばれる様なルグとユマさんと同い年の女の子は一緒じゃない。
多分、たまたま偶然同じ日にローズ国に来る用があったルグ達とは関係ない魔族なんだろう。
そして最後の乗客。
この人が1番謎だ。
優に2mを超えた全身を真っ黒な鎧で包んだ顔も性別も一切分からない乗客。
見た目だけならゲームの黒騎士みたいで、極々普通の村人の服装な他の乗客から浮きまくっている。
もしかして、世界を旅する凄腕の冒険者なのかな?
「問題・・・無いみたいですね。
じゃあ、出発しましょうか、カシスさん」
「うん。早く行こうか!」
待てと乗客の誰からも言われないし、窓から見ても何か無くて焦っている様子もない。
乗客の方は問題なしっと。
それが分かり、俺はカシスさんに出発するように言った。
カシスさんはどこか行きより楽しそうで、早く出発したそうにソワソワしている。
実際出発してからはドンドンカシスさんの機嫌が良くなっている様な気がするけど・・・・・
気のせいじゃないな。
本当に機嫌がいいようで、走り出してからそんなに経っていな内からとっても良い笑顔で小さく歌を口ずさみ始める程だ。
「・・・あの、カシスさん。行きと道違いません?」
「大丈夫。この道であってるよ」
カシスさんはさらっとそう言うけど、明らかに行きの道と違う。
今にも崩れそう吊橋なんって絶対通らなかった。
そうは思ってもヤドカリネズミを操ってるのはカシスさんで、俺じゃこの猛スピードで走るヤドカリネズミを止める事すらできない。
俺はただ、不安な思いを抱えたままカシスさんに従う事しかできなかった。
「カシスさん!!本当に大丈夫なんですか!?
明らかに山の奥の方に向かってる!!」
「えぇ、大丈夫よ。ほら、着いた」
カシスさんが着いたと言ったのは、指示されたローズ国のギルド前じゃない。
何の変哲も無い山の中。
周りは木ばっかで停留所も家も何一つ人工物が見当たらない。
そんな山のど真ん中で何時から居たのか、木の後ろから武装した年齢がバラバラの女性達が馬車を囲んできた。
明らかに雰囲気や見た目が盗賊とか山賊そのもの。
間違いなくこの人達が掲示板の女盗賊団だ!!
「これって・・・」
「大人しく言う事聞いてくれるよね、サトウ君?」
「これ、俺のナイフ・・・・・・
カシスさん、貴女やっぱり盗賊だったんですね」
隣に座るカシスさんが俺の首にナイフを突きつけてそう言う。
『環境適応S』が精神的に働いてるのか、ナイフを突きつけられ焦りまくる内心とは裏腹に、俺は静かにカシスさんに声を掛けた。
自分の声とは思えない程冷静な声を聞いて少しだけ落ち着いた気がする。
そして自分の声を聞いて思い出したのは、ギルドの前でカシスさんに会った時の事。
カシスさんは俺の目を一切見ず、ずっと俺の鞄ばっかり見ていた。
急に抱きついてきた時も俺の腰のポシェットに手を伸ばしている気がして慌てて離れたけど、離れるのが遅くてナイフを奪われていたらしい。
最初から怪しいとは思っていたけどボスは何も言ってこないし、初めてルグもユマさんも居ない依頼だから俺が不安の余り疑い過ぎてるのかと思っていた。
でも、違う。
今更だけど、あの時の俺は疑い過ぎ何かじゃなかった。
あの時思った通り、やっぱりカシスさんはただの冒険者じゃなかったんだ。
こんな大きく強い盗賊団の一員だったのは予想してなかったけど、一瞬疑った通りの盗賊だったんだ。
あぁ、もう!!
何やってるんだ俺は!
ボスが居る内にもっと自分に素直になって追求すべきだったんだ!!
そう少し前の自分に怒鳴りたくなる程後悔しても、もう何もかもが遅すぎる。
横目で見ると、自分の思惑通りいって本性を現したカシスさんが妖艶に微笑んでいた。
「フフ。いいナイフだから貰っちゃった」
「俺はあげた覚えはありえませんよ」
「こんな美女と一緒に仕事ができたんだもの。
当然そのほ・う・しゅ・う。
さぁ、大人しく荷馬車の方に移動してね。
アンタ達、乗客は1人も降ろすんじゃないよ!!」
「はい、お頭!!」
まぁ、理由はともあれ、美人に抱きつかれるって言う貴重な体験は出来たのは確かだよな。
でもその報酬にしてはこの状況とナイフを合わせても持って行き過ぎだと思う。
それと驚いた事に、カシスさんは盗賊団の下っ端じゃなくボスだったらしい。
何でボス自ら動いてるんだよ。
そう聞きたいけど、既に何か言ったらその場で刺されそうな雰囲気になっているから無理だろうな。
俺も乗客も大人しく馬車の中の一角に集められ腕を縛られた。
「さて、荷物をアジトに運ぶのもこいつ等を殺すのも後にして・・・・・・
まずはお菓子を食べましょう!!」
「やったー!!」
「流石、お頭!!」
そう言って×印の木箱だけを荷馬車から降ろす盗賊団員達。
そして木箱を壊し、中のラッピングされたクッキーを貪り出した。
本人が言ってたけど本当に盗賊団全員お菓子には目が無く、1人残らず直ぐ食べたな。
殺されたり、他の荷物を奪われる前にクッキーを食べだしたのはありがたい。
「ん~!美味しい!!」
「本当、今まで奪った菓子の中でも1番美味いですよ!!」
「本当、クズの王族どもには勿体無い物だよ!!」
「アタシ達に食べられてこのお菓子も喜んでるわね!!」
荷馬車の窓から見えるお菓子を食べる盗賊団の風景は、唯の女子会にしか見えない。
でも、集まってるのは危険な盗賊団で食べてるのは盗難品。
見た目とやっている事のギャップが激しい。
そんなキャッキャとお菓子を食べていた盗賊団は、5分もしない内に1人残らず眠ってしまった。
このまま最低でも1時間は起きないはず。




