129,キノコ狩り 6本目
「じゃあ、後お願いします」
「おう、任せておけ!」
歩キノコの事は冒険者達に任せ、俺達は馬車の停留所に向かった。
停留所の隣に生えた時計で次に来る馬車の時間を確認すると、帰りの馬車はついさっき出てしまっていたらしい。
この世界の時計は時間によって色が変わる花の様な形の魔法道具で、『言語翻訳・通訳』のスキルで映画の字幕みたいに時計の下に見えるデジタル時計を見ないと俺はこの世界の時間が分からないんだ。
停留所に書かれた時刻表も微妙な色の変化で書かれていて、『言語翻訳・通訳』の字幕が無いと理解できない。
字幕のデジタル時計によると、あと1時間半以上も待たないといけないみたいだ。
だから馬車が来るまでもう少し、食用キノコを採る事にした。
依頼用のは勿論、自分達で食べる用のも採っておく。
基本的には調味料や味の素系のキノコを採り、料理系のキノコは依頼用に回した。
料理系だと味が完成している分、調理が逆に大変なんだよ。
俺からしたら調味料系のキノコの方が使いやすいし、それに『クリエイト』でルーを出すよりこっちの方が栄養面ではいい。
1度採れば後で『プチヴァイラス』で出せるからお得だしな。
なにより、料理系のキノコはルグとユマさんが沢山採ってるから十分。
ルグとユマさんの楽しそうな姿を見るに、今晩はキノコ尽くしになりそうだ。
「ぎゃあああああああああああああああああ!!!」
「な、何だ!!」
「あ、あの冒険者の人達に何か・・・・・・」
どの位、キノコを採っていたか分からない。
でも突然森の奥から悲鳴が木霊してきた。
悲鳴を上げる位、歩キノコの数を減らすのが大変なのだろうか?
やっぱり、歩キノコを倒すのは大変なんだな。
あの時出合ったのが比較的安全なオレンジ歩キノコでよかった。
じゃなかったら、今頃俺達キノコの毒で死んでいたかも知れない。
キノコの毒って解毒薬で治るかな?
胞子の場合、万能薬の方がいいのか?
どっちもカラドリウスの依頼の後、グラススライムを倒して補充したから大丈夫だと思うけど、万能薬は数が少ないんだよな。
俺の花なり病の事もあり、万能薬をメインに『ドロップ』するよう願い過ぎたせいで『物欲センサー』が発動したんだ。
1番多く手に入ったのは1番必要なかった睡眠薬。
雑貨屋工房でかなりの量を買って貰ったけど、まだまだあって殆ど屋敷の食料庫に他の『ドロップ』アイテムと一緒に置いてある。
けど、鞄にも10本も入ってるんだよ。
そんな事を考えていると、森の奥から1番最初に会ったベテラン冒険者とその仲間達が真っ青な顔で飛び出してきた。
「ど、ど、ど、どうしたんですか!?
急に・・・ビックリしましたよ!!」
「お、お前達!まだ帰っていなかったのか!?」
「はい。馬車がまだ来ないので。
たぶん・・・後、40分位で来ますね」
「なら、丁度いい。
お前達にキノコの事で1つ聞きたい事がある」
「聞きたい事?」
背伸びして停留所の方を見ながら答えるユマさんの言葉を聞き、息を整えたベテラン冒険者がそう言って来る。
その目は真剣そのもので、歩キノコ退治でよっぽどの事が起きたのが分かった。
「俺達に分かる事でしたら・・・・・・
えっと、何でしょうか?」
「その、だな。
地面や木の中にキノコの本体はあるって坊主言ってただろ?
生き物に取り付くキノコも居るのか?」
「居ますね。
冬虫夏草って言う虫の幼虫に寄生するキノコです」
実物は見た事無いけど、漢方薬の材料として有名だから名前だけは知っている冬虫夏草。
昔の人が冬は虫だけど夏になると草になるって思って名づけられたキノコだ。
虫草菌という菌が幼虫に寄生して、その幼虫の中身を菌が食べて外側だけ寄生され死んだ虫のまま子実体を出す。
ガの仲間の幼虫に寄生するやつが有名だと思うけど、今も新種が沢山発見されていてセミやトンボの幼虫に寄生しているキノコも居るらしい。
漢方だとガの仲間の幼虫に寄生したキノコだけを冬虫夏草と言って薬の材料にするそうだ。
他の幼虫に寄生したキノコが使えるのかは知らないけど。
「・・・動物や人間に取り付くキノコは居るのか?」
「俺は聞いたことないですね・・・・・・
え、ま、まさか・・・あったん、ですか?
動物や、人に寄生した、キノコ・・・・・・」
「あぁ」
静かに頷く冒険者達。
あの悲鳴はキノコに寄生された死体を発見したから上がった声だったんだな。
オノルの森で行方不明者が出るのって、その為だったのか・・・・・・
俺の世界だとそんなキノコ聞いた事無いけど、この世界なら動物に寄生するキノコもありえるだろう。
俺達、そのキノコの胞子を吸ってないよな!?
「人面キノコって言う歩キノコがいる。
そいつの体の模様はこの森で行方が分からなくなった奴の顔そっくりなんだ。
その理由が、あんな・・・・・・」
「行方不明になった奴がキノコになるなんって冗談で言われていたのに、本当だったんだな。
あの死体は本当に酷かった・・・
1年前に消えて、それからずっと・・・・・・」
「もしかして・・・
歩キノコが攻撃されて胞子を出すのってその為なの・・・・・・」
ユマさんの呟きに、辺りが水を打った様に静かになる。
子実体にぶつかって来たり攻撃してくるのは生き物だけ。
だから子実体に何かが攻撃してきたら胞子を出して、その生き物に寄生するキノコが居るのかも知れない。
キノコに体を侵されて死ぬ。
想像しただけで恐ろしい。
実物何って絶対見れないよ!
「・・・・・・一端ワシ等も帰るぞ。
あの歩キノコは今まで考えられていた以上に危険すぎる。
今の装備じゃワシ等まで取り付かれちまう」
「今動いてる人面キノコは粗方片付けたけど、歩キノコの危険度は今回の事でかなり跳ね上がった。
君達も気をつけて帰るんだよ?」
「は、はい!」
そう言って森の外に向かう冒険者達。
話している間、冒険者達の顔色は一切良くならなかった。
寧ろ悪くなる一方。
本当、どんな死体が発見されたんだ・・・・・・
「・・・・・・俺達も大人しく馬車を待っているか」
「「賛成!!」」
寄生されてキノコ人間になって死ぬのはごめんだ。
俺達は今の話でもうキノコを採る気になれず、大人しく残りの時間を馬車の停留所で待つ事にした。
ユマさんの迎えが来るまであと1週間を切った。
その間にもう1度オノルの森に来る事は無いだろう。
でも、2度とこの世界のキノコの本体を見つけようなんて恐ろしい事実が待っている事、絶対の絶対にしないからな!!




