128,キノコ狩り 5本目
「『プチアースウェーブ』!!」
焚き火や昼飯を片付け、『プチアースウェーブ』で歩キノコの紐状の柄を切れない様に掘り起こしながら森の奥に進む。
勿論、道中の食用キノコを採るのも忘れない。
さっきもイチゴ味のマシュマロみたいな味と食感の蛍光グリーンのキノコを採ったばかりだ。
この世界のキノコには料理だけじゃなくお菓子味のキノコもあるらしい。
「結構歩いた気がしてたけど、そんなに進んでいないね」
「まぁ、寄り道の方が長かったから。
食用のキノコは沢山集めたし、もういいよな?」
1時間以上森を彷徨っているけど、まだ休憩いた場所が見える範囲に居る。
3人で集めまくってルグみたいな大食漢が集まらない限り、大人数のパーティーでも十分賄える量が集まった。
一端、食用キノコ集めはやめて本格的に歩キノコの本体探しに専念する。
「もしかして、此処か?」
休憩していた場所が見えなくなって1分も経っていないと思う。
地面を掘っていると俺達が追っている紐状の柄以外にも、数本もの柄が延びている場所に着いた。
そこは休憩していた場所より狭い小さな広場になっていて、その中心に本体がある様だ。
広場になっているけど、周りの木々が伸び伸びと枝を伸ばして太陽の光を奪っているから薄暗い。
周りを見回しても特に猛獣の巣がある訳でも、ギンコーボムの様に周りの木に魔物が擬態してる訳でもなさそうだ。
埋まってる場所は特に危険の無い普通の地面の中。
と言う事は採るのが困難な理由はユマさんの言う通り本体が危険なスライムか、もしくは物凄く深い場所に本体があって掘り起こすのが大変か。
そのどちらかの可能性が高いな。
「・・・これが本体?」
「これ自体がって言うより、たぶんこの中心に本体があるんだと思う」
思ってたより浅い場所から現れた本体は、バスケットボール位の大きさの毛玉みたいな物。
スライムじゃないみたいだけど、本体はブルブルとバイブの様に小刻みに震えていた。
その本体からは紐状の柄が毛玉の様に絡まり合い四方八方に無数に伸びている。
そして隙間から小さなキノコがいくつか生えていた。
この小さなキノコも何時か大きくなって歩き出すのかな?
「なぁ、ユマ、サトウ。なんか焦げ臭くないか?」
「本当だ・・・あ!本体が燃えてる!!」
「嘘だろ!?俺達誰も火を使ってないぞ!!」
ルグに言われ微かに何かが焦げた様な臭いがした。
それは段々強くなり、冒険者や魔物が近くで火を使っているのかと周りを注意深く見回す。
はっきり臭いの発生源が分かりその方向を見ると、目を離していた本体から真っ黒な煙が上がっている所だった。
俺達3人共、誰も火を使っていないのに勝手に燃え出した歩キノコの本体。
生えた状態の木が意外と燃え難いといっても、謎の発火現象によって燃え上がった本体から引火されたらどうなるか分からない。
一瞬で此処等一体が火の海になる可能性もあるんだ。
だからこそ、俺達は急いで本体の鎮火に努めた。
「はぁ。やっと消せた・・・」
「なんだったんだよ、今の・・・・・・
サトウの世界のキノコの本体は何時もこんな感じなのか?」
「そんな話、一切聞いた事無いよ。
多分、他の冒険者のせいじゃない?」
他の子実体と戦っていた冒険者が火の魔法を使って子実体を燃やして、その火が紐状の柄を通って本体を燃やした。
そんな所じゃないか?
強力な魔法を自在に操れる魔法使いなら酸素濃度の低い地中に伸びる紐状の柄を通して本体を攻撃とかできそうだろ?
そう思ってユマさんに聞いたら、流石にそんな芸当火の魔法が使えるミモザさんや『コロナちゃん』、本気を出したユマさんでも不可能と言われた。
「じゃあ何で燃えたんだ?」
「見た感じ、本体の中心から燃え出した様に見えたけど・・・・・・」
「自然発火って事か・・・」
自然発火って言うと摩擦熱とか酸化や発酵、落雷。
後は犬猫避けのペットボトルや水の入った水槽がレンズの代わりなって光を集めって発火するとかか。
そう言えばまとめサイトに乗ってたけど、ゴジアオイって焼身自殺する植物があるらしい。
発火しやすい分泌液をだして周りの植物ごと自分も燃える。
その前に耐火性の高い種を撒いて、周りの植物を燃やす事で種が最適な条件で発芽できる様に十分な日差しと新鮮な肥料を作る植物だそうだ。
時には森1つ丸まる燃やす、植物界のサイコパス!
そんな植物がいるんだから、俺の居た世界と色々違うこの世界なら何かあったら自身を燃やすキノコがいても可笑しく無いよな?
子実体を歩かせる何ってとんでもない事やってる訳だし。
「俺達に見つかったから自ら燃えたのか、地中にあった訳だから空気や日の光に弱くて当たると燃えてしまう性質があるのか。
自然発火ならそう言う可能性もあるよな」
バイブしていたのは俺達に見つかったのを危惧して、摩擦熱で本体を燃やす為だった可能性もある。
それか、空気の濃度が濃くなったり、地中より少しでも暑くなると燃えてしまう性質があったのかもしれない。
どっちにしろ、本体が燃えるって非常事態に子実体から大量に胞子が飛んでるだろうな。
この本体から繋がった歩キノコと戦っていた冒険者の人達、ごめんなさい!!
「採る事が非常に困難ってこう言う事だったんだね」
「採る前に燃えちまうなら、かなりの技術と速さが必要だな。
それか本体を燃やさない方法を考えるか」
「そっか。
あんなに生えてたのに5個取れたなら十分と考えないといけないのか。
もう少し採りたかったんだけどなー」
「ルグ、何時の間に採ったんだよ!!」
いつの間にかルグの手には、硬い柄の部分から切られた小さな肌色のキノコが5つ握られていた。
本体が燃え出すまでに3分も掛かってないぞ。
それなのに5個も採ったのか。
「まいっか。早く食べようぜ!
何と一緒に食べれば美味いかなー」
「野菜なら直ぐ出せるから、トマトかキュウリ、後はー・・・・・・」
「おッ!おーい!!こっちにも居たぞー!!
お前達大丈夫か?」
早く試しに食べたいというルグに急かされ、俺達はスマホの画面を3人で覗き込んでいた。
そんな俺達の耳に入ったのガサガサと葉が踏まれる音と野太い声。
声と音がした方を見ると、今度こそ冒険者らしい男性が居た。
その後ろから4人の冒険者達が歩いてくるのも見える。
「はい。特に怪我とかはしていないです。
何かあったんですか?」
「あぁ。
急に此処等一体のオレンジ歩キノコが一斉に毒の粉を出して死んじまったんだ。
こんな事今まで無かった!!
とんでもねぇ異常事態だ!!」
「それって・・・・・・」
予想通り、本体の危機に歩キノコの子実体は一斉に胞子を出していた様だ。
その今まで起きなかった異常事態に、今日オノルの森に来ている冒険者達はお互いに無事を確認し合っていたらしい。
その為、俺達にも声を掛けてくれたそうだ。
そんな冒険者達に俺は歩キノコの正体や本体の事を説明した。
「すみません。
あんな事になるとは思わず、ご迷惑をお掛けしました」
「そう言う事なら仕方ないな。
気にすんなよ、嬢ちゃん達」
「それにしても、これが歩キノコの本体か。
こんなもんから生えていたとはな・・・・・・」
俺達を代表して謝るユマさんに、ニカッと笑ってそう言う冒険者の男性。
そんな俺達の近くでは、最初に会った冒険者の連絡で何組かのパーティーが集まって燃え尽きた歩キノコの本体を観察していた。
その内何人かは本体より、説明の為に鞄から出した歩キノコに興味があるみたいだ。
「本当に毒の粉を出す前に倒されている。
この足から伸びている紐を切れば、毒の粉を出す前に倒せるんだな?」
「えっと、全ての歩キノコがそうとは限りませんが、俺がやった時はそうでした」
「なるほど。
本体との繋がりを先に切ってしまえば、毒の粉を出す前に倒せる可能性が高いのだな」
今の所比較的安全に歩キノコを倒せる方法と、本体を取り除かない限りどんなに子実体を倒しても歩キノコが増え続ける事を俺は他の冒険者に説明した。
歩キノコ退治は他の冒険者に任せ、俺達はそろそろ帰る事にしたからだ。
オレンジ歩キノコなら兎も角、他の歩キノコはベテランの冒険者でも苦労する程危険な毒キノコしか居ないらしい。
軽く子実体に触れただけでも胞子を出す歩キノコも居るそうで、移動し続ける歩キノコの子実体に触れずに的確に埋まった紐状の柄を切るのは至難の業。
俺の場合、安全な方のオレンジ歩キノコが動けなくなっていたと言う、イージーモードだったから子実体を採れた訳で。
もしかしたら他の歩キノコは紐状の柄を切り離そうとしただけで危険な胞子を出す可能性も有るし、本来なら新人の俺達では荷が重いどころか完全な足手まといになってしまう。
と言う事で自分達の仕事が終わった俺達は、他のベテラン冒険者達の迷惑に成らない様に帰る事にした。
「この燃えた本体は貰っていいんだよね?」
「はい、どうぞ」
俺達が発見したオレンジ歩キノコの本体は、キノコ専門に研究をしている研究所から依頼されて来た冒険者が持ち帰る事になった。
あんな燃え尽きた本体を俺達が持っていても意味がないから、有効活用できる所にもって行って貰うのが1番良い。
俺は『プチヴァイラス』で出せるからいいけどルグとユマさんからしたら、あわよくば養殖できる様にして貰って安値でオレンジ歩キノコの塩が手に入る様にして貰いたいってのもあるんだろう。
鋭く苦味の有る従来の塩よりオレンジ歩キノコの塩の方が2人も好みらしいし。




