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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 1 章 体験版編
13/498

12,伝説のビックダーネア


 実際はどの位経ったか解らない。

だけど、襲ってくる魔物達から殆ど逃げてたと言え時々戦い、何度も風が来る方向を確認しながら体感時間で3時間位。

歩き続けて漸く、強風が吹く部屋の手前に着いた。


床全体に薄く水が張られた部屋の天井の中心位。

力士が大の字で寝そべっても余裕で通り抜けられそうな大きな穴が開き、そこからスポットライトの様に淡い光が降り注いでいる。

あの穴を登れば外に出れると思うんだけど、問題は部屋全体が縦横無尽に太い鼠色の糸で覆われている事。


床には白い欠片が散乱し、糸でグルグル巻きにされた細長い楕円形の塊が天井からぶら下っている。

間違いなくダーネアの巣だよ、此処。

それも糸の太さからして伝説の。


今は伝説のビッグダーネアどころか、ぶら下った被害者以外生き物は全く居ない。

鬼の居ぬ間に何とやら。

さっさとこの部屋を通り抜け天井の穴から脱出出来ればいいんだけど、もし登っている最中に伝説のビッグダーネアが戻って来たらどうするよ。

俺じゃ絶対勝てない。

どんなに急いで登ったとしても俺のスピードじゃ追いつかれるのは目に見えている。

糸でグルグル巻きされて唯食べられるのを待つ未来しか浮かばなかたった。


「他の出口を探すか」


そう思って振り返ると、


『・・・・・・・・・ボジョボジョボジョ』


鳴き声なのか奇妙な音を出す頭だけでも小学生位の大きさがあるデッカイ鼠色の蜘蛛が


『やぁ』


と言ってそうな感じで目の前に居た。

その背中には3人一緒に糸で簀巻きにされた意識の無い魔女達。


「ぃぎゃぁあああああああああああああッ!!!!

出たぁあああああああああああッ!!!!!!」


い、何時の間に戻って来たんだよ、ビッグダーネア!

そして、俺の馬鹿ぁああっ!

何で巣の方に走って逃げるんだよ!

これじゃ、飛んで火に入る夏の虫。

ビッグダーネア()に追いかけられている俺の方が虫になったら洒落になんねぇぞ!


「ど、ど、ど、ど、どー!」


如何すんだよ!

と、叫んだはずなのに、あまりの恐怖に上手く言葉が出ない。

そんな俺に、ビックダーネアがジワリジワリと迫って来ていた。

一旦どうにか落ち着ける状況を作らなきゃ、出来る事も出来なくなる。


一瞬でも良い。

何かビッグダーネアの目を反らせれば。


「なら、『プチライト』!」


手の上に出た『プチライト』の球をビッグダーネアの目の前に向けて投げる。

その時、自分周りがキラキラしたのは気のせいだろう。

投げた『プチライト』は予想より大分右の方にずれてしまったけど、ビッグダーネアは驚いた様に固まった。

思った通りにいかなかったけど、今まで薄暗い所に居たビッグダーネアにはアレだけの光でもキツイだろう。


今のうちに何処かに隠れて・・・・・・・・・


そう思っていたのに、何故かビッグダーネアは確り俺を見据えて襲ってくる。


「何で!?いや、もう1度『プチライト』」


その後も何度『プチライト』で目晦まししようともビッグダーネアは一瞬止まるだけで俺を見失う事は無かった。

確実に俺に向かってくる。


「どうなってんだよ!

『プチライト』!『プチライト』!

『プチライト』ッ!!」


自棄になって何度も『プチライト』を投げるうちに気づいた。

気のせいじゃなく、確かに自分の周りがキラキラ輝いている。

ビッグダーネアから逃げつつ、『プチライト』の光で照らしながら良く見ると、それは細い細い糸。

髪の毛よりずっと細い糸なのに太い鎖みたいに頑丈で千切れない。

その糸が俺の体に纏わりついていた。


「危険な方法だけど、『ファイヤーボール』!」


俺は『ファイヤーボール』で糸に火をつけた。

糸に引火し、俺の方が燃える前に水の溜まった床を転がって消火。

そのままうつ伏せで出来るだけ息を殺して、ビッグダーネアを見る。

ビッグダーネアは今まで俺を見つけられていたのが嘘の様に、直ぐ真下の俺に気づけなかった。

そのままあたりをキョロキョロすると、まだ人の形を残す骨の塊に向け1度尻を向けると近づいて太い糸で簀巻きにしていく。


多分ビッグダーネアは、いや、通常サイズのダーネアもそうかもしれないけど、8つもある目を使っていないんだ。

もしかしたら、使ってないんじゃなくて物の形と言うか輪郭は辛うじて分かる程度の視力しかなく、役に立たないのかもしれない。

その証拠にビッグダーネアは近くの俺じゃ無く、輪郭だけは生きた人間そっくりな骨の固まりに向かった。


でも、その代わりにあの細い糸から伝わる振動とかを目の変わりにしているんだろう。

視力を頼りにしていないから、俺がどんなに『プチライト』で目晦ましをしても意味が無かったんだ。

通路で真後ろに居た時に付けられたんだろうその糸が俺に絡まっている以上、どんなに驚いて見失っても直に見つけられる。

今は火で俺に絡まっていた糸が切れてビッグダーネアは俺に気づけなくなっているから良いけど、激しく動いたら気づかれるよな。


「何とかして俺の存在に気づいても動けなく出来ればいいんだけど」


俺が覚えている魔法は、『クリエイト』、『ミドリの手』、『ファイヤーボール』、『アイスボール』、『サンダーボール』、『ヒール』、『スモールシールド』、『フライ』、『プチレイン』、『プチアースウェーブ』、『プチライト』、『プチヴァイラス』、『アタッチマジック』。


『クリエイト』は直魔法陣が掛けないし、杖も無い。


『ファイヤーボール』で燃やすか?

いや、上手く燃えても脱出する前に煙が充満して危険だ。

それに、この部屋に張り巡らされた糸だって燃えるんだ。

ビックダーネアと糸が燃えたら脱出前に火の海になる可能性だってある。

同じ理由で『サンダーボール』+『プチレイン』の雷戦法も危険だよな。


なら、『サンダーボール』単体ならどうだろう?

『サンダーボール』の球を投げれば麻痺するかもしれない。


問題は蜘蛛が麻痺するかどうか。


何個投げれば麻痺するか。


床に水が溜まっているから失敗すれば俺が麻痺、最悪感電死する事だ。

リスクがあり過ぎるから却下だな。


防御と回復の『スモールシールド』と『ヒール』は論外。


『プチアースウェーブ』はこの状況では使えそうに無いし、『プチヴァイラス』は魔法自体が危険だよな。


そうすると使える魔法は、


『ミドリの手』


『アイスボール』


『フライ』


『プチレイン』


『プチライト』


『アタッチマジック』


この6つの魔法と武器のパチンコで、あいつ(ビッグダーネア)を倒さないといけないのか。

いや、倒さなくても良いんだ。

お金も素材もそれなりに集まった。

後は天井の穴から無事出れれば俺の勝ち。


それなら何とか成りそうだ。

初めての試みだから上手くいくかどうか分からない。

それでもやらなきゃな。


「先ずは、『アイスボール』」


小声で唱え、出てきた『アイスボール』の球を何回かビッグダーネアの足元に向けて投げる。

ビッグダーネアが気づかぬまま、思っていた現象が起きる。


「よしっ!」


と、叫びそうに成るのを慌てて口を押さえて止めた。

そのままゆっくりゆっくり離れながらも『アイスボール』を投げつける。

出来るだけ距離を稼いだ所で俺は急いでビッグダーネアが部屋に張り巡らせた糸を登っていった。

太さはそんなに無いのに頑丈で、俺が乗っても千切れない。

ビッグダーネアの真上に来る頃には、奴も俺が移動した事に気づいたんだろう。

忙しなく辺りを見回している。

だけど、流石に真上に居る事にはまだ気づいてない様だ。


「今がチャンス!『ミドリの手』!!」


『ミドリの手』で蔓蜜柑の種を召喚し、パチンコでビッグダーネアに向かって打つ。

ビックダーネアに当たった瞬間、


「『アタッチマジック』、『ミドリの手』!」


俺の声に応える様に種は発芽し、意外と頑丈で太い蔓草に成長し、ビッグダーネアを絡め取る。

後は、蔓蜜柑の蔓の一部を動かして魔女達を一応回収しておくか。


放っといてもよかったんだけど、どんな悪人でも見捨てて死なれたら目覚め悪いし、死んだら死んだで悪霊になって襲って来そうだし、何より今の所唯一異世界召喚の魔法が使える魔女達に恩を売れる。

そう思えば、回収するのは当然の事なんだ。


ただ、今のでビッグダーネアに俺の居場所がバレた。

蔓草と『アイスボール』によって凍った足元の水溜まりのせいでビックダーネアは動く事が出来ない。

でも、ビッグダーネアが本気で暴れたら、そんなに長く足止め出来無いだろう。

だから、


「逃げるが勝ち!

『ファイヤーボール』!『ファイヤーボール』!

からの『フライ』!『プチレイン』っ!!」


俺達が居るビッグダーネアの糸の両端に其々、『ファイヤーボール』を放ち壁から離す。

その糸に『フライ』を掛け浮ばせ、今だに燃えている所を『プチレイン』で消火。

後は穴を通って外に出るだけ。


・・・・・・・・・ジェットコースターの様なハイスピードで。


穴を通れて外に向かっているのは良いんだ。

ただ、絶叫系のアトラクションが好きな方の俺でも、このスピードは無理。

無理、無理、無理ぃいいいいいいいいッ!!


「ぅぎぃやぁあああああああああああああッ!!!」


無事、外に出た事で段々スピードが落ちていく。

チラッと見た出口は大きな古井戸。

その周りには唖然と俺達を見上げる10、20人位の冒険者らしい老若男女。


「バ、バンザーイ!!

良かった~。無事出れたぁああああああッ!」


嬉しすぎて両手を挙げてしまい、魔女達を冒険者の皆様方の上に落としてしまった。

井戸に落ちなかっただけ魔女達は運がいいと思う。


「ご、ごめんなさい!

直にとりに行き・・・・・・

たいですけど無理っぽいです!

寧ろ誰か、ヘーループーミィイイイイイイイッ!!」


降りようと乗っていた糸を操作した瞬間、まだまだコントロール不足で糸が暴走し、俺は糸と一緒に外に出た時と同じハイスピードで滅茶苦茶に空を駆け巡る。

正直、もうリバースしそうです。

そんな俺を糸は無常にも何処かに連れて行きましたとさ。


「だーれーかー止めてぇえええええ!!

本当ーに、たーすーけーてぇえええええッ!!!」


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