126,キノコ狩り 3本目
草むらから現れたのはユマさん曰く、ボスが言っていた大繁殖中の歩キノコらしい。
でもキノコっぽさが全く無く、ユラユラ揺れている事もあいまってまるでホラーゲームのゾンビかクリーチャーだ。
「ひいいいいいいいい!!!」
「何だオレンジ歩キノコか。
サトウ、大丈夫だ。
見た目は怖いけど、この歩キノコは大人しいから」
「まだ、産まれてそんなに経ってないみたいだね。
なら、まだ大丈夫かな。
サトウ君、何度も攻撃しない限りは毒の粉は出さないから今は大丈夫だよ」
そのハンバーグ味のキノコよりも何百倍もグロテスクな見た目に、俺は悲鳴を上げて腰を抜かしてしまった。
ルグとユマさんは歩キノコの姿を見て警戒を解いたけど、無理!
こんな今にも襲ってきそうなホラーゲームの敵キャラぽい奴を前に安心なんて出来ない!!
「こ、こ、こ、こいつ!ど、毒!毒があるの!?」
「うん。
歩キノコはキノコって呼ばれてるけど、別の存在。
植物じゃなくて動物なんだ。
ヒツジやギンコーボムの様な植物の様な姿のオーガンが無い生き物なんだよ」
「だから、身の危険を感じたり、死ぬ直前になると毒の粉を出して身を守ったり、自分を殺した奴に復讐するんだよ。
このオレンジ歩キノコは自然に死ぬ時か、しつこく攻撃しない限りは毒の粉は出さないから大丈夫だぞ」
2人の話では、あの歩キノコは歩キノコの中では比較的安全な種類らしい。
毒も1度毒の粉を吸い込むと5分位くしゃみが止まらなくなるだけ。
歩キノコの中には粉を吸い込むと全身が痙攣したり、幻覚を見たり。
最悪の場合死んでしまう毒を出すものも居るそうだ。
「でも、おかしいな。
歩キノコは何も無ければ、死ぬまで歩き続ける筈なのに。
なんでコイツは歩かないんだ?」
「そ、そうなの?」
「うん。
歩キノコの寿命はすっごく短くて、生まれてから死ぬまでのその一生をただ歩き続ける事に費やすの。
そして最後に毒の粉を出す。
何でそんな事するのかまだ解明されて無いから、私達からしたら変な生き方に見えるんだよね」
そう言われ、俺は恐る恐る歩キノコを観察する。
よく見ると溶けてドロドロになった皮膚は唯の模様の様だ。
溶けた皮膚の様な模様が目や口まで作っている様に見えるけど、冷静に見ると人っぽくない。
落ち着いて見て分かったけど、人の顔だと思ったのはシミュラクラ現象。
3つ点があると人の顔に見えるって言うアレだったんだろうな。
そしてもう1つ、観察していて分かった事が在る。
歩キノコは歩いていないんじゃない。
片足を引きずる様に前に進もうとしているけど、見えない壁にでも阻まれて移動できないみたいだ。
だぶん、横にずれるって移動するって事も分からない位知能が低いんだろう。
だから、ただ体を前後に揺らすだけ。
「サトウはもうキノコ食べないのか?」
「俺はもう、お腹いっぱいだからいいよ。
あ、そうだ。
鞄中に弁当あるから、一緒に食べていいよ」
「分かったー」
丁度お昼を少し過ぎた位だし、さっき食べたキノコのだけじゃ普段の昼飯に比べ少ない。
音の主が比較的安全な歩キノコだと分かって、ルグとユマさんはもう少しキノコを食べる事にした様だ。
さっきまで座っていた場所の近くに置きっぱなしにしていた鞄に作ってきた弁当が在る事を伝え、俺はもう少し歩キノコを観察する事にした。
「うーん・・・・・・・・・ん?足に、何か・・・
これは、紐?」
上から下まで観察してると、歩キノコの引きずっている方の足から柄と同色の紐の様な物が地中に伸びているのが分かった。
「あ、もしかして!『プチアースウェーブ』!!」
それを見た俺はルグとユマさんの話からある可能性が浮かんできた。
もし歩キノコが普通のキノコと別の種族じゃなく、本当は普通のキノコの仲間だったなら可能性がある。
その可能性は『プチアースウェーブ』で歩キノコの周りを掘って行く事で確信に変わった。
「やっぱり・・・・・・でも、これって・・・」
「サトウ君?」
「ルグ、ユマさん。念の為にこれ付けてて。
『スモールシールド』!!」
俺は『クリエイト』でマスクを出すと自分にも着けつつルグとユマさんにも渡した。
そして、胞子が飛んでこない様に『スモールシールド』で歩キノコを包み込む。
よし、これで万が一歩キノコが胞子を出しても俺達には被害が無いだろう。
世の中には冬虫夏草の様に生き物に寄生するキノコだって在るんだ。
この世界の菌は俺の世界の菌より強そうだし、念には念を入れないと。
「・・・良かった。胞子は出なかったみたいだ」
「うほはろ!?はほう、はふやっほんはろ?」
「ルグ、口の物飲み込んでから喋って。
何言ってるのか分からないって」
思いの他すんなり切れた歩キノコの足から出た紐。
その紐をナイフで切り離した瞬間、歩キノコの動きが止まりパタリと倒れてしまった。
近くに落ちていた細い木の棒で突いても動く気配が無いし、粉の様な胞子も出てこない。
そんな俺の一連の行動を弁当をかき込みながら見ていたルグが、口いっぱいに物が入っているにも関わらず叫んだ。
マスクしてない事は、まぁ置いといて。
物を食べながら喋るのは行儀悪いからやめろ、ルグ。
「何やったんだよ、サトウ!
歩キノコが毒の粉を出す前にたった一撃で倒す何って普通出来ないぞ!」
「そうだよ!
ベテランの冒険者でもそんな事出来た人いないよ!!
ただでさえサトウ君、戦うの苦手なのに・・・
一体、今度は何をやったの?」
「えっと、大した事はしてないよ。
普通のキノコを採るのと同じ様に、ただ本体と切り離しただけなんだ」
口の物を飲み込んだルグと、目を見開いて固まって居たユマさんが詰め寄ってくる。
その迫力にタジタジになりながら、俺は歩キノコを指さして答えた。
「ほら、歩キノコの足から紐が伸びてるだろ?
この紐はキノコの柄の一部で、この先にこの歩キノコの本体が埋まってるんだと思う」
「で、でも!歩キノコは動物だよ!
キノコとは別のものなんだよ!!?」
「たぶん、子実体が移動するから動物だって言われてるけど、キノコの仲間なんだ。
ほら、俺の『プチヴァイラス』で作れるでしょ?」
そう言って『教えて!キビ君』のキノコのページを2人に見せる。
そのページの下の方には他の発酵食品と同じ様に、設定と書かれた所の隣に『プチヴァイラス』と書かれた紫色のボタンが書かれていた。
この紫色のボタンを押せば今出ているページのキノコを作る事が出来るんだ。
最初の頃は『プチヴァイラス』でキノコは出せなかったはずなんだけど、いつの間にか出せる様になっていたんだよな。
分かった切欠は何だったかなー?
あぁ、そうだ!
確か、料理をしていてシイタケがどうしても必要になったんだ。
ダメ元で『教えて!キビ君』で調べたら、『プチヴァイラス』でキノコを出せる事が分かった。
『プチヴァイラス』は菌の活動を促進させる魔法。
だから菌の1部のキノコも出す事が出来るみたいだ。
確か使える事に気づいたのはサルーの村にお使い行った辺りだったはず。
だからきっと、『返還』や『往復路の小さなお守り』を伝授した時におまけで強化してくれたんだろう。
時間が経ったらキノコが出せる様になるなんて考えてなかったし、扉を開いた一瞬で召喚されたんだからそこまで思いつかない。
俺自身は世界を行き来する以外で創作魔法を改造できないけど、誰かから創作魔法を貰う事は出来る。
だからDr.ネイビーか聖女キビが何とかしてくれたって考えた方がしっくりくるんだよ。




