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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 1 章 体験版編
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125,キノコ狩り 2本目


「ルグ、塩コショウあるけど使うか?」

「いらない。

いいか、サトウ。

キノコは何もつけずにただ焼くのが1番美味いんだよ」

「そうか?

出汁にするなら兎も角、キノコだけで食べるなら色々調味料が必要だと思うけど・・・・・・」


今までの経験から塩もコショウも醤油もなしで、素材の味だけのキノコってのは美味しいとは思えない。

乾燥シイタケで出汁を取るのとは訳が違うんだ。

好みによるだろうけど、丸焼きにしたキノコならカボスかすだちと醤油や塩コショウ、大根おろしは必要だろう。


「食わず嫌いは良くないぞ、サトウ。

ポンドスネイルだって何だかんだ言ってもちゃんと食べただろう?」

「そりゃあ、あからさまに毒が入ってる訳じゃないのに、出された物に手を付けず残すのは作ってくれた人に失礼だろ」


無理に好きになる必要はない。

だが、出された物は残すな。


って小さい頃から父さんに言われてきたんだよ。

出された物に手をつけないのは作ってくれた人の思いを踏みにじる行為だから残すなって。


でも、『状態保持S』が有って毒が効かないと言われても好き好んで毒を口にする気は全く無い。

だから、何処からどう見ても毒やヤバイ物が入ってるだろうって物以外は、文句や愚痴が出る程嫌いな物でも最終的には頑張って胃に詰める。


因みに、ポンドスネイルは弾力の有るグニグニした貝の食感で、濃いアサリみたいな味がした。

元々カタツムリや貝が苦手だってのもあるけど、不味くは無いけど好んで2回目を食べたいって思える物では無かったな。

また食べたいとは絶対に思えない!!!


「なら、はいコレ。オレのおススメな」

「うっ・・・・・・」


ルグが渡してきたのは、カサの部分に茶色いブツブツがある炎の様に真っ赤な卵型のキノコ。

しっかり焦げ目が付いて更にグロテスクな見た目になっている。

香りは全くしないから、判断基準は見た目のみ。

はっきり言って、口にするのにかなりの勇気がいる。

でもルグに、


「オレの事信用できない?」


って言われたくないし。

食べないって選択はできないんだよ!


「よ、よっし・・・・・・お、美味しい・・・」

「だろ?」

「美味しいけど、美味しいんだけどさ。

何で何の味付けもしていないキノコからハンバーグの味がするんだよ!!!」


覚悟を決めキノコを食べた俺は思わず叫んでしまった。

肉厚な身を齧って出てくる汁は良質な牛と豚の肉汁。

程よく歯ごたえのある柔らかい身は、噛めば噛む程溢れる肉汁とあいまって肉そのもの。

それに混ざるのはご飯が欲しくなる、少しだけ苦い複雑な旨味が濃縮されたデミグラスソースの味。


何も知らずに目を瞑って食べたのなら、間違いなくちょっと値段の良いレストランのハンバーグだって答えてると思う。

でも、俺の手にあるのは間違いなくグロテスクな見た目のキノコ。

豚肉も牛肉も赤ワインも使われていないただのキノコなんだ!


「やっぱ美味いな!

これだけでも美味いけど、目玉焼きやチーズを絡めると更に美味いんだ!!」

「だろうな!」

「サトウ君、こっちも美味しいよ?」


ユマさんのおススメの白と水色、緑色のマーブル模様のキノコはマカロニグラタンの味がしました。

何類も混ぜ合わせた濃厚なチーズと、新鮮なバターと小麦の風味が香る甘しょっぱいホワイトソースが混じった味。

トロ~と伸びるチーズの食感は無いものの、グニグニしたキノコの歯ごたえはマカロニそのもの。

そんなキノコの表面をコンガリ焼いた事で、チーズを焦がした様な苦味がアクセントになっている。

それが見た目以外を出来立てのグラタンその物にしていた。


ついでだからと試しに食べたらオオベニダケは牡蠣のガーリックバターソテー味で、コイスダケはピリ辛ネギ味噌を付けた焼き鳥味。

どっちも1口食べれば幾らでもお酒が進むだろうな、と思う程味が濃い。

間違いなくお酒のつまみとしては最高のキノコだ。


食べたどのキノコも間違いなく美味しい。

けど、だから何で唯焼いただけのキノコから複雑な料理の味がするんだよ!!

美味しいけどツッコミどころがありすぎて純粋に楽しめない。


きっとルディさんの所で食べたスープがシチュー味だったのは、あの小石みたいなキノコから出た物だったんだ。

謎が解決したのに違和感が凄すぎて解決した気がしない。

大昔誰かが多少改造したかも知れないけど、本当この世界のキノコは何を考えてるんだ!!!?

一体何処を目指してるんだよ!!?


「な。何も付けない方が美味いだろ?」

「うん、そうだな。

既に完成された料理の味がするんだから、他の味付けは余計だな」

「完成された料理?

サトウ君の世界にはこのキノコみたいな料理があるの?」

「あるよ。

寧ろ、俺からしたらこんな人間に都合が良過ぎる味のキノコが自然に生えてるのか謎なんだけど。

こういう味って、普通何種類もの食材を使って色んな調理方法を駆使して生み出すものだろ?」


俺がそう言うとルグもユマさんもそんな事ないと首を振った。

生まれた時から完成された料理の味がするキノコを当たり前に食べてる2人は、このキノコの味が可笑しいとは思わないんだな。


「そもそもこの世界の殆ど料理って、今みたいに保存できる魔法道具やキノコの養殖が普及していなくて、キノコの味を他の食材で再現しようとして生まれた物ばっかりなんだぜ」

「そうなの?

料理って昔の人が発見された色んな未知の食材を美味しく食べれる様にする為に研究し続けて生まれた物じゃないのか?

生だと美味しくない物とか毒がある物とか、他の食材と一緒にするともっと美味しくなるとか。

そういう食材を美味しく食べれる様にするのが料理だと思うけど」

「うーん・・・・・・どうなんだろう?

私はキノコの味を再現する為に料理が生まれたって習ったけど・・・」

「オレもそんな理由で生まれた料理があるって聞いた事ないな。

一年中何かしらの、採るのも調理するのも楽なキノコが沢山生えてるのに、危険を冒してまで毒があったりそのままだと美味しくない物を食べる必要ないだろ?」


ルグとユマさんの話を聞くにこの世界の食用キノコの大半は、お湯や電子レンジで温めると言う簡単な調理でお店の味が楽しめる。

そんなレトルト食品や冷凍食品みたいな物なんだろう。

それが特に何もしていなくても自然に生えてくる。

だから態々毒があったり不味い物をどうにか調理して、美味しく食べれる様にするって事をしてこなかったんだろうな。


「でも、サトウ君が何時も忙しかったり大変なのに、毎日時間かけて料理してる理由がこれで分かったよ。

この世界の様なキノコがサトウ君の世界には無いから、色んな食材を使って調理するのが当たり前だったんだね!」

「そうだよな。

この世界だとサトウが作る料理って普段から作る様な物じゃないよな。

お祝いの時とか、ちょっと値段の良い店の料理人が作る料理位時間も手間も掛かってるよな。

その分、味は店を開いて金を取れる位美味いけど!」

「家庭料理レベルでそれは流石に言い過ぎ・・・

あー、でも、料理を全然しなくてレトルト食品ばっかりな人が殆どの場合そうなる・・・のか?」


俺が作れるのは極々普通に家で作れる物だけだ。

それでも、毎日カップラーメンやコンビニ弁当しか食べない人ばっかの世界なら、どの家庭でも簡単に出来る料理でもお金を払って食べたいって思うのかも知れない。

それにルグとユマさんの話では、この世界は料理の技術よりキノコの養殖や品種改良に力を入れているらしい。

世界一美味しいって話のスクリュード国の料理も基本何にでもキノコを使うそうだ。


だから、俺の世界では誰でもできる様な料理や調理の方法でも、料理人じゃないと出来ない物もあるらしい。

例えば天ぷらとかトンカツの様な揚げ物。

高温で調理をしなくても天ぷらやトンカツ味のキノコがあればその味は楽しめる。

同じ味なら態々油を大量に使って調理する必要は無いって考えらしい。


そう言うのは味覚以外で料理を楽しむ余裕がある金持ちの食べ物って考えが浸透しているそうだ。

それは、味がよくて腹が膨れれば良いって人が多いって事だよな。


見ていて美味しそうと思える美しい盛り付け。


熱々の鉄板の上でジュージューとステーキが焼かれる音。


フワフワと漂うスパイシーなカレーの香り。


手から伝わる入れたてのお茶の温かさ。


料理って味覚以外の五感でも楽しめるものだと思う。

特に見た目と香りは味と同じ位重要じゃないかな?

どんなに味がよくても見た目や臭いが不味そうだったら食べたいと思わない。


「うーん・・・・・・・・・

やっぱ俺はキノコばっかっては無理だな。

どんなに味が豊富でも食感が似た物ばっかだと直ぐ飽きるし。

後、結局どんなに味が肉や牛乳っぽくてもキノコなのは変わらないんだから、栄養が偏るだろう?」

「そんな事無いって!

オレは別にキノコばっかでも飽きないぞ」

「うん、飽きないよね。

それに、野菜やお肉と一緒に煮込んだり焼いたりするから栄養が偏る事もないと思うよ?

サトウ君、勘違いしてるかも知れないけどルグ君の料理が簡単過ぎるだけで、皆毎日焼きキノコを食べてる訳じゃないよ」

「・・・そう言えばルディさんもキノコで出汁をとったスープとパンを出してくれたな」


この世界の家庭ではほぼ毎日ルグがやったみたいにただキノコを焼くだけだと思い込んでいた。

基本的にはキノコと一緒に野菜や肉をオーブンで焼くか、ルディさんが作ってくれたみたいに煮込むかするらしい。

食用キノコの中にはカレーやシチューのルーや麻婆豆腐の素の様な調味料系のキノコもあるそうだ。

料理人や料理を作るのが好きな人はそう言う調味料系キノコを使う事が殆どで、毎日ハンバーグ味やマカロニグラタン味のキノコとパンやご飯の様な主食があれば十分って人は少数らしい。

世界一の美食を作るスクリュード国の料理人もキノコは大まかな味は決めるのに使うけど、一緒に他の食材を沢山使うから調味料や香辛料を何種類も使い味を整えるのが基本と言ってもいいそうだ。


つまり、市販のカレールーを使ってカレーを作って、隠し味にチョコレートやインスタントコーヒー、トマトジュースなんかを使う様な感じだろう。

市販のルーや味の素を使っても隠し味やちょっとした工夫しだいで本格的な味になるもんな。


「ルグ君は簡単過ぎるけど、サトウ君は逆に手間かけ過ぎだよ。

もっと楽していいと思うよ?」

「俺からしたら、普段作ってる物も十分手抜きなんだけどな。

色々魔法で楽してるし、元の世界でも、ほら、カレーのルー、『クリエイト』で出しただろ?

キノコじゃないけどこの世界のキノコっぽい物が俺の世界にも在るんだよ。

そういうの普段から使ってるから、俺も本格的な料理は作れないんだ」


叔母さんに少し教えて貰ったけど、大根の桂剥きとか握り寿司とか、鰻を捌く所から作るう巻きとか、綺麗に切って盛り付けたさしみとか。

フグは・・・

叔母さんも免許持っていないから無理だったな。

そういう明らかに技術が必要で難しい料理は似た様な物なら出来るけど、叔母さんの様に綺麗に美味しくは作れない。


あと、コーンポタージュとか豚の角煮とか時間がすっごく掛かって難しいそうな物も作れないんだよ。

一応コーンポタージュや角煮の様な初めて作る料理でも、元の世界ならレシピを見れば問題なく食べれる物を作れると思う。

味と見た目は家族以外に出せる様な物じゃ無いだろうけど。

でも、そのレシピを知らないからこの世界で再現するのは無理だな。


「サトウの世界の料理って、普段サトウが作ってるのでも簡単なら本格的ならどんだけ難しいんだよ。

オレ、絶対作れないな」

「そもそも私もルグ君も学校で習ったこの世界の基本的な料理すら作れないよね?」

「そうだった!!」

「そんなんで2人共家庭科の授業大丈夫だったのかよ。

追試とか補習とか受けなかった?」

「料理以外はちゃんと出来たし、それに座学の成績は良かったから・・・・・・」


心配になりそう聞くとルグとユマさんに全力で素早く目を逸らされた。

あ、これ聞いちゃダメな奴だ。

この話題はもう振らない事にしよう。


2人の態度にそう思っていると、俺の後ろ。

四角い草の塊近くの、子供ならスッポリ隠せる位背の高い草むらが急にガサガサと大きな音を立てて揺れ出した。


「キノコ狩りに来た冒険者の方ですか?」


俺達の声と焼いたキノコの香り誘われた動物か他の冒険者か。

念の為に何時でも攻撃できるよう武器を構えながら、音のした方に声を掛ける。

でも、返事は返ってこない。


と言う事は相手は人間じゃない可能性が高いな。

それか何かやましい事を考えているか。


俺達に危害を加える気の無い唯の冒険者なら、何らかの理由で声を出せなくても手を振ったりして自分の正体を明かすはず。

それがないなら俺達の言葉が分からない動物か魔物か危険人物。

焚き火の火を消して俺達は草むら距離をとった。


「・・・出て来ないね」

「もしかしてあの音を囮に他の場所から奇襲しようとしてるのか!?」


いくら待っても草むらから音の主が出て来ないから、音を囮に後ろとかから誰かが襲おうとしている可能性が出て来た。

でも、慌てて周りを見回しても、誰の視線も気配もしない。

俺だけじゃなくルグとユマさんもしないって言うんだから、ほぼ間違いなく音の主以外俺達の周りには誰も居ないと思う。


「・・・・・・可笑しい。

俺達3人以外、キノコの臭いしかしないぞ」

「え、じゃあ、あの草むらの音って・・・・・・」


周りの草木が揺れてないから風が原因じゃない。

でも鋭いルグの鼻には俺達以外の生き物の臭いは感じ取れないと言われた。


「地面の中の何かが草を揺らしてる?」

「それか・・・・・・やっぱり!歩キノコだ!!」


ユマさんが『オンブラ』の魔法で草を掻き分けた。

その先に居たのは小学生位の高さの皮膚がドロドロに溶けた人型の何か。

そいつが体を前後に揺らしていた。


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