124,キノコ狩り 1本目
「秋と言えば、キノコだよなー」
「やっぱりキノコだよねー」
「そうなのか?」
俺が花なり病になって死に掛けたから念には念をと、大事をとって暫く休んでいた冒険者業。
依頼を受けても、もう何の問題もなく普段通りに動けるからと久々にギルドの掲示板を見に行ったら、依頼がキノコだらけでした。
『珍しいキノコの採取』、『キノコ狩りの護衛』、『歩キノコの討伐』、エトセトラ、エトセトラ。
上から下までそんなキノコ関連の依頼ばっかが張り出されていた。
こんな状態、イチゴ狩りの時以来じゃないかな?
「夏のイチゴ、秋のキノコ。
そう言われる位この時期のキノコは美味いんだよ。
味が確りしていて肉厚で、ただ焼いたキノコだけで酒が幾らでも飲める程だ!」
「そんなにですか」
掲示板に張られた依頼の中で比較的俺達でも出来そうな、ギルドから出された『食用キノコの採取』の依頼をボスの所に持って行く。
依頼書にサインしながらここまでキノコの依頼が多い理由を尋ねると、今にも涎を垂らしそうな顔でボスがそう言った。
この時期のローズ国はキノコが旬で、1番美味しくなる時期らしい。
その為、毎年この時期にギルド職員達は慰労会代わりにほぼ全員参加のキノコ料理パーティーを開いてるそうだ。
ただ、今年はローズ国で国際会議が開かれるから、職員達はその準備で目が回るほど忙しくて採りに行けない。
だから、代わりに採りに行って欲しいと言うのが今回の依頼だ。
「オノルの森はローズ国1、美味いキノコが取れる場所だ。
ただ、毎年退治しているのに年々歩キノコの数が増えてきてな。
普通のキノコの数が減ってきてるんだ」
「歩キノコって、名前からして子実体が歩き回ってるんですよね?」
歩くキノコって言うと子実体の柄の部分から足が生えてトコトコ歩いたり、石突きの部分でピョンピョン跳ねて移動しているイメージだ。
後は柄の部分がずんぐりしていて巨大でズシズシ歩いてくる感じ。
「子実体?なんだそれは?」
「この世界のキノコにそんな部分無いよな?」
「うん。サトウ君の世界は違うの?」
「えっと、俺の世界のキノコはカビの仲間なんだ。
菌の1種。
本体は凄く小さい糸みたいな物で、寄生している動物や植物の内部に食い込んでいて、普段は見えないんだ。
でも、胞子って言う花の種みたいな物を飛ばす時期になると、子実体って言う人の目にも見える部分を作るんだよ。
俺達がキノコとして食べてるはこの子実体の部分なんだ」
何とか身振り手振りを加えて説明する。
キノコの本体は菌糸と言う、綿や蜘蛛の巣みたいな糸の塊みたいな物。
カビの仲間で、その内子実体を作るものをキノコって言うらしい。
子実体の部分だけ見ると植物に見えるけど、実際は菌である以上キノコも栄養が取れないと死んでしまう。
その方法も子実体の形みたいにキノコによって違っていて、確かマツタケとかは木と共生していて、マッシュルームなんかは落ち葉や動物や虫の死骸から養分を取っていたはず。
マツタケとは逆にシイタケは寄生して木の養分を奪って枯らしたりボロボロにするんだよな。
「菌って、最近発見された魔法道具を使わないと見えないオーガンの無いスライムの仲間だよね?」
「じゃあサトウの世界のキノコは植物じゃなくて動物なんだな」
「違うよ。
菌は動物でも植物でもない、えーと、第3勢力?」
第3勢力は違うか。
動物でも植物でもない別のグループ。
それにしても、この世界では菌はスライムの仲間で、キノコは植物なんだな。
キノコって翻訳されてるけど、もしかしたら食虫植物なのかも知れない。
「お前さん達、ここで話していても仕方ないだろ。
他の奴に刈り取られる前に採ってきてくれ」
「そうですね。
あ、依頼書にはキノコの種類が書かれていませんでしたが、食べれるキノコなら何でもいいですか?」
「あぁ、食べれる奴なら何でもいいぞ。
けど、そうだなー。
オオベニダケとコイスダケが有れば採ってきてくれ」
「分かりました」
ボスのおススメのキノコを聞いて、俺達はオノルの森に向かおうとした。
ギルドを出る際ボスが後ろで、
「あ、そうだ。
オノルの森に入った冒険者が偶に行方不明になるんだよ。
お前等も気をつけろよー」
と、軽い感じで恐ろしい事を言ってきた。
今から、依頼キャンセルしちゃダメですか?
*****
オノルの森はサマースノー村の更に向こう。
馬車に1時間半ほど乗っていると着く、デイスカバリー山脈近くのサラマンドラの森よりも広い森だ。
シャンディの森に比べたら狭いけど、赤や黄色、オレンジに色づいた葉をふんだんに着けた、見た事無い落葉樹の森は絶景だった。
青い空に映える鮮やかな森に響く、落ち葉を踏む乾燥した音。
奥の方は薄暗く、ちょっと冒険心をくすぐる。
「此処がオノルの森。通称、夢の墓地」
「夢の墓地?相手の夢を操る魔物が出るのか?」
「ううん。
昔研究者が冷遇されていた時、ローズ国の研究者の色んな完成させれなかった魔法道具が此処に捨てられていたの。
だから、夢の墓地」
国や周りの人間の圧力に負け断念した研究。
その涙ながらに手放した研究の品の捨て場所がこのオルノの森らしい。
長い時間の中で殆どは分解され消えてしまったけど、中には今も形が残っている物もあるそうだ。
「さてと・・・ここら辺には・・・・・・
毒キノコしか残ってないか・・・
ユマ、サトウ。もう少し奥に行くぞー」
「分かった」
キノコについては任せろ!
と、胸を張って言うルグを先頭に、俺達は森に入った。
入り口近くにも色んな種類のキノコが生えていたけど、ルグ曰く全部毒キノコらしい。
試しに2、3種類『教えて!キビ君』で撮影して検索すると、確かに全部毒キノコだった。
中には使い方によっては薬の材料になる物も在ったけど、俺に薬学の知識は無い。
下手に使って何か合っては怖いし、手を出さない事にした。
俺達3人の中で薬学の知識があるのはルグだけど、ルグもそこまで詳しくない。
グリーンス国に生えているキノコなら兎も角、ローズ国限定のキノコを使った薬や毒は分からないと言っていた。
ルグの話では分家の子供とは言え薬作りの才能があったリーンの子孫として、最低限の薬の知識は幼い頃から叩き込まれるらしい。
リーンと同じエルフだからか、ルグの家族の中では長女の『ユニ』さんが1番薬作りが上手いそうだ。
「あ!ここ食用のキノコが沢山生えてる!!」
「これとか?」
「ユマ、それ毒キノコ!!!」
暫く森の中を歩いてルグが見つけたのは、苔と蔓草に覆われた四角い何かの残骸の側。
そこにはどう見ても食用に思えない色とりどりの奇抜なキノコが沢山生えていた。
赤紫とクリーム色の水玉キノコとか、
青緑色の線が入ったクラゲの様な形のキノコとか、
カサの部分にデカデカと人の顔みたいなのが浮かんだのとか、
芸術家の作品にありそうな赤と白のストライプの丸い椅子みたいなのとか。
ユマさんが近くで採った薄い茶色の毒キノコの方がまだ食用に見える位だ。
「これとか、あれとか。あ、これも!
全部、美味いキノコなんだよ!!」
「えーと、ユマさん。
俺達は『教えて!キビ君』で確認しながら採ろうか?」
「うん。そうしよっか」
事前に『クリエイト』と『ミドリの手』で作った文字の無い新聞紙を敷き詰めた籠に、ルグはドンドンキノコを入れていく。
異世界のキノコの知識の無い俺と、キノコには詳しくないユマさんは『教えて!キビ君』で確認しながら採る事にした。
毒々しい色や派手な柄をしているのが毒キノコとか、
縦に裂けるきのこは食用とか、
虫やナメクジが齧ったキノコは安全とか。
全部迷信なんだよな。
毒状態にしそうな鮮やかな紫色のウラムラサキって小さなキノコは、小さくて肉も薄くてキノコ狩りの対象外になる事が多いけど一応食用のキノコだ。
逆に地味な方のなめこにそっくりな、死者を出す程の猛毒を持つコレラタケって言うキノコも存在するし、地味な見た目で香りも良くておいしそうなカキシメジって毒キノコも存在する。
世の中には他の動物は大丈夫でも人間にだけ猛威を振るうキノコだって存在するんだ。
素人の中途半端な知識と勘で採ってきたキノコを食べる方が、バンジージャンプや遊園地のお化け屋敷に入るよりよっぽど怖い。
我がパーティーのプロキノコハンターは素人2人を置いて夢中でキノコを採っているから、俺達は俺達で安全なキノコを見つけないといけないんだ。
本当、食べ物の事になると周りが見えなくなるのはルグの悪い癖だと思う。
「えっとこれは・・・・・・ケタタタダケ。食用か」
「サトウ君、このピンクのは?」
「えーと・・・・・・
右のがチェリーマッシュって言う普通に食べれるので、左のはそっくりなアンチェリーマッシュって言うキノコだな。
一応食べれるみたいだけど、高度で特殊な調理技術がないと麻薬の様な依存性の高い幻覚作用のある毒を出すみたい」
「じゃあ、こっちは持って帰らない方がいいね」
『教えて!キビ君』で確認して採ったキノコは、まとめサイトで見たアメリカのお菓子以上に奇抜な物ばかりだ。
ボスおススメのオオベニダケはテングダケ見たいに白いツブツブのあるカエンタケだし、コイスダケは小さなサルノコシカケみたいな形で、外が真っ白内側が焦げ茶色のキノコ。
他にも蛍光ピンクのキノコやグミみたいなキノコなんかも合って、俺の知っているキノコからかなり離れている。
「確認したから食用なのは間違いないけど、これ本当に美味しいのか?
一応食べれるけど、飲み込めない位不味い物ばっかって事は無いよな?」
「大丈夫だよ。
これとか養殖される位すっごく美味しいんだよ!」
「そうそう。オレが採ったんだぜ?
間違いなく美味いのしかないって!
そんなに不安なら、1度食べてみればいいだろ?」
蒸れない様に新聞紙で包んで『クリエイト』で出したテープで中身が零れないように閉じて鞄へ。
食べれるのは分かっているけど、絶対美味しいとは思えない色と形なんだ。
採って来たは良いけど全部不味かったです、じゃ酷過ぎるだろう。
唯の嫌がらせだ。
ルグとユマさんはああ言ってるけど、俺は未だに美味しいとは思えなかった。
そんな俺にルグは焚き火を用意して木の棒に幾つかのキノコを刺して焼き出した。




