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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 1 章 体験版編
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123,治癒の鳥を探して 21羽目


 数日後、チボリ国にいるトムさんから手紙が届いた。

2人共無事で、今はチボリ国に住むトムさんの友人に匿って貰ってるらしい。

ただ、魔女とおっさんを警戒してトムさんの友人のペットに手紙を届けさせるのはいいけどさ。

巨大な蝶は無いと思う。


毎朝やってる玄関の掃除をしていたら、巨大な蝶が手紙を持って舞い降りた。

蝶が目の前に降りて来た時は、草原から魔物が入ってきたのかって声が出ない程驚いたな。

蝶は襲われると思って腰を抜かす俺に、手に持った手紙を渡してきてさっさと飛び去ってしまった。

暫くポカンと飛び去った蝶を眺めていたら、スズメに突っつかれて漸く立ち上がれたんだよな。

後、蝶の羽ばたく風圧で掃除をやり直させられた恨みは暫くの間忘れないから。


「・・・・・・・・・なあ、ユマさん。

『裏眼』ってスキル知ってる?」

「え?うん。

チボリ国とヒヅル国の王族がたまに持ってる固有スキルだよ」


朝食を食べ終わり食後のお茶をのんびり飲んでるユマさんに、同じく食べ終わって手紙を読んでる俺はそう聞いた。

今日の朝食はルグの故郷のクレープっぽい料理。

畳んで2、3個重ねたクレープの皮にジャムやメープルシロップをかけたものだ。

俺とユマさんはルグと違い、どちらかと言うと朝に甘い物だけ食べるのがキツイ。

だから、しょっぱめのクレープも2種類作った。


1つは照り焼きチキンとレタス、キュウリ、トマト、玉ねぎをクレープの皮で包んだもの物。


もう1つは風見鶏のゆで卵のマヨネーズ和えとレタスを包んだ物だ。


木の実の粉じゃなく小麦粉で作ったし、ソースもグリーンス国の伝統的な物じゃない。

でも、ルグには懐かしい故郷の味に近い料理だ。

何時もよりゆっくりと味わっておかわりしていくルグに、俺達の声は一切聞こえていないだろう。

だからユマさんに尋ねたんだ。


「『裏眼』のスキルを持つ人が現れる様になったの、1000年前からだよね?」

「うん、そうだけど・・・・・・

手紙にどんなスキルか聞いてくれって書いてあったの?」

「いや。

マーヤちゃん、カラドリウスの捜索の依頼人の娘なんだけど、その子が『裏眼』のスキルを持っていたんだって」

「え!

ローズ国の王族で『裏眼』を持って生まれた人間なんって今まで1人も居なかったよ!!

あっ、もしかして『裏眼』ってDr.ネイビーから・・・・・・」

「多分・・・・・・」


トムさんの手紙には、


『マーヤには何世代も前の祖先である勇者様が持っていたと言われる『裏眼』と言うスキルを持って生まれていたんだ』


と書いてあった。

手紙によると『裏眼』は周りの者『魂』が見えるスキルらしい。

それで思い出したのはDr.ネイビーの手記。

あれには確かに、『僕のスキルの1つに相手の心と言うか、魂と言うのかな?そう言うのが見える物がある』って書いてあった。

ユマさんに確認したら、やぱっり『裏眼』のスキルを持って生まれた人が現れ出したのは1000年前。

もう片方の祖先がそう言うのに詳しそうな魔法使いと僧侶だったからか、今まではチボリ国とヒヅル国の王族しか『裏眼』のスキル持ちは現れなかった。

何が理由かハッキリ分からないけど、隔世遺伝でマーヤちゃんは『裏眼』のスキルを持って生まれたらしい。


「サトウ君は信じたく無いだろうけど、『裏眼』のスキルを持ってる人は幽霊が見えるんだよ」

「今回は流石に信じるよ。

この間1人で城に行った時、実際マーヤちゃんが幽霊と話してる所見てるからね」

「あぁ!

だからサトウ君、帰ってきた時真っ青な顔してたんだね。

花なり病が悪化したのかって心配したんだよ?」

「大丈夫だよ。花なり病の方は何も変化ないから。

でも、知らない内に隣に幽霊が居たのは・・・」


今思い出しても体が震える。

相手がマーヤちゃんのお母さんで、死んでからも夫と子供を守っていた守護霊だとしても、幽霊って時点でやっぱり怖いんだよ!


マリーことマルガレーテ・キュラソーさんは、マーヤちゃんが生まれる前に亡くなったトムさんの奥さん。

もう直ぐマーヤちゃんが生まれるって時に、城の階段から落ちて亡くなった。

お腹に居たマーヤちゃんはまだ辛うじて生きている事が分かり、未熟児ながらもマリーさんのお腹を裂いて取り出して生まれる事が出来たそうだ。

多分、マーヤちゃんが生きて産まれる事が出来たのはマリーさんの母親としての意地だったんだろうな。

マリーさんが持つ結界系の魔法がマーヤちゃんにこれでもかって位掛けられていたらしい。

だからマーヤちゃんだけは生きていた。


「マーヤちゃんが知らないはずの、母親の名前と死因を言ったからトムさんはマリーさんが近くに居るって分かったんだろうな」


マーヤちゃんがもう少し大きくなったら伝えるつもりで、マリーさんの事をずっと黙っていたトムさん。

特に死因については周りにも厳命し、一切マーヤちゃんの耳に入らない様にしていたそうだ。

マーヤちゃんに如何して自分に母親が居ないのか聞かれた時は、遠くに旅に出てるって誤魔化して。


「・・・・・・手紙には詳しい事は書いてない。

けど、マリーさんは現ローズ国王にとって不都合な、これだけで状況がひっくり返るある重大な秘密をシャンディの森で知ってしまった。

だから口封じの為に殺された」


今までトムさんはマリーさんが階段から落ちた理由を、身篭っているから上手く体が動かせなくて誤って落ちた事故だと思っていた。

しかし、本当はおっさんが秘密を知ったマリーさんの口封じの為に、自分の息のかかったメイドを使い階段から落として殺したんだ。

そして今度は殺したマリーさんの姿が見えて会話できるマーヤちゃんまで手にかけようとしている。


「ジャンディの森・・・・・・ゾンビの・・・」

「うん。後、もう1人。

この事実を知って消された人が居る」

「それって、オレが調べてる時に出て来た19年前に行方不明なった王女か?」

「ルグ、何時から聞いてたんだよ」


ルグの方を見ると、空のお皿が目に入った。

竈の方を見ると山盛りに用意していたクレープまで綺麗に消えている。

全部食べ終わったから、話に参加してきたのか。


「口封じの話が出て来た辺りから。

それで、もう1人は行方不明の王女で合ってるんだよな?」

「あぁ。

手紙によると、1番始めに秘密を知って反発したのがその王女様らしい」


亡き前ローズ国王が決めた相手以外と関係を持った。

その事を口実におっさんは、自分達にとって不都合な事実を知った王女を勘当し、城を追い出した。

間違いなく、その後どこかで・・・・・・


「ルグとユマさんが依頼書を処分してくれて助かったよ。ありがとう」

「ううん。

ちょっと改造が追いつかないくらい、色々危ない情報を知っちゃったからね。

サトウ君には言ってなかったけど、ルグ君と話し合って何処かで燃やすつもりだったんだ」

「そうだったの?」


もし、何も考えずに依頼書を渡していたら、きっと間違いなく俺達も殺されていた。

もしかしたら魔女が依頼書を書けって言ったのは、俺達がゾンビの村を見つけるかどうか確認する為だったのかも知れない。

まぁ、その依頼書はユマさんが燃やしたから無いけど。

ゾンビの村を覆う時間結晶を作っている時、ルグとユマさんは依頼書を処分する事を話し合っていたらしい。

俺はそこまで気が回ってなかったけど、あの村の正体を知った時点で2人はローズ国に知らせるのはマズイと判断していた。

もし『アイテムマスター』のスキルで改造しても、今度は改造のし過ぎでその事がバレる可能性も出てきていたそうだ。

だから、いっそうの事燃やしてしまおうとなったらしい。


「あの村のことは、ローズ国に強く出れるカードだからね」

「確か世界中でゾンビにするのが硬く禁止されているんだよな。

それをコッソリやってたんだ。当然、そうなるよな」


だからこそ、トムさんとマーヤちゃんは匿われている。

友人の頼みってのもあるだろうけど、マーヤちゃんとマリーさんの持ってる情報はチボリ国にとって欲しくてたまらない情報だろう。

ローズ国と言うか英勇教は、勇者を呼んである意味世界征服を企んでる様なものだからな。

他の国からしたら世界平和の為にさっさと潰したいんだろう。


「あの村の事は、もう直ぐこの国で行う人間の国同士の会議でローズ国を追い詰めるいい情報だよ。

たぶん、チボリ国はそれと魔道書の事を理由にローズ国と自分達に有利な条件で後腐れなく同盟を切るつもりなんだよ」

「・・・そんな国際会議が合ったんだ」

「私達の国と違って、人間の国同士の会議ってあんまり国民には会議の事知らせないみたい。

だから、知らない人も多いんじゃないかな?」

「けど、必ず2、3年に1回何処かの国で行なってるんだよな。

今年はたまたまローズ国の番」


全くそんな話聞いてなかったから知らなかった。

一応国同士で集まって会議をしてるんだな。

Dr.ネイビーの魔道書の事と言い、今回のゾンビの村の事と言い。

間違いなく今年の会議は大いに荒れるだろうな。


でも、チボリ国と同盟がなくなったら、ローズ国民は困るだろうな。

塩とかミルクラクダのミルクとか手に入らなくなるんだから。

今より生活が大変になると思う。


「会議は確か・・・・・・・・・

2週間後にあったはず。

ちょうどユマの迎えが来る位だな」

「もう、そんなに経ったのか・・・早いな・・・」


ルグとユマさんと一緒に居られるのもあと少し。

やけに時間が流れるのが早く感じる。

もう少しでお別れだと思うと、これまでの事が思い出されて、やっぱ少し寂しいな。

帰りたいって気持ちは変わっていない。

でも、寂しいって思うのも事実なんだよな。


だから、最後の最後位。

いや、最後まで、楽しい思い出を残さなきゃな。


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