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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 1 章 体験版編
124/498

122,治癒の鳥を探して 20羽目


 トムさんと一緒にマーヤちゃんが居る中庭の1つに来た。

中心に多数の彫刻が彫られた大きな噴水があり、石畳がひかれていない場所には所狭しと色とりどりの花が咲いた背の低い木や芝生が植わっている。

赤系の花が多く、唯一青い花が咲いているのは何かの石碑の周りだけ。

トムさんの話では、この石碑はローズ国の初代王の墓らしい。

えーと、確か、初代ローズ国王は1万年前に活躍した初代勇者だったよな?

その疑問は正解だったみたいで石碑には、



『始まりの王にして最初の勇者


偉大なるレーヤ


此処に眠る』



と書かれていた。

初代ローズ国王の名前がレーヤと言う事意外、他には書かれてない。

でかくて豪華な割りに書かれている文はシンプルで短いな。

その石碑の前にマーヤちゃんは居た。

芝生の上に座り、人形と楽しそうに喋っている。


「すごーい!マリーは何でも知ってるのね!!」

「こんにちは」


教会の前で言っていた『マリー』ってのはお気に入りの人形の事だったんだな。

マリーと名前を付けた人形と何を話していたのか。

目をクリクリと丸めているマーヤちゃんに俺は声を掛けた。

トムさんはマーヤちゃんに見えない様に中庭に面した廊下の柱の1つに隠れている。

そして俺の腰には開いたコンパクト型通信鏡。

この通信鏡を通して、俺とマーヤちゃんの会話をトムさんが聞いているんだ。


「あ、サトウおじ様!!」

「おじっ・・・・・・いや、えーと。久しぶりだね。

体の方はもう、大丈夫?」

「うん!!

たまに、ゴホゴホって咳が出るけど、もう大丈夫よ!!」

「それは良かった」


マーヤちゃんに目線を合わせる横にしゃがみ、声を掛ける。

この歳の子からしたら高校生はもうおじさんなのかなー。

幼い子供の無邪気な言葉に少し傷つきつつも、俺は何とか言葉を続けた。


さて、どうやって花なり病になった原因を聞きだそうか。

ついこの間まで病気だった幼い子供相手だから慎重に言葉を選ぼうとしていたら、そのマーヤちゃんからとんでもない爆弾を貰ってしまった。


「・・・あのね、サトウおじ様。

私・・・お願いがあるの・・・・・・ダメ、かな?」

「えっと、何かな?」

「あのね・・・・・・・・・

わたしを・・・わたしをね・・・

わたしを誰にも内緒で此処から連れ出して欲しいの!!!」


この間の飴が気に入ったからもう少し欲しいって言われるかと思ったら、コレですよ!

ゲームや漫画じゃあるまいし、まさかそんな事言われるとは思わなかった。


誰にも秘密にって言われたけど、ごめんマーヤちゃん。

バッチリ、お父さんがこの会話聞いてるんだ。

通信鏡から微かにガタガタと音がしたから、トムさんが叫びそうになったのを必死に止めたんだろうな。


「えーと・・・

お父さん、凄く心配すると思うけど、マーヤちゃんはなんで連れ出して欲しいのかな?」

「・・・・・・・・・」


出来るだけ笑顔でそう尋ねる。

でも、マーヤちゃんは人形を抱きしめ、俯いて黙ってしまった。

幾ら待ってもマーヤちゃんは口を開かない。

こうなったらもう、ここは直球に聞くしかない!!


「お父さんの事嫌いになっちゃった?」

「そんな事無いわ!お父様は優しくて大好きよ!!

でも・・・・・・」


良かったですね、トムさん。

とりあえず、娘さんに嫌われてませんよー。

内心、トムさんにそうメッセージを送りつつ、マーヤちゃんの言葉を待つ。

通信鏡越しにトムさんが狂喜乱舞している音が聞こえるけど、『でも』の後の言葉によってはどん底に落とされるぞ。


「皆、わたしが嫌いだから・・・・・・

ここに居たらわたし、殺されちゃう!!」

「え?ころ、嘘だろ?だ、誰がそんな事!!」


体を小刻みに震えさせ、怯えきった目で自分は殺されるんだと言うマーヤちゃん。

冗談や嘘、空想でそんな事言えるとは思えない態度に俺はそれがある意味本当の事だと思えた。

殺されると言うのが本当の事かは分からない。

でも誰か、マーヤちゃんが信頼している何者かが、マーヤちゃんに、


「お前はもう直ぐ殺されるんだ」


と言ったのなら?

信用できるそいつに言われたその言葉はマーヤちゃんの中で真実となる。

本当にマーヤちゃんを殺す計画があるのか、それとも別の目的があるのか。

今はマーヤちゃんにそう言った人物の目的は分からない。

けど、マーヤちゃんが花なり病になったのはコレが原因だと思う。


「マーヤちゃん、教えて。皆って一体、誰の事?」

「・・・ルチア姉様とおじ様」


マーヤちゃんがポツリと零した相手。

魔女とおっさん、か。

確かにあの2人ならやりかねないな。

平然と異世界人を殺せるあの2人なら、誰かを殺す事に対す禁忌感が薄れていそうだ。

何か不都合が有れば親戚を手にかけても内心平然としてるんじゃないのか?


「マリーが教えてくれたの。

ルチア姉様は悪い悪い魔女だって。

沢山、人を殺して、操る魔女だって。

ルチア姉様とおじ様の近くに居る人は皆、魔法で操られてるんだって。

わたしがルチア姉様にとってジャマな子だから殺そうとしてるの。

教会の赤い泉に居る白いトリさんも赤いトリさんも言ってたわ!

それに、サトウおじ様と一緒に居る黒い人達も・・・」

「マリーと、トリさん?黒い人達?」


マーヤちゃんが最後に消えそうな声で言った、俺と一緒に居ると言う黒い人達ってのも気になる。

けど、俺の意識は直ぐに目の前にある物に向いて、その事が一時的に記憶から消えてしまっていた。

思い当たる人物が一切いない黒い人達より、今ここではっきり目に映る人形。


俺の目と意識は自然とマーヤちゃんが抱きしめる人形に行っていた。


リボンとフリルたっぷりの女の子の人形。

毛糸と布と木のボタンで作られたぬいぐるみで、糸で作られたニッコリ笑う口は愛嬌がある。

色あせて古い印象を受けるけど、ほつれたり中身が出ている様子が無いから、この人形が大切にされているのが良く分かった。

でも、その人形が今はとても不気味な物に見える。


「マリーってその人形?」

「違うわ。この子はビアって言うの。

マリーはサトウおじ様のお隣に居るお姉さんよ?」

「え、隣?」


両隣を見るとけど俺の隣には誰も居ない。

小さな生き物なのかと思い地面を見るけど、芝生の上には虫1匹居なかった。

空を確認しても鳥や羽虫の姿も無い。

マーヤちゃん、君には何が見えているのかなー?


「どうしたの、マリー?」

「マ、マーヤちゃん?」

「変なマリー?

さっきまでサトウおじ様と一緒に冒険してたんでしよ?

サトウおじ様とお話しなかったの?・・・そう?」


俺に見えない誰かと急に話出したマーヤちゃん。

く、空想の中でイマジナリーフレンドと話してるんだよな?

この位の子供ならよくやる事だよな?

そうだよな!?

そうマーヤちゃんの突然の行動に内心不安になる俺を真っ直ぐ見て、マーヤちゃんは俺にどう反応していいか分からなくなる様な言葉を投げた。


「あのね、マリーがサトウおじ様に伝えてって。

マリーの本当の名前はね、マルガレーテ・キュラソーって言うの。

階段から落とされたマリー。

そう言えば、わたしが嘘を言って無いって分かって貰えるって。

マリーが言ってるの」


誰も居ないはずの俺の隣を真っ直ぐ見ながらそう言うマーヤちゃん。

マーヤちゃんの瞳には俺以外のダレカが確かに映っていた。

その事に気づき俺達の周りの温度が下がった気がする。

同時に、さっきまで誰も居なかった筈の俺の隣からダレカの呼吸音と人の気配がした。

怖くて、自分の真横が見えない。


「マーヤ!!」

「お父様!?」


声のした方を見ると肩を上下に揺すり、息を切らしトムさんの姿。

その両手には2つの四角い鞄が握られていた。

トムさんは息を整えて、マーヤちゃんを抱き上げる。


「どうしたの、お父様?」

「マーヤが元気になったからね。

2人で他の国に旅行に行こう!!」

「本当に!?」


マーヤちゃんは嬉しそうに目を輝かせトムさんを見上げる。

笑顔を浮かべるトムさんの目には濃い焦りの色が浮かんでいた。

さっきのマリーからの伝言。

あれは俺が持つ通信鏡越しにトムさんに言われた事だったんだ。


「いつ、行くの?」

「今からさ!

準備はしてあるから、直ぐに行けるよ。

そう言う事だから、サトウ君。

君も城の外まで送っていくよ」

「あ、ありがとうございます。

そうだ!

折角なので、俺の『フライ』で馬車の停留所までお送りしますよ?

その方が早いですから」

「それはありがたい。

マーヤ、空を飛べるんだぞ!?凄いなー」

「うん!!」


マーヤちゃんが不安にならない様に、俺とトムさんは芝居をした。

でも本当は、心臓が口から飛び出しそうな程焦ってる。

心臓がバクバクと早鐘を打ち熱くなり、正反対に背中には冷たい雫が伝った。

トムさんのこの様子から、本当にマーヤちゃんが殺されそうなんだと分かる。

周りに焦っているのが分からない様に、俺は出来るだけ冷静にレジャーシートを鞄から出し2人を乗せた。


「すごーい!たかーい!!

お庭があんなに小さくなっちゃった!!」

「マーヤちゃん。

落ちたら危ないから、あんまり顔は外に出さないでね?」

「うん!」


ある程度、上空に上がった所でトムさんが俺の腰に着けたままだった通信鏡をマーヤちゃんに見えない様に回収し、地面に落とし壊した。

トムさんを見ると目で行ってくれと訴えてきている。


「それでは、行きますね。

それなりにスピードが出て危ないので、確りシートに捕まってください」


俺は2人に1言注意し、乗っている人が怖くならないだろう範囲内で、出来るだけスピードを出した。

俺もトムさんも出来るだけ早く、ローズ国城を離れたかったんだ。

そして、トムさんとマーヤちゃんが無事チボリ国行きの馬車の乗ったのを確認して、俺も帰った。


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