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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 1 章 体験版編
120/498

118,治癒の鳥を探して 16羽目

今回もルグ視点で進みます


「ここだ、入れ」

「お邪魔します」


医者のカラドリウスに案内されたのは一軒の小さな家。

中には幾つもの草が吊るされ、表現できない独特な臭いが充満していた。

棚には所せましと何種類もの薬が置かれている。


薬とその材料の植物に溢れた狭い家の中。


ユマは医者のカラドリウスに指示され、隣の部屋の隅のベットにサトウを寝かせた。

医者のカラドリウスはゴテゴテした眼鏡(ゴーグル)を掛け、生えた草を掻き分けながらサトウの体を触ったりしながらちゃんと見てくれている。


「さてと・・・・・・・・・

何でこんな状態でコイツ生きてるんだよ。

皮膚も内臓も殆ど草になってるじゃねーか」


サトウの心臓が動いて息をしてるのが異常だと言う医者のカラドリウス。

既にサトウの花なり病は薬も効かないほど末期の末期に達しているそうだ。

だから、万能薬を飲ませても治らなかったのか。


「本当にサトウ、治るんだよな!?」

「普通なら死んでないと可笑しい状況なんだ。

契約だから、やれるだけはやるけど期待するなよ。

・・・・・・あぁ、なるほど。

この膜がコイツを守って生かしてるのか」


医者のカラドリウスの話では、今サトウの体は透明な薄い膜の様な物に覆われているらしい。

この膜こそ、サトウの『創造スキル』が発動している証拠。

この膜を通す事でオレ達の言葉はサトウの世界の言葉に聞こえるし、サトウの言葉はオレ達の言葉に聞こえる。

そして、サトウはこの世界の病気にならないし、サトウが持っている異世界の病気がオレ達の世界に蔓延する事を防いでいてくれているんだ。


知らなかった。

隣で笑い合っていてもオレ達とサトウは常に壁1枚挟んで生活していたんだ。

そうじゃないとサトウが死んじゃうって分かっているけど、何か、寂しいな。


「これなら問題ないか・・・・・・」


そう言って魔族の姿に戻りサトウに顔を近づけて大きく息を吸う医者のカラドリウス。

医者のカラドリウスが息を吸うとサトウの体が緑色の風に包まれ、その風が医者のカラドリウスの喉もとのオレンジ色の部分に吸い込まれていった。

緑色の風が全て医者のカラドリウスに吸い込まれて現れたのは、ほんのさっきまで死に掛けていたとは思えない健康体そのものサトウ。

規則正しい寝息を立ててベッドに横になる姿は、ただ寝ているようにも見える。


「・・・・・・サ、トウ、君?

ナニコレ・・・なんでこんな・・・・・・」

「本当なら、このまま病気を吸っても草になった部分は戻らないんだがな。

コイツが体を再生される効果がある魔法道具を持っていたから何とかなったが、見ての通り痕が残った。

俺達ができるのはここまでだ。

まぁ、見た目が変わっただけでその魔法道具を持っている間は、日常生活に問題ないから気にするな」


病気は治ったけど、サトウの体には異変が起きていた。

真っ黒だった髪は殆ど深緑色で、虫の触覚の様に所々が白い。

服を脱がせ見えた腕には誰かに強く掴まれ、痣になった様な黄緑色の手形が無数に刻まれていた。

きっと痣は服で見えない範囲にまで、それこそ体中の皮膚に広がっているんだ。

ちゃんと発動している『環境適応S』の効果で、この世界で最低限生きられる、一応五体満足な姿に戻ったサトウ。

でも、生きているけど、変わり果てた姿のサトウにオレもユマも目が離せなかった。


「・・・待ってください。

魔法道具を持っている間は問題ないって、どう言う事ですか?」

「そのまんまの意味だ。

そいつが今持ってる魔法道具を外して付属スキルが効かなくなったら、花なり病が再発してその緑色の痣から草に変わっていく」

「何だよ、それ!!話が違うじゃないか!!!

サトウの病気を治してくれたんじゃないのかよッ!」


医者のカラドリウスの言葉にオレは思わず、掴みかかっていた。

サトウの花なり病を治せるならと、オレ達は契約したのに、再発する何って聞いてない!!

怒りで疲れが吹っ飛んだそんなオレを静かな目で見下ろして、医者のカラドリウスは酷く冷たい声で言い放った。


「お前達は勘違いしてるんだよ。

カラドリウスが難病でも不治の病でも、どんな病気でも治せるって?

それこそ御伽噺だッ!!!

ウィンがいい例だな。

俺達にも完全に治せない病気がある。

実際は初期状態に戻すのがやっとな病気の方が多い位だ。

じゃ無きゃ、俺は医者何ってやっていないッ!!」


闘志にも似た強い覚悟を宿した目でオレを睨み、医者のカラドリウスが怒鳴った。

それは医者としての誇りと決意からくる覚悟の色なんだろうな。

この医者は一体何人の患者を、力不足で助けられなかったんだろう?

そんな事を医者のカラドリウスに対する怒りが収まらない部分とは別の所でどこか他人の様にオレは考えていた。


「たまたま、花なり病もその1つだっただけだ。

坊主、契約の内容を間違えるな。

ウィンは『特別にその人間だけはワタシ達の出来る範囲で治してやる』って言ったんだ。

完治させるとは言っていない」

「そんな・・・・・・・・・」


医者のカラドリウスにそう言われ、俺は力なく床に座り込んだ。

立つ事すらできないほど、体に力が入らない。

じゃあ、最初からこいつ等は依頼主の娘を助ける事はできなかったって事?

サトウは・・・・・・

サトウはッ!

無駄に病気になったって事なのかよ!!?


「言っとくけどな、そいつはまだマシなんだよ。

魔法道具を持っている間は、絶対再発しない。

普通だったら、あの状態で初期状態に戻しても直ぐ末期の状態に戻るか、体の機能が正常に働かなくて直ぐ死んじまうんだよ」


医者のカラドリウスは深々と椅子に座り、俺達を病気にしようとした時に使っていたタバコとは臭いが違うタバコを吸っている。

そしてタバコの煙と一緒にサトウは運がいいと言った。

痕は残ったけど五体満足で、今まで通り生活できる。

表面上は見えないけど、体内の機能もなんの問題もなく正常。

普通だったら、ベットに寝たっきりで喋る事すら出来ず死を待つだけ。

それに比べたらどれだけマシだと思うんだ、と。


「甘えるな」


そう憎悪とも殺気とも怒気とも違う、でも恐ろしく感じる何かが篭った声で言われた。

オレもユマも、そんな医者のカラドリウスに何も言えない。

医者として多くの無力な『死』を見てきた医者のカラドリウスに、何も言い返すことが出来なかった。


「さっきまで死に掛けていた奴を直ぐにほっぽり出すほど俺も冷酷じゃない。

暫くはここに居てかまわないさ。

でも、その人間が起きたら、村から出て行け。

それで、2度と此処には来るな。

それで良いだろ、ウィン」

「えぇ。

ヒュマイア姫、それまでは好きにするといいよ」

「・・・・・・・・・ありがとうございます」


1本のタバコを吸い終わった医者のカラドリウスがそう言った。

それに頷いた村長のカラドリウス。

その2人にユマと共に深々と頭を下げる。

それを見て、医者と村長のカラドリウスは別の部屋に行ってしまった。

多分、この部屋は好きにして良いってことなんだろう。


「サトウ君・・・・・・」

「・・・・・・花なり病は一応、治まったんだ。

直ぐ目を覚ますさ」

「うん・・・・・・」


静かに寝息を立てるサトウはまだ目を覚ましそうに無い。

流石に、寝すぎだぞ。

早く起きろよ、サトウ。


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