11,地下水道
散々悩んだ挙句、結局俺は地下水道を進む事にした。
そして、数十分でこの決断を後悔するとは。
結論から言うと迷子になった。
方向音痴と言う訳でもなく、帰り道が解る様に印もつけた。
なのにまさか、ある魔物の性質で迷うとは・・・
その魔物の名前はメテリス。
出合った事で図鑑に登録された情報によると、
メテリス・・・
空間を歪め拡張し迷路を造る特殊な音波を出す蝙蝠。
普段は数十匹の群れで暗い洞窟や地下水道で生活している。
空間拡張の超音波は群れの数が増えたことで群れを離れた若い雄、数匹の群れが新しく巣に決めた場所を自分達が住みやすい場所にする時限定で出す。
普段は目の代わりの特に特殊な効果が無い超音波か、好物の蔓蜜柑をその土地に馴染ませ急激に育てる効果がある超音波を出す。
恐ろしい見た目に反して花の蜜や果実しか食べない。
生息地はローズ国内とヒヅル国内、アルバ島周辺の島々。
と言う事らしい。
ヒヅル国とアルバ島は俺が詳しい情報を知らないからか、アプリ内で調べる事が出来なかった。
何度か使う事で少し解ったけど、どうも生き物や植物。
道具は微妙だけど、これらのモノは出会うだけで詳しい情報が出る様だ。
だけど、この世界の一般常識や専門用語、地理といったものは俺が実際説明を聞かない事には情報が載らないらしい。
で、アプリの情報と俺が体験した事を合わせると。
俺は運悪くメテリスの巣立ちの時期にこの地下水道に入ってしまったらしい。
現に俺の上空を蝙蝠の群れが飛びまわりだした瞬間、周りの風景が歪み、危く壁に埋もれる所だった。
間一髪、壁の仲間にならずにすみ周りを見る。
すると、入った時よりも広くなり緩やかな小川が流れ光る苔と、蜜柑に似た形の拳大の青紫色の実が生った蔓に覆われた壁に変わっていた。
この場合を劇的に変えた蝙蝠達は今、嬉々として蔓の実を食べている。
説明を見るに、見たまんまこの蔓が蔓蜜柑なんだろう。
蝙蝠達が満足して離れたのを見てから俺も1個食べてみた。
説明によると俺が知ってるミカンと違って皮ごと食べれるみたいだ。
食感は普通の蜜柑と変わらない。
けど、味は酸味よりサッパリ爽やかな甘味が目立つ。
生でも美味いけどジャムとかにも向いてると思う。
アプリにも登録されたから、何時でも『ミドリの手』で作り出せるな。
「だから、もう採らないよー。
ね、そんな怖い顔で迫んないで、メテリスさん方?」
俺が蔓蜜柑を採って食べた瞬間、元々般若みたいだった顔を更に歪めて真後ろに迫るメテリスの群れ。
何とか交渉しようとしたけど、群れのボスらしきメテリスが甲高く1声鳴いたのを期に一斉に襲ってきた。
「ご、ご、ご、ごめんなさぁあああああいッ!!!」
俺、涙目で逃亡中です!
今なら新記録出せるかも。
*****
メテリス達に追われていると段々、クロッグや体だけでも大きなスイカ、足の長さを入れれば倍位の鼠色の蜘蛛までも追いかけて来た。
出来るだけ距離を置き、魔物達の少し手前の真上に『プチレイン』を起こす。
そして、タイミングを計って雨雲に『アタッチマジック』で『サンダーボール』を付属させた小石をパチンコで打ち込んだ。
光苔のお陰で薄明るかった地下水道に、大きなライトを向けられた様な光と共に、雷が落ちる。
俺は咄嗟に、丸まって耳を押さえ目を瞑っていた。
予想以上の轟音と威力で鼓膜は破けそうだし、頭はクラクラする。
メールの着信音が聞こえる頃になって、やっと目をそっと開くと魔物だった真っ黒に焦げて異臭と共に黒い煙を放つ物体。
それと、一目散に元来た道を逃げていく生き残った魔物達の姿が遠くに見えた。
ふと気がつくとパチンコ以外に何かを握り締めている事に気がつき手を開く。
多分これが今回のドロップアイテム。
数枚の穴の開いてない銅貨と銀貨。
それと、メールには、
『ドロップアイテム
メテリスから“空間結晶”×4
メテリスから“時空結晶”
クロッグから“時間結晶”×2
クロッグから“時空結晶”×2
ダーネアから“ダーネアの糸”×3
ビッグダーネアから“上質なダーネアの糸”
ビッグダーネアから“上質なダーネアの布”
をゲットしたよ』
の文字。
メールの文字と手の中のドロップアイテムの数を照らし合わせると、透明感のある薄紫色の塊が空間結晶で、中心で黄緑色と薄紫色の線が十字に交わったビー玉みたいなのが時空結晶だろう。
それと、俺には全部同じに見えるけど、どれか1本は上質な糸であろう、両腕を広げて2週分位の長さの4本の鼠色の糸。
後は糸と同じ色をした、広げると風呂敷より一回り小さい位の布が1枚。
空間結晶・・・
メテリスのオーガンを潰してろ過して固めた透明感のある薄紫色の塊。
自在に空間を広げられる。
不純物が少ないほど効果が高い。
主に高級なホテルの部屋に使われている道具魔法アイテム。
時空結晶・・・
クロッグとメテリスのオーガンを混ぜてろ過し固めたもの。
自在に空間を広げ中の時間を止める。
主に冒険者用の鞄に使われている。
道具魔法アイテム。
ダーネア・・・
主にローズ国の首都、アーサーベルの地下水道に生息する鼠色で平均60cmの蜘蛛。
肉食で気性が荒く超好戦的な性格から自分の何倍もある動物でも、マナで出来たとても頑丈な鼠色の糸で襲って食べてしまう。
どちらかと言えば弱い分類に入る魔物で倒し易い。
そのため簡単に手に入るダーネアが出す糸で作った鞄や服は、安く丈夫なことから駆け出し冒険者に人気。
冒険者の初心者装備の素材として有名。
但し伝説のビックダーネアには注意が必要。
ビッグダーネア・・・
10年以上生きたダーネア。
糸の質が少し良くなるだけで見た目は変わらない。
長年生きていただけあって初心者冒険者には荷が重いがやっぱり弱い分類。
アーサーベル地下水道には100年以上生きたダーネアの2倍ある伝説のビックダーネアが居るという噂があるが見たものは誰も居ないらしい。
アプリで調べたところ、そういう説明が出た。
あの巨大蜘蛛がダーネアだったみたいだ。
そして、魔女達を連れて行ったのは多分伝説のビッグダーネア。
糸と角度のせいで4つだけしか目を見て無いけど、誰も見た事が無い噂のモンスターを見てしまった。
『肉食で気性が荒く超好戦的な性格で自分の何倍もある動物でも襲って食べてしまう』、『長年生きていただけあって初心者冒険者には荷が重い』魔物が闊歩するこの地下水道で迷子になってる俺。
こんな無理ゲーみたいな状態で俺は無事出られるのか?
メテリスのせいでさっきみたいに印を付けても地図を描いても意味が無い。
水路の流れを参考にしてもちゃんと外に向かっているのか分からない。
後は・・・・・・
「そう言えば、何かで風の吹く方向を参考にして外に出ていたな」
あれは迷路みたいな地底洞窟だったけど、同じ地下なら上手くいくかもしれない。
近くに生えていた苔を摘み、頭上で手を離した。
苔は真っ直ぐ落ちず少しだけ俺が来た方向に飛んでいく。
外から風が来てるんだから苔が飛んでった方向と逆に進めばいいんだよな。
俺はドロップしたアイテムがダーネアの布にちゃんと包まれているのを確認すると、風が来る方向に進んだ。




