116,治癒の鳥を探して 14羽目
今回もユマさん視点で進みます。
「・・・・・・水の魔元素に流された?」
この地下洞窟を流れる水の魔元素。
持った事ないから詳しく分からないけど、サトウ君は片手であの通信鏡を操っていたし、何よりこの世界の通信鏡に比べてすっごく薄かった。
あの通信鏡はとっても軽くて水に浮くのかも。
だから運悪く水の魔元素の川に落ちて、遠くに流された。
「きっとそうだ!ルグ君、急いで追いかけよう!!」
「待ってユマ!」
サトウ君が花なり病を発症してからだいぶ経つ。
気のせいだとは思えないほど、サトウ君の体から生えた赤い蕾が今にも開きそうなほど膨らんできていた。
この蕾が開くのも時間の問題だろう。
それに水の魔元素の流れは結構速くて、通信鏡が本当に流されていたら私達が混乱している間に相当遠くに行ってしまっているはずだ。
だからこそ川の流れに沿って走り出そうとした私は、何故かルグ君に止められた。
「そっちじゃない、逆だ!!
微かにこっちの方からサトウの臭いがする!
ドンドン臭いが薄くなってってる!!!」
「え!で、でもそれって・・・・・・」
ルグ君が指差したのは川の流れて来た方。
ゴーレムじゃ無いのに自動的に川を遡る何って事、自然に起きない。
サトウ君の通信鏡は勝手にどっかに行く機能はないはずだ。
そんな機能があったなら、もっと早くサトウ君は花なり病を発症していた。
でも、臭いがその方向に向かって薄くなっていってるって事は、何かが通信鏡を運んでいるって事?
いったい誰が何の目的で?
「ううん。
それ以前に、サトウ君の通信鏡ってサトウ君以外触れ無いって前サトウ君言ってたよ!?」
「分かんない、分かんないけど。
多分そう言う効果を打ち消すスキルや魔法を持った奴が持ってたんだ!!」
「そんな魔法やスキル何って聞いた事・・・・・・
ううん。今はそんな事気にしてる場合じゃないね!
急いで追いかけよう!!」
「あぁ!
と、その前に、ユマ。
サトウを背中に乗せてくれ!!」
ルグ君は頷くと同時に光に包まれネコに変わった。
その大きくなったルグ君の背中にサトウ君を乗せる。
サトウ君は花なり病のせいか、気絶した男の人とは思えないほど軽くて、私1人でも難なくルグ君の背中に乗せられた。
それにサトウ君の時間がもう無いと言われているように思えて、また泣きそうになる。
もう今はただ泣いてる場合じゃないのにね。
「・・・サトウ、前乗せた時よりも軽いな・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・ユマも乗って。
それで、サトウが落ちない様押さえてて」
「・・・・・・・・・うん」
ルグ君に言われ、髪飾りに戻ったジャックがちゃんと髪に着いて居るのを確認してから、私もルグ君の背に乗る。
ルグ君にちゃんと乗ったことを伝えると、ルグ君は走り出した。
ドンドン流れる景色。
その景色よりも私は抑えているサトウ君の方が気になった。
葉っぱ越しに押さえた手から感じるサトウ君の体は、まるで骨しかないような。
そんな異常なほど細くて、今にも折れてしまいそうだ。
その細さは、もしかしたらサマースノー村で見た病気になる寸前のヒツジよりも細いのかも知れない。
と思わせるほどだ。
既にサトウ君の顔は葉っぱに覆われ見ることが出来ない。
でも、さっきよりも弱々しくて今にも止まりそうなほどだけど、ちゃんと息をしているのは確認できた。
心臓があるだろう場所に触れると、トクトクと温かい鼓動が感じられる。
大丈夫。
サトウ君はまだ生きてる。
まだ、間に合う!
「ユマ!見えた!!あいつだ!!」
「ッ!!!」
ルグ君の声で前を向く。
いつの間にか私達は真ん中に底の見えない深い深い大きな穴が開いた広い場所に来ていた。
穴の中心にある空に浮いた小島の中心に、上下から生えた巨大な鍾乳石。
よく目を凝らすと上下から生えた鍾乳石の中心には淡い光を放つ真ん丸の青い玉が浮かんでいる。
その青い玉から薄っすらとだけど水の魔元素が溢れ出し穴に流れ込んでいた。
どうやらあの巨大な穴はベッセル湖と同じ水の魔元素で出来た湖みたい。
「何、あれ?」
青い玉と地底湖の周りの光苔に照らされ地下ながら昼間の様に明るいこの場所でたった1箇所。
青い玉の前で闇を切り取った様な、不気味な真っ黒い人影がユラユラと立っていた。
まるで人間の影だけが本体から離れ勝手に動いてるようなそれは、生き物でも魔法でも魔法道具でも無い。
完全に私の常識の外の、未知の存在だった。
「見たこと無いやつだけど、あいつがサトウの通信鏡を奪ったヤツだ!」
私が零した言葉を聞き取ったルグ君がそう言う。
ルグ君の言葉にハッとして人影の手を見る。
その手には人影とは少し色の違う黒い板。
毎日見てるんだから見間違えるはずが無い。
あれはサトウ君の通信鏡!!
何をするつもりなのか、人影は手に持った黒い板を青い玉に伸ばしている。
「何してるの?それは、サトウ君の通信鏡だよ?
返して!!!」
魔法陣を使わずに、『オンブラ』で光苔に照らされ幾方向にも伸びた影を操る。
サトウ君の通信鏡を持った影が何かしようとしている姿を見た瞬間、頭の中がカッと熱くなって目の前が真っ白になった気がした。
視界が元に戻って気がついたら既に『オンブラ』を発動していたんだ。
また、魔方陣を使わずに魔法を使ったと、サトウ君に心配されるかな?
でも、人影が何かとか、何をしているのかとか、魔法が効くかとか、考える前に体が動いていたんだから仕方ないよね。
操った影が人影に届く寸前、人影が持っていた通信鏡に青い玉が吸い込まれた。
青い玉が完全に通信鏡に吸い込まれると同時に、フッと蝋燭の火を消すように消えた人影。
残ったのは小さく硬い音を発て落ちた通信鏡だけ。
青い玉が消え少し前より暗くなった小島。
その小島を隅々まで探しても、まるでそこに最初からそんなもの存在していなかったと言わんばかりに人影は何処にもいなかった。
「何だったんだ、アレ?」
「分からない・・・分からないけど・・・・・・
サトウ君の通信鏡は、取り返せたって事でいいのかな?」
影で通信鏡を取ろうとすると、火花が散り影が弾き飛ばされ『オンブラ』の魔法が解除される。
そして、通信鏡が落ちていた場所にはもう、何も無かった。
サトウ君が前に言っていた通りなら・・・・・・
「・・・・・・あった!
良かった、戻ってきてる・・・・・・」
調べやすいように座ってくれたルグ君の背中に乗ったままのサトウ君を調べると、サトウ君の腰のポーチに黒い通信鏡が戻ってきていた。
「これで、サトウは大丈夫なんだよな?」
「うん・・・・・・
でも、呼吸とか葉っぱとか治っていない・・・」
「ユマ、大丈夫だって!
これで万能薬飲ませればサトウ治るから・・・
・・・・・・ッ!!ユマ、少し待って!!」
「ルグ君?」
ジャックから取り戻した万能薬をサトウ君に飲ませようとしたら、ルグ君から止められた。
ルグ君は地底湖の方をジッと見たまま動かない。
「ユマ!マズイ!!
アイツ等が近づいてきてる!!!」
「あ、アイツ等って?」
「ベッセル湖のあの、キュイーンキュイーン鳴いてた奴等!!」
「そ、それってサトウ君が言ってたカメイルカの事?」
「そう!」
ベッセル湖でお昼を食べている時現れた声の主。
サトウ君が調べていたけど、どの本にも載っていなかった。
私達もあの時以外見たことも聞いたことも無い見確認生物。
名前すら分からず、サトウ君が、
「背中に甲羅を背負ったイルカだから、カメイルカって仮に呼ぶな?」
って命名した生き物だ。
サトウ君の話だとカメイルカは陸にも上がって来れるらしい。
花なり病のサトウ君と、サトウ君を背負ったカメイルカの鳴き声が苦手なルグ君。
まだ私にはカメイルカの鳴き声は聞こえないけど、出てこられたら私1人じゃ2人を庇いながら戦えない。
「ルグ君、まだ大丈夫だよね。
急いでここを離れるよ!!」
「分かった!!」
ルグ君の背中に乗り急いで地底湖を離れる。
カメイルカに追いつかれる前に無事、私達が落ちて来た穴に戻ってこれた。
影を操って穴から地上に出ると、周りの残った地面は今にも崩れ落ちそうなほどヒビだらけ。
周囲の木には斜めになって今にも倒れそうな物もあって、人目でこの場所がまた崩落する危険がある場所だと言う事が分かった。
慎重に、でも極力急いで安全な場所に移動して一息。
「・・・はぁ。ここまで来れば大丈夫だよな?」
「うん、大丈夫。早くサトウ君、治そう!」
崩落した場所からも、ギンコーボムからも、大分離れた森の中。
そこまで移動した私達は周囲を確認して、サトウ君を地面に降ろした。
通信鏡は取り返せたけど、相変わらず消えてしまいそうな呼吸と心臓の音。
消える気配の無い葉っぱと少し開いてしまった蕾。
良くなるどころか悪化したように見えるサトウ君の姿に、ちゃんとスキルが発動しているか不安になる。
けど、サトウ君も依頼人もこの薬で依頼人の娘が良くなったって言ってた。
不安は残ってるけど、葉っぱを掻き分け見つけたサトウ君の口に万能薬を流し込む。
「・・・・・・・・・サトウ君?」
全部流し込んで数秒。
声を掛けても、サトウ君は変わらなかった。
「サトウ?おい、サトウ!!!サトウってば!!!」
「・・・・・・ダメ・・・だったの?何で・・・」
ルグ君が名前を呼びながら体を揺すってもサトウ君は目を覚まさない。
万能薬を飲ませる前と変わらない、弱々しい呼吸音が返ってくるだけ。
何1つ変わらない。
変わっていない。
「何で?何で!?サトウ君は治らないの!!?」
空になった万能薬の小瓶が私の手から落ちて、カランと音を立てた。




