115,治癒の鳥を探して 13羽目
今回はユマさん視点で進みます。
「サトウ君?サトウ君!!確りして、サトウ君!!!」
地下に落ちてやっと会えたサトウ君の言葉は何故か分からなくて。
サトウ君も私の言葉が分からないみたいで、理由を尋ねていたら急にサトウ君が真っ赤な花を吐き出した。
その度にサトウ君の体が緑色になって、今は人間の手の様な形の葉っぱが生え出している。
その葉に紛れ今にも咲きそうなほど膨らんだ赤い蕾がいくつか。
これって花なり病だよね?
サトウ君はスキルで病気にはならないはずでしょ!?
なのに如何して!!?
「サトウ君!!お願い、目を覚まして!!!」
「ユマ!!」
「ルグ君!サトウ君が・・・サトウ君がぁ・・・」
「サトウ?・・・嘘だろ?これ、サトウなのか!?」
私とサトウ君が落ちた穴から降りてきたルグ君がサトウ君の姿を見て目を見開く。
今のサトウ君の姿は辛うじて顔が見えるだけで、後は全て葉っぱに覆われている。
服の隙間からも葉っぱは溢れ、植物が人間の形をして服を着ているようにしか見えない。
「何だよコレ!!?
ユマとサトウの悲鳴が聞こえたから降りて来たけど・・・・・・
ユマ、何があったんだよ」
「わ、分かんない。
ここに落ちて、それでサトウ君と会えて、そしたらサトウ君の言葉が分かんなくて。
サトウ君も私の言葉が分かんないみたいで、それで、それで、声、掛けてたら急に花吐いて。
サトウ君が叫ぶ度に体が緑色になって、葉っぱが、葉っぱが、それ、それで、」
「ユマ!落ち着け!!」
ルグ君に説明しないといけないって分かっているのに上手く言葉が出てこなかった。
言いたい事が頭の中でグルグル回って、まとまって口から出てこない。
ルグ君に落ち着けと言われても中々冷静になれなくて、やっと伝えられた言葉は、涙声の弱々しいものだった。
「体から葉っぱが生えてサトウ君倒れちゃったの!!
これ、花なり病だよね?」
「そう、見えるけど・・・・・・
でも!サトウは病気にならないんだろ!?
なぁ、何でだよ、サトウ。
何でこんな事になってんだよ?
目開けろよ。答えろよ、サトウ!!なぁ!!!」
「サトウ君、サトウ君。
返事してよ、サトウ君・・・・・・」
私とルグ君の呼びかけにもサトウ君は応えてくれない。
その口から出るのは今にも消えそうなほど弱々し呼吸音だけ。
その姿がお父さんとお母さんが死んじゃった時の姿と重なる。
あの時のお父さんとお母さんも段々呼吸が弱くなって・・・
「サトウ君・・・・・・・・・
サトウ君まで、居なくなっちゃうの?
どうしよう、ルグ君。
このまま、このままサトウ君死んじゃったら」
また、私の好きな人はいなくなっちゃうの?
私はあの時みたいに何も出来なくて、ただ泣いてる事しかできないの!?
こんなんじゃ、強い魔法やスキルを持っていても意味無いよ!!
「ヤダよ・・・・・・そんなのヤダ・・・・・・」
「っ!そんな訳無いだろう!!
おい、サトウ!返事しろよ、起きろよ、サトウ!!」
「サトウ君・・・・・・目覚ましてよ・・・・・・
お願いだから・・・サトウ君・・・・・・」
こんなに呼んでいるのに。
何時もだったらちゃんと返事してくれるのに。
「何、ルグ、ユマさん?」
って言ってくれるのに。
何でこんな事になっちゃったの?
ほんの少し前まで何時もと同じだったのに!!
「・・・・・・そうだ。そうだよ、ユマ!
万能薬!
万能薬なら花なり病治せるってサトウ言ってたじゃん!」
「あ・・・そ、そうだ!
ま、まだ、まだサトウ君の鞄かポーチに在ったはず!!!」
ルグ君の言葉にサトウ君から生えた葉っぱを掻き分け鞄とポーチを見つけ出す。
何か足りないように感じるポーチから見つかった万能薬はたったの1つ。
鞄にも万能薬は全く無くて、ポーチに入っていたこの1つで終わりらしい。
この状態のサトウ君にこれ1つでどれだけ効果があるか分からない。
でも、完全に治せなくても、カラドリウスの村まで持てばいいんだ。
そしたら、さっきまで集めたギンコーボムの種と引き換えにウィン先生にサトウ君の花なり病を完全に治してもらえばいい。
依頼人の子の事はまた考えればいいんだ。
私もルグ君も見知らぬ人間の女の子よりもサトウ君の方が大切なんだもの!
「よし、これで・・・・・・・・・あっ!」
「ジャック!?」
サトウ君に万能薬を飲ませようとしたら、スライムの姿に戻ったジャックに万能薬を奪われた。
「何すんだジャック!!返せよ!!」
「それが無いとサトウ君治らないんだよ!
また後で、遊んであげるから!!
お願い!返してよ、ジャック!!」
私達が万能薬を取り返そうとジャックに手を伸ばすけど、ジャックは器用に万能薬を頭に載せスルリ、スルリと逃げた。
そしてその合間にジッと私達を見ながらサトウ君の周りで小さく飛び跳ねる。
その様子は遊んでいるというより、まるで何か私達に訴えているようで。
私はジャックを捕まえるのをやめジックリジャックの様子を見た。
「ユマ?何ボーっとしてるんだよ!?」
「・・・・・・・・・あ、もしかして・・・・・・」
「ユマ?」
ジャックが跳ねているのはサトウ君の鞄とポーチの上と、草に覆われて良く分からないけど本来なら太ももが在ると思われる場所の横らへん。
ポーチを探して何かが足りないって感じたけど・・・
「・・・ない。やっぱり無い!
サトウ君の黒い通信鏡が何処にも無い!!!」
サトウ君の世界の板状の黒い通信鏡。
あれが鞄にもポーチにも無く、草の上から触った感じでもズボンのポケットにも無い事が分かった。
「それって、サトウが魔法を使うのに必要なあの?」
「そう!
きっと、あれが、あれが無いからサトウ君こんな事になっちゃったんだ!!」
この地下でサトウ君と再会した時サトウ君が持っていたヒズル国で使われている照明具、提灯。
今はサトウ君が倒れた事で地面に転がり灰となって消えたそれをサトウ君が持っている事が不思議だった。
サトウ君は『プチライト』って照明具代わりになる魔法を覚えている。
なのに態々『クリエイト』で出したと思われる提灯を使ってココまで来たんだよ?
サトウ君の言葉が分からない事ですっかりその事を見逃していたけど、可笑しいよね?
「サトウ君、この地下で私と合う前から通信鏡をなくしていたんだ。
だから『プチライト』が使えなくて、通信鏡が無くても使える『クリエイト』で提灯を出した」
「それが今のサトウの状況と何か関係あるのかよ?」
「あるよ!」
『プチライト』はこの世界に呼ばれた時サトウ君が作った魔法。
そして病気にならないようにするスキルの『状態保持S』も、この世界で生きていけるようになるスキルの『環境適応S』もサトウ君が魔法と同じように作ったスキルだと言っていた。
「通信鏡が無いと使えない『創作魔法』と同じように『創造スキル』も通信鏡が無いと発動しないんだよ!!」
「ッ!!で、でも!
サトウ、風呂入る時は通信鏡持ってないだろ!?
通信鏡が無いと発動し無いって言うけど、サトウが風呂に入ってる時こんな事起きなかっただろ!?」
「多分、ある一定以上サトウ君と通信鏡が離れると発動しない、いや、違う。
スキルは常時通信鏡の方が使ってて、今までサトウ君は常にそのスキルの効果が及ぶ一定の範囲内に居たんだ!」
今までのサトウ君の様子からしてサトウ君自身も知らなかったと思う。
けど、『創作魔法』も『創造スキル』もサトウ君が作ったものだけど、だからと言ってサトウ君自身が使えるんじゃない。
使えるのは通信鏡の方。
付属スキルの様に、ある一定の条件が揃う事で魔法道具に刻まれた魔法やスキルが発動するんだ。
多分だけど、『創作魔法』も『創造スキル』も持ってたり身に着けてたりするだけで効果がある道具魔法の1種なんだと思う。
そして、『クリエイト』で魔法を作るのも『スキル創造』でスキルを作るのも、私の『アイテムマスター』のスキルに近いものなんだ。
本来、完成した魔法道具に後から新しく魔法やスキルを付け足す事はできない。
サトウ君の魔法やスキルは通信鏡限定で後から色々好きに改造したり組み合わせたりできるんだと思う。
「『創作魔法』はサトウ君の声で発動して、『創造スキル』はサトウ君がこの世界に居る間常に発動しているんだと思う。
それで今サトウ君は通信鏡のスキルの効果が効く範囲から外れて、この世界の環境に適応できなくて病気になっちゃったんだ!!
だから今万能薬を使ってもサトウ君は治らないんだ!
そう言いたいんだよね、ジャック!?」
私が尋ねるとジャックは正解だと言うように体を激しく揺らした。
ジャックは混乱していた私達とは違い冷静にその事に気がついて、
「今使っても意味がない!無駄に消費するな!!」
と伝えようとしたんだ。
「えっと、えっと、ルグ君!
ココに降りて来る時あの通信鏡見なかった!?
多分落ちた所の近くに在ると思うんだけど・・・」
「上に無いのは間違いないだろ?
だから、えーと・・・・・・・・・
穴の所らへんにはパッと見は無かった・・・
と思う・・・・・・」
「じゃあ、じゃあ・・・・・・」
ココに落ちる前はサトウ君の言葉が分かった。
だからあの通信鏡が無くなったのはこの地下洞窟に落ちた後だと思う。
上に残ってないなら間違いなくこの地下の何処かになるはず。
多分私と会う前にサトウ君も探していただろうし、ルグ君も見ていないなら落下地点には通信鏡は無い?
なら・・・・・・・・・
 




