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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 1 章 体験版編
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114,治癒の鳥を探して 12羽目


「と、到着した?えーと、『プチライト』!」


どの位経っただろうか?

体感時間では10分位落ちていた気がする。

俺達が落ちた穴が遥か遠くに見える薄暗い地下世界。

『プチライト』で照らそうとしたけど、どう言う訳か『プチライト』が使えない。


「あれ?『プチライト』、『プチライト』!!

・・・・・・・・・何で魔法が使えないんだ?」


さっきまで普通に『フライ』は使えたのに、何で急に?

この場所が影響している可能性もあるけど、自分の体が何か落ちる前と違わないか触ったり見回したりしているとある物が無い事が分かった。


「スマホが無い・・・・・・・・・」


落ちている時に少し遠くに落としてしまったのか、地上に残っているのか。

ウエストポーチにも鞄にもジャージのポケットにもこの近くにも。

寝る時と風呂に入る時以外肌身離さず持っていたスマホが何処にも無かった。


創作魔法は基本スマホが無いと使えないから、さっき『プチライト』が使えなかったのか。

基礎魔法はスマホが無くても代わりの杖とかあれば使えるけど、ユマさんと違って俺は杖何って持っていない。

だから『ミドリの手』も創造魔法と同じ様にスマホを見つけるまで使えないって事だな。

けど、何時も通りウエストポーチの横に『クリエイト』袋がぶら下がってるから『クリエイト』だけでも使えるのは不幸中の幸いってやつだろう。

何とか『クリエイト』で提灯と蝋燭、マッチを出し、辺りを照らす。

さっきより少しだけ明るくなったその場所はかなり広そうな洞窟だった。

右を見ても左を見ても道が続いている。


「・・・・・・あれ?

地面が濡れて・・・ない?これって、水の魔元素?」


安定しない崩れた地盤の上から1番低い平らな地面に降り立つ。

そこは人工的にかそれとも自然の力か、何かで削れた様に真平らだった。

その地面に足を着けると、薄く水が張ってある感触がするのに全く水がない。

と言うどことなく見に覚えのある不思議現象に襲われた。

それはあのベッセル湖と全く同じで、と言う事は、この洞窟の中を水の魔元素が流れてベッセル湖に向かっているって事か?


「おーい!ルグー!!!ルーグー!!!

聞こえるかー!!!?

・・・・・・やっぱ、此処からじゃ聞こえないか」


穴に向かって叫ぶけどルグからの返事はない。

流石に耳の良いルグでもこんなに遠くからの声は聞こえないみたいだ。


「ユマさああああああああん!!!!!!

居たら返事してえええええええええええええ!!!」

「―――!!!!?―――!!!!」

「ユマさん?おーい、ユマさーん!!

俺は此処だよー!!」


今度は同じく地下に居るだろうユマさんに向かって叫ぶ。

思いのほか遠くに居るのか、ユマさんが何と言ってるのか上手く聞き取れない。

それでも、俺は自分が此処に居る事を伝える為に、叫びながらユマさんの声が聞こえた方に向かって歩き出した。


「ユマさーん!」

「――――!!!・・・・・・―――?」

「え?ユマ、さん?」


何とか再会できたユマさんの姿は何時もと違っていた。

服装や髪型、髪留めのフリをしたジャックも同じ。

だけど、ユマさんには何時もは見えているはずの角と翼が無かった。

それに瞳の色もコロコロ変わらず黒一色のまま。

何より可笑しいのは、こんなに近くに居るのにユマさんが何を言ってるのか分からない事だ。


「―――?――――!!?」

「え、ユマさん?何言って・・・・・・」


ユマさんの口から出るのは『言葉』じゃ無く、意味を成さない音の羅列。

不思議な異国の歌の様にも聞こえるそれは、『言語通訳・翻訳』のスキルを持っているのに俺の耳に言葉として伝わらない。

それはユマさんも同じ様で、俺の言葉に首をかしげている。


「何で急に・・・・・・

落ちる前はちゃんと分かって・・・」

「――――?」

「あ・・・・・・もしかして、スマホがないから?」

「!!―――?」


今までこんな事無かったから気づかなかったけど、もしかして創造スキルって創作魔法と同じ様にスマホのある程度近くにないと発動しないのか?


「あ、え・・・・・・う、げぇ・・・ガッハ!」

「―――!!!?―――!!!?」


まるで正解とでも言う様に、突然喉の奥に何かが引っかかた様に息が上手く出来なくなった。

『環境適応S』が発動しなくなって息が出来なくなったのか!?

そう思っていたけど、原因は『状態保持S』が効かなくなった事だった。


「ゲッホ・・・ゲッホ・・・

こ・・・・・・れって・・・・・・」


何とか喉に詰まっていた物を吐き出す。

それと同時に口の中がハチミツを濃縮した物を突っ込まれた様に、気持ち悪くなる程の甘い味に満たされた。

提灯に照らされた俺が吐き出した物は真っ赤で、最初それは血だと思った程だ。

けど、違う。

それは、真っ赤な、真っ赤な、


「は・・・・・・な?」


鮮血の様な真っ赤なアザミの様な形の小さな花だった。

その花は最近見た事がある。

そう、俺達此処まで来た理由。


「『じょう、たいほじ、S』が、発動しなくて・・・

・・・・・・お、れも・・・・・・・・

花なり・・・・・・病に、かかった・・・?

・・・・・・あ、ぐっ!

ゲッホ、ゲホゲホゲホ!!!」

「―――!!!――――――!!!!」


トムさんは花なり病は人に移る病気じゃ無いと言っていた。

なら何で、俺は今花なり病に罹ってるんだ?

何が原因で罹ったんだ?

この場所?

それとも宿場町で医者に掛けられた病気が今頃発動したのか?


「ゲッホッゲホッゲ、ガッハ・・・・・・・・・

ハー、ハー、ハー・・・・・・う・・・ゲェ」


考え様とするけど、止め処なく口から溢れる花の苦しさで頭が回らない。

手足の先が痺れてドンドン感覚が無くなってくる。

膝を着く事すら辛くて、地面に倒れたのに地面の感触が感じられない。

いつの間にか口の中の甘味すら感じなくなって、視界すらぼやけてくる。

近くに居るはずのユマさんの姿も上手く見えなくなってるし、ユマさんの『音』も聞こえない。

なのに苦しくて痛くて気持ち悪くて・・・・・・

俺、このまま花に成って死ぬのかな?




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・嫌だ。



こんなトコで死ぬ何って嫌だ、怖い、怖い怖い怖い怖い!怖くて、怖くて、どうしようもなくなる。


苦しい、


痛い、


気持ち悪い、


辛い、


熱い、


寒い、


・・・・・・・・・・・・・怖い。


怖い怖い怖い苦しい怖い痛い怖い怖い嫌だ怖い怖い怖い怖い寒い寒い熱い怖い怖い怖い苦しい怖い痛い怖い怖い嫌だ怖い怖い寒い怖い怖い怖い怖い熱い怖い苦しい気持ち悪い痛い痛い苦しい息できない苦しい痛い体が引き裂かれる痛い怖い嫌だ苦しい苦しい怖い誰かが何かが俺を襲おうとしている怖い怖いドンドン近づいて来る怖い怖い怖い嫌だ来るな体が動かない逃げれない怖い来るな怖い来るな怖い怖い怖い来るな来るな怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!来るな!!来るな、頼むから来ないで!!嫌だ来る怖い嫌だ嫌だ嫌だ嫌あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い何で俺ココに居るんだ?なんで俺なんだ?俺がナニカしたか?何か悪い事した?何で俺がこんな思いしなっきゃいけないんだ?苦しいのはもう嫌だ。痛いのはもう嫌だ。辛いのはもう嫌だ。怖いのはもう嫌だ。どうして俺がこんな目に合うのか誰か教えてよ。助けてよ。もう嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ助けて。


「あああああああああああああああああああああああ

ゲッホ・・・・・・ゲッホ・・・・・・

ひ・・・う・・・

父さん、母さん、大助兄さん、紺之助兄さん、ナト

・・・・・・・・・・・・助けて

・・・・・・お願い助けて、帰りたい、帰して。

もう、皆の所に帰してよ・・・・・・・・・」


ふと体が急に軽くなって、気がつくと俺はいつの間にか立ち上がっていた。

これが金縛りってヤツなのかな?

痛みも苦しさももう感じなくなったのに、立ったまま俺は1歩も動けなくなっていた。

足元には何時の間に現れたのか。

手の様な形の葉っぱが重なり合って人型になった、草の塊。

それにしても、何でこんな日の光も届かない地下に草が生い茂っているんだろう?


「―――!!―――!!!―――!!!」

「・・・・・・・・・ユ、マ・・・・・・さん?」


その草の塊に、ずっと止まらず流れる涙で顔をグチャグチャにしたユマさんが引っ付いていた。

口が動いてるから何か言ってるんだろうけど、『言語通訳・翻訳』のスキルが発動していないから、ユマさんが何を言っているのか分からない。

何でユマさんはあんな草の塊に泣きながら話しかけてるんだ?


「・・・・・・・・・あぁ」


ユマさんの行動が分からなくて足元の草の塊をよくよく見ると、草の塊は服を着て草の隙間には灰色の鞄が見えていた。


「あぁ。これ、俺なんだ」


それは雑貨屋工房で俺が作った鞄。

この世界に来て愛用している鞄だった。

そして、着ている服は元の世界から着て来た俺のジャージ。


じゃぁ、さっき俺を襲おうとしていた。

いや、俺がそう思い込んでいた何かはユマさんだったのかな?


・・・そっか。

俺、花なり病が進行してこんな草の塊になっちゃたんだ。


人の形をしたただの草。

その内、あの赤い花が咲くのかな?


「―――!!!―――――――!!!?―――――!!!!!!」

「ユマさん・・・・・・・・・」


草の塊になった俺の体はピクリとも動かなくて、生きてるのかも怪しい状態だ。

幽体の体も実体の体と同じ様に動かない。

今こうやって幽体離脱した俺の声はユマさんには聞こえないみたいだ。


そんなに泣いてたら、ユマさん脱水症状になっちゃうよ?

もう、泣かないでって思うのに、言いたいのに。

慰めなきゃって、謝らなきゃって思うのに。


今の俺は何も出来ず、ただ見てるだけ。


どの位だったのか分からないけど、ついに幽体の俺の意識もプツリと途切れ完全に闇の中に消えた。

ごめんね。

ユマさん、ルグ。


「―――?―――!!―――、――――!!!」


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