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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 1 章 体験版編
114/498

112,治癒の鳥を探して 10羽目


「・・・・・・・・・・この人達、元に戻せる?」

「残念だけど・・・・・・・・」

「そっか・・・・・・・・・・もう、行こうか」

「うん・・・・・・・・」


この人たちを救う手段がないとユマさんに言われ、俺達は村を出ようとした。

村の入り口に差し掛かった、その時、


「ようこそ、アルティシモへ!!久しぶりだなー、外から人が来る何って!ゆっくりしてってくれよ、旅人さん!」

「いっ!」

「サトウ君!?」


役割どおり、ずっと其処に居たらしい男の人に何も話しかけていないのに凄い力で腕をつかまれた。

その力は強く、このまま腕が引き千切れそうだ。


「い、痛い!」

「この!サトウを離せ!!」

「ようこそ、アルティシモへ!!久しぶりだなー、外から人が来る何って!ゆっくりしてってくれよ、旅人さん!」


ドンドン指が食い込み物凄く痛い。

ルグが頑張って引き剥がそうとしてくれるけど、ゾンビのはずの男の人は死んでも離さないと言わんばかり俺の腕を掴む。


「ようこそ・・・・・・・・・アルティシモへ!!久しぶりだなー・・・・・・・・外から人が来る何って!ゆっくりしてってくれよ・・・・・・・・・旅人さん!」

「や、やめ!痛い!!!離して!!」

「ようこそ・・・・・・タ・・・・・・アルティシモへ!!久しぶりだなー・・・ス・・・外から人が来る何って!ゆっくりしてって・・・・・・ケ・・・くれよ・・・・・・テ・・・・・・旅人さん!」

「え?」


繰り返す言葉の間に別の言葉が聞こえ、俺は思わず抵抗する力を失ってしまった。

その瞬間、俺は勢い良く男の人に押し倒され、男の人は俺に縋る様に同じ言葉を繰り返す。

繰り返す度に、その言葉の中にハッキリと別の言葉が混じっているのが分かった。


「ようこそ・・・・・・タ・・・・・・アルティシモへ!!久しぶりだなー・・・ス・・・・・・外から人が来る何って!ゆっくりしてって・・・・・ケ・・・くれよ・・・・・・テ・・・・・・旅人さん!

よう・・・タ・・・こそ・・・・・・ス・・・アルティ・・・ケ・・・シモへ!!久し・・・テ・・・ぶりだなー・・・オ・・・・・・外・・・ネ・・・から人が・・・ガ・・・来る・・・イ・・・何って!ゆっくり・・・タ・・・してって・・・スケ・・・・・くれよ・・・・・・テ・・・・・・旅人さん!

よう・・・タスケ・・・こそ・・・テオネガ・・・アルティ・・・イタスケテ・・・シモへ!!久し・・・タスケテ・・・ぶりだなー・・・オネガイ・・・外・・・タスケテオネガイ・・・から人が・・・タスケテ・・・来る・・・タスケテ・・・何って!

ゆっくり・・・タスケテオネガイタスケテ・・・してって・・・タスケテ・・・タスケテくれよオネガイ、ボクタチヲ、タスケテ旅人さん!」

「もういい!!もういいだ!

分かった、分かったから。必ず助けるから。

だから、もう、もうやめてくれ!!!」


痛みと恐怖と驚愕で上手く働かない俺の頭は繰り返す言葉の何度目かで、やっと男の人が本当は何と言いたいのか理解した。

それでも恐怖でカラカラに乾いて喉同士が引っ付いて、喉の奥の言葉が中々出てこない。

そのせいで、


『お願い、僕達を助けて』


と、男の人が言う度に、男の人の口や鼻、耳、目。

顔の穴と言う穴から血が流れ出していた。

ゾンビにされた体に反して自分の言葉を伝えようとした代償とでも言うんだろうか。

これ以上俺達に助けを求める言葉を口にしたら男の人は死んでしまいそうだった。

『ヒール』を掛けながら俺が分かったと言うと、男の人はずっと変わらなかった笑顔のその瞳の奥にホッとした様な微笑みを浮かべ、


「ようこそ、アルティシモへ。

久しぶりだなー、外から人が来る何って。

ゆっくりしてってくれよ、旅人さん」


と小さく呟いた。


「助けるって、サトウ・・・

ゾンビになった奴を元に戻す事は・・・・・・」

「分かってる。分かってるよ!!

でも、だけど、コカトリスの時だって何とかなったろ!?

もしかしたら、今回も・・・・・・・・・」


そう言って俺は完全に壊れてしまったのか、『ようこそ、アルティシモへ。久しぶりだなー、外から人が来る何って。ゆっくりしてってくれよ、旅人さん』と呟き続ける男の人を近くの壁に凭れさせる様に座らせ、解毒薬を飲ませた。

『毒薬で仮死状態され意識を奪われ』ているなら、『解毒薬は大体の毒なら直せる』解毒薬で治ると思ったんだ。

けど、この解毒薬じゃゾンビ毒は治せないのか、それとも毒を使われた後魔法で操られたからか、もしくはゾンビになってから十何年もの月日が経ってしまったからか。


男の人は相変わらず同じ言葉を繰り返すだけ。


その後も、万能薬や『ヒール』、『ミドリの手』、『プチヴァイラス』、思いつく事は全て試した。

でも、結局思いついた方法は全部ダメで、ルグとユマさんの言う通り、本当の本当にゾンビにされた人を人間に戻す事は出来ないのか?


「・・・・・・・なら、せめて、言いたくない事言わない様に、やりたくない事をやらない様には出来るはず」


そう思って俺は、鞄から2つのアイテムを出した。


「ユマさん。

睡眠薬で村人全員眠らせて、この巨大クロッグの時間結晶で村を覆ってずっと眠ったままの状態に出来る?」

「ッ!!出来る、出来るよ!」

「そっか。

何時か人間に戻る時まで眠っていて貰えば、この人の様に苦しまずに済むのか」


ゾンビから人間に戻す事は俺達には出来ない。

でも、眠ったままの時間を止めれば、夢の中位幸せになれるはず。

何時か、本当に救われるその時まで、夢の世界に逃がす事なら俺達でも出来るんだ。

それが男の人が望んだ救いかと言われれば、分からない。

これが正解なのかも分からない。

でも、ゾンビのまま生かされ続ける今の状態よりも何倍もマシだろ!?


「眠らせるのは、何時もの霧でいい?」

「うん」

「分かった。

人数も多いし、時間掛かるから・・・・・・・・・」

「その間、時間結晶の方、準備してるね。

ルグ君、手伝って!」

「りょーかい!!」


そう言って俺は鞄から今まで手付かずだった巨大クロッグの巨大時間結晶を全て取り出しユマさんの近くの地面に置いた。

小さな村とは言え、村全体を覆うんだ。

これで足りるだろうか?

少し心配になりながらも、俺は『クリエイト』で大き目のドラム缶と、ユマさんに頼まれ2本のハンマーを含む幾つかの工具を出した。

色々加工はするみたいだけど、どうやらあの巨大時間結晶を叩いて伸ばすらしい。

2人がハンマーで巨大時間結晶を叩く音を聞きながら、俺は焚き火の上にドラム缶を乗せていた。

後は、『アイスボール』と『プチレイン』でドラム缶に水を溜め、『ファイヤーボール』で焚き火に火を着ける。

ドラム缶の中の水が程よくぬるくなった所で、持っている睡眠薬を全部入れて溶けきるまで混ぜ続けた。


「よし、こっちの準備は出来たよ、ルグ、ユマさん」

「こっちはとっくに終わってるぞ、サトウ」


2人の方を見ると、その近くには均等に黄緑色の線が入った透明な大な薄い板が。

教室の窓1枚分位の大きさがあるだろうその板が、幾つかの山に分けられて置いてあった。

その数は軽く1000枚以上。

お湯が沸くまで結構時間が掛かったとしても、2人でよくもこれだけの板を作ったものだ。

2人の凄さに感心していると、ユマさんがドラム缶に近づいて、手を伸ばした。

その瞬間からドラム缶の中のぬるま湯がドンドン霧に変わり、村に向かう。


「ユマさん、魔方陣使わなくて大丈夫なの!?」

「うん。この位なら平気だよ!

それに、魔法陣を使ってたら村全体を眠らせる事は出来ないから」

「・・・・・・・・・俺が頼んだ事だけど、無理は絶対にしないでね?」

「うん!」


笑顔で頷くユマさん。

今の所その顔色は巨大クロッグ事件の様に悪くは無い。

本人が言う通り、本当に問題ないのか?

巨大クロッグの事件の時を思い出し、ハラハラする俺を他所に、ユマさんは全部のぬるま湯を霧に変えた。

それは上手くいった様で、入り口近くの壁に寄りかっかた男の人から穏やかな寝息が聞こえてくる。

念の為にルグに瞬間移動で村内を見て貰ってくると、


「無事に全員眠っているぜ」


と、教えてくれた。

戻ってきたルグの報告を聞き、ユマさんは次に時間結晶の巨大板に手を翳す。

そして、まるで超能力でも使ったかの様に板が独りでに浮かび、瞬く間に『ミスリーディング』系の魔法の内側に村を囲むドームを作り上げた。


「これで、完成っと。終わったよ、サトウ君」

「ありがとう、ユマさん、ルグ」


完成したドームの中、眠りに着いたその瞬間で時間が止まった村。

板越しに微笑む様に静かに眠る男性を見る。

今持っているアイテムや情報からじゃ、あれ以上の助けられる方法のアイデアすら思いつかない。

だから、俺達が絶対に助ける何って、漫画の主人公の様なカッコイイ事は言えなくて・・・・・・・・・


彼等が本当に助かる日は何時になるのか。

何十、何百年後になってしまうかもしれない。

それはそれで残酷な事で、でも、人間に戻すアイデアのホンの一欠けらすら見つからない、見つけられなかった俺には見当もつかなかった。


「・・・・・・・・・ごめんなさい」


口から零れた謝罪は何に対してなのか、自分でも分からない。

でも、板の向こうで眠る男の人を見ていたら自然と零れていた。


「・・・・・・・・・行こう。

オレ達はオレ達のやるべき事をやろう?」

「うん」

「・・・・・・あぁ・・・・・・・あぁ、そうだな」


薄情だと言われるかも知れない。

でも後、俺達が出来るのは、彼らが人間に戻って眠りから覚める、その日が1秒でも早く来る事を祈る位だ。


異世界から来たからって、


魔法が使えるようになったからって、


結局俺はただの高校生で。


なんでも出来る訳無いって頭では分かってるけど、命懸で助けを求めた人の手を振り払ってしまった現実に、罪悪感がドンドン溢れてくる。

本当、小説やゲームの主人公の様に上手くいかないな。

それが現実だって分かってるけど、やっぱ、遣る瀬無いよ。

後ろ髪を引かれつつも俺達はドームごと『ミスリーディング』系の魔法に隠された村を後にした。


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