110,治癒の鳥を探して 8羽目
カラドリウスの村を出て直ぐ、俺達は『フライ』を掛けたレジャーシートに乗ってベルエール山を目指していた。
「大分、暗くなってきたな・・・・・・
此処等辺で野宿する?」
「う~ん。そう・・・・・・・・・だね。
うん、そうしよう!」
「おい!サトウ、ユマ!!あそこ見ろよ!!」
宿場町から時々森に降りて休憩しながら数時間。
夕日も沈み出し、空が鮮やかな赤いオレンジから黒い紺色に染まってきたのを見計らい、俺はルグとユマさんにそう言った。
徹夜で飛ぶのは流石に無理だし、これ以上暗くなると野宿の準備をする事自体危険だ。
だからこそ2人声を掛けたんだけど、どうやらルグが何か見つけたらしい。
「村がある!」
「村?
でも地図にはこの近くに村が在る何って書いてないぞ?」
ルグが指さす方を見ると確かに村らしき物が在った。
木が生い茂った場所にポッカリと開いた穴。
その穴の中には何件かの家が集まっていた。
だけど、コンパスと地図を確認してもこんな場所に村や集落、休憩所や別荘地がある何って一切書いていない。
「廃村なのか?」
「でも、ほら!家から煙でてるよ?」
「え?・・・・・・本当だ。誰か居るの、か?」
誰にも気づかれないまま何か合って廃村になった場所なのかと思っていたら、1軒の家から白い煙が上がってきた。
それを機に他の家からも煙が上がり、明かりが灯る。
どうやら、まだ誰かが住んでいるみたいだ。
「折角だし、今日はあの村で休まない?」
「う~ん、でも・・・・・・
今度こそ本当に盗賊のアジトだったらどうするんだ?」
「あ、その可能性も有るのか・・・・・・」
「なぁなぁ、誰か家から出てきたぞ。
サトウ、もっと近づいて!」
ルグに言われも少し村に近づく。
その村に居るのは、ローズ国では一般的な服装の極々普通の村人達。
盗賊らしさの全く感じない村人達は、自分達の頭上の俺達に気づいていないのか思い思いに過ごしていた。
その光景も何処も可笑しくなく、こんな森の奥に村がある事を除けば本当に極々普通の村なんだ。
「何か、拍子抜けする程普通だな」
「そうだね。
サトウ君、此処で休んでも大丈夫なんじゃないかな?」
「そう、か?う~ん・・・・・・そうだな。
休ませて、貰うか?」
傍から見ると普通の村みたいで大丈夫そうなんだけど、その『普通』ってのに俺は何か違和感を覚えた。
その違和感が何なのか上手く口で説明できないけど、何となくこの村は可笑しいと感じるんだ。
それ故に俺はルグとユマさんの様に素直にこの村で休む事に賛成できなかった。
だけど、素人が野宿するのは危険だってこの世界に来て直ぐにボスに言われたし、野宿するのとこの村で休むの。
どちらがまだ安全かと言うと、
「うん。今日はこの村で一泊させて貰おう」
村の方が安全だよな?
それでも不安の残る俺に、ルグとユマさんは交代で休む事を提案してくれた。
「え、森?」
「可笑しいなぁ?
さっきまで、此処に村があったのに・・・」
突然村に降り立っては村の人を驚かせるからと、俺達は村の入り口近くの森に降り立った。
その途端、直ぐ目の前にある村がルグとユマさんに見えなくなった横だ。
2人が嘘を言ってる様には見えないけど、俺にはちゃんと村が見えているし、これって・・・・・・
「サトウ君にだけ村がちゃんと見えるなら多分・・・・・・
『ミスリーディング』系の魔法が掛かってる?」
「だろうな。それは、つまり、えーと・・・・・・」
「人間に見つかりたくない魔族の村って事か?」
俺には未だに村が見える事を2人伝えると、2人共此処がカラドリウス達の様に隠れて暮らす魔族の村だと考えた様だ。
でもなら何故、空から見た時は3人共村が見えて、中に住んでいる村人は俺達に気づいてないのに人間の姿に化けたままなんだ?
その事を2人に聞くと、
「多分、この村に掛かっている魔法は上の空いた筒状の形で展開しているんだと思う。
だから空から見た時は分かったんじゃないかな?」
「それにサトウ、前にも言っただろ?
変化石は『大型の魔族が小さくなったり、水中でしか生活できない魔族が陸上でも生活できる様になったり』って。
きっとこの村人達も本来は大きかったらり水の中でしか生活できない魔族なんだよ!」
そう言えば、ルグにこの世界の事教えて貰った時、そんな事言ってたな。
ルグやユマさんの事も合って、魔族は人間に正体がばれない様にする為に変化石を使っているって思い込んでいた。
でも、本来の使い方は他の魔族と暮らす為に姿を変えるのに使われる物なんだよな。
実際カラドリウス達も人間に警戒するって意味もあるだろうけど、鳥の翼よりも人間の手の方が物を持つのに適してるから変化石を使っていたかもしれないし。
「それだと俺達受け入れて貰えるかな?
ルグとユマさんは兎も角、俺は異世界人でも一応人間だぞ?」
「う~ん・・・う~ん・・・う~ん・・・
試しに入るだけ入ってみよう?」
カラドリウス達の反応を見るに、此処が本当に隠れた魔族の村なら俺は拒否されそうだ。
そう思って言った俺の言葉に暫くの間悩んだユマさんはそう言った。
「断れたら最初の予定通り、野宿しようよ。ね?」
「そうそう。ここで悩んでも仕方ないって!!」
「あ、あぁ・・・・・・・」
ルグとユマさんに促され、俺は『ミスリーディング』系の魔法の内側に足を踏み入れた。
「ようこそ、アルティシモへ!!」
「へ?」
村に入った途端、村の入り口の直ぐ近くに立っていた男の人に物凄くフレンドリーに歓迎された。
男の人は嬉しそうに暗い紫色のキラキラ輝いた目を細め、口角が上がりきった。
そんな顔全体で作る自然な笑顔を浮かべている。
それは作り笑いじゃない、本当に歓迎してくれている表情だ。
魔法を掛けてまで村を隠していたのに、拒否されるどころか大歓迎。
予想外の対応に俺達は揃ってきょとんとしていた。
「久しぶりだなー、外から人が来る何って!
ゆっくりしてってくれよ、旅人さん!」
「え、あ、はい。ありがとう、ございます?」
まさかのいい笑顔でのあの対応に俺は歯切れ悪く男の人にお礼を言って村に入った。
男の人は俺達が村に入った後も村の入り口に立ったままだ。
特にこれと言って武装している様子はないけど、念の為に外を監視してるんだろうか?
それにしては俺達は歓迎してくれたし、あの男の人は何がしたいんだ?
「・・・・・・・・ん?」
「どうしたんだ、サトウ?」
「いや、何か思い出しかけたんだけど・・・・・・
何だっけ?」
あの男の人の態度に何かが浮かびかけた。
何となく、あの男の人を知ってる様な気がする。
始めて会ったはずのあの男の人を何故俺が知っているのか。
それが何だったか、暫くの間頭を捻っても結局思いだせず、俺は諦める事にした。
「・・・・・・ごめん。
思い出せないから、大した事じゃないと思う。
本当に必要な事ならまた思い出すと思うけど・・・」
「ううん。いいよ、気にしないで。
それより、この村って宿屋はあるのかな?」
キョロキョロと辺りを見回すユマさん。
村人の殆どは家に入ってしまったらしく、村の大通りには誰も居なかった。
だから村人に聞く事が出来ず、いっそうの事あの入り口の男の人の所に聞きに戻るかと考えていると、
「あ、在った!ここが宿屋みたいだぞ!」
無事、ルグが宿屋を見つけてくれた。
「ありがとう、ルグ君!」
「本当、ありがとう、ルグ。
入り口まで戻ってあの男の人に聞こうか考えていた所だから助かったよ」
「どういたしまして。さ、入ろうぜ」
こんな森の中に隠された村の宿屋だからか、ルグが見つけてくれた宿屋はかなり小さな2階建ての建物だった。
宿場町の宿とは違い、この宿屋には食事が出来る所は無い。
まぁ、雨風が凌げて魔物や動物や盗賊に襲われる心配をせずに寝れるだけ幸運なんだろう。
野宿するよりは何100倍もマシだ。
「いらっしゃい!1泊100リラだよ!」
「え、は、はい」
「此処が君の部屋だよ!」
「ん?・・・ありがとうございます」
全く似てないけど入り口の男の人とこの宿の店主が家族か親戚なのか、それとも此処の村人全員がそうなのか。
入り口の男の人と全く同じ紫色の目をした店主のお姉さんに、有無を言わさずお金を払った所で部屋に案内された。
出来れば、ユマさんとは部屋を分けて貰った方がありがたっかったんだけどな。
そんな店主に、やっぱり何か違和感を感じる。
その違和感の正体は、強制的に3人まとめて1部屋にされたからかな?
きっと、この宿屋では1パーティー1部屋って決まりでもあるんだろう。
小さな宿屋だし、部屋の数も宿場町の宿屋に比べ少ないし。
そう自分を納得させて案内された部屋に入った。
部屋は隅っこの方にユニットバス、小さめのベッドが2つと四角いテーブルが1つ。
それだけで部屋の中がギュウギュウと窮屈に感じてしまう、ビジネスホテルの様な小さな部屋だった。
でも、綺麗に掃除が行き届いてるし、シーツもピッシっとしてる。
うん、野宿するよりはマシだな!
「俺は床で寝るから、ルグとユマさんがベッド使ってね」
「いいの?」
「うん。見た感じ、俺じゃ小さ過ぎるから良いよ」
『ミドリの手』と『クリエイト』を使って今晩の夕飯の材料を出しながら俺はそう言った。
今の時間、この宿屋以外の店は閉まっているのは既に確認済み。
やっぱ、この世界の店が閉まる時間は早いな。
6時、7時と言えば基本的にどの店も閉ってしまう。
遅い時間まで開いてるのは酒場位じゃないかな?
その酒場もこの村にはないみたいだけど。
だからって、部屋の中で火を使う訳にもいかないし、店の外で焚き火するのも問題だろ?
台所を借りるのも流石に図々しいしな。
パンは『ミドリの手』と『プチヴァイラス』を使って。
野菜と果物、ジャムは『ミドリの手』。
ハムやツナ缶、チーズ、ゆで卵、マーガリン、ホイップクリーム、カスタード、マヨネーズは『クリエイト』で出す。
塩、コショウ、醤油なんかの調味料は前作った物が鞄に入ってるから問題ない。
パッパと何種類かのサンドイッチを造り、『クリエイト』で出した紙コップに『ミドリの手』で出したフルーツジュースを注いで完成。
「簡単な物で申し訳ないけど、これが今日の夕飯です」
「全然、十分手間かかってたよね?」
「そう?」
薄く切ったパンに色々乗せるだけの朝食が一般的なユマさんからしたら、結構適当に作ったサンドイッチも手間の掛かる物に分類されるんだろうか?
そう内心首をかしげながらサンドイッチを四角いテーブルに置き、ベッドに座って食べる。
この部屋、椅子が無いんだよな。
椅子まで置くと狭くなり過ぎるからなのか、それともこれがこの世界の宿屋の基本形なのか。
俺が知ってるこの世界の宿屋は結構いい場所ばかりで、平均的な宿屋がどう言った感じか分からないんだ。
「それにしても、静かだな」
「そうか?」
「確かに、昨日の宿場町に比べたら静かだけど。
でもそれは、この町に酒場が無いからじゃない?」
やけに静かな町を窓から眺め俺は無意識の内に呟いていた。
ユマさんの言う通りこの町には酒場が無いから、夜遅くまで飲み明かし酔って道で騒ぐ奴も居ない。
村人は家に居るのはこの部屋から見る家の明かりで分かるけど、何と言うかその家を見て違和感をまた感じたんだ。
何だろう・・・・・・・・・
「あ、そうか。生活音がしないんだ・・・・・・」
「生活音?」
「そう、足音とか話し声とかドアの開閉音とか。
ロックバードを貸して貰ってないのに、そういう音が聞こえないんだ」
窓から見える家からも、1階に居るはずの宿屋の店主が発する音も聞こえない。
部屋の壁は結構薄そうなのに、だ。
最初は、防音の魔法や魔法道具でも使っているのか?と思った。
でも、それにしたって可笑しいだろ?
今、俺は窓を全開にして景色を眺めているんだ。
窓から見える家には明かりが灯り、まだ住人達が起きている事が分かる。
周りの村人が起きてるなら、魔法の効力外の窓から何かしらの生活音が聞こえる筈なのに、ここまでしないのは流石に可笑しい。
だから、俺にはまるでこの町が映画の中のゴーストタウンの様に感じるんだ。
「本当に、この町の人達って生きてるんだよな?」
「え、ちょ!サトウ、怖い事言うなよ!!」
「今度こそ、本当に幽霊が出たの?」
「ユマぁあ!!」
涙目のルグには申し訳ないけど、怖すぎて確認しないと安心して眠れない。
俺達はそっと息を殺して階段から1階を覗いた。
1階にはまだ笑顔で客が来るのを待つ店主の姿。
「足は・・・・・・」
「ある」
「体が・・・・・・」
「透けてない」
「微かに体が上下に動いてるし、息してるよね?」
結論から言うと、
「店主は生きた人間で間違いなし?」
「も、もう!サトウは心配性なんだよ!!
きっと見た目に反して良い魔法道具を使ってたんだよ!
ほらほら!明日も朝早くから出発するんだろ?
早く寝よう?な?」
ルグに背中を押され、俺達は部屋に戻った。
その時、ふと思ったんだけど。
あの店主、何時まであの場所に居るつもりなんだろう?




