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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 1 章 体験版編
109/498

107,治癒の鳥を探して 5羽目


「う~・・・・・・

お腹痛い~・・・気持ち悪い~・・・・・・」

「自行自得だ。

これに懲りたら、あんな事もうするなよ?」

「はーい・・・・・・」


何とか昨日の勝負に勝ったルグは現在、胃もたれでダウンしている。

そりゃあ、あんなに食べれば胃もたれもするだろう。

そう言うルグの前には酒場からルグが借りた部屋に持って来て貰った小ぶりの容器に入ったヨーグルトと、『ミドリの手』で出した1杯のリンゴジュース。

消化機能を高めるリンゴと腸内環境を整えるヨーグルトは胃もたれには最適な食材だと言われている。

あとは、お酒を飲む人なら牛乳やシジミの味噌汁もおススメだ。


「まさかこんな事で森に行けなくなるとは思ってもいなかったよ」

「ごめ~ん、サトウ~」

「はいはい。

多分、もう直ぐユマさんが医者を連れて来てくれるからな?」


この場に居ないユマさんにはクエイさんを連れて来て貰っている。

俺の予想が正しければ多分、クエイさんは来てくれるだろう。

ユマさんには俺が呼んでいると慌てた様子で言えば絶対来るといったけど・・・・・・


「サトウ君!連れてきたよ!!」

「よぉ、俺を呼ぶって事は・・・・・・・・・

おい、どう言う事だ?」


人の悪い笑顔を浮かべ入ってきたクエイさんは俺を見ると、信じられない物を見たかの様に目を見開き、そう呟いた。


「何で・・・お前・・・・・・平然としてるんだ?

確かに、俺は!!」

「俺を病気にした。そう言いたいんでしょ?

ね、噂のカラドリウスさん?」

「チッ。やっぱ気づいていたか」

「え?え!?えぇえええええええええええ!!?」


俺の言葉にユマさんが叫び俺とクエイさんを交互に見る。

ルグも叫ぼうとしたんだろうけど、その口から出たのはゲップのみ。

ルグのせいでシリアスな雰囲気が一瞬で終わった。


「えーと、取り敢えず。

ルグの胃もたれ如何にかして頂けませんか?」

「その為に俺を呼んだのかよ?」

「そうですよ。後、貴方とちゃんと話がしたくて」


呆れた様にそう言うクエイさんは、ルグに緑色の飲み薬を渡した。

それは即効性の薬らしく、ルグの胃もたれは飲んだ瞬間には治った様だ。


「・・・・・・うえぇ・・・不味い~・・・・・・」

「ルグ君、胃もたれの方は?」

「治ったけど、口ん中気持ち悪い・・・・・・」


そう言ってルグは俺が用意していたリンゴジュースを飲んだ。

それでもまだ口の中に変な味が残っているんだろう。

ルグは変な表情のままだ。


「・・・・・・やっぱお前、魔族だったんだな。

その薬は腹ん中の物を魔元素に変える薬だ。

魔族じゃないと効果が無い」

「本当だ、オーガンに魔元素が溜まってる!」

「それで、後の2人は人間か?」

「あ、私も魔族です。種族は悪魔」

「オレはケット・シー!!」

「このパーティーで人間は俺だけです」


依頼書にはクエイさんが今も丁寧にルグの診察をしていて、俺達はそれをハラハラと見守っている、と記録されているだろう。

借りたロックバードのお陰で防音面は完璧だし、事前にユマさんに依頼書を改造して貰ったから言える2人の本当の種族。

ルグは光に包まれ、ユマさんはリボンを外し、本来の魔族の姿に戻った様だ。

ユマさんに関しては俺には変化が無い様に見えるけど。

そんなルグとユマさんの行動に、此処が安全と判断したんだろう。

クエイさんも変化石の指輪から出たルグと同じ光に包まれ、


「・・・・・・それが、カラドリウスなんですね」


現れたのは鶴やサギ、コウノトリの様な見た目の雪の様に白い鳥だった。

体全部が白いんだと思っていたけど、喉元のネックレスの様な部分と目が夕焼け空の様な鮮やかなオレンジ色をしている。

カラドリウスにとってあのネックレスがユマさんの角やロックバードの尻尾の様な、魔元素を取り込む為の器官らしい。


「喜べ。

この姿を見ただけで、一生の幸運を使い果たしたからな」

「それは喜べません!」


こんな事で、一生の幸運を使い果たしたなんて嫌過ぎる!

必死に否定する俺を鳥から人の姿に戻ったクエイさんがドヤ顔で見ていた。

今のは、俺がクエイさんの正体を突き止めた仕返しなのか?


「俺が魔族だって気づいたのはコイツに気づいたからか?」

「確かに、その変化石の指輪に気づいたからってのもあります。

でも、それだけじゃありません」


左の中指に嵌った変化石の指輪を見ながらクエイさんが言う。

確かに指輪とルグとユマさんの話でクエイさんが人間のフリをした魔族だと言う事が分かった。

だけど、分かるのはそこまで。

カラドリウスかどうか分かったのは酒場で聞いたクエイさんの言葉によるものだ。


「俺は最初、貴方も酒場に居た他の冒険者と同じ、以前トムさんの依頼を受けて失敗した冒険者の1人だと思いました。

でも、貴方は酒場から出る時こう言った」


『俺はお前等の様な冒険者じゃなくて医者だ。

人間なんかの依頼なんて請けるかよ!』


このクエイさんの言葉からクエイさんは冒険者じゃないと言う事の他に、ギルドにある依頼を受ける事は無いと言う事が分かる。

そして、『人間なんかの依頼』とも言った。

この言い方はまるで自分は人間ではないと言っている様なものじゃないか。

その言葉と指輪からクエイさんが『冒険者ではない魔族』である事が確定した。

だからこそ、その前のクエイさんの言葉に違和感を感じたんだ。


『依頼?

・・・・・・・・・あぁ、あのおっさんの。

まだ諦めてなかったのか』


『あー、そんな名前だったか?覚えてねぇな。

まぁ、多分そいつじゃね?

失敗してるのに何人も冒険者雇ってよー。

しつこいったらありゃしね!』


『実力も知識もないくせに、好奇心と金目当てに深入りしたんだ。当然だろ』


「で、極めつけは『それがお前達が決めた事なら、何があっても後悔するなよ?』でしたよね?」


クエイさんのあの言葉の数々。

失敗した冒険者じゃなければ、一体どういう立場の人物が言うだろうか?

魔族でもある事も踏まえ考えた結果、俺は1つの可能性にたどり着いた。


そう、探されているカラドリウス本人だとう言う事だ!

いや、鳥だから本鳥か?


「実際その後俺は貴方に攻撃された。

俺を病気にして諦めさせようとしたんでしょう。

ですが、貴方にとっては残念な事でしょうが、俺は病気を無効にするスキルを持っているんです。

貴方の病気攻撃は俺に効かない!」

「チッ。

そう言うスキルが有る奴だったのは計算外だったな」

「後、もう1つ。

貴方は俺に自分達の正体を教える決定的なミスを犯した」

「はぁ?俺が?何言って・・・・・・」


そう言うクエイさんは俺の次の言葉で自分が犯した決定的なミスに気づいた。


「カラドリウス。

カラドリウスを俺達も、冒険者も、依頼人も。

皆魔物だと思い込んでいた。

でも貴方は、カラドリウスの正体を知っている貴方だけはこう言ったんだ」


『それでも、存在しない魔族を探すのかよ』


と。


「あ・・・・・・・・・」

「あの場に居た唯の人間の冒険者はちゃんと『お前達、カラドリウスは御伽噺の魔物だぜ?実在し無いって!』って言いましたよ。

『カラドリウスは御伽噺の魔物だ』って。

でも貴方は『存在しない魔族』と言った」

「あぁ!チクショウ!!

そこまで気が回ってなかった!!」


俺の考えを聞いたクエイさんは悔しさを隠そうともせず地団駄を踏む。

さて、問題はここからだ。

俺達の依頼はカラドリウスに来て貰ってマリーちゃんの病気を治して貰う事。

クエイさんが素直に一緒に来てくれるとは思わないけど、試しに頼んでみるか。


「では、改めてクエイさん。

ある子の病気を治して欲しいんです。

一緒に来ていただけませんか?」


俺がそうクエイさんに尋ねるとクエイさんはフーと息を吐き、とても綺麗な満面の笑顔を浮かべ、


「だぁれが人間なんかを助けるか、バーカ。

そこのチビの治療費払ってとっとと家に帰りな、糞ガキ共」


全力否定された。

うわぁ、女の人なら見惚れそうな良い笑顔でなんと言う暴言を吐くんだこの医者は。

会ってまだそんなに経ってないけど何度思った事か。

この人絶対医者らしくない!

病気や怪我で苦しんでいるのに、医者がこんなに口が悪かったら安心して治して貰おうとは思えないよ。


「貴方が嫌だと言うのは貴方の今までの言葉から解っていましたよ。

ですので、他のカラドリウスに頼みます!」

「はぁ、他の?

俺以外にこの町に人間に化けたカラドリウスが居ると思ってんのか?」


クエイさんが指定した治療費3000リラを払いつつ、俺はクエイさんにそう言った。

それにしても、薬1個でこの値段は高くないか?

まだこの世界の医者に見て貰った事が無いから知らないだけで、この世界の診察代ってたったあれだけの事でも、こんなに掛かるものなのか?


「えっと、普通の医者よりも高い気が・・・」

「迷惑料込みだ。何だまだ増やされたいのか?」

「「「ごめんなさい!」」」

「それで、人間。

俺以外のカラドリウスに心当たりはあるのかよ」


ポツリと呟いたルグの言葉にクエイさんが不適に笑いながら言う。

思わず3人一緒に謝った俺達を気にした様子も無く、クエイさんは俺に他のカラドリウスの心当たりを尋ねた。

カラドリウス個人の知り合いは居ない。

だけど、クエイさん以外のカラドリスが住んでいる可能性がある場所なら目星はついている。


「はい。シャンディの森の盗賊のアジト。

あそこ、盗賊のアジトじゃなくてカラドリウスの村ですよね?」

「・・・・・・・・・そこまで気づいてたのかよ」

「えぇ、貴方が教えてくれました」


『実力も知識もないくせに、好奇心と金目当てに深入りしたんだ。当然だろ』とクエイさんが言う前、酒場に居た冒険者達の会話を思い出す。


『それに、君達みたいな子供だけであの森に入るのは危険だ。

あの森には小さな集落に化けた盗賊のアジトが在るんだ』


『あー、そう言えば在ったな。

森の中に村人全員医者って言う村が在ってその村人がカラドリウスを飼っているって噂。

で、実際に言ったら全員盗賊の村だったって言う』


『そうそう!

村に泊まったら翌朝全裸で町の入り口付近に放置されたって話!!』


と冒険者達は言っていた。

その話の後にクエイさんは、


『実力も知識もないくせに、好奇心と金目当てに深入りしたんだ。当然だろ』


と言ったんだ。

クエイさんがカラドリウスだと分かって聞くとこの言葉、


「金目当てに自分達の村に勝手に入ったんだ。

やり返されて当然だろ?」


と言ってる様にも聞こえるんだ。

それにクエイさんやクエイさんのお婆さんが毎日森とこの町を行き来して、この街の何処にも住んでいない。

と言う事を考えると、クエイさんを含めカラドリウス達は森の中に村を造り住んでいると考えられる。


「貴方はこの町と森を毎日行き来しているのに、この町に拠点は無い。

なら考えられるのは貴方が『森からこの宿場町に通っている』と言う事。

そして『全員が医者の村』の噂から判明した盗賊のアジト。

その話をした冒険者への貴方の返答。

その全てをひっくるめ考えると」

「盗賊のアジトって言われてる村が俺達カラドリウスの村だと気づいた訳か」

「はい。村に住んでる方なら1人位」


協力してくれるかも知れない。

と言おうとした俺の言葉はクエイさんが鼻で笑った事で音として口から出る事はなかった。


「バーカ。人間に協力しようなんて奴居るかよ」

「盗賊のアジトに沢山の人が居た事は分かってるんです。

貴方がそうでも、他の方がそうとも限らないでしょう?」

「居ないったら居ないんだよ!

しつけぇなぁ。いい加減諦めろ!!」

「お断りします。

俺達にも諦める事が出来ない理由があるんです。

可能性があるのなら挑戦します!」


暫くの間、俺とクエイさんは睨み合う。

最初に視線を逸らしたのはクエイさんの方だった。

クエイさんは盛大に舌打ちをすると、俺が払ったルグの治療費を掴み部屋を出て行く。


「何でも思い通りになると思うなよ、人間」


と言う捨て台詞の様な言葉を最後に言って。


「えぇ、そんな当たり前の事、解りきっていますよ。

でも、何もしないで帰れる訳無いじゃないですか!」


そう言った俺の言葉は、はたしてクエイさんに聞こえたんだろうか?


「・・・・・・・・・さて、俺達も行こうか?」

「あのお医者さん、追いかけるの?」

「いや」


ユマさんの質問に俺は首を横に振った。


「多分、クエイさんを尾行して村まで行く事は不可能だと思う。

俺達が後を着いて来る事はクエイさんも予想しているだろうから、着いて行ったら別の危険な場所に誘い込まれるのがオチだ」

「だと、地図を頼りに行くしかないか」

「うん」


地図には盗賊のアジトと書かれたカラドリウスの村の場所がちゃんと記されている。

そこはこの宿場町から結構近い場所にあるようで、『フライ』を使えば直ぐ着くだろう。

まぁ、クエイさんが毎日此処に通ってるなら村は近い場所にある事は予想できていたけどな。

今から行けば昼過ぎ位には着くだろう。

そう思いつつ俺は借りた部屋から鞄を取ってくる為に、1度ルグの部屋を出た。


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