105,治癒の鳥を探して 3羽目
トムさんに聞いた以上の話が聞けなかったアーサーベルを出発し、馬車を乗り継ぎ約1日。
今まで行った場所の中でも1番遠かったエスメラルダと同じ位遠い、シャンディの森に1番近い町に俺達は来た。
その町は俺達の様にシャンディの森に入る冒険者達が拠点にする宿場町。
街にある殆どの建物が宿屋だと言われている。
現に町を歩けば2件隣には別の宿屋が在る程だ。
あと在るのはギルドの他には酒場と商店のみ。
普通の住宅は町を歩いた限り見当たらなかった。
そして俺達が今向かっているのは、今回の拠点となる宿屋だ。
以前トムさんのカラドリウス捜索時に雇った冒険者達も泊まっていたらしい。
「えーと・・・・・・在った、此処だ」
「うわぁ、良い宿屋だね!」
辿り着いたのは、一階は酒場になっていて2階より上が宿泊施設になっている、この宿場町の中では一般的な宿屋だった。
ユマさんの言う通り、バトラーさん達が泊まっていたあのホテルよりはシンプルで小さいけど、良い宿屋である。
いや、バトラーさん達が泊まっていたあのホテルが規格外なのか。
「いらっしゃい。
泊まっていく?それとも食事だけ?」
1階の酒場に入ると、カウンターの中に居た店主らしい若い女の人が声を掛けてくる。
どうやら、この宿屋では泊まらなくても1階の酒場を利用できるらしい。
酒場に居る冒険者は全員で11人。
カウンターで酒を飲んでいるソロ活動の若い男性以外、皆パーティー毎にテーブルに座っている。
男同士の2人組みの冒険者が2組と男女で組んでいるのが1組、女性だけで組んでるらしい4人組みのパーティーが1組。
今この酒場を利用している全員が此処に泊まっている訳じゃなさそうだ。
「はい。
何日か部屋をお借りしたいんですが、3人なんですけど、1人女の子で。
えーと、2人部屋と1人部屋、1部屋づつ空いてますか?」
「2人部屋と1人部屋ね。
ちょっと待ってて・・・えーと・・・・・・
ごめんなさい、2人部屋は空いてないわね。
でも、1人部屋なら丁度3室空いてるわ」
「じゃぁ、その3部屋お願いします」
「はい。それで、君達は何泊位する予定?」
「えーと、どうしようか?ルグ、ユマさん」
俺達が借りた部屋に鍵を掛けているらしいロックバードが其々入った鳥籠を持ってきた店主にそう聞かれ、俺はルグとユマさんにどの位泊まるか尋ねた。
カラドリウスを見つけられるまでどの位掛かるか分からないし、最長何日までに見つからなかったら諦めるか。
実はまだ決めてなかったんだ。
「そうだなぁ・・・・・・とりあえず5日位?」
「うん。
カラドリウスって中々見つからない無いって言うし・・・・・・」
「カラドリウス!?」
ユマさんがカラドリウスの事を言うと、酒場にいた冒険者達がドッと笑い出した。
何がそんなに可笑しいんだ?
「お前達、カラドリウスを探しに来たのかよ!?」
「え、えぇ。そうですけど?
それの何が可笑しいんですか?」
「お前達、カラドリウスは御伽噺の魔物だぜ?
実在し無いって!」
「そうそう!」
そう言って笑う冒険者達。
この宿場町では何人もの冒険者が何年何十年と探しても見つからなかったカラドリウスは、完全に御伽噺の住人と化していた。
俺の世界で言えば居もしない妖精や小人、ツチノコを探そうとしている様なもの。
人によっては馬鹿な奴だと笑い話のネタにしかならないと、そう言う事だろ。
「空想上の生き物だろうと、一応探しますよ。
これも依頼なんでね。
1度受けた依頼を適当に終わらせる気はありませんので」
「依頼?
・・・・・・・・・あぁ、あのおっさんの。
まだ諦めてなかったのか」
俺達の隣のカウンターで1人飲んでいた、灰色の石の指輪とオレンジ色のネックレスをした冒険者が忌々しげにポツリと呟く。
この人も昔トムさんに依頼されて、失敗した冒険者なのかもしれないな。
「その諦めてなかった人ってトム・ジャク・ローズさんですか?」
「あー、そんな名前だったか?覚えてねぇな。
まぁ、多分そいつじゃね?
失敗してるのに何人も冒険者雇ってよー。
しつこいったらありゃしね!」
「そうそう!
そう言う俺達も失敗した君達の先輩ってやつ?」
「元々居ないもの探してるんだから、失敗じゃないだろ?」
「えーと、君達で・・・・・・
23組目じゃなかったかけ?」
カウンターの冒険者に同意する様に他の冒険者達がそう言って来る。
それにしても、22組もの冒険者が失敗してたのか。
予想以上に多いな。
「報酬が良かったら受けたけどさー。
最初から成功しない依頼なんてアレが始めてだったぜ」
「そうそう。
俺達、冒険者の評判を下げる為に用意したみたいな依頼だよなー」
「別に、トムさんはそんなつもり無かったと思いますよ?
トムさんは本気でカラドリウスが存在しているって思っているんです。
だから・・・・・・」
俺がそう言うと、また酒場が冒険者達の爆笑で満たされた。
店主も笑いをこらえてるし。
テレビや劇場でお笑い見てるんじゃないんだから、そんなに笑うなよ。
「アハハハハ!
そんなモーソーヘキのあるおっさんの依頼を真面目に受けるって、坊主達若いねー」
「いやー、これが若いって奴?」
「信じちゃって可愛いー!」
「チビ共、悪い事は言わねぇ。
さっさとお家に帰りな」
机を叩いて爆笑する冒険者や幼い子供でも見る様な冒険者。
それとシッシッとまるで蝿か野良犬でも追い払う様に手を振るカウンターの冒険者。
流石にこれは酷くないか?
「それに、君達みたいな子供だけであの森に入るのは危険だ。
あの森には小さな集落に化けた盗賊のアジトが在るんだ」
「あー、そう言えば在ったな。
森の中に村人全員医者って言う村が在ってその村人がカラドリウスを飼っているって噂。
で、実際に言ったら全員盗賊の村だったって言う」
「そうそう!
村に泊まったらら翌朝全裸で町の入り口付近に放置されたって話!!」
「実力も知識もないくせに、好奇心と金目当てに深入りしたんだ。
当然だろ」
シャンディの森には盗賊も居るのか。
確かにそれは危険だな。
正気を失った研究者達や油断しまくった兵士とは訳が違う。
盗賊達は油断無く念入りに計算して俺達を狙うだろうし、冒険者を襲う事にも慣れているはずだ。
そもそも、シャンディの森は盗賊たちのテリトリー。
地の利は向こうにあるし、罠だって多く仕掛けてあるだろう。
「それでも、存在しない魔族を探すのかよ」
「探しますよ。
俺達は『どんな依頼でも受けたら最後までやり遂げる』冒険者ですから」
聞いて来るカウンターの冒険者に俺は頷いた。
それにこのまま幼いマーヤちゃんを見殺しに出来る程、俺は人間やめてない。
あの時、万能薬を飲んでくれたと言う事はマーヤちゃんだって唯の花に成りたいとは思っていないはず。
まだ、人間として生きたいはずだ。
「チッ。そーかよ。
それがお前達が決めた事なら、何があっても後悔するなよ?」
「えぇ、しませんよ」
舌打ちしてそう言うカウンターの冒険者。
カウンターの冒険者は手元の酒をグイッと煽ると勢い良く立ち上がり、店主に金を払って酒場を出ようとした。
そのカウンターの冒険者に机に座った冒険者の1人が声を掛ける。
「なぁ、クエイ。
アンタ、これから何時もの様に森に行くんだろ。
折角だからコイツ等案内してやったら?」
「ケッ。お断りだね。
何時も言ってるだろ。
俺はお前等の様な冒険者じゃなくて医者だ。
人間なんかの依頼なんて請けるかよ!
だいたい、そう言うのは暇人なお前等がやれってんだ。
まぁ、あの森が怖くて逃げ出したお前等に出来るもんならな!!」
そう嫌味を言ってカウンターの冒険者、じゃなくて、クエイという名前の医者とは思えない程ガラの悪い医者は今度こそ本当に出て行った。
夕方とは言えまだまだ明るいこんな時間から、何杯も酒を飲んでいるクエイさんも暇人なんじゃないのかな?
「本っっっ当!!嫌味ったらしい嫌な奴!」
「・・・・・・・・・あの、さっき出て行ったお医者さんって、何時も森に行ってるんですか?」
「えぇ、そうよ。
毎日森に入って、薬草や木の実、森に有る物で作った薬を売って生計を立ててるみたい」
「アイツの薬を作る腕と薬草の知識は確かに信用できるけどよ、アイツ、本当に医者かどうか怪しいんだよな。
此処の常連同士アイツとはほぼ毎日会ってるけどさ、アイツが医者らしい事してる所見た事無いんだよ」
「そうなんですか?」
俺がクエイさんの事を聞いてると、冒険者の1人がそう言った。
クエイさんはこの宿場町に長く居る冒険者で知らないものは居ないと言うほど有名人らしい。
何年か前に無くなったお婆さんの後を継いだというクエイさんは、10何年も前からお婆さんと一緒に森とこの宿場町を行き来しているそうだ。
クエイさんのお婆さんは本当の名医で、どんな病や怪我もたちどころに治していたらしい。
だけど、謎なのはこの宿場町の何処にもクエイさんの診察所が無い事。
お婆さんの代でも診察所の場所は不明のまま誰1人見つけた者は居ないらしい。
「この宿場町に居るからこの街の何処かに住んでいる事は確かなんだけどなー。
アイツ、本当は森に住む盗賊の1人なんじゃないのか?」
「そうだよね。
森に入っても全く怪我を負った様には見えないのよね。
そう言う無傷な所見ると、盗賊の1人だとも思えるんだけど、怪我したら直ぐ自分で治してるからじゃないの?」
「それに、アイツが作った薬は良く効くだろ。
お前、クエイの奴に病気治して貰っただろ?」
「まーなー。
でも!アイツの診察料無駄に高いんだよ!!
ボッタクリだぁあああああああっ!!!!」
酒が入ってるせいか、医者に治して貰ったと言う冒険者は机に突っ伏し泣き出した。
それを同じパーティーの仲間2人が慰める。
それにしても、冒険者の話を聞くにクエイさんは本当にこの世界の医者らしい。
手術とかする感じじゃなくて薬剤師っぽくて、時代劇に出てくる医者って感じだけど。
「あ、宿泊は予定通り5日でお願いします」
「フフ、分かったわ。頑張ってね」
堪え切れず笑う店主にロックバードを渡されながら、俺達はそれぞれ借りた部屋に荷物を置きに行った。
「そうだ、ルグ、ユマさん。
1つ聞きたいんだけど、変化石ってあるだろ?」
「変化石?それがどうしたんだ?」
「いやぁ、変化石って人間も持っているのかな?
って。
この前聞き忘れた事今思い出したから、また忘れない内に聞こうと思ってさ」
部屋に入る前に俺は2人にそう聞いた。
2人は何を今更、と言いたげながらも、
「基本的には魔族だけだよ。
人間には基本必要ない物だし」
「使っているとしたら、相当やばい事やってる奴位じゃないか?」
と、答えてくれた。
「そっか、基本魔族だけなのか。
それはアンジュ大陸国に居る魔族以外、ヒヅル国やキール氷河に住む魔族でも持ってるって事だよな?」
「うん。
多分、変化石自体希少で高いから幻術系の魔法や姿を変えれるスキルを持っている魔族は必要じゃないけど、アンジュ大陸国よりも他の国で暮らす魔族の方が持っていると思うよ。
アンジュ大陸国だと人間の姿の方が他の魔族と暮らしやすいって種族以外は持ってないんじゃないかな?」
「基本、他の国で暮らすなら人間に化けないといけないからな!」
「・・・そっか・・・うん、そうか・・・・・・」
俺は2人の話で自分の中のある可能性が現実味を帯びた事に小さく笑う。
そんな俺に2人は今までの経験からか、俺が何か掴んだと思ったんだろう。
でも何も言ってこない。
2人が何か聞く前に俺がリズミカルに3回、小さく魔女に書かされ終わったら直接渡しに来いって言われた依頼書が入った鞄を叩いたからだ。
それは、事前に決めたユマさんへの合図。
依頼書を書き換えて欲しいと言う合図をしたからだ。
俺の予想が正しければ、これの話が依頼書に記録されるのは不味いと思う。
それを読み取って俺に合わせてくれた事も含め2人お礼を言った俺は借りた部屋に入った。




