104,治癒の鳥を探して 2羽目
「って事が1週間位前にあったんだよなぁ」
「それで、此処に呼ばれたのか?」
「多分?」
相手に聞こえない様に小声で話す俺達。
今俺達が何処にいるかと言うと・・・・・・・・・
ローズ国城である。
この世界に連れて来られた時以来一切近づかなかった、あの城だ。
あの日の行ない。
英勇教の教会の真前でこれから自分達が治療しようとしている人間を先に治療して助けたなんて、ある意味英勇教に喧嘩を売っている様な行為だった自覚はある。
けど、その時はあれが1番丸く収まる方法だったんだ。
後、あの時の神父もシスターも最終的に唯の野次馬化してただろう!
今目の前に魔女達が居るのは英勇教にある意味喧嘩を売った様な行為をした事が理由だと思ったんだけど、どうもそうじゃないらしい。
魔女達3人の他にあの時の病気の娘を持つ父親が居る。
彼からの依頼で俺達は今此処に居るんだ。
今朝、何時も通りギルドに行くと、何故かギルドの入り口で待ち構えていた4人のローズ国兵に捕まり、この城まで無理矢理連れて来られた。
そしてローズ国兵達に投げ込まれる様に乱暴に入れられたのがこの部屋で、部屋の中では優雅に紅茶を飲む魔女と魔女の後ろに立つ助手と兵士と言うお馴染み?
なのかは分からないけど、何時もの3人組と魔女の斜め右隣の席に座った驚いた顔をしたあの父親が居たんだ。
「久しぶりですね、サトウ。
サマースノー村の事やモリーノ村での事。
色々活躍している事は知っています。
サンプルとして役立っている事は素直に褒めてあげましょう」
「どうも、お久しぶりです、ローズ姫様。
後ろのお二人も」
相変わらず上から目線で言ってくる魔女。
まぁ、一国の姫ならそういう風に教育されてきたんだろうけど。
同じ王族でもルグとユマさん、ミモザさんとは大違いだ!
少しはルグ達を見習えよ!!
そう内心毒つきながら投げ込まれたせいで倒れていた俺は立ち上がり、服の埃を払いながら魔女達にそう言った。
「だ、大丈夫かい?
すまない、こんな乱暴な真似をしてしまって」
「叔父様。叔父様が謝る必要はありません」
「何を言うんだルチア!
私は彼等の力が必要だから来て貰ったと言うのに、お前は人としての礼儀も分からないのか!?」
「・・・・・・・・・申し訳ありません、叔父様」
あの魔女が謝った、だと。
目の前の事実が理解できず、思わず俺達を助け起こそうとしたのか、近くに来た父親の顔を見る。
「姪がすまなかった。
この前は娘を助けてくれてありがとう、サトウ君。
改めて、私はトム・ジャック・ローズ。
この国の国王の弟だ」
「い、いえ・・・・・・
あの、お、御気になさらず・・・・・・」
こういう時何と言えばいいのか分からず、しどろもどろ言葉を返す。
まさか、おっさんに弟が居たとは・・・
雑貨屋工房の小母さんが、おっさんは『跡継ぎが中々生まれなく、やっと生まれた待望の王子』だと言っていた。
だからおっさんに兄弟は居ないと思っていたんだ。
これは後でローズ国を調査していたルグから聞いた事だけど。
本妻が産んだおっさんの後に継承権の低い側室の1人が産んだのが生まれつき病弱なトムさん。
トムさんとおっさんの兄弟は他にもう1人。
トムさんとおっさんの異母姉で、19年前、前ローズ国王が決めた人以外と勝手に恋人になってその人の子供を身ごもって勘当され行方不明になった王女が居るそうだ。
因みに、ローズ国は男性しか王位を継げず、2人より先に生まれていた行方不明の王女様はそもそも継承権すらなかったらしい。
「君が今英勇教で噂されているあのサトウ君だったとは。
今日はそんな君に、いや、君達に依頼があって来て貰ったんだ」
「依頼・・・ですか?分かりました。お伺いします」
確かにトムさんはどっからどう見ても金持ちそうで英勇教の信者だと分かる人物だったけど、まさか王族だったとは。
あの時の親子が魔女の親戚だったと言う事実に驚きを隠せない。
そんな驚きいっぱいで間抜けな顔をする俺より先に復活したユマさんが、何時ものリーダー顔でトムさんに答える。
そのユマさんの言葉を聞き、やっと俺も目の前に居るのが依頼人だと理解して、トムさんに促されトムさんと向かい合う様に座るユマさんの後ろにルグと一緒に立つ。
何時もの体制になり、改めてトムさんの話を聞いた。
何時もと違う所は第三者の魔女達が居る事だろう。
「それで、ご依頼と言うのは?」
「娘の病気を完全に治す為に、ある魔物を生きたまま連れてきて欲しいんだ」
トムさん曰く、あの日の俺が渡した万能薬でも女の子、マーヤことマティーニャ・ジャック・ローズの病気は完全に治せなかったそうだ。
万能薬で病気を完全に治す事は叶わなかったものの、病気の進行はかなり遅くたまに起きる症状も万能薬を使う前よりもかなりマシになった。
それでも完全に治った訳ではない以上、何時また悪化するか分かない。
だから嫌がるマーヤちゃんの為にも霊薬を使う以外に完全に病気を治すもう1つの方法を急いで使わないといけないんだ。
「それが、シャンディの森に住むと言われる伝説の魔物、カラドリウスの捕獲ですか」
「えぇ」
カラドリウスはどんな難病だろうが、例え不治の病だろうが、病気ならどんな物でも全て吸い取る事で完治させる真っ白な鳥で、その血肉は万病を癒す薬になると言う。
そして、不治の病に掛かった大昔のローズ国の王を救ったと言われる伝説の、ユマさんと同じ融合型のオーガンを持つ魔物でもあるそうだ。
今までにカラドリウスが目撃されたのはローズ国の長い歴史の中でも両手で数えられる位だそうで、今まで捕まえられた者はその王様を救った当時の勇者唯1人。
今までカラドリウスの捕獲は99.9%無理だと言われてきた。
現にトムさんもマーヤちゃんが病気になってから何回、何十回、何百回とカラドリウスの捕獲に挑戦してきたそうだ。
自分の所の兵に命令しシャンディの森を探し回ったり、成功率ほぼ100%の有名な冒険者達にも依頼したし、自分でも何度も森に入って探し回った。
結果はあの日言った通り連敗だけど。
だけど、もしかしたら勇者達と同じ異世界から来た俺なら可能性があるのでは?
と、トムさんは0.1%の可能性に賭けたんだ。
「どうか、頼まれてくれないだろうか?」
「・・・・・・・・・分かりました。
ですが、成功する可能性は限りなく低い。
失敗する可能性が非常に高い事を承諾して頂けるのであれば、この依頼引き受けさせて頂きます」
「分かっているよ。
失敗しても、文句は言わない。
それに、既に花なり病を治す薬の研究を始めているんだ」
「研究ですか?」
「あぁ。
今まで娘の病を少しでも和らげたものすら居なかったんだ。
それがサトウ君から貰った万能薬のおかげで娘の病は軽くなった。
もしかしたら、万能薬が、いや、グラスライムが娘を助けるかも知れない。
その研究も同時に行っているんだ」
だけど、その研究も何時実を付けるか分からない。
花なり病を完全に治す薬が出来るのが、マーヤちゃんが亡くなった後になってしまう可能性だってあるんだ。
だからこそ、念の為に万能薬の研究と同時にもう1度カラドリウスの捜索も行う事にした。
「マーヤの病が和らいだ、この奇跡の様な出来事がまた起きてくれるとは私も思っていないよ。
でも、今なら少ない可能性も成功する気がするんだ。
私、はその可能性に賭けたいんだ」
そう言ってもう1度頭を下げるトムさん。
何にしても此処に連れて来られた時点でトムさんの依頼は受けざるおえなかっただろう。
それでも、失敗してもお咎めなしと言う言質を取れない事には始まらない。
とりあえず、今日はカラドリウスの情報を集めて、明日から行動を起こそう。




