99,草原のバイオリニスト 8曲目
ルディさんの家に着いた俺達は既に作ってくれていた、ルディさん手作りのパンと、花と木の実と小石と木片のスープを夕飯に頂いた。
スープの味は予想を裏切る、ほんのり木の香りがする海老とほうれん草とカブのクリームシチュー。
おままごとの様な見た目に反し、程良く塩味が効いた乳製品独特の濃厚でクリーミーなスープに、野菜の甘味と肉の旨味が溶け込んでいて、お店に出せる位美味しい。
見た目のインパクトで誤解しそうだけど、食べた感じではどの食材もちゃんとした野菜と肉だった。
ルグ達に確認したら、コスモスとカーネーションを合わせた様な花はこの世界の一般的な野菜で、味はアクの少ないほうれん草。
塔の周りの花壇は花壇じゃなく畑の1つらしい。
500円玉位の大きさの黄色っぽい茶色の木の実は、ジャガイモみたいにホクホクした食感のカブ。
噛むとホロホロ崩れるのに、カブの様な瑞々しさがある。
小石だと思った物は乾燥させたキノコで、木片は寿命で死んだヒツジの肉。
どうも、ヒツジの木の肌は蟹や海老の甲羅みたいなもので、その下にプリプリと引き締まった肉が詰まっている様だ。
食感はコリコリしていて歯ごたえが良く、スモークチーズやスモークサーモンの様に口に入れるとほんのり木の香りがする。
牛乳も小麦粉もバターも使ってないし、サラサラした汁は半透明で白くない。
なのに味は外はカリッと香ばしく中はモチモチと素朴な硬めの塩クロワッサンぽいパンに良く合う美味しいシチュー。
気になってルディさんに作り方を聞いても、花以外の食材を水から煮込んで、最後に湯通しした花を入れると言う比較的簡単な調理方法だった。
シチューのルーになりそうな食材は一切使ってないのに、一体この4つの食材の内どの出汁でこの味になったのか。
本当に謎だ。
「うん、やっぱラムの料理は美味しいな!」
「良かったー。
今日はいっぱい作ったから、沢山おかわりしてね?」
因みに、このスープはピコンさんの大好物で、現在喧嘩していた事なんて忘れて2人共上機嫌だ。
多分、何時もこうなんだろう。
俺達が何とかしなくてもこの2人なら何とかなりそうだ。
ただ、スープが砂糖とハチミツをお椀山盛りにぶち込んだ位激甘くなりそうな程のルディさんとピコンさんの甘めの雰囲気に、俺達は居づらいけど。
なんなのこの2人。
新婚の夫婦みたいな事して。
もう、お前等結婚しろよ。
何で、まだ付き合ってすらいないんだよ!?
そんな事を心の中で何度も言ってしまう位、別の意味でお腹いっぱいな夕飯後。
俺はルディさんの片付けの手伝いを終え、ピコンさんの部屋へ向かった。
「お邪魔しまーす」
「狭いけど、どうぞ」
ユマさんはルディさんの部屋に、俺とルグはピコンさんの部屋に泊めて貰う事になったんだ。
ピコンさんの部屋はベットと小さな本棚。
使い込まれたタンス。
簡単な作りの机と椅子。
窓際の白い小さな花が咲く、雪を被ったモミの木の様な小さな植物が植わった鉢植え。
そう言ったシンプルな部屋だった。
その中で唯一豪華なのは机の上に置かれた複雑な模様と、色とりどりの宝石らしい透き通る様なキラキラ輝く石が嵌め込まれた木箱。
後で聞いた所、この箱はピコンさんの両親の唯一の形見で、鍵穴も無いのに全く空かないカラクリ箱らしい。
複雑な手順があるらしく、ピコンさんもまだ開けた事がなくて箱の中身を知らないそうなんだ。
ピコンさんの部屋は部屋全体がコマめに掃除されている事と、窓際の植物から綺麗で清潔な印象を受ける。
ただ1つ、ピコンさんが向かってる机周辺を除いて。
ピコンさんが書いた絵が無造作に広げられ、1部は床にも落ちている。
既に人の姿のまま床で丸まって眠っているルグに背を向けて紙に鉛筆を走らせるピコンさん。
その横顔はあの塔の倉庫で何かを書いていた時と同じだ。
「これって・・・・・・・・・指輪?」
「あっ!!!」
ピコンさんが大きく動いた事で俺の足元まで舞い落ちた紙。
それは素材や大きさ、色。
そういう物が事細かに書かれた、花のデザインの指輪の設計図だった。
紙の隅にはラム用とも書かれている。
これがピコンさんが必死に書いていた物?
俺が落ちた設計図を見ている事に気づいたピコンさんが慌てて床に落ちている紙を拾い集める。
「あー、えーとだなー・・・・・・・・・
そ、そう!もう直ぐラムの誕生日なんだよ!
ラムも女な訳だし、おしゃれに興味があるかなーって!!
ほ、ほら!毎年同じ物じゃつまらないし?
今年は変わった物でも送ってやろうかなーって思ってるだけで、別にやましい事なんか無いし、プロポーズの為に作ってるとかそんな事一切無いからな!!?」
「ピコンさんが手作りするんですか?
その設計図見るに、作るの大変そうですよ?」
「あ、いや、ある意味、手作りって言えなくも無いけど・・・」
そう言ってピコンさんは目を泳がせる。
そして俺の顔をマジマジと見た後、ピコンさんは漸く口を開いた。
「僕の魔法で作るんだよ。
僕は設計図に書いた物を実体化させる魔法を持ってるんだ」
そう言うとピコンさんは、胸ポケットに刺さっていたインクの無いペンを取り出し、空中に魔方陣を書いた。
完成された魔方陣は光ながら形を変え、最後には設計図に書かれた指輪そのものに。
その光景は初めて『クリエイト』を使ったあの時の光景と似ていた。
出来方もそうだけど、何も素材がないのに物が出るって所も『クリエイト』に似ている。
あれ?
でも、あの時魔女は『フライ』や『アタッチマジック』と同じく『クリエイト』は存在しない魔法って言ってなかったか?
ユマさんの『生命創造』の事は言ってたと思うけど、物を作れる人が居るなんて話はしていなかったと思う。
魔女が把握していなかっただけかな?
「まぁ、こんな感じで作れるんだ。
言っとくけど、この事は誰にも言うなよ?」
「分かってますよ。
特に、ルディさんには秘密にしますよ」
「絶対に絶対だからな!?」
ルディさんを驚かせたいピコンさんに何度も念を押された。
そんなに言わなくても、言いませんよー。
その後、まだ設計図を書くというピコンさんに断りを入れ、俺は先に寝た。
それにしても、耳まで茹でられたみたい真っ赤にさせて必死に言い訳すると、逆にバレバレなんだよ、ピコンさん。
ルディさんへのプロポーズは、成功率高いと思う。
ほぼ100%成功するんだろうなー。
でも、様式美としてこれだけは言わせてくれ。
リア充、末永く爆発しろ!!!




