居眠りファンタジア
一日の学業を終え、俺は閉まりかけの電車の扉に飛び込んだ。
空いている席を見つけ座ると、隣に女子高生が座っていた。
黒髪のショートヘアー、童顏の俺好みの女子高生だった。居眠りをしそうなのか虚ろ虚ろとしている。
女子高生がこちらに傾いた瞬間、まるで花屋の自動ドアが開いた時のような甘美で気分の良くなる匂いがした。
女子高生は眠気と格闘することに必死のようだが、こっちに傾くと共に花に似た匂いが俺に降りかかる。
俺はこの天国のような状況に鼻の下が伸びた。
しばらく女子高生の匂いに惚けていたが、鼻の下の違和感に気がついた。
同時に向かいの席に座っているお婆さんの顔が驚愕の色に染まっている。
そっと鼻の下に手を添えて見るとやたら鼻の下が長い。
下に顔を向けると、鼻の下がまるでゾウの鼻のように伸び切っていた。
しかも女子高生がこちらに傾くごとに、匂いに反応して少しずつ伸びている。
やがて俺の鼻の下は電車の床に到達した。
周りの人は他の車両に移ったり、駅で降りたりしている。
この車両から俺と女子高生以外誰もいなくなる頃には、俺の鼻の下は蛇のようにトグロを巻いていた。
その後も俺の鼻の下は伸び続け、遂には電車の床を占領するに至った。
怪訝に思うがどうにも鼻の下の伸びは止まらない。
そして刹那、俺の鼻腔に電撃が走る。
女子高生が完全に俺の肩で眠り始めたのだ。
くすぐったいような甘い匂いに、柔らかな黒髪の感触も加わった事によって俺の鼻の下は半スライム状になり、濁流のように勢いよく吹き出し始めた。
先程までとは比べ物にならない勢いで俺の鼻の下は電車を満たしていく。
女子高生の膝辺りにまで鼻の下は電車に満ちてきたその時、女子高生が目を覚ました。
俺の顔を見上げる女子高生の表情は、混乱と恐怖に満ちていた。
自分の肘までの水位がある肌色のスライムが、隣の男の鼻の下に繋がっていたらまずそいつはなんらかの妖怪だと思われるだろう。
車内に女子高生の悲鳴が響いた。
気怠い眠気に包まれながら、俺は目を覚ます。
2席分ほどの空間を使って、俺は電車で寝込んでいたらしい。
席の端に女子高生が居たが、あからさまに嫌な顔をされた。
先に肩で眠ってしまったのは俺の方らしい。
周囲の痛い視線に耐えながら、俺は電車が駅に到着するなり扉から飛び出した。