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その先にある風   作者: 羽瀬川 雷蔵
4/4

ー終ー

 「馬原は5番以内に帰ってくると言いました」

寺井はそれだけ言うと2区のスタート位置へ行った。

彼は信じてる。馬原君が5番で襷を渡すことを信じてあの場所に待っている。その先のことは考えていない。自分のことなんか考えずに、馬原君が帰ってくることだけを考えている。

監督である私は馬原君に教えれることは全て教えた。

あとは馬原君次第だ。


 3人を抜いたら5番か。いけるか、この坂で3人を抜けるか?

わからない。わからないから走ろうと思う。この坂を一気に駆け上る!!

ギアを上げる。

足の回転速度を上げる。

呼吸は荒くなる。速く走れば走るほど喉が痛い。

それでも走る。俺は走る。

一人抜かした。一瞬で抜かした。気を抜きそうになる。けどまた加速する。

坂を登るごとにきつくなる。

まだいける。

あと二人。二人は固まっている。チャンスだ!

脚がちぎれそうだ、腕は痺れている。走っていることすら奇跡だ。

苦しい。苦しい。苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい。

そんなことばかり思う。が、待っている。襷を渡す時に、寺井が待っている。走らなければいけない。

俺は苦しくても走らなければいけない。

横に並んだ。こっからが勝負だ。一歩一歩の重みを感じる。

一人落ちた。しかし、もう一人はまだ粘る。そして、俺を離そうとする。

この勝負は絶対負けない。

スタミナなんか残ってない。根性で走っているんだ。

俺も、そいつも。

と、そのとき、左膝がガクッときた。

力が抜けた感覚がした。

くそっ、ここまでなのかよ!なんでだよ!!

諦めた。いや、諦めかけた。

両肩に温かい感触がした。

そして、温かい風が吹き、目の前にいた。

ーーー兄貴がいた。小学生の頃のように兄貴が前を走っていた。兄貴と走っていた。

『まだ走れるだろ。俺を超えてみろよ』

幻覚か?幻聴か?わからないけど。

でも、兄貴が声をかけてくれた。

崩れかけた左膝にもう一度力がかかり、力強く蹴り出した。

そして勢いのまま相手を突き放し、坂をかけ登った。

視界には寺井がいる。

あぁ、よかった。走れてよかった。

寺井に襷を託す。

「任せたぞ」

それだけ言って、脱力した。


 身体がまだ動かない。あれから何時間経ったのか。

辺りは暗く広場には俺と寺井と先生だけがいた。

「正直、ここまで走れるとは思ってなかったです」

「ごめんよ、順位落としまくって」

「43校中30位だからいい方だと思うわよ。全員ベスト更新するってすごいわよ」

とにかく疲れた。

結局、その後はズルズルと順位は落ちていったが、俺をもう一度走らせる目的は達成されたわけだ。見事に。

「推薦、くるわよきっと」

「あー、それなんですけど。いいです俺は」

「どういうこと?」

「高校で陸上はやらないです。俺は、走ることが好きだから。長距離ってのも興味はあるけど、走ることが好きなんですよ俺は。無邪気に走りたいだけです。趣味ですよ」

「全く、あなたにはかなわないわ。わけがわからない」

先生は苦笑いをする。

「寺井もありがとな」

「僕の方こそ」

秋風がたなびく。サッと夜の広場を撫でる。

風は吹く。今日も明日もこれからもずっと。

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