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第伍話

翌日、いつも通り登校すると、案の定健斗が興味津々な様子で海人に寄ってきた。


「おうっ、昨日はどうだった?」


「いや昨日行ったけど、特に何もなかったよ」


「そうか…残念。何かゴメンな。変なことに巻き込んで」


「あぁいや、大丈夫だよ昨日は特に用事もなかったし」


言えるわけがない。あんなこと。それにこれ以上他人にも知られてはいけない。

だから詮索するのも無論1人で誰にもばれないようにやらなければならない。江川にもこのことはある程度真相が掴めるまでは知られない方がいい。

そう思いながら海人は午前の授業を受けた。





トントン

「失礼します」


昼休み、彼が向かった先は言うまでもない。社会科教官室。ここはなかなか近寄りがたい。

理由は主に2つ。

1つ目は土器やら土偶、兜などやたらと歴史にまつわるものが置かれていて気味が悪い。

2つ目は教師に問題があると言っても過言ではない。社会科の教師はやたらとキャラの濃い先生が多いのだ。

中世の処刑方法に詳しい世界史の山川。大学生時代にチャリで日本を一周するだけに飽きたらず、世界までも渡り歩いた地理の鈴森。サングラスをかけるとどこぞの暴力団かヤクザにしか見えないスキンヘッドで口髭の大鷹。そして最年長にして「韮山オタク」伊賀。


教官室に入った瞬間ドアを締めたくなる。

こんなところ用さえ無ければ絶対に近づかない。しかし悲しいかな、避けては通れないのだ。アレの解決の糸口を見つけるためには。


「3年E組の大場ですが伊賀先生はいらっしゃいますか?」


「あぁいるよ。ここだ、大場くん。何か用かね」


「はい。実は頼み事があって来ました。その、先生が管理している韮山の史料の閲覧の許可をいただきたいのですが」


「ほ−う。韮山の歴史に興味があるのかね?それなら僕が話をしてやってもいいが」


「いえ、それだと先生の手間も掛けてしまうので閲覧の許可をいただきたいのですが…」


「それならまぁ許可してやらなくもないが…。しかしあれには僕の長年の苦労の詰まったコレクションもあるし、僕のお宝をそんな簡単には見せられないなぁ」


どうやら学校の所持品だけじゃなく、自分で集めたものもあるらしい。マニアはどこまでもマニアだ。

予想通りの苦戦が強いられた。しかしここで引き下がる訳にはいかない。勝手に両手と両膝を床についていた。いわゆる土下座の体勢である。このくらいのことは厭わない。


瞬間ドアが開いた。

「失礼します」という聞き覚えのある声。思わず横を振り向くとスタイルのいい女子生徒。彼女のファンはきっと多いのではないだろうか。目線を更に上に上げると目があった。

全身が強張った。この姿を一番見られてはならないであろう人だったから。

「……えっ!?な、何してるの大場くん…」


やっちまった…早速ばれたぞこれ…


「あぁ江川君か。ちょっと待っててくれ。…じゃあ大場君、こういうのはどうかね。次の定期テストで君が日本史で学年1位を取ったら好きなだけ見せてやろう。僕も集めるのには苦労したからね。君もこれくらい苦労をしないと。等価交換ってやつだ」


「それから皆と差がつきやすいように、かなり難しい問題にしてやろう。簡単だと皆できてしまってつまらないからな。生徒から何を言われようが知ったこっちゃない。君からの挑戦だからな。どうかね?」


「……分かりました。絶対に取ってみせます」


やってやろう。これくらいしか方法は思いつかないし、すぐそこに困っている人がいて見過ごせるはずがない。自分の独りよがりかもしれない。だけど、ここに道があるのだから。


海人はそう決意を固めた。




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