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第参話

あの後〜理奈side〜


 早足で下山し、後ろを振り返るが、彼は後を追って来ている様子はない。そのことに一つ安堵するものの、かすかな震えは止まらない。出来ればあのことは考えたくない。もう半分も残っていないであろう人生のこと、そしてその後訪れる確かな死を。


 先程まで真っ暗だった周りは、街灯によって幾分明るくなっていた。

 

 なぜ。なぜ全くといってもいい程無関係な、強いて言えば中学から知っていた程度の彼にあんなことを言ったのか自分でも理解できない。今まで誰にも言ったことのない、江川家にしか知られていないことを。

 まぁでも、もうこれ以上彼も詮索してくることはないだろう。古くからの名家・江川家にこんな秘密があると知ってしまったら。


 

 そうこう考えているうちに、立派な門が目の前に構えていた。

 皆にうらやましがられる大きな家も、『江川』の名も、理奈にとっては全く意味をなさない、むしろ全ての自由を奪うモノである。この家にいることが苦しくなって、嫌になって何度家を出ようとしただろうか。しかしすぐに気が付くのである。家を出ても何も解決しないことに。

 よく漫画や小説に「自分の家やブランドに囚われたくない」とかいって家を出るお金持ちの主人公がいる。そんな彼らに憧れを抱いたりもした。しかしこの『呪い』がある限り無駄なのである。人の力は無力だ。



 「ただいま」

 家に入ると今帰って来たばかりといった様子の父と割烹着を着た祖母が台所で迎えてくれた。

 なぜ祖母がいるのかというと、単純に江川家に嫁いで来たからで江川の血を受け継いだ女ではないから。


「おばあちゃん、いつも手伝わないでごめんね」


「いいのよ、理奈。じゃあ手を洗ってお箸を並べて」

 

 いつもこんな感じである。理奈の父も、理奈が夕方を過ぎて一人で外に出て行くことに関してあまりとやかく言わない。出来るだけ自由にさせてやろうというせめてもの優しさなのだろう。自分も最愛の妻を亡くしているから…



 3人での夕食はなるべく会話を絶やさぬ様、父と祖母が話題を振る。いつもは笑顔に振る舞う理奈も、この日は気分があまり優れない。よそられた分だけきっちり食べ、部屋にこもった。



 母親が早く亡くなったため、一人っ子である理奈は早めの結婚・出産が望まれている。もちろん『江川』の血を絶やさないためだ。しかし自分の血を、おぞましい『江川』の血を子孫まで続かせる訳にはいかないと密かに決意している。そしてあまり人に近づき過ぎないことも。そう意図的に親しい友達を作らないようにしていた。その方が余計な未練なく生を全うする自分のためにも、相手のためでもあると思う。


 ボフンーーとベットに倒れ込む。

 自然と肩が震える。


「死にたくなんかないよ、ぜったい。さびしいよ、お母さん……」


 枕を抱え込みうずくまり、声をひそめて泣く理奈が一方ではいた。



 彼が悪いんだ。私にあんな優しさを見せるから…




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