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第参拾話


海人の口調になってます


 もうかれこれ4日は連絡がない。もちろん相手は言うまでもない。江川である。


 またメールします


 この言葉を信じて、今もこうして俺は今か今かと携帯電話がブルブルと振動するのを待ち構えている。こんなにメールが来るのを心待ちするのはおそらく初めて携帯電話を買ってもらった、中学を卒業して以来だろう。中学でこそ、優秀な成績を修め、それなりの友達もいたが今となっては俺の周りには友達などほとんど皆無である。3年となった今でも、よく話すのは3年間同じクラスである修善寺と、同じ部活だった三島くらいのものだ。

 そして、あの日彼女と出会った。出会ったと言っても、中学から同じ学校に通っていた。しかし彼女もまた、俺とはまた違った理由で友達が少なかった。そう、あの日の夜二人があの場所で出会ったことが運命だったのかもしれない。いや、きっとそうだ。そうだと信じたい。

 俺はこの性格上、困ってる人を見つけたら、どうにかしなくちゃいけないと思わずにはいられなかった。そのせいで周りからはもっとうまく生きろだのと言われることもある。でもそこは曲げられない。そのおかげで、三島とも江川ともそれなりに仲良くなれたのだから。

 でも江川の件はやりきれずに中断となってしまった。そこに悔いが残っている。まだ終わりじゃないんだ。そう信じて江川からのメールを待っている。そして今4日がたった。


 今日は土曜日だし講習もない、といつもより遅めに起きた。江川から「勉強に集中して」と言われて、その日からは例の件については一切触れずに過ごしてきた。だけどそのことを忘れたり、気にならなかったりしたことは1度もない。正直、自分でも手助けの域をはるかに超えていることは重々承知でいる。それがただの良心だけによる行動でないことにも気づいている。初めこそ今までと同様の気持ちで動いてた。でもいつの間にか、江川とふれあっていくうちに気持ちは動いていた。


 俺は江川のことが好きなんだ


 

 休みだから、とまだエンジンもかからなくてしばらくボーっとしていた。蝉のやたらと高い鳴き声だけがなぜかむなしく聞こえる。そのように暑そうな外を眺めていたら、ついに携帯が振動してメールの着信を告げた。俺はそのメールが彼女からのものであると確信した。


 『明日の夜あいてますか?』


 前回と同様、絵文字もないシンプルなメール。でもただそのたった1文がうれしかった。すぐに返信画面に映って、夢中になって 文面を打った。江川と会えることがただただうれしくて、どうして呼び出されたのか、それは全く頭になかった。

 江川からの連絡があってひとまずほっとしたのか、勉強に打ち込むことができた。今までものすごく長く感じた勉強の時間も全く苦にならなかった。そしてその夜はあっという間にやってきた。


 江川に言われた待ち合わせ場所は高校だった。すでに星が輝き始めている時間で、あたりはもう真っ暗だったが彼女がもう校門前で待ってるのがはっきり見えた。


「ごめん、おそくなって」


「いや大丈夫だよ。私だって来たばっかだから」


 そう俺に笑顔を見せて言った。今まで毎日のように顔を合わせ、話をしてきただけに、たった4日会わなかっただけですごい久しぶりな感じがして、恥ずかしくなって顔を思わずそむけてしまった。ここから移動するらしく、江川は「ついて来て」という言葉をかけて学校の敷地内に足を踏み入れた。俺はその言葉のままについていった。いつも見る校舎、グラウンド、体育館すべてが彼女と並んで歩いているだけで特別なもののように感じた。そして歩いてるうちに気づいた。俺たちが向かってる先が龍城山であることに。

 木で作られた古さを感じさせる階段、その両脇の草の茂みから聞こえる夏虫の声、夜ならではの静けさ。すべてがあの日のようで。俺は懐かしさを感じる一方で、少しずつ緊張を感じた。江川の少し後ろを歩く俺には、江川が何かを決意したような、そんな後ろ姿をしているように思えたから。すると江川の歩幅がだんだんと狭くなり、そして止まった。

 そこはまさに俺と江川が出会った場所そのもので、山の中腹にある神社の手前だった。そして江川は持っていたバッグからビニール袋を取り出した。


「何するんだ今から?」


「今日からお盆だからね。迎え火だよ。あと茄子ときゅうりのお供えもね」


「で、なんで俺を呼んだんだ?」


「言ってなくてごめんなさい。実は分かったかもしれないの。真相が。このお盆の始まりには間に合わせたかったから。学校にも行かないで本当にごめんなさい。大場くんにはぜひ立ち会ってもらいたいから」


 そう言うと茄子ときゅうりのお供え物を並べて、細いまきをくべて火をつけ始めた。


「大場くんは少し下がっててね。これは私がかたをつけなければならないと思うの」


 バッグから取り出したのは1枚の紙。迎え火からの明かりで足元は見えるが、手元はほぼ見えない。だから江川が今から何をしようとしてるのか全く読めなかった。それから数秒して、彼女の澄んだ声が静けさに包まれたこの空間に響いた。


「華代さん。あなたの歌、重く受け止めました。これがわたしの反歌です

 世の中は

  かたちもさまも

   変われども

えがわのみちぞ 

 たへず残れり   理奈」


 その一句を一言一言紡ぎだすと、周りが急に明るくなりだして一瞬にして、テレビゲームの中にいるように光に包まれた。その出来事に驚きすぎてまともに声も発することすらできず、その一瞬で夢心地がしたような気分になった。そして同時に江川とは違うもう一人の女性と思しき姿が見えた。そんな気がした。その柔らかな心地に自分に意識があるのかないのか分からなかった。






 気が付くと、俺はもといた龍城山に仰向けになっていた。俺の横には、俺と同じ格好をした江川がいた。夜空は木が何本も重なり、あまり見えないがきっときれいな星が拝めるのだろう。そう思っていたその時江川が俺の腕を指でつついた。


「ねぇ。私のできるのはもうこれだけ。首のアレを見てほしいの」

 その言葉を聞いて、一気に緊張感が高まった。先ほど何が起こったのかは分からないが、今のが失敗に終わったのだとしたら、まだあの文様が残ってたとしたら、どう伝えればいいのだろうか。どんな顔を向ければいいのだろうか。しかし確認しないわけにはいかない。俺は彼女のつやのある黒髪を持ち上げた。刺激のないシャンプーの香りがふわりと漂う。携帯のライトを使って、恐る恐るその首元に光をやった。


「……ない、ないよ江川!」


 光を当てた先はただ綺麗なうなじだけが垣間見え、このような緊張感の中、俺は刺激された。


「ほんとに?…嘘じゃないよね」


「ああ、ない!すっげえ綺麗!」


 そう告げると、江川はこちらを振り返った。彼女の目には涙が浮かんでいる。そのぱっちりした目を一回瞬きさせると、涙のダムが崩壊するように、彼女の頬には涙の筋が通った。そんな彼女の姿を見て、思わず抱きしめてしまいたくなった。いつもはしゃんとした姿で、このように弱さを決して見せなかっただけに、そのギャップに理性が崩壊し始める。それをすんでのところで食い止めると、つい先ほどまで俺の目の前にあった江川の顔はすでになかった。俺の胸にぶつかる感じがした。そのすぐあとに俺の背中に腕が回された。


「…っっ、うわーーーん」


 一時は俺なんか頼られてないと思ってた。江川は自分一人ですべてを終わらせるんだって思ってた。でも今の江川の姿を見てほっとした。こんな自分でも頼ってくれてたんだって確認できたから。この儀式とも言える大事な夜に誰でもない、俺をつれてきたこと。そう思ったらもう理性なんてものはすでになかった。思いっきり江川を抱きしる。すると江川の方も、背中に回した腕の力を強めたきた。心が通じ合えた気がした。



そのまま何分が経っただろうか。俺と江川はどちらからともなく離れた。そして自分が何をしていたのかを今更ながら認識して顔が真っ赤になるのが分かって顔を背けた。横目で彼女の方を見ると彼女は下を向いていた。


(もうどうにでもなれっ)


そう思って意を決して江川に告げた。


「頂上、行かない?」


「…うん」


その返事を聞くと、すぐさま頂上へと向かい出す。自然と早足になって、度々後ろを振り返っては彼女がついてきてることに安堵する。そして目的の地に立った。

上を向けばそこは、先ほど予想したとおりの満天の星空。あの日よりも全然輝いて見える。天の川がはっきりと見え、南側にはさそりの心臓である赤い星も見えた。もちろん夏の大三角も。雲一つない空がこんなにも綺麗だなんて思ったことはない。

それが嬉しくてはさっきのように仰向けに寝転ぶ。すると江川も俺のすぐ横で寝転んだ。


「ここ、すごいいい景色だね。こんなに夜空が綺麗に見えるなんて知らなかった」


「あぁ。ここは昔、俺が夜散歩してたときに見つけたんだ。すげーいいとこだなって。ここで毎年この星空を独り占めしてた。今年は違うけどね」

自分でもずいぶんクサいことを言ってるなぁと思ったけど、もうここまできたらひけない。しばらく無言の時間が続いて、江川にさっきの歌について聞こうとしたその刹那、俺の左手に彼女の右手が重なった。


「……ありがとう」


「……うん」


いきなりのことに慌てて、耳まで真っ赤にしてそれ以外の言葉が出てこなかった。



「……あのね、…好き」

心臓が大きく一回跳ねた。その言葉に反応したかのように。


ちぇっ。先越されちゃったな



「俺も江川のこと、好き。こんな俺でいいなら、その……付き合お」


「…お願いします」



この日の星空は、あの日見たものよりもずっと綺麗で澄んでいた。今まで見たどんな星空よりも輝いていた。


この星空のもとで確かに俺たちのときは動き始めていた。







どうも。作者の龍城野球球児です。

一応はここで本編は完結です。最後の和歌の意味などまだ入れてない部分や、やりたいことを入れてないので今後書いてきます。

何かご感想、アドバイス等あったら是非参考にさせていただきたいので、もしよければご感想よろしくお願いします。



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