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第弐拾捌話

 

 ジリリリ、と耳元で鳴る目覚ましで無理やり起こされる。目覚めはあまりよくない。鳴り止まぬその音を止めるべく、細い腕を伸ばして時計を探りスイッチを押した。やっと止んだと思いきや今度は外からのセミの鳴き声が窓を通して理奈の耳に突き刺さる。まだ朝方ということもあり、当のセミもまだ本調子ではないようで先ほどの音よりも数段劣るものの、やはり耳に障る。

 まだ朝だというのにすでに部屋の中はサウナのように暑く、汗ばんでいるのが分かる。だからセミの声が余計うるさく感じるのだろうか。理奈はぼぉっとそのようなことを考えながら、ベッドから出た。朝から夏ということをいやという程実感させられる。そのことに理奈はうんざりとさせられた。別に夏が嫌いだという訳ではない。ただここ数日今までと違う有意義な時間を過ごし、その生活を心地よく思っていた。しかし上手くいきかけていただけにその分ダメだった時にまたかつての楽しくもない、死に脅かされた生活に戻ってしまう。それを考えてしまい、時が流れるのを憂鬱に思ってしまうのだ。

 

 携帯の着信を確認する。今までこんなことを気にしたことなどほとんど記憶にない。しかし今日は気になってしまう。返事など求めずに送った一通のメールになぜか今頃返信を期待している自分に気がつく。


「…だよね」


  携帯を開くと、いつも見るいつもと変わり映えのしない画面。着信をつげるテロップは出ていない。なぜかその当たり前で、いつもと同じことに落胆を覚えた。それを机の上に置き去り、そのままの格好で階段を降り食卓へと向かった。


「おはよう」


「あら、おはよう理奈。今朝はなんだか寝起きが悪いじゃない。どうしたの?」


「いや、昨日遅くまで勉強し過ぎて…。寝過ごしちゃった」


「あら、睡眠はしっかりとらなきゃ駄目よ。夏バテしちゃうんだから。勉強頑張るのはいいんだけど」


「うん、気をつける。あと今日から何日か学校行かないで家で勉強するから、お弁当は作ってくれなくていいよ」


「そうなの。今日はおばあちゃん、日中は出かける用があるからもし理奈も出かけるようなことがあったら鍵閉めるのは忘れないでね」


「うん、分かってるよ」


 これが夏休みでなかったならば、そう簡単には学校を休ませてはくれないだろうし、理奈も余程のことがなければそんなことを言いはしないだろう。そこで会話は途切れ、また新たな話題が出ることなく食器と箸がぶつかる音だけが食卓に響く。朝のいたって普通な食事を済ませ、「ごちそうさま」という挨拶だけは忘れずに、そそくさと理奈は自分の部屋に戻った。




二階に上がり部屋に入るや否や、ベッドに座り、まず真っ先に勉強机の横にあるカレンダーに目をやった。7月も残りあと4日となっていた。つまり、夏休みが始まってからもう1週間弱が経過している。

 理奈は、その4日内で、この問題の解決を目算している。できるかどうかは別として。そのために7月いっぱいは学校も休むと決めた。すべてはその日に間に合わせるために。




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