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第弐拾伍話

 もし、祖母の聞いた話が真実であるとしたら、彼女、江川華代が生きていた時代もひょっとしたら…

 食事を終え、再び自分の部屋のベッドで仰向けになりながら、ひとり理奈はそのようなことを思案していた。祖母や、その親も恋愛結婚なのだから、少なくとも昭和よりは前であるといえる。そんな頃から、結婚までするほどの恋愛をしているというのに自分は…

 そのように自虐的に捉えてしまう彼女がいた。


「私だって今は…」


 そう天井につぶやいては、少し頬を赤らめる。もはや知ってしまったこの感情に嘘はつけなかった。そんなどうにも出来ない気持ちを無理やり押さえ込んで、思考の路線を切り替えた。


「とりあえず勉強しないと…」


韮山高校は県下でも上位を争う進学校。校内でかなりの成績を修めれば指定校推薦ということもあるが、それもほんの一部でありほぼ全員が受験を強いられる。強いられると言っても、無論本人の意志で入学したのである。この学校に入学した以上受験から逃れることは出来ないのだ。

特に3年の夏休みは、受験の天王山と言われている。合否の鍵はこの時期の勉強が握っていると言っても過言ではない。一旦は今抱える問題のことを忘れ、理奈は勉強机へと向かい合った。


それから何時間経っただろうか。壁に掛かったかわいげのない時計は、すでに11時をさしていた。理奈は今、国語の課題を進めている。3年にもなると、夏休みの宿題などほとんど出ない。例外が国語である。特に古文・漢文は文と接する機会が少ないので出されるのだ。とは言っても、それをやること自体受験勉強になるので、全く苦にはならない。


「少し休憩しようかな」

そういい、席を立ったその弾みで参考書のページがぱらぱらめくれた。古文の参考書の一つは、百人一首の参考書を使用している。理奈は理系であるので、受験で国語はセンター試験までしか使わない。センター試験では、必ずと言っていい程歌物語が出題される。よって和歌が理解できれば解ける問題も多いのだ。 偶然開ひらけたページは、歌番号17番。

ちはやぶる

神代も聞かず

竜田川

からくれなゐに

みづくくるとは

在原業平朝臣


理奈はこのページに目を見張った。なによりもその真っ赤なイラスト。紅葉もみじがそのページを情熱的な赤色に染め上げていた。解説には

『歌意:不思議なことの多かった神代の昔でも、聞いたことがない。この竜田川の水を真紅にくくり染めにするというのは

解説:竜田川に紅葉が流れている絵が描かれているのを題にして詠んだ屏風歌。第一・二句は第五句に続くところを倒置し強調したもの。』


理奈はこの解説を読んで疑問を感じた。そもそも、在原業平は情熱的かつ色好みな和歌の名手であるというのは、古典文学に嗜みのない理奈でも知っていた。それだけにどこかしっくりこない心のもやもやがつきまとっている。

その道の専門家の方が正しいのは分かっているが、どうにもいたたまれない感じに襲われる。それに耐えきれず、先日知ったばかりの番号をアドレス帳から選び、プッシュした。




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