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第弐拾肆話


なぜ"江川家の女性"だけが呪われるのか――これが初歩的であり、なおかつ最大の疑問であろう。ほぼ全ての証拠が揃ったことで再び再浮上した疑問である。単純であるからこそ難しい。それがこの問題なのである。

 今までのステップでは何かしらの根拠や証拠、文献が存在したからこそ解決できたものの、今回ばかりはそうも行かないようだ。高校の書庫内はもうこれ以上参考となる手がかりはない。海人はそこに頭を悩ませていた。今までが順調だっただけに、その分苛立ちや焦りが生まれてしまう。修善寺しゅうぜんじのお陰でなんとか切り替えることができたものの、やはりどうしてもわだかまりは消えない。

 この日は、特に収穫もなく調査は切り上げられた。


 「はぁぁぁ」


 理奈は、帰宅して真っ先に自分のベッドへと倒れこんだ。自分の受験勉強と並行しての、『呪い』に関する調査。疲れるのも無理はない。それに一緒に調査をしているのは、自分が意識してしまっている相手。その気持ちに気付いたことすら最近で、しかも今までは自分の未来に半ば絶望しかけていたため、そういった恋心に戸惑いを隠せなかった。今日は海人の方も普段通り接してくれたので、何とか顔に出さずに済んだのだ。


「なんか、海人くんにばっか頼っちゃってるよな、私。自分の問題なのに。海人くんもちょっと行き詰ったるみたいだし、ここで私が頑張らなくちゃ」


 そういって、慣れない疲労感に鞭打って父親の書斎へと向かった。



「うーん、やっぱなかなかいい史料見つからないな…」


 理奈は、江川家の史料がおかれている父親の書斎の一角で江川華代についての文献を漁っていた。それも今日は父親が帰って来ないことを知っての行動である。これまでこの『呪い』の調査をしていたことはもちろん父親には言っていない。海人に「誰にも言うな」と言ったのだ。自分だけが言うのも筋違いなような気がしたからだ。

 そんなとき、しわがれた声が理奈に届いた。


「理奈ぁ。ご飯だよ」


「はぁーい。今行くから」


 その声でいったん作業を中断し、台所へと向かった。


「おばあちゃん、今日のご飯は?」


「今日も暑かったねぇ。だからおそばだよ。かき揚げとてんぷらもね。最近は熱中症とかなりやすいから

しっかり食べなきゃだめよ」


「うん、大丈夫だよ。しっかり食べてるし、それに日中はほとんど外に出ることもないから。水分だってまめに摂ってるし」


「ならいいけど。だけど理奈は最近ずいぶん雰囲気が変わったねぇ。前とは全然違うよ。まるで別人みたい。なにかいいことあったの?…もしかして”恋”とか?」


「――ッ!ゴホッゴホッ。ここ恋なんてしてないよ。もう、おばあちゃん何言うのよ」


「あら、違うの?なんだ、残念。てっきり理奈に彼氏ができたのかと思っちゃったわ。理奈もずいぶん大人の女性になっちゃったからねぇ。まだこんなにちっちゃい頃の理奈が懐かしいわ」


 そう言って、過去の懐かしさに頬を緩ませてはそばを音を立てながらすすっていた。続けてこう言った。


「おばあちゃんも懐かしいわ。あの頃が。おばあちゃんだっておじいちゃんに恋をしてたのよ。昔は恋愛結婚なんて凄く珍しかったんだけどね。毎日が本当に楽しくて楽しくて。だから理奈もたっくさん恋をしなさい。恋愛なんてそういつまでもできることじゃないんだし。今が一番それを楽しむときなんだから。特に江川家は、古くから恋愛結婚をしていたらしいからねぇ。一種の伝統みたいなものなのよ」


「えっ、そうなの?それっていつごろから?」


「うーん、おばあちゃんの聞いた話だと、もう明治時代くらいからはそうだったらしいわよ。その頃なんて、おばあちゃんちのときよりもずっと恋愛結婚なんて少なかっただろうに」


「明治…時代」


 理奈は祖母のその言葉に、何か引っかかるものを感じたのである。




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