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第壱話

噂とは果たしてこのことなのだろうか。

龍城山の中腹にあるこじんまりとした神社の前に薄暗くて歳までは分からないものの若い女の人と分かる人影が確かにそこにはあった。

女の人にしては高い身長でスタイルもそこそこ、髪はストレートのロング。シルエットだけなら目を見張るものがある。

しかも噂通りなにか喋っているようだ。

電話の可能性も考え、もう少し近づいてみたがその様子もない。人影は確かに一つだし、電話も持っていない。


海人はかすかに恐れを覚えた。これはいわゆるあれか、電波系。今流行ってるのか?宇宙と交信中みたいな。もう少し耳を傾けた。



「……うん、そうなの。すっごく面白かったの。でも未だに友達はできなくて。できたらもっと楽しいんだよね?お母さんはどうだったのかな?……」




聞いてはいけないことを聞いてしまったのだとすぐに分かった。彼女がきっと星空に向かって語りかけていたことに気が付いたから。

健斗に何かあったか聞かれても「何もなかった」と答えようと良心から決意し、黙って戻ろうと後ずさりしたその刹那、木の根っこにつまづいてあろうことか音を立ててしまった。


ドサァァ-

「いっつ……」

「っっ!誰!?誰かそこにいるの?」

(まっ、まずい……!)

女の人の方から携帯のものと思われるライトが照らされ、眩しさから手を眼前に掲げ、目を細めた。すると目の前に立っていた女性から聞き覚えのある裏返ったような声。

「だっ大場くん!?大場くんよね?……聞いた?…聞いたんでしょう?」

聞き覚えのあるはずだった。なんせ彼女も同じ韮高生で、その前に同じ中学出身だったのだから。

「江川!?いや、その……それは…」返す言葉も見つからなかった。

「正直に言いなさい。聞いたのでしょう?」



 江川理奈えがわりなー海人と同じ韮山の住人。だが先祖をどこまで遡っても平凡な彼とは決定的に違うものが彼女にはある。

彼女の祖先にあたるのは江川英龍、世間では「江川太郎左衛門」「江川坦庵たんなん」の名で知られている。江川氏は江戸時代末期、黒船襲来に備えて大砲を作ることを幕府からの命で行った人である。東京にある「お台場」は、彼らが韮山で作った大砲が置かれた砲台なのである。また、彼らが通う韮山高校の学祖でもある。

要するに、彼と彼女では生まれながらにしてもっている『モノ』が違うのだ。

容姿端麗で家柄もよい江川理奈。それに比べて、同じ進学校にいながら海人は成績も芳しくなく、伸びた前髪によって目元が隠れてどうやら根暗なイメージがあるようだし。唯一自慢出来ることがあるとすれば、どんな人にも優しくできる自信があることくらい。しかしそんなところも、人と接する機会が多いとは言えない自分にそんな印象を持つ人はごく僅かなのだろう。


だが彼女はその『モノ』がある故に周りから少し浮いていた。どこかお高い雰囲気があって近寄り難い感じがあったのだろう。



事がそんな単純だったらどれだけ彼女は救われていただろうか。誰が彼女の身に起こっている怪奇に気付くことができようか。



江川理奈は彼の顔から目を逸らすことなく、どこか睨みつけるような眼差しをして言うのだった。


「聞いてしまったのでしょう?」


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