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第拾参話


 翌日、待ちに待った放課後がようやく訪れた。高校生の放課後と言えばやはり部活。進学校と言えども、部活動はさかんで、一応全員が部活には入らなければならない。とは言っても、学年が始まってもう7月。3年生の多くは部活を引退している。まだ部活をやっている3年生と言えば、野球部とインターハイを控えた部活の生徒のみであろう。もちろん海人がそんな強豪チームに所属しているはずも、野球部であるはずもない。海人は生粋の文化部であり、部活などとっくに引退していた。

 よって部活のない3年生にとって、待っているのは受験勉強という名の地獄である。

 しかし海人には、やることがある。彼が向かった先は社会科教官室である。こんなことにならなければ、こんな不気味なところに来ることは決してなかっただろうが、今は毎日この道を往復してしまっている。


「やあ、大場くん。今日も調べものだね?どうだい、はかどっているかい?」


「はい。まあぼちぼちってところですかね。それにしてもあのあそこはすごい蔵書量ですね。保存状態も良くてびっくりしています」


「そうだろう。それで大場くんは何について調べているんだい?良かったら教えてもらえるかな?」


「いや……それはちょっと…今はまだ言えないです。すみません。機会があればそのときに教えたいのですが…今はちょっと…」


「そうかそうか。まぁいいよ。歴史に興味を持ってくれるだけで僕は非常に嬉しいからね。ほら、今の子たちはあまり興味を持たないって言うから。めずらしいもんだよ。まぁ引き続き頑張ってくれたまえ」


「はい。ありがとうございます。では、失礼します」


 実際は、別に自分も歴史に興味がある訳ではないのだが…などと申し訳なく思いつつ、教官室をあとにした。



 先日から始めた江川家の調査もなかなか難航している。これは「江川華代」という特定の人物のみを捜しているからではない。昔の文献は今のものとはだいぶ具合が違う。 ひとつは、今となっては当たり前なのだが、昔の文献には背表紙がないのである。もちろんそのような頃に製本の技術があるわけもなく、ただ紙を重ねてあるだけである。それだけでなく巻物になっていたり、一枚のかみを何重にも重ねてある物もある。

 よって、何についての文献なのか分からなかったりするものが多かったり、目立たないものばかりである。ある程度時代別や分野別に並べてあり、『江川家』というひとつの括りにはなっているものの、江川家の歴史も古く、日本史的には目立ちはしないが歴史の裏側で活躍していた名家なのだ。当然史料も多い。そうなれば必然的に時間もかかってしまうのである。

 もう一つが『ことば』である。当たり前ではあるが、今と昔では言葉遣いが異なる。中学や特に高校に入って、まぁ誰もが分かりづらいと思うのが古典であろう。使われている文字こそあまり変化はないが、言ってしまえば現代人にとってみれば、古文も「外国語」なのである。江戸時代から明治に入る頃はまだ読みやすく幸いなのだが、それだけではない。文章が英語でいう筆記体みたいにつなげて書かれている。これが、昔の文字を一層読みにくくしているのだ。

 また、中には漢文の知識に優れた人もいて、文章を漢文体で綴っているものもあった。

 なんせここには、古いものは鎌倉時代の物もある。さすがにその時代の書物は字が乱れすぎて読む気にすらなれないのだった。


 あれも違う、これも違うと文献を出し入れすること2時間弱、海人はまたいつものように何気なく手にした1つの書物に目が止まった。




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