第拾弐話
大変お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。
家系図によって、一人の女性「江川華代」という女性に謎を感じ、いわゆる好奇心で、彼女にまつわる文献を2人は捜すべく、また地下の書庫へと足を運んでいた。
「私、家にあった史料をちょっとだけこっそり持って来たの。この人、江川華代さんって人、坦庵さんの娘さんだったみたいね。しかも兄妹は皆男ばっかで、ただ一人の女の子だったみたい」
「うん、そこまでなら昨日ここで見つけたこの家系図からでも分かったよ。でも坦庵さんの2代後からもう記入がないからね、これには……」
「そう、そこなの!大事なのはそこなのよ。ほら、これ見て。これはうちから持って来た家系図なんだけど。これにはちゃんとそこから現在までの繋がりも書いてあるわ。私が生まれたところまで。でね、昨日大場くんは『江川家ってこの時代のわりには結構長生きだよな』って言ったでしょう?確かにそうよね。……そう、その学校に置いてあった家系図だけを見ればね」
「え?それはどういうことだ?」
「私も家で家系図は何度か見てるんだけどね。華代さんの代以降、誰のところにも死因が書いてないの。亡くなった歳だけしか。しかもこの家系図には、江川家で生まれた人だけじゃなくって江川家に嫁や婿として来た人も書かれているの。だからこの『呪い』がどこから始まったのか、さっぱり分からなかった。うまくカモフラージュされちゃってたんだよね、自然と。だから大場くんに言われてもう一度亡くなった歳に注目してみたら、大場くんの言ったそれは意外とそうでもなかったの。…華代さんが亡くなって以降は」
「え、それって…」
「これ、家の家系図をコピーしてきたんだけどほら、早くに亡くなった人に印を付けて、その中で江川家に生まれた人に印を付ける。さらにその中で女の人に丸を付けると……どう? 」
「これってもしかして……」
「そう。全部に印がつくのは圧倒的に明治時代以降、言ってしまえば華代さんが亡くなって以降なの。なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだろう」
理奈が赤いペンで印を付けたところを海人はまじまじと眺める。理奈は続けて言った。
「おかしいと思ったのよ、最初、大場くんがああ言った時に。実際に私のお母さんも早くに亡くなってるし。決して江川家が代々長生きなんてことはないと分かってたし。今まで分からなかったのは、ただでさえうちの家系は男子が多いし、女の人は嫁いでくる人が多いから。変に考えすぎてたんだね。身近にこそ気づける材料があったのに」
「ああ確かにな。『灯台下暗し』ってやつだな。この途中までしか書いてない家系図のおかげだよな。で、結論としては『呪い』の元凶はこの江川華代にあるってことでいいんだな?」
「そうね。これ以外の有力な手がかりがない以上は華代さんのことを詳しく調べてみる価値は十分にあるわね」
「けどまぁ、今日はもう時間も中途半端だし、ここまでにしよう」
「そうね、ちょうど切りもいいことだしね。また明日からね」
こうして海人たちが興味本位で始めたある1人の女性についての調査は、2人の手によって本格的に始まることになった。もちろん誰にも内緒である。彼女の父にすら何も言わずに。




