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第拾壱話


 書庫は、普段誰も近寄らないような校舎の片隅の、そのまた地下に存在していた。定期テストも終わり、本格的に夏になった気分がするのだが、この地下は非常に涼しくひんやり空気が冷たい。天然のクーラーのようである。そして書庫独特というのだろうか、そんな変わった臭いがする。電気を付けると、書庫は意外にも広く、実に様々なものが管理されていた。たくさんの書物、武器など、マニアな人が見たらたいそう喜ぶであろう品揃えだ。


「どうだい、ここは?すごいだろう?」


と後ろから声がしたので、海人と理奈は後ろを振り返った。


「一高校が管理しているとは思えないくらいの量なんだよね。下手すると、国の重要文献になっちゃうくらいのものまであるんだよ。ここの文献は全て学校のだけども、そこにある刀とか鎧、槍なんかは僕の大事なコレクションなんだ。くれぐれも触らないでくれよ」


そう話しかけて来たのはもちろん伊賀だった。


「こんなにたくさん…すごいですね本当に。文献もすごいたくさんあるし、これならかなり調べられそうです。ありがとうございます」


「いやいや、これは君が頑張ったからだろう。君の努力が結果的にこういう形となって現れて来たんだよ。それより、ここにあるのは、分かっているとは思うがとても重要なものばかりだ。君たちがまさか盗むなどとは思わないが、使用中の管理は徹底的に頼むよ。万が一何かあったら大変なことになるからね。あと、僕は一応毎日学校に7時まではだいたいいるから、使用後はちゃんと鍵をかけて鍵を返しに来てくれよ」


そういって伊賀は出て行った。



「それにしてもすごいね、伊賀コレクション。これにどれだけのお金をつぎ込んでるのかしら?」


「うん、本当だよ。っていうか伊賀先生って何者?これってばれたら銃刀法違反とかにならないのかな?」


 日本史教員・伊賀の正体がますます分からなくなる2人だった。


 伊賀コレクションから離れて、目的の文献を捜し始めた。しかし蔵書量がとても多く、なかなか捜しづらい。そんなとき海人は1つの史料を見つけた。


「なんだこれ?」


 海人は少し目立ったその紙束に目をやった。


「ん…?なんだろ、何かのレシピかなこれ?」


 その紙には、何やら丸い物体が描かれていて、その材料名と分量らしき文字が書いてある。


「あ、それたぶん『パン』のレシピじゃないかしら。江川坦庵さんって日本で一番最初にパンを作った人なの。だから『パン祖』って呼ばれてるの」


「それなら俺も聞いたことはある。パン祭りとかもやってるんだよな」


「うん。でねこのレシピは全く同じのがうちにもあったから。ちゃんと保管してあるけどね」

 とそんなこんな他愛のないようなことを話していたときに、またとある文献を目にした。


「コレ……家系図だ。江川家の。これが坦庵さんで…その2代後で途切れてるな」


「それ書き足されてないのね。うちにもあるわよ、家系図。これはそこで切れちゃってるけど、ちゃんと今でも血は途切れてないわよ。私は坦庵さんの6代後。ひいひいひいひいひいじいさんね」


「へえ〜そうなのか。すごい偉大な人物だけどそう言われるとすごい近くに感じるよな。それにしても家系図って初めて見たけど、こんなに詳しく書いてあるのか。生まれた日と亡くなった日、歳と死因まで。皆結構長生きだよな、此の時代にしては。……あれ、でも1人、19歳で亡くなってる人がいる。しかもこの人死因が書かれてない。…江川華代かよでいいのかな?」


「うん、そうだわたぶん」


「この人なんか謎だな。せっかくここが使えるんだし調べてみるか」


 そう言って、海人と理奈は「江川華代」という人物についての文献を捜すことにした。






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