プロローグ
この小説の舞台となっているところは実際に地名としても存在しますが、ストーリー、人物等はフィクションです。
伊豆の国市韮山、旧韮山町。日本の観光名所、伊豆の田方平野の中央にひっそりと佇む町、韮山。
周りは田んぼだらけ、いかにも辺鄙といった言葉が似合う小さな田舎町である。
今のこの季節、夏は地球温暖化が叫ばれる中、例外なく暑い。いくら田舎であろうと暑いものは暑い。そして蚊が異様に多い。そして強い。簡単に叩かれようとしない。本当にやな奴らである。
そして今彼は、近所の山である、龍城山へ来ている。こんな夜中だというのに。
「韮高」の名で親しまれている海人の高校は静岡県内でも屈指の進学校であるが、田舎の進学校と言った感じで、受験生以外はそんなにがり勉ばかりではない。
いろんな意味で頭のおかしな連中ばかりである。
龍城山というのは、海人の通う高校、韮山高校の背にある小さな山である。中腹には神社があって歩いて5分程で着く頂上にはかつて、お城があったらしいが今はそんなものは跡形もなく、太い松の木が一本生えているくらいだ。まぁそこからの夜空の眺めは最高だ。
しかし、今海人がこんな夜中に龍城山に登っているのは、「頂上できれいなお星様が見たい!」とかそんなろまんてぃっくな目的などさらさらない。むしろ蚊も多いし山中は気味が悪いのであまり来たくない。
そう、ここに来たのには別の理由があるのだ。それは今日の昼に遡る。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「おい、海人。知ってるか?あくまで俺も聞いた話なんだけど、龍城山に夜に登ると、若い女の笑ったり泣いたりする声が聞こえるらしいぜ。気味悪くねぇ?それでよ、海人。お前韮山に住んでんだろ。夜龍城山に行って確かめてきてくんねえ?この噂が本当だったら韮高七不思議になるぜ!なぁ頼むよ。見て来てくんねぇ?」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
頼んできたのは同じクラスの修善寺健斗。クラスの委員長である。リーダーシップに長けている。海人のようなあまり人と接しないような人にも分け隔てなく接するので、男女問わず人気がある。しかし頭は悪い。すこぶる。海人も言えた義理ではないが…。
それに「お願い、大場くん」なんて、好奇心旺盛な女子らまでもお願いしてきたら断りようがない。
「しょうがないな」
海人はしぶしぶあの気味悪い夜の龍城山へ行くことになった。
このときはあんなことになるなんてだれが予想した、いやできただろうか。この日皆からお願いされてなかったら未来の自分はどうなっていただろうか。
海人は夏には暑苦しい、ゲゲゲの鬼太郎のような長い前髪を邪魔くさいと思いながら、月の光と携帯のライトをたよりに山道を歩いた。