誕生日の憂鬱
この作品はフィクションです
誰かが生まれた目出度い日だ。
そんな日を私はちょっぴり億劫に思う。
贅沢なことだ。
声が聞こえる。
男女の話声。とても楽しそう。とても愛おしそう。会話を聞く限り、どうやら二人だけではないらしい。一体誰と話しているのか。
そう。
私に向けて話していた。まるで愛の告白のように。いや事実本当に、愛を囁いていたんだろう。
蹴った。
そこは例えるなら小さな宇宙だった。それなら私は宇宙飛行士かな。くるくると自重を気にせずに体勢を変えた。その人達はまるで自分のことのように喜んでいた。
へその緒が首に絡まっているらしい。
このままなら、私は産まれることができないそうだ。帝王切開になる。医師は冷静に告げた。
運頼みだったのだろう。
実際、己がどう寝返りを打ったかなど朧げな記憶だった。
晴れた日だった。
のか、空模様は定かではない。土砂降りの雨だったかもしれない。それでも私は確かな愛を感じながら産まれた。
綺麗な人だった。
汗が酷い。額に張り付く髪と赤らむ頬、クタクタに蒸れた衣服はその人の疲労感と体温を視覚的に送り込んで来た。
優しく私を抱き上げる。
疲れているだろうに。これが母であると教えられた。それは初めて見て覚えたものだった。
温かい。
温かい手のひらだった。
。
私は産声を上げたのだろうか。
よろよろと頼りない。
大きな男の人だ。それでも怖いとは思わなかった。その人は震えていた。震えていたから。
侮りでも蔑みでもなく。
ただ純粋にここでは無力なんだと思った。
緊急手術室に運ばれていた。
私は未熟だった。
性が未完成だった。
私は
男性になった。
よかったのだろう。
私への負荷を考えての決断だった。
だから。
よかったのだろう。
随分と気がはやいことだが。
来世に人生を歩むのならば女の子がいい。
スーツを着崩した男。
カップケーキに蝋燭をたてて独り言。
「あ、美味し」
贅沢なことだ。
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