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四話エルアーヌに繋がる手がかり

〔サスノリア〕


サスノリアの街の路地裏に少女はいた。


前日神から貰った情報を受けて写真に現像したエルアーヌの部下である男を探しに来たのだ。


「それにしてもお嬢様って路地裏歩き慣れてますよね…」


チェルシーは普通の十二歳の少女なら怖がって絶対に近付かない路地裏をのほほんとした顔で歩く少女を見て思う慣れてるなと。


「前世と何か関係があるのですか?」


「あるかもしれないしないかもしれないわ」


こう言ってるが前世の経験のおかげである。


それに今世は剣も魔法もあるため路地裏を歩くとしても全く怖くはない。


こう言う場所を歩くのは油断すればやられる前世と比べると今世の方がよっぽど安心して歩ける。


「そこのあなた?」


アリシアは男に近付くと写真を見せる。


「この男を見なかったかしら?」


「知らねーな」


「そう、ありがとう」


路地裏の者達はぱっと見ただのご令嬢とそのメイドと言った姿の二人を見ても喧嘩を売っては来ない。


その理由はここの路地裏でも父からの依頼で悪事を働く者をボッコボコにしていたからだ。


散々やられた路地裏にいる者たちは学んだあのご令嬢にだけは絶対に手を出してはいけないと。


そのため皆アリシアとは絶対に目を合わせないようにしている。


「サフランに行きましょう、あそこのオーナーは情報通ですし」


「そうね」


サフランとは荒くれ者達が集まるバーだ。


人探しをするならそこで情報を聞くと教えてくれる事がある。


アリシアは路地裏にいる者達に写真を見せて知らないか聞きつつサフランに向けて歩いて行く。



〔サフラン〕


店に入ると嫌でも注目を受ける。


ご令嬢が来るような店ではないのだ。


「エミーさん、久しぶりね」


「おやお嬢ちゃん、久しぶりだね、ほらミルクを飲みな」


店主のエミーに話しかけるとミルクを出された明らかに子供扱いされているためアリシアはムッとしつつも一口飲む。


「それで何の用だい?あんたのおかげでこの街の路地裏のアホはだいぶん減ったからね、出来るだけ協力するよ?」


エミーの店はアリシアが路地裏で悪人を成敗して回り始める前は喧嘩をする者もおりその対応をしないといけなかったが。


現在はそのような事をする者はだいぶん減ったそのためそう言う者を減らしてくれたアリシアには感謝しており協力的なのだ。


「人探しをしているのよ、こいつ知らない?」


アリシアは男の写真をエミーに見せた。


「あぁこいつなら昨日来たよ、店で食事をして出て行ったね」


エルアーヌのような追われる身の者の部下をしている者は表通りで食事などしない。


何故なら自分の顔も知られており兵に捕まるリスクがあるからだ。


だからこそ表は避けて裏の店で食事を取る。


「どこに行ったか聞いてないかしら?」


「うちの二軒隣のホテルに泊まるって言っていたよ」


「分かったわ、ありがとう」


アリシアは情報代のチップとして1000ゴールドをエミーに渡す。


「ちょっと多くないかい?」


「あら?次何かあった時も情報を聞きに来る予定だからその時のための先行投資よ?」


次も自分に協力して欲しいと言う思惑も込めた少し多めの情報料である。


「そう言う事なら受け取っておくよ、そして次も協力してやるさね」


「ふふ、エミーさんのそう言うところ好きよ、それじゃごきげんよう」


椅子から飛び降りた少女はスカートを持ち上げつつ一礼し店から出て行く。




〔二軒隣のホテル〕


アリシアがホテルに入ると厳つい見た目の男が出て来た。


「これはこれはサーストン家のご令嬢様、何かご用ですかい?」


「この男がここに泊まったでしょう?私に行き先を教えて欲しいの」


「すみやせんがお客の情報を教えるわけにはいかないんですわ」


情報を教えるわけにはいかないと来た。


同時にアリシアはここにこの男が泊まったのは間違いないと思う。


泊まってないのならば知らないと言うはずだからだ。


「以前ここで暴れるお馬鹿さんを退治してあげたのはどこの誰だったかしら?」


「ぐっ…」


そうここのホテルはアリシアに借りがある。


以前たまたま通りかかった時に騒ぎが起こっており騒ぐ者をアリシアがやめんかい!とぶん殴って止めたのだ。


「それって私だったんだと思うんだけど違ったかしら?ねぇチェルシー?どうだったかしらね?」


「見事な仲裁でした」


「そうそう思い出したわ、大して被害が出なかったのは私のおかげだったのではなくて?」


アリシアは首を傾げて男を見上げる。


「負けましたよ…サーストン家のお嬢さん、部屋は二回の204号室です」


「ふふっありがとう」


アリシアは男の隣を通り過ぎると二階に向かい204号室のドアをノックする。


返事はない。


「いないのでしょうか?」


「いいえ、いるわ」


魔力探知をして中に人がいるかどうか少女は判別出来る。


その魔力探知で中に何者かがいるのは分かっている。


「出て来なさい、中にいるのは分かっているわ」


ドアを叩きつつ出てこいと圧をかけるすると中から窓を開ける声が聞こえて来た。


エルアーヌの部下と言う事もあり逃げ足が早い男は部屋に入られる前に逃亡を図ったのだ。


「早いわね、解錠!」


解錠魔法でドアを開けたアリシアは中に飛び込む。


すると窓から飛び出して行く男の姿が見えた。


「待ちなさい!」


アリシアも窓から飛び屋根の上に着地する。


「くそ!、エルアーヌ様のためにも捕まってたまるか!」


「こちらこそエルアーヌに繋がる手がかりであるあなたを逃したりはしないわ!、ミーティア!」


高速移動魔法ミーティアをアリシアは発動させ一瞬にして男の前に回ると回し蹴りを放って男を壁に激突させる。


「な、なんて速さだ…」


「逃げれると思わないことね?、私の速さはもう見たでしょう?」


「くそっ…」


男は後悔する取り引きを前日にしておけば捕まることはなかったのにと。


「それじゃ一緒に来てもらうわ」


「あぁ…」


逃げれないのは先程の速さを見て分かっている男は大人しくアリシアに連れられてサーストン家に向かう。



〔サーストン家〕


アレスの部屋にアリシアは男を連れて来た。


「お手柄だなアリシア」


「神様が情報を教えてくれたおかげよ」


だから私は凄くないとアリシアは思っている。


「それでもだ、本人も部下も逃げ足が早く足取りが掴めないエルアーヌの情報がこれで手に入るのだからな」


アレスはそう言うと男に剣を向けた。


「早速だが話してもらう、まずは今日この街で誰と取り引きをするつもりだったのだ?」


「マスナード商会の商会長だ」


剣を向けられてある時点で話さないのなら殺すと言う意味だ。


死にたくない男は素直に情報を話す。


「その男と何の取引をする予定だった?」


「武器だ、エルアーヌは第二王子を王にするためのクーデターを起こそうとしている一派の幹部だ、奴等はそのための準備をしている」


「クーデター…」


クーデターなど起こしても最終的に内乱になるだけだとアリシアは思う。


神は世界の平穏を望んでいるそのためにアリシアを導いてこの国が荒れるのを防ごうと動いているのだろう。


「そうはさせん、奴等が事を起こす前に止めてみせる、さて本題だ、エルアーヌはどこにいる?」


アレスはエルアーヌの居場所を男に聞いた。


「カバマバ鉱山だ、そこを拠点にして動いているが、あの女の逃げ足は早い、行ってももういないかもしれんぞ」


「フン、だとしても調べる価値は十分にある」


アレスはここまで聞いてアリシアの方を向いた。


「アリシア、チェルシー、まずはマスナード商会の商会長を捕らえに行くぞ」


「はいお父様」


「はいお師匠様」


アリシアとチェルシーはアレスと共に再び街に出た。



〔サスノリア〕


先程の男が行くはずだった取引現場にアリシア達は待機している。


「なんだいないじゃないか!」


すると小太りな男がやって来る。


アレスに肩を叩かれたアリシアは物陰から出る。


ここに来るまでの間にアレスからあの男から情報を引き出して見せろと言われたのだ。


「な、なんだお前は?」


男は急に現れた少女の正体を問う。


「私はアリシアサーストンと申します」


アリシアは優雅にスカートを持ち上げながら礼をする。


「例のサーストン家の令嬢か…私はなんの用だ?」


商会長は警戒しながらアリシアの目的を聞き出そうとする。


「エルアーヌ、この名に聞き覚えは?」


アリシアは男の表情を伺いながら質問をする。


すると男の眉がぴくりと動いたのを確認する。


「し、知らん…」


「なるほど、お知り合いのようね?」


「…」


見抜かれたと思った男は黙る。


アリシアは一歩近付くと話を進める。


「私が知りたいのは彼女が何を買おうとしているのか?よ」


「…武器だ」


先程の男と同じくこちらも武器を売るために来たと答えた。


「それ以外は何もないのかしら?」


「ない…」


「本当?彼女が反乱を起こそうとしている者達の幹部だと私は知ってるのよ?武器だけで国と戦えるのかしら?」


戦争には人員も必要だ。


だからこそ武器だけを揃えるわけがない。


「奴隷の購入も申し付けて来た…」


奴隷はこの国では違法である。


だからこそ男は逃げたそうにずっとしていたがこの少女からは逃げきれないそう思わせる何かがあり観念して話した。


実際逃げてもミーティアで全力で追うので逃げるのは不可能である。


「まぁ!奴隷は違法なはずよ?」


口に手を当てながら驚くアリシア男はこのままでは捕まると焦る。


奴隷取引は買うのもあるのも逮捕されるのだ。


「お前のようなガキなど俺の手に掛かれば!」


捕まるそう思う男は襲いかかって来た。


アリシアは特に足らない動きだと思いながらナイフを突き出して来た男の手を蹴り飛ばしてナイフを落とさせる。


「奴隷取り引きの罪と武器の違法取り引きの罪しっかりと償ってもらうわよ」


「くそっ…」


首に突き付けられる剣これ以上やり合っても勝てる芽がない。


そう思う男は観念した。


「よくやったアリシア、憲兵に連れて行かせよう」


見事男に奴隷取引もしようとしていたことを吐かせたアリシアを見事だと褒めたアレスは念話で兵を呼びながら娘の髪を撫でる。


「ふふ、お父様に教わった通りにやっただけよ」


アリシアは胸に手を当てながら父の教えのおかげだと言う。


「その教えを確実に実行出来るだけでも十分だ」


憲兵がやって来た。


男を拘束する。


「お前の商会が保有する奴隷はこちらで全て保護し解放する、奴隷を隠している場所を教えて貰おうか」


「商会の倉庫だ」


男が持つ倉庫の中に奴隷達は隠されているようだ。


「聞いたな、商会の倉庫に人員を送れ奴隷達を保護するぞ」


「分かりました」


「私達は王都に向かうぞ」


「ええ」


アリシアはアレスとチェルシーと共に王都に向けて転移した。



〔王都グランセイス〕


アレスは二人を連れてエルゼンの元に行く。


「何用だ?アレス」


「例の女のアジトの場所を娘が突き止めまして」


「ほほう!お手柄だな!どこだ?」


王は早速エルアーヌのアジトの場所について聞いて来た。


「カバマバ山の鉱山内のようです」


「廃鉱山か、隠れ住むにはうってつけだな」


各街や村を調べてエルアーヌの足取りを調べていたが掴めなかったので王都としても鉱山などの取り調べを始めようとしていた矢先の話だ。


「早速兵を向かわせよう、しかし奴は逃げ足が早いすでに引き払っている可能性もある」


「罠を張っている可能性もありますね」


罠を張って待ち伏せして兵の数を減らそうとして来る可能性がある。


そのため向かうとしても警戒は必要だ。


「ケレスを動かす、お前達は彼等共に鉱山に攻め込んでくれ」


「分かりました」


「頼んだぞ…それとお前達に話がある」


エルゼンは暗い顔を見せながら話す。


「どうやらエルアーヌの一派と第二王子が接触したようでな姿を消した、お前がエルアーヌの部下から聞いたように反乱を行う士気を高めるために第二王子を利用するつもりなのだろう」


自分達の元に来た王子を傀儡に変えるつもりなのだろう。


「そこまでして王の権力が欲しいものなのかしら…」


「自分達の傀儡にした王子を利用して莫大な利益を得るつもりなのだろうさ」


そうすれば間違いなく膨大な富を得れる。


彼等が反乱を起こそうとしている理由は全て金のためだ。


「我が息子が反乱を起こす前に連れ戻したい、これからは第二王子の行方も調べることに協力して欲しいが頼めるか?」


王はアリシアに期待した瞳を送りながら協力を仰ぐ。


「お任せください」


アリシアは前に出て協力を引き受けた。


「そう言ってくれると思っていた、頼んだぞ、もちろん我々も情報を集めるし動く」


「分かりました」


「それではケレスと合流し出発してくれ、逃げられる前に捕らえたい」


今回も逃げられたらまた居場所を調べる所に戻ってしまう。


だからこそ今回でエルアーヌを捕まえたいのだ。


「了解です、行くぞ二人とも」


「はい」


王との話を終えたアレスは娘とメイドを連れてケレスと合流し鉱山に向かう。




〔カバマバ鉱山〕


「チッ、馬鹿どもがやらかしたようね…」


アリシアが部下を捕らえたとの情報が来ていないため鉱山の中にいたエルアーヌは軍が攻めて来たのを見て舌打ちをする。


部下のミスに怒ったのだ。


「逃げる隙なんてない…なら転移をすれば良いだけよ?」


状況的に今から逃げる隙はない。


しかし転移をすれば逃げられるエルアーヌは攻撃を命令を部下に出す事にした。


「攻撃来ます!」


「反撃しなさい!」


エルアーヌの命令により第二王子派一派が反撃を始め本人は転移して逃亡したエルアーヌはこうして敵が迫ると即転移して逃げるため王都としても今まで近付けても拘束する事が出来ていないのである。


軍も攻撃を始めカバマバ鉱山を舞台にした戦闘が始まる。



「アリシア、今は前に出るな、前線での撃ち合いに飛び込めばお前でも怪我をするぞ」


「うん」


アリシアは剣を引き抜き右手に持ちつつ初めての戦に緊張した顔を見せている。


「安心しろ、お前は強い、戦でもいつも通りに戦えばいいだけだ」


アレスはそう言って娘の肩を叩いた。


アリシアはその言葉に頷きチェルシーの顔を見ると頷き合い覚悟を決めた。


「よし撃ち合いはこちらの勝利だ、前進するぞ!」


ケレスの命令により前進が始まった。


アレスはアリシアとチェルシーと共に前に出て向かって来る兵達との戦闘を開始した。

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