二話、ダンジョンを探索してみよう!
〔初級ダンジョン一階〕
「あら?、奥にかなり強い魔物が住み着いたのに結構人がいるわね?」
ダンジョン内は最奥地にAA級の魔物である黒騎士が住み着いた割には人がいる。
「依頼書によると黒騎士は奥の部屋から出て来ないみたいですね、なので奥にさえ行かなければいつもの初級ダンジョンみたいです」
奥にさえ行かなければ黒騎士に襲われない。
そのため入り口周囲から二階までは人がいるようだ。
「なるほどね、それじゃ進みましょうか」
「はい、お嬢様」
二人は慣れた様子でダンジョン内を進み始めた。
すると二人は注目を浴びる。
「アリシアさんだ」
「チェルシーさんもいるぜ!」
二人はこの七年間で強い魔物を薙ぎ倒していたので結構名が知れている。
そのため冒険者が多くいる場所に行くと注目を浴びるのだ。
「二人とも!久しぶりにゃ!」
歩いていると猫耳少女が近付いて来た。
「あら、ニャルカじゃない、ごきげんよう」
アリシアは猫耳少女ニャルカに挨拶をする。
「あなたの実力ならここじゃなくても稼げるでしょうに」
ニャルカは高い実力を持つ冒険者だ。
アリシアとチェルシーは何度か共闘した事がある。
「にゃにゃ、強い魔物が住み着いたダンジョンは良いお宝が宝箱に入ってたりするのにゃ、それを狙って来たのにゃー」
ダンジョン内の宝箱の中身はその時の魔物の強さによって変わる。
現在は奥に黒騎士と言うかなり強い魔物が住み着いている影響でレアな宝が出る確率が高いのだ。
そしてダンジョン内の宝箱は時間で復活する仕組みとなっているので定期的にダンジョンにやって来ては宝箱狩りを狙う冒険者もいるニャルカもその一人だ。
「なるほどです、ご一緒します?」
「途中まではにゃー、奥には行かないにゃ、私、強い方だけど黒騎士とやり合えるほどじゃないにゃ」
と言っているが黒騎士とやり合って怪我をするリスクを避けているだけだ。
このニャルカと言う少女は黒騎士と十分に戦えるだけの実力を持っているのを二人は知っている。
「それじゃ行きましょう」
三人は再び進み始めたすると初心者冒険者らしき者達が突然開いた床から落ちて行く様子が見えた。
「お嬢様が何回も何回も落ちたやつですね…」
「ええ、ああ言う穴の下って強い魔物がいたりするからね」
そう言いつつアリシアは飛び降りて行った。
チェルシーはやると思った…と額に手を当てる。
「相変わらずとんでもなくお転婆なお嬢様にゃ」
「ですよねー」
チェルシーとニャルカも穴から飛び降りる。
〔二階〕
穴の先では先程落ちた冒険者達が蹲って動けなくなっていた。
上から落ちて地面に激突して怪我をしたようだ。
「あなた達?、こう言う事を想定して回復薬は持って来ておかないといけなくてよ?」
アリシアはそう言いながら回復魔法を彼等に掛けてやる。
するとウルフが唸りながらアリシアに近付いて来た。
「うふふ、回復してるから攻撃が出来る、そう思ったのかしら?」
アリシアは左手で冒険者達を回復しながら右手を銃の形にする。
「ご生憎様ね?、回復させながら攻撃をするなんて私にとっては簡単なことよ?」
そう言ってアリシアはコメットボムを放ち三体いたウルフを纏めて薙ぎ払う。
「ウォーン!!」
ウルフは群れで行動する魔物だ。
先遣隊の三匹を倒しても次々と現れ襲いかかって来る。
「良いわよ、一緒に踊りましょう」
大量に迫るウルフ。
アリシアは治療が終わった冒険者達にシールドを張ってから剣を引き抜くと舞い踊るかのように華麗に次々と斬り伏せて行く。
「す、凄い…」
「アレが五等級の力…」
冒険者達は五等級の魔導士の魔導士の力を目の当たりにして驚く。
あれほどに自分達とは動きが違うのか…と。
「今回はアリシアがいたからどうにかなったけど、次は間違いなくいないにゃ、だからこそ罠には気を付けるにゃ」
シールドで守られる冒険者二人は間違いなくアリシアが相手にしている大量のウルフに蹂躙されて殺されていただろう。
だからこそだ罠には気を付けて自分の命は自分で守らなければならないダンジョンとはそう言う場所だ。
「はい…」
冒険者二人はニャルカの言葉を聞いて反省する。
「クォーン…」
ウルフ達が撤退を示す鳴き声を上げた。
これ以上アリシアとやり合っても仲間が減るだけと判断したのである。
「終幕ね」
アリシアは剣を一度振って血を払ってから鞘に戻しチェルシー達の元に戻って来た。
「お疲れ様でした、お嬢様」
チェルシーは紅茶が入った水筒を令嬢に渡す。
「ありがとう」
アリシアは美味しそうにそれを飲んでから冒険者二人の方を見た。
「もう動けるはずよ今日のところは街に戻りなさい、そして次からは注意なさい?、この次同じ事があったらニャルカに言われたように殺されるかもしれないのだから」
「はい…」
「ありがとうございます!」
冒険者二人は感謝しながら帰って行った。
「ああやって経験を積んで行くのにゃ、懐かしいにゃぁ…」
ニャルカは二人の後ろ姿を見送りながら自分が新米だった頃を懐かしむ。
暫くして扉が見えた。
「開けちゃダメですからね…?」
多分罠だ。
「分かったわ」
しかしアリシアは開ける何が出るかな!?とワクワクした瞳を見せながら。
「開けると思ってましたよ!」
チェルシーの叫び声がダンジョン内に響く。
しかし罠扉ではなく宝箱が鎮座していた。
「怪しいわね」
「ですね」
「こっちが罠にゃ」
ニャルカの鼻が宝箱の正体をミミックだと感知した。
猫族の鼻は優れておりミミックか本物の宝箱なのか匂いで分かるのである。
「アリシア、対処をお願いするにゃ」
「任されたわ」
アリシアは再びコメットボムを放った。
「ギャァァァ!!!!!!」
するとミミックが断末魔を上げながら死亡する。
死亡したミミックは宝箱の姿となった。
「ミミックの中身は大体がレア物にゃ!早速開けてみるにゃ!」
「それでは私が」
チェルシーが宝箱を開けた。
「おお…マジックアイテムにゃ、これは…力アップのやつだにゃ」
「中々良い物ね、高く売れそうだわ」
「ですね」
二万ゴールドくらいで売れる筈である。
「今回は譲るにゃ、対処したのはアリシアだからにゃー」
対処した者が宝を得る。
それが後腐れないためニャルカはいつもこうしている。
これが出来ない者は揉め事になって命を落としたりする。
「ありがとう、次の宝箱はあなたに譲るわね」
「ありがたいにゃ」
宝狙いのニャルカとしては宝を譲ってもらえるのはなりありがたいのだ。
「…」
部屋から出ると先程はなかった宝箱が現れている。
ダンジョンはこうした変化が急に起こったりする。
こう言うことに対処しながら進むのがダンジョン攻略と言うものなのだ。
「爆弾だにゃあ…」
「後で来た人が爆発させちゃいけないから、離れてから爆破しましょうか」
「私がやるにゃ」
慣れている三人は宝箱だ!と興奮して開けて罠を発動させるようなことはせず。
ニャルカが離れた位置から弾丸を当てたニャルカの鼻はやはり正しく中身が爆弾だった宝箱は爆発する。
〔三階〕
三階に降りて来た。
「前来た時は三階はボス部屋だったけど今回は違うわね」
以前来た時と構造が変わっている。
恐らく黒騎士が住み着いた影響だろう。
「強い魔物の気配がします、注意しましょう」
チェルシーの言葉を聞き二人は頷く。
こうして構造が変わったダンジョンにいる魔物は強い事が多い。
「噂をすると来たみたいよ」
ズンズン足音を鳴らし巨体が現れた。
バトルレックスだ。
「チェルシー、任せるわ」
「はい、お嬢様」
アリシアにバトルレックスの相手を任されたチェルシーは大斧を構えると駆け出し戦闘を開始する。
〔初級ダンジョン三階〕
チェルシーとバトルレックスが対峙している。
先に動いたのはバトルレックスであった。
「中々速いですね」
チェルシーは大剣を振り回すバトルレックスの攻撃を軽々と避ける。
「お嬢様の才能は大変に優れております、しかし属性が違う、そのためアレス様の完全な再現をした魔法剣士と言うわけではありません」
アリシアの剣技はアレスのものと同じだが魔法はテレシアから受け継いだものであるためアリシアはアレスの完全なる再現ではない。
「しかし私はアレス様と同じ炎属性、ですから私はアレス様と同じ戦い方が出来るのです!」
もちろんアレスと同等の強さであるわけではない。
しかし属性が同じなおかげでこの世界随一の力を持つアレスと同じ戦い方が出来るのはかなりのメリットだ。
だからこそチェルシーは転生者である事のメリットが大きいアリシアと並び立って戦う事が出来る。
「はぁ!」
チェルシーはバトルレックスが振り下ろした大剣を受け止めると押し切る。
押し切られて怯んだバトルレックスに炎の塊をぶつけて更に押し込んだチェルシーは彼に迫ると斧を横振りに振るう。
「ガァ!!」
バトルレックスはなんとか大剣を防いだがチェルシーはその大剣を炎を纏わせた斧で叩き折りそのままバトルレックスの体を真っ二つに斬り裂いた。
「が、ガァ…」
チェルシーに真っ二つにされたバトルレックスは悔しそうにチェルシーを見ながら絶命する。
「流石ねチェルシー、また強くなったんじゃない?」
チェルシーの戦闘の様子を見ていたアリシアは彼女の強さを流石だと褒める。
「お嬢様に散々振り回されたおかげですよ」
「うふふ、これからも振り回してあげるから覚悟なさい、もっと強くなれるわ」
「…頑張ります」
これからも振り回すと言われたチェルシーは微妙な顔をする。
その顔を見たニャルカは苦笑いを見せた。
「さっ進むにゃ」
「ええ」
三人はダンジョンを進み始め今日三つ目の宝箱を発見する。
「また爆弾なのでは…」
「今回は違うにゃミミックでもないみたいだにゃ」
先程アリシアに宝箱を譲ると言われていたニャルカは嬉しそうに尻尾を揺らしながら箱を開けた。
すると中身は高く売れそうな宝石であった。
「大当たりだにゃー!」
宝石を見たニャルカは大儲けだ!と嬉しそうな声を出す。
「よかったじゃない」
アリシアも大儲けが出来るニャルカを祝福する。
「アリシアがさっき譲ってくれたおかげだにゃー!お礼に黒騎士との戦闘手を貸してあげるにゃ!」
かなりの大儲けが出来るためその恩をニャルカは返したいと考えた。
そのため先程黒騎士とはやり合わないと言ったが戦闘に協力すると言ったのである。
「ありがたいです」
どんな敵と戦う時でも怪我なく戦闘を終えるために頭数は多い方がいい。
そのためチェルシーは戦闘に協力してくれると言うニャルカにお礼を言う。
「お安い御用だにゃー、それじゃちょっと待っててにゃ、この宝石を鞄に入れるにゃ」
チェルシーは冒険者なら見ながら持っている空間拡張鞄に宝石を入れ始めた。
その名の通り空間拡張魔法が掛けられた鞄で非常に便利だ。
アリシアとチェルシーの場合はチェルシーが腰に付けている。
「入ったにゃ!」
「初めてこの鞄見た時から思ってたけど有り得ない量が入るから側から見てると入れてる様子って不気味なのよね…」
「無限に入って行きますからね…」
地球人としての価値観がまだ残っているアリシアから見てもこの世界の住民の価値観であるチェルシーから見ても有り得ない量が入るこの鞄に物を入れる様子は不気味に見えるのだ。
「不気味だけど便利だから良いのにゃ」
「まぁそうなんだけど…」
アリシアは話しながら剣を引き抜き飛来した矢を斬り落とす。
「流石は強い魔物が現れて環境が変わっているだけはあるわね」
矢を撃ったのは先ほどのバトルレックスの仲間と思われる一団であった。
「敵討ちと言うわけだにゃあ、それじゃあ戦うとするにゃ」
ニャルカは銃を取り出すと弾をばら撒き始めた。
この魔導銃もアレスの魔法剣士としての有用性を見て作るれた魔道兵装であり魔道具と使用者本人の魔力という組み合わせで弾が生成され放たれる。
この魔導銃の使用者も他の者と同じく魔法剣士と呼ばれる。
「今日は機嫌が良いので大サービスにゃぁぁぁ!!」
ウラァァ!とニャルカはまるでガトリングガンのように魔力弾をばら撒く。
ニャルカは近接戦は苦手だが中距離から遠距離はとにかく手数が多いため非常に強い。
だからこそアリシアは先程ニャルカは強い冒険者だと思っていたのである。
「ふぅ、終わりだにゃ」
結果的にニャルカはバトルレックスを一歩も近付けずに蹂躙した。
「けど魔力結構減っちゃったにゃ…魔力ポーション持ってるかにゃ?」
戦闘をする予定はなかったためニャルカは魔力ポーションを持っていない。
そのため二人に魔力ポーションがあるか聞いた。
「あるわよ、チェルシー、ニャルカに渡してあげて?」
「はい、どうぞニャルカさん」
チェルシーが魔力ポーションをニャルカに手渡す。
ニャルカは瓶を開けると暫く止まる。
この魔力ポーション物凄く苦いのである。
「苦いわよねぇ?それ飲むまで時間がかかっちゃう気持ちは分かるわ」
「ですよねぇ…」
「飲まないと先に進めないにゃ!だから飲むにゃ!」
おりゃあ!とニャルカは意を決して魔力ポーションを飲む。
結果咽せた。
「にゃはにゃはにゃは!」
こうなる程に苦い。
しかし効果は抜群であっという間に魔力はフルまで回復する。
ちなみに魔力があんまり減ってない状態で飲むと魔力総数の限界値以上は回復出来ない使用上かなり勿体ない事になるので魔力ポーションは魔力切れギリギリに飲むのが推奨されている。
「にゃぁ…」
ニャルカにがぁ…と舌を出すそれを見てチェルシーがアリシアの紅茶を渡してやりニャルカはそれで舌を癒した。
「ありがとにゃ、それじゃ進むにゃ」
ニャルカの回復が終わったので進み始める。
すると階段が見えて来た。
「三階層ダンジョンだったはずなのだけれど…」
「黒騎士の影響でダンジョンの回数まで増えちゃったぽいにゃ」
ここまでダンジョンに影響をもたらす時点で黒騎士は初心者冒険者が挑めば確実に死ぬ。
そのため出来るだけ早く狩っておいた方がいいそうしないと運良く黒騎士の元まで辿り着けた者が容赦なく殺されてしまうからだ。
「運の良い冒険者が黒騎士の元にまで行っていないのが不幸中の幸いですね」
「やろうと思えば行けてしまうものね」
「お嬢様の場合コメットボムで床に穴を開けて強行突破でしょう!?」
「あらあら?そんなはしたない真似をする者がいるのね?誰の話なのかしら」
アリシアは手を振りながら誰の事なのだろう?と惚ける。
「お嬢様のことです!」
「二人のやり取り見てると面白いにゃ」
仲良く漫才する様子は見ていて面白くそして微笑ましいのだ。
まるで本当の姉妹のように見えて。
「全く…下に降りますよ」
「ええ」
三人は下に降りる。
「あっつ!?」
初心者ダンジョン四階層は急にマグマ地帯になっていた。
「…」
アリシアがそれを見て引き返そうとするがチェルシーがそれを見て肩を掴んで止める。
「ここまで来たんだから行きますよ!」
「ええー…熱いー…」
「い、き、ま、す、よ!」
「むー…」
帰りたそうなアリシアだがチェルシーの圧に負けて行く事に決めた。
「ニャルカは大丈夫?」
「私は大丈夫にゃ、猫族は寒さが苦手で暑さには強いんだにゃ」
元々は砂漠に住む種族だったおかげである。
「なるほどね」
ニャルカは大丈夫そうだし意を決して進むぞと思ったアリシアは暑いマグマ地帯になっている四階層を進む。




