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一話、ダンジョン行ってみたくない?

〔サーストン家〕


ご令嬢らしくお勉強をしているアリシア。


この世界に興味津々である少女にとって聞き捨てならない言葉がセバスチャンの口から放たれる。


「世界にはダンジョンと言うものがあり…」


「ダンジョン!?」


食い気味に少女は叫ぶそんな楽しそうな場所があるのか!?と思って。


「はい、冒険者が挑み、中にある宝を手に入れ、巣食う魔物と戦う場所でございます」


「ほほー!」 


楽しそうだ!少女は目をキラキラと輝かせる。


「…お嬢様?何か私には良からぬ企みをしている顔に見えるのですが…?」


キラッキラしている顔はどう見ても行きたい!と言っている顔である。


「な、なんでもないわよ?楽しそうだなって思ってるだけだもん…」


少女は良からぬ企みなんてしてませんよー?と顔を逸らした。


「本当ですかな…?」


セバスチャンは疑う。


本当に良からぬ企みをしてないのか?と思って。


「ほ、ほら!爺や!次のお話をして?」


「うむ…分かりました…」


セバスチャンは警戒はしておこうと思いながら授業の続きを始めるのであった。




数時間後。


ご令嬢は地図を広げていた。


「近くにあるじゃない!」


そして見つけた。


この都市サスノリアの近くにある初心者用ダンジョンの存在を。


「よし!行くか!」


やると決めたら即行動!


それが前世から変わらぬアリシアと言う少女の特性である。


「お嬢様!?ダメですからね!?」


いそいそと準備を始めたご令嬢に二つ上のメイドチェルシーが注意する。


「大丈夫よ!多分!」


何故か自信満々である。


「多分って時点で危険でしかないのですよ!」


「行ける行ける」


そう言ってアリシアはベランダに出ると年齢の割にはやけに上手い飛行魔法で空に向けて飛び出した。


アイキャンフラーイである。


「こらぁぁぁ!?」


サーストン家のメイドなだけはあって幼くても魔法が使えるチェルシーは慌ててご令嬢を追い掛ける。



〔初級ダンジョン〕


特に疲れる事なくアリシアは初級ダンジョンにやって来た。


「お嬢様!帰りますよ!危険です!」


「嫌よ進むわ」


チェルシーの静止など聞かず五歳の少女は前世ヤンキーらしくズンズンとダンジョンの中に入って行く。


「もぉぉぉ!!!!」


チェルシーは本気で焦りながらご令嬢を追う。


「ケケケ、餌が来たぞ!」


「餌だ」


「餌だ!」


早速ゴブリンと出会った。


チェルシーは魔物の姿を見て身を震わせる。


「これが爺やが言ってた魔物ね!」


アリシアは父から貰った剣を鞘から引き抜くと五歳の少女とは思えないキレのある動きで迫りあっさりと斬り伏せる。


「はっ?」


チェルシーは五歳の子供があっさりと魔物を倒したのを見てただただ驚く。


「えっ?」


ゴブリンも仲間が一匹やられたのを見てポカンとしている。


「あら?ボーとしている暇があるのかしら?」


少女は二匹目のゴブリンに襲いかかる。


ゴブリンはポカンとしている間に再び斬り伏せられた。


「いやいやいや…」


チェルシーはおかしいおかしいと頭の中で連呼する。


弱い魔物であるゴブリンも流石に五歳の子供が勝てる相手ではない。


「あなたはどうするのかしら?」


アリシアは最後の一匹に剣を向けた。


すると恐れをなしてゴブリンは逃げて行く。


「逃げちゃった」


逃げて行くゴブリンを追うか迷ったアリシアはチェルシーがアワアワしているのを見て首を傾げた。


「どうかした?」


「いや、お嬢様、どう考えても五歳の強さではありませんよ!?」


「あー、だって私転生者だもん、強いのはその影響かも」


「!?」


サーストン家のご令嬢が転生者。


驚愕の事実であるためチェルシーはまたアワアワし始めた。


「転生者はとても強いとは聞いていますのでお嬢様のあり得ない強さには納得しました…ですが、転生者であると言う事を誰かに伝えましたか…?」


「伝えてないわよ?」


「ですよねー!」


こう言う大事な事は聞かれるまで言わないタイプなのはなんとなく分かっていたチェルシーは言っていない事に納得する。


「とにかく一度戻りましょう…そしてとても大事な事なので転生者である事を伝えましょう…」


「えー?せっかく来たのよ?」


「間違いなくお屋敷が大騒ぎになってるので!」


ご令嬢がどこを探してもいないのだ間違いなく大騒ぎである。


「…お父様とお母様が困るわね、帰りましょうか」


大好きな両親が困るのはいけない。


アリシアはとりあえず魔物と戦えたしと思い屋敷に帰る事にした。




〔サーストン家〕


家に帰って来ると両親が猛スピードで近付いて来て抱き上げられた。


「全く…どこに行っていたんだ…?」


「ダンジョン」


「そうかー、ダンジョンかー」


アレスは思う。


とんでもなく行動派な娘だなと。


「後お父様お母様、最近思い出したんだけど、私転生者なの」


「それも納得だ、鍛えてみて分かっていたが、お前の身体能力は五歳のそれではないからな…」


転生者は生まれながらに身体能力が高い。


それを知っているアレスはやけに身体能力が高いアリシアが転生者ではないのか?と思ってはいたのである。


「アリシアちゃん、前の人生はどうだったの?」


テレシアは娘に前世について問う。


「お父様とお母様にもあまり話したくない…」


アリシアはそう言うと父の胸に顔を埋めた。


「そうか、なら話さなくて良い」


娘の様子を見て聞くべきことではないと思ったアレスはこの事はアリシアが話すまでは聞かない事にする。


「ありがとう、お父様、話したくなったら話すね?」


「あぁ」


娘の言葉に頷いたアレスは優しく髪を撫でる。


「それにしても転生者とは!益々鍛え甲斐が出たぞ!お前は間違いなく私を越える魔法剣士に慣れる!」


「そうかな?」


「この私が言うのだ!、間違いない!」


アレスはそう言いながらクルクルと回り始めた。


「あはは!お父様!目が回るよぉ!」


アリシアは楽しげに笑う。


テレシアは二人の様子を優しい瞳で見守る。


「さて、アリシアよ、ダンジョンにはまだ行くな、いくらお前が転生者でも危険だ、強くなる前に死んでは意味がないぞ?、分かるな?」


「うん….」


父の言葉を聞きアリシアは反省する。


父が言った通り死んでしまっては意味がないせっかく生き返ったのだから。


「だからこそだ、早くダンジョンに自由に行けるようになるように私を認めさせて見せろ、お前なら出来るはずだ」


「うん!出来るよ!」


出来る!とアリシアは父の腕の中で手を振り上げた。


「期待しているぞ、私を認めさせたら、一緒にダンジョンに行こう!」


「お父様と一緒に!?絶対に頑張るわ!」


父と一緒にダンジョン探索など楽しいに決まっているのだ。


アリシアは益々やる気を出した。




〔アリシアの部屋〕


スヤスヤと眠るアリシアの髪をテレシアが撫でている。


「転生者だとはな」


「驚いたわね」


転生者は過去に何人かいた記録があるが。


最近は存在が確認されていない。


そのため両親は驚いているのだ。


「話したくないってどんな人生だったのかしら…」


「様子を見れば分かるさ、良くない人生だったのだろう…」


娘の人生が良くないものだったのは先程の様子を見れば容易に想像出来る。


「だからこそだ、今世は幸せだと思えるようにしてやらねばならん」


「そうね」


元から娘を幸せにすると誓っていたが。


話したくないと言う程の前世だったのなら更に幸せにしてあげたいと言う思いが二人には強くなった。


「親としての頑張り所ね」


「うむ」


二人はそれぞれアリシアの頬にキスをすると静かにドアを閉めて二人の寝室に向かって行った。



〔サーストン家〕


今日はテレシアからアリシアは授業を受けていた。


「さて、アリシア、まずはあなたの属性について説明するわね?」


この世界の赤子は必ず産まれた時に属性測定が行われる。


そうして親が属性を知り教育が始まった頃に子に属性を伝えるのだ。


「はーい」


五歳の子供らしくアリシアは手を上げながら返事をする。


ちなみに精神は年齢通りに幼児化している。


所謂体に引っ張られると言うやつだ。


「あなたの属性は星属性、光属性の亜種属性で珍しい属性だわ」


光属性の亜種属性である星属性は世界に数人しか保有者がいない希少属性だ。


星属性の他の亜種属性には聖属性があるがそちらはそれなりに保有者がいる。


「ちなみに私も同じ属性だわ」


テレシアは手の上に魔力を浮かべる。


浮かぶ魔力は星形で金色に光っている。


「わー!綺麗!」


アリシアは母の真似をして魔力を浮かべる。


「…」


五歳児が何も困らず魔力を浮かべたのを見てテレシアは苦笑いをする。


普通なら魔力を浮かべるのすら練習が必要なのだ。


「はい注目!星属性の特性はミーティア、高速移動魔法よ、見ていなさい」


星属性の魔力を全身に纏ったテレシアはアリシアでは捉えられないスピードで移動して娘の肩を背後から叩く。


「わー!お母様、速い!」


「ふふふ、アレスでも私のスピードには苦戦するのよ?」


娘のキラキラした瞳を見てテレシアは胸を張る。


「そして、あなたが目指す魔法剣士にはこのミーティアはうってつけね!」


高速移動しながら敵を斬ることが出来るミーティアは魔法剣士と合わさればかなりの強さとなるはずだ。


そのためアリシアが星属性の保有者なのは運命的な何かをテレシアは感じている。


「と言うわけで、まずは星属性魔法の基本、ミーティアの練習から行うわよ!」


「はーい!」


アリシアは早速手の上に浮かんでいる魔力を全身に纏う。


「…」


それも出来ちゃうの…?と見ていたテレシアは思う。




「ふにゃ!」


ミーティアはその属性の基本魔法ながら制御がかなり難しい。


才能溢れるアリシアでも壁に激突して涙目になってしまうほどだ。


「落ち着きなさいアリシア、常にどう移動するのかどこに行きたいのか、それをイメージするの」


それが出来ていないと制御出来ずに自爆してしまうのだ。


「イメージ…」


母の言葉を聞きアリシアは行きたい場所とどう動きたいのかしっかりとイメージしてミーティアを使う。


「んんん!」


すると壁に当たらず移動をして見せた。


まだまだ母には劣る速度だが一日で形は出来てしまうのは流石は転生者と言える。


「はーはー…」


ミーティアの初歩は出来たが息が荒いアリシア。


幼い体で魔力を使いすぎたのだ。


「今日はこれでおしまいにしましょう、明日はコメットボムを教えてあげるわね」


「ボム!爆弾!」


アリシアは強そうな響きの技名を聞いてぴょんぴょん跳ねて楽しみである事を示す。




「うむ大分良くなったなチェルシー」


一方チェルシーはアルスから斧の扱いを教わっていた。


「本当ですか?」


「うむ、筋が良い、私が見るに転生者のアリシア程ではないが、かなり強い魔法剣士となれるぞ」


他の武器を使う場合でも魔法剣士と呼ばれるのだ。


「頑張ります!」


アリシアの修行に巻き込まれている気がするが強くなれるのは悪い気はしないチェルシーは頑張ってアルスの教えについて行く。



「お嬢様ー!?」


夕方。


特に意味はないがアリシアは屋根の上に立っていた。


「いたー!何してるんですか!?」


走り回ってアリシアを探していたチェルシーが何故そこに立つのか聞く。


ちなみにこうして走り回るおかげかチェルシーの体力はすでにかなりなものとなっている。


「特に意味はないわ!」


ないのである。


「なら降りましょう?」


「やだ!」


全力拒否だ。


「早く降りないとご飯片付けられちゃいますよー?」


「それは困るわね!」


お腹が空いていたのだ。


片付けられてしまうのは困る。


「よっと」


「軽く降りて来ますね…」


結構な高さがあるのに普通に飛んで降りて来る幼女。


ホラーな光景である。


「チェルシーは出来ないの?」


「出来…出来ませんよ!」


高スペック令嬢を追いかけ回す事で地味に経験値を積んでいるチェルシーは一瞬出来るんじゃ…と思ったが出来ないと言っておいた。


出来ると言うとやらされそうだからだ。


「そうー?チェルシーなら出来そうだけど」


「出来ません!ほらご飯食べに行きますよ!」


「はぁい」


アリシアはチェルシーに手を引かれて夕飯を食べに向かうのであった。



翌日。


アリシアは今度はコメットボムを母から教わっていた。


「まぁこれは単純な技ね、魔力を溜めて投げて爆発させるだけだから」


「こんな感じ?」


アリシアは溜めた魔力をぽーい投げ爆発させた。


「そんな感じ」


偉いねー出来たねーとテレシアは娘の髪を撫でる。


アリシアは嬉しそうに金色の髪を撫でられる。


「次はコメットボムラッシュね、これも簡単よ、投げまくれば良いの」


「簡単!」


「でも家の中でやるのは禁止ね、あなたが投げまくると多分家なくなるわ…」


先程のコメットボムの時点で中々の高威力だ。


それをぽんぽん投げたら家が崩壊する。


「ならどこで使うの?」


「ダンジョンに行けるようになったら試してご覧なさい」


「なら尚更、早くダンジョンに行けるようにならないといけないわね!」


覚えた技を試す場所としてもダンジョンに行くのがアリシアは楽しみに思う。




「アリシア、今日は魔導士としての等級について教えよう」


「うん」


魔導士には等級があるのだ。


「私は7等級、最高等級だ、お前はこれから魔力測定をして今の等級がどのくらいなのか測ろう」


3等級までは魔力量で進級する仕組みとなっている。


それ以上は魔導士協会や冒険者ギルドで試験が開催されているためそれを受けて進級する必要がある。


「これに触れてみろ」


アレスは水晶をアリシアの目の前に出す。


「うん」


アリシアはこれで本当に分かるのかな?と思いながら水晶に触れた。


すると水晶は青く光り輝く。


「ふむ、2等級か…」


普通の五歳児なら1等級の光すら光らないため。


アリシアはやはり五歳児としてはかなり強い。


「やはりかなり強いですね…」


「だな」


セバスチャンが二等級となったのは十二歳の頃だと記憶している。


「私、強いの?」


「うむ、強い、だがその力を過信してはいかんぞ?アリシア、過信は死を呼ぶからな」


「うん」


一度死を体感しているアリシアは父の言葉に深く頷く。


「それでは今日の修行はこれで終わりだ、明日から王都に向かうからな」


王都で開かれるパーティに伯爵家として参加しないといけないのだ。


アリシアも五歳となったため出席しないといけない。


「緊張するなぁ…沢山人がいるんでしょ?」


「ふふ、お前は我が家の次期当主となる者だ、パーティにはこれから嫌ほど出る事になるのだから、慣れんといかんぞ?」


「爺やにも言われてるけどぉ…」


分かっていてもどうしても緊張してしまうのだ。


「私が側にいるから大丈夫さ、さぁ、お風呂に入って寝なさい、明日の朝は早いぞ」


「んー」


父の言葉に返事を返したアリシアは部屋を出ると浴室に向かって行った。

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