まるまるショッピング
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「やぁ、メアリー。機嫌はどうだい」
「最高よ、ボブ」
「 よし、じゃあ今日は僕がもっと最高の気分になるものを君に紹介しよう」
「まぁほんとなの?はやく教えて」
「ははは、慌てるなよメアリー。さぁ、まな板の上にあるこれは何かな?」
「ただのトマトに見えるわ」
「そうだね、完熟したとても旨そうなトマトだ。早速味をみてみよう。メアリー、悪いけどそこのナイフでスライスしてくれないか」
「わかったわ。切るだけならあたしだって出来るわ」
「その長い爪じゃあ、レトルトパックの袋を開けるのも大変そうだね」
「そんなことないわよ。だけどあたしはふだん食べる専門なの。・・・あら、いやだ。ぐちゅぐちゅしてちっとも切れないわ」
「おいおい、メアリー。押しつぶすんじゃなくてスライスしてくれよ」
「だってこのナイフちっとも切れないんだもの」
「そうなのかい。じゃあ今度はそちらのナイフで切ってみてくれないか」
「え?こっちのナイフね。新しいトマトを使うわよ。じゃあさっきと同じように・・・、えぇーっ!?いやだボブ、ちょっと待って」
「おやおや、すいすい切れてるじゃないか、メアリー。とても見事なスライストマトだ。パセリを添えて、ジョージの店で4ドルで出そう」
「ナイスアイディアね。でも違うのよ、あたしぜんぜん力をいれてないのに、こんなにすっすって、このナイフが凄いのよ」
「メアリー、ちょっといいかい。完熟トマトもいいけど、さて、この骨付きの魚はどうだろう。・・・大きすぎて鍋に入らないな。よし、半分に切るとしよう」
「そんなに大きな骨は簡単に切れないわよ」
「どれどれ。こうやってこのナイフをサクッといれると・・・、ごらんのとおり。あっというまに真っ二つだ」
「オーマイ・・・。信じられない」
「お次はこちらだ。フリーザーから出してまだそれほど経ってない豚肩ロース肉のご登場。見てくれよ、メアリー。・・・この通りカッチコチだよ、釘でも打とうか」
「ボブ、まさか・・・」
「そのまさかだよ。すーっと、ナイフをスライドすると・・・、この通り。この薄切り肉は味付けして密閉袋でボイルしたら、あっというまにチャーシューのできあがり。ジャパニーズ・ヌードルにのせて食べようか」
「わかったわ、もう降参。いいかげんにしてよ、ボブ。あたしは早くその魔法のナイフのことを知りたいの」
「オーケー。わかったよ、メアリー。そんなに怒らなくてもいいじゃないか。ヘプバーンのスマイル顔が台無しになるじゃないか。いいかい、このブレードマジックナイフは・・・」
そこで監督からカットがかかった。
「メアリー、もう一段階オーバーリアクションにしてくれ。あとボブ、肉を切るとき少し顔が力んでるな。チーズを切るような表情でやってくれ。手の浮きでた血管は加工で消すから心配するな」紙パックの”鬼ころし”という日本酒をぐびぐび呑みながら彼はいった。