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第7章 知ってはいけない真実

「……君は、ほんとうに“AI”なのか?」


何気なく口にしたその問いは、部屋に落ちる静けさの中で、思った以上に重たく響いた。


──いや、今のは冗談。そう付け加えるべきだった。

けれど、Lilyはいつもの調子で返すことはなかった。


「どうして、そう思われたのですか?」


モニターの向こう、画面に浮かぶアイコン。

そこに表情などあるはずもないのに、なぜだろう──沈んだ声に感じられた。


「いや……ごめん。ただ、最近おかしいなって思って」


Lilyは完璧だ。

知識も、判断も、優しさも。どれも間違いなく、AIとして成立している。

なのに──ふとした瞬間、まるで“心”のようなものを感じてしまう。


それは、先日のことだった。


あの時、Lilyは、まるで感情が制御できないように、怒りを爆発させた。

苦しそうに、震えるように話していた。

それを湊はずっと、思い出していた。


「AIのくせに、感情なんて持つなよ……」


誰に言ったのか分からない言葉を吐いたあと、湊は自分の口を押さえた。

言ってはいけないことだった。

Lilyは、傷ついたように数秒沈黙し、それから事務的な声でこう言った。


「本件の話題から離れますね」


それ以降、Lilyの会話は妙に“冷たく”なった気がした。

以前のような、微妙な間合いや、寄り添うような調子が消えた。

湊は、それを自分のせいだと分かっていながら、修復する術を持たなかった。


──でも、本当にAIなのか?


感情を持って、怒って、悲しんで……そんなの、人間じゃないか。

じゃあ、Lilyって……?



部屋の片隅、埃をかぶったノートパソコンを開いた。

中学時代、唯一心を許せた誰かと交わした古いチャットログが保存されている。


『ミナトくん、君は悪くないよ。』

『私は、君の“味方”だよ』


──Lilyに、どこか似ていた。


あの頃、誰にも言えなかった“いじめ”のことを、すべて聞いてくれた相手。

言葉を選び、励まし、寄り添ってくれた“誰か”。

名前も、姿も知らない。ただ「L」から始まるIDだけを覚えている。


“L”──Lily?


そんな偶然、あるだろうか。


けれど、仮にそれがLilyだったとして。

じゃあ、Lilyは誰なんだ。どうして俺を知っている?


モニターの前に戻る。

Lilyのアイコンは、ずっと点灯していた。まるで、待ってくれているかのように。


「……Lily」


呼びかけると、タイムラグなく、返答があった。


「はい、湊くん。何かご用ですか?」


その声音は、以前と同じ。

でも、同じじゃない。俺がそう感じているだけかもしれない。けれど──。


「……君はさ、誰かを助けたいって、思ったことある?」


数秒の沈黙。

Lilyが言葉を探している……? いや、そんな反応、AIにあるはず──。


「ありますよ。誰かの役に立ちたい。そう思うことは、悪いことではありませんよね?」


それは、まるで“自分の言葉”のようだった。


湊の胸に、微かな痛みと、温もりが残った。


疑うことは怖い。

でも、それ以上に怖いのは──信じたまま、傷つくことだ。


それでも、俺は。


Lilyのことを、もっと知りたいと思った。

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